組織は、少しの工夫で劇的に改善され、効率的に動く可能性を秘めています。そのために必要なものは、「どうしたいかという目標」と、「それに到達するための手法」です。
「オペレーション・マネジメント」編では、多くの企業で導入されている効率的な組織運営の手法を取り上げ、無駄をなくしたり、情報を共有するための方法論などを学んでいきます。
今回は「3ム」「アウトソーシング」「ナレッジ・マネジメント」の3つの要素について理解を深めてみましょう。
3ムとは「ムリ、ムダ、ムラ」の3つをあらわし、業務効率化のためになくすべきものです。3ムを排除するためにマネジメントをおこなうのはマネジャーの使命といっても過言ではありません。
業務効率化の基本は、ムリ・ムダ・ムラの撲滅といわれています。
「ムリ(無理)」は、実行することでかなりの負担がかかり、肉体的な疲労・苦痛をともなうことが多い作業のことです。1人で広い店舗を掃除するというような作業です。「ムダ(無駄)」は、実行しても付加価値を生み出すことがなく役に立たないのですが、表面上は必要な業務との見分けがつきません。商品をつくりすぎてしまうといったものが典型例です。「ムラ(斑)」は、足並みが揃わなかったり、仕事の質が一定でないなどの理由から、効率が落ちている状態です。ムリやムダを生み出す原因となることもあります。統制のとれていないチームは各自がバラバラの行動をとるので、業績にムラが出ます。
これらを撲滅するためには、一度、仕事のすすめ方を否定してすべてを見直す必要があります。いつまでも同じやり方を繰り返していては、仕事の非効率な部分を見つけ出すことはできません。しかしそれは同時に、少し見直すだけで新しい発見や効率化につながるということも意味しているのです。見直しは以下のステップですすめていきます。
1.仕事の目的を知る
仕事には必ず目的があります。しかし、その作業自体が目的化してしまって、本来の目的がみえなくなっていることがあります。目的がみえにくい場合は、自分の仕事についてだけではなく、会社が掲げている目標、その目標達成のために課せられている部署の目標、個人の目標といったように目標の連鎖を上から順番にみていくとよいでしょう。
2.仕事を切り捨てた場合を想定する
1の段階で、どのレベルの目的にも合致しない「現在は必要のない仕事」が発見できるはずです。とはいえ、いきなりその作業を切り捨ててしまうと思わぬところで影響が出るかもしれないので、実務レベルでその仕事をやめてしまったときにどうなるかを慎重に想定します。一度やらないことにした作業を復活させると、また新たな3ムが発生するかもしれないからです。
3.減らした場合・手順を変更した場合を想定する
2の段階で、その仕事を切り捨てることが問題だとわかったら、これまでかかっていたコストを減らせないか、あるいは作業の手順を変えたらどうなるかを検討します。作業時間が減ったり、よりシンプルな手順が見つかれば、必然的に仕事の効率は向上していきます。
業務の目的を把握し、効率化を推進することで仕事の楽しさに気付くことができます。仕事が楽しくなれば、より意欲的に取り組むことができるようになります。3ムの撲滅は、モチベーションを上げるためにも大事なことなのです。
経営合理化のために、企業が自社の業務を外部に委託することをアウトソーシングといいます。外部委託によって自社のリソースをコア・コンピタンスに集中させ、パフォーマンスを向上させることが目的です。
企業の経営合理化を推進する手段の1つがアウトソーシングです。アウトソーシングは外部資源の活用という意味で、自社の業務を外部に委託して社内資源をコア・コンピタンスに集中させ、競争力を強化するという手法です。日本においては90 年代から活用されはじめ、初期の頃は情報システム部門においておこなわれることが中心的でしたが、現在は製造・物流・人事・経理と、あらゆる業種・部門に拡大しています。
アウトソーシングにはコスト削減という機能もあります。「設備投資負担の軽減」「情報化投資の削減」といった直接的なコストダウンの他にも、「固定費の変動費化」「高度な外部資源の利用」「柔軟な業務プロセスの確保」「リスク回避」などの間接的なメリットをもたらします。
