複数の人間が集まって構成されている組織の特性を把握したうえで、いかに効果的に組織を運営していくかは、マネジャーの役割の中で重要なことの1つです。
「組織マネジメント」編では、組織マネジメントの種類を紹介し、マネジャーが組織を運営していくうえで不可欠な、数々のテクニックを学んでいきます。
今回は「集団的怠慢」「コンフリクト・マネジメント」「コンピテンシー」の3つの要素について理解を深めてみましょう。
集団的怠慢とは、「社会的手抜き」とも呼ばれ、個人で仕事をするときよりも、集団として仕事をするときの方が努力をしなくなる傾向が強まることをさします。
グループの規模は、グループの行動に大きな影響を与えるといわれています。一般に比較的大きなグループは、外部条件に適応しやすい規模であると考えられており、事実調査などの任務に向いているといわれています。一方、規模の小さいグループは、機動性に優れているため、機敏な行動が求められる業務で、大きな効果を発揮すると考えられています。
グループの規模に関係した研究成果の1つに、「集団的怠慢(social loafing)」と呼ばれるものがあります。集団的怠慢とは、「社会的手抜き」「フリーライダー現象」「社会的怠惰」などと呼ばれ、個人で仕事をするときよりも、集団として仕事をするときの方が努力をしなくなる傾向が強まることをいいます。
1920 年代の終わりごろ、リンゲルマンというドイツの心理学者は、ロープを引っ張るという行動から、グループの成果についての実験をおこないました。リンゲルマンは、グループ全体の仕事の成果は、グループ一人ひとりの労力を合計したものに等しくなるという仮説を立てました。要するに、3人でロープを引っ張ると1人で引っ張ったときの3倍の力になり、8人の場合はその8倍になるという考え方です。
しかし、実験の結果は、仮説と異なるものになりました。3人のグループでは、1人の2倍半の力、8人のグループでは4倍以下の力しか出すことができなかったのです。要するに、グループの規模と、一人ひとりの業績レベルは、反比例の関係にあるという結果です。これは、自分を除くグループのメンバーが、割り当てられた分だけ働いていないというそれぞれの思いこみによって生じると考えられています。他のメンバーを怠け者と思うと、自分の労力を減らして公平を保とうとするからです。
また、他の原因として考えられているのが、責任の分散です。グループとして仕事をおこなうと、一人ひとりの仕事量があいまいになり、自分の貢献度が測定されないことから、能率が低下すると考えられています。集団的怠慢は、特にアジアに多くみられる集団主義的な社会よりも、欧米などの個人主義的な社会にみられる現象といわれています。
マネジャーが集団的な仕事環境を活用するには、労働意欲やチームワークを高め、集団的怠慢を防ぐために、一人ひとりの労力を確認できるようなシステムを構築する必要があります。対応を怠ってしまうと、働き手のモチベーションを高めることができず、潜在的な生産性の低下をもたらすことにつながります。
マネジャーは、グループの規模の大小がときとして人間の行動に大きな影響を与えることを認識し、大きなグループと小さなグループにある長所と短所を見極め、それぞれのグループに合った方法でうまくコントロールするスキルを身に付けることも必要です。
コンフリクトとは、対立、衝突などを意味し、仕事の障害になっている場合、排除したり、解決したりすることが重要になります。しかし、コンフリクトには、グループを活性化するために役立つという面もあります。
コンフリクトを適当なレベルにコントロールし、仕事をするうえで最適な環境をつくることを「コンフリクト・マネジメント」といいます。マネジャーは衝突を解決したり、衝突のメリットをたくみに使いこなしたりしながら、組織のバランスを保たなければなりません。
一般的にコンフリクトの発生原因は3つあると考えられています。
コンフリクトを解決する方法は5つあります。
そして、忘れてはならないのがグループの活性化のためにあえてコンフリクトを起こすことも、コンフリクト・マネジメントの1つだということです。たとえば、現状を打開しようとしたり、革新的な考えを提案した人に対して昇進や昇給をおこなうことで、メンバー同士が切磋琢磨しあう環境がつくられ、そうして組織の活性化を図っていくこともコンフリクトを活用したマネジメントといえるでしょう。
コンピテンシーとは、高業績者の行動特性と訳され、高い業績をあげている従業員の行動特性を評価基準にすることで、従業員全体の質の向上を図る際に用いられる手法です。
コンピテンシーは、ハーバード大学の心理学者マクレランド教授が、アメリカ国務省から「学歴や知能が同じレベルの外交官の間で業績に差が出るのはなぜか」ということについての研究を依頼されたことから始まります。マクレランド教授の調査・研究の結果、「学歴や知能は、業績の高さとの関連性が薄く、高業績者には共通の行動特性がある」ことが明らかになりました。
コンピテンシーは、高業績者の行動特性と訳され、職種別に高い業績をあげている従業員の行動特性を導き出し、それを評価軸として人事評価に活用されています。また、従業員全体の質の向上を図るために、人材育成などにも生かされています。
高業績者にみられる共通の行動特性は、職種や職務によって異なりますが、それぞれの企業や職種にみられる高業績者の行動特性を人材評価に使用する目的は、少数派である高業績者にスポットを当て、社員の能力の底上げを図るという点にあります。たとえば「書類の処理能力に優れている人は、デスク周りの整理整頓が徹底できている」というように、高業績者の行動特性を人材評価の基準にすることで、企業や組織における見習うべき手本として示すのです。
従来の日本型の人材評価は、「協調性」「積極性」「規律性」「責任性」などから構成され、従業員の潜在的・顕在的能力を中心に評価していました。しかし、人間は高い能力を持っているからといって、大きな成果をあげられるとは限らないものです。従来の日本型の人材評価の指標は、抽象的・主観的な要素が強く、評価と会社への貢献度がリンクしないこともありました。
これに対し、コンピテンシーでは、「親密性」「傾聴力」「ムードメーカー」「計数処理能力」「論理思考」など、観察が可能で具体的な行動から人材が評価されます。そのため、従来の日本型の人材評価に比べ、実際の会社への貢献度と評価を直結させることができます。
また、コンピテンシーによる人材評価を応用し、人材採用の場にも活用するという動きが見受けられるようになりました。これは、実際に、実務に就く前段階で、優れた業績をあげる従業員が持つ行動特性を兼ね備えた人物を採用するという「コンピテンシー採用」という手法によるもので、採用現場においてもコンピテンシーを見極める動きが活発化しつつある例として注目すべきものといえます。
しかし、コンピテンシーにもデメリットがあります。高業績者を極端に評価してしまうことで、高業績者が自信を付けすぎ、キャリアアップのために転職をしてしまったり、不正をしてしまうケースもみられるようになったからです。そのため、最近では、コンピテンシーを活用する場合には、高業績者が間違った方向へ脱線しないように育成し、フォローする体制の大切さも求められるようになってきています。