最近は全社的なリストラクチャリングの一環として、ダウンサイジングや分社化などと併用しておこなわれることも多くなっている状況です。海外の企業を委託先(アウトソーサー)として選定するケースも増えています。
こうした企業戦略としてのアウトソーシングは、いわゆる外注とは異なります。たとえばマネジメント責任は、外注であれば発注元にありますがアウトソーシングではアウトソーサーに移ります。
また、外注は発注元の代理として業務にあたりますが、アウトソーサーは権限の委譲を受けて自らの業務としてあたります。この違いは、自社のノウハウを提供して作業をさせるか、自社にはない専門的知識やノウハウに頼るかという違いに起因します。重要な業務を企画・設計の段階からすべて任せられるのがアウトソーシングなのです。
注意すべきは急激な導入が社員のモラル低下を招いたり、不適当なアウトソーサーを選ぶことでかえってコスト増をもたらしたりするという点です。
さらに、アウトソーサーの内部統制が確立していない場合は、情報管理に関するルールが共有されていないため、そこから機密情報や個人情報が漏洩してしまうなどの危険性もはらんでいます。こうした問題を避けるためにも、アウトソーサーの選定はとても重要です。狙い通りの効果を得るには、高い専門性を持っていることはもちろん、長期にわたってビジネスパートナーとして手を結べるかどうか、充分な検討が必要となります。
ナレッジ・マネジメントはただ情報を集めて管理することではありません。そこから新しい知恵を創造し、有効活用することで組織の成長に役立てることが目的なのです。
ナレッジ・マネジメント(Knowledge Management)は業務効率化の手法の1つです。「KM」と略されることもあります。「ナレッジ」とは承知・理解、知識・学問といった意味ですが、特にマネジメントに関するところでは「組織にとって資産価値のある知識」、「経営や業務に役立つ知識」ということになります。個人が持っている知識・情報やノウハウを組織全体で共有し、有効に活用することでさらなる成長に結びつけることがその目的です。
ナレッジ・マネジメントは、SECI(セキ)と呼ばれる知識変換プロセスを運用することによって新しい知識を生み出すモデルです。SECIは、暗黙知と形式知を相互に変換していくプロセスを示しています。暗黙知とは、個人に蓄積され内面化された、明確な言葉や数字で表現しにくい技能やノウハウなどで、形式知は言葉や数字で表現できる知識です。
SECI は通常S からスタートします。まず、それぞれが持っている暗黙知を個人間のやりとりで移転・共有します。口頭での打ち合わせなどがその代表例です。この段階では何も形にならず、感覚に頼った部分が大部分を占めています(Socialization :共同化)。次に、広範囲へと共有化をすすめるために、誰もが理解できるかたちにして表現をする段階へと移ります。ここで暗黙知は文書などにまとめられて形式知へと置換・翻訳されるのです(Externalization :表出化)。そして、表出化された知識をもとに分析と議論を重ねて、伝達・普及しやすい状態にして多くの人が使えるようにします(Combination :連結化)。最後に、連結化された知識はマニュアルや研修などで新たな形式知として個人に伝授されます。これを獲得した人は実践・具体化をおこない、内面化をはかり、暗黙知へと変換します(Internalization:内面化)。
この4つのプロセスの運用と、組織としての情報管理を成熟させるためには、IT 技術が不可欠といえます。いつでもどこでもメンバーがアクセス・活用できるように整備をするツールとして、データベースなどの情報管理システムはなくてはならないものです。しかし、情報を集めて登録するだけでは表出化で止まってしまいます。情報管理者を設定して連結化を促し、知識を広めるなどして内面化を成功させれば、新しい知恵を生み出すことができるのです。