複数の人間が集まって構成されている組織の特性を把握したうえで、いかに効果的に組織を運営していくかは、マネジャーの役割の中で重要なことの1つです。
「組織マネジメント」編では、組織マネジメントの種類を紹介し、マネジャーが組織を運営していくうえで不可欠な、数々のテクニックを学んでいきます。
今回は「チーム・ビルディング」「クロス・ファンクショナル・チーム」「グループ・ダイナミクス」の3つの要素について理解を深めてみましょう。
チーム・ビルディングとは、グループをチームとして機能させるための技法で、メンバー間の信頼と開放性をアップさせるテクニックです。グループ内ではもちろんのこと、グループを越えておこなうことが可能です。
最近では、組織がチームの力に頼る比重が大きくなりつつあります。というのも、チーム制は、個人の能力の限界を超えることができる、また、変化の激しい時代に対応できる柔軟性があるといった理由からです。そういった背景から、チーム・ビルディングは、最も重視されるマネジメントスキルの1つになりつつあります。
チーム・ビルディングとは、複数のメンバーが一人ひとり切り離されているのではなく、チームとして機能させるためにポリシーをつくり、戦術を決め、人間的にもお互いに理解を深められるようにするためのマネジメントスキルです。
たとえば、優秀な野球選手を世界中から集めても、それぞれが個人プレーに走っていてはチームとして強くなりません。お互いの持ち味を生かしつつ、それぞれの力をプラスした以上の大きな力を発揮することができるからこそチームとして機能しているといえるのです。
チーム・ビルディングが有効に働くグループの特徴は、一人ひとりが自立性を持ちながらも、職務の役割が相互依存のもとで成り立つ組織です。そのため、個々人が独立しているタイプのチームには適さないマネジメント・スキルといえます。
「チーム・ビルディング」の活動には、目標設定、チーム・メンバー間の関係の構築、メンバーの役割と責任を明確にするための役割分析、およびチーム・プロセス分析などを挙げることができます。
チーム・ビルディングは、基本的には信頼と公正をアップさせるためにおこなわれるもので、メンバー同士の高い相互作用によって実現できます。
チーム・ビルディングの手順としては、まずメンバーに、チームの目標と優先順位を明示します。そして、目標達成のために皆で決めた優先順位に沿って、実行に移します。そして、一度実行してみたことを、メンバーが評価します。
このように、実行に移したことを一度メンバー間で評価すると、潜在的な問題を明確化することができます。この業績評価は、メンバー全員が出席しておこなうことも可能ですが、手段と目的に関する自己批判的議論を通じておこなわれるため、自由闊達な意見交換に支障が出るようであれば、小グループで意見交換してもよいでしょう。
もう1つのチーム・ビルディングの活動は、仕事の手順を確立するために、チーム内でおこなっているプロセスを分析し、チームの効率を上げるためにはそのプロセスをどう改善したらいいのかを検討するものです。
このような手順でチーム・ビルディングをおこなうことで、マネジャーは、チームが持つ潜在能力を高めることができ、外部環境の変化にも適応できるチームにつくりあげることができるのです。
クロス・ファンクショナル・チームとは、多種多様な経験やスキルを持ったメンバーが、部門を越えたテーマについて解決策を模索していくことを目的としたチームのことをさします。
クロス・ファンクショナル・チームとは、いろいろな部門や職位などから、幅広くメンバーを募り、部門を越えたテーマについて検討・解決策を導き出すことを目的につくられたチームのことです。
もともと日本は、部門を超えたチームを編成しての問題解決に優れているといわれてきました。1980 年代には、日本企業の強さの源流として、アメリカをはじめとした欧米各国からの注目を集め、盛んに研究がすすめられました。日本のお家芸的な手法がそれらの研究によって理論化されたものが、クロス・ファンクショナル・チームであるといわれています。
●クロス・ファンクショナル・チームの種類
クロス・ファンクショナル・チームには、チームの設立期限を設けたものや、常設部署として設置されたものなど、数種類あります。
プロジェクト・チーム、タスク・フォースを始めとするクロス・ファンクショナル・チームの長所は、さまざまな部署から人材を幅広く集めることができるため、多角的に物事を把握し、問題解決にあたることが可能という点です。しかし、その一方で、チームの目的が達成されると解散するという性質を持つため、ノウハウや知識が蓄積されにくいという欠点があるのも事実です。
クロス・ファンクショナル・チームを活用することで成功している組織がある一方で、多くのプロジェクト・チームが志半ばで自然消滅や解散を余儀なくされているのも事実です。主な原因として、実効性のない内容に終始し、計画を社内に提示できない、プロジェクトのミーティングが抽象的な計画で、実行方法や優先順位について議論されない、各々が所属する部署の利益を追求するあまり、結果として破綻する、などを挙げることができます。
クロス・ファンクショナル・チームによる問題解決を成功させるためには、マネジャーのリーダーシップ能力が大きく影響する他、以下の4点も大事なこととして挙げられます。
これらが、成功を左右する大きな鍵となります。
グループ・ダイナミクスは、集団力学とも呼ばれる心理学用語の1つで、集団としての行動が個々人の行動や考え方などに与える影響について研究する学問領域のことです。
グループ・ダイナミクスに関する実証的・行動科学的研究は、1930 年代にクルト・レヴィンという心理学者によって始まりました。人間は、集団から影響を受けたり、逆に集団へ影響を与えたりします。また、集団として行動する場合と、個人として行動する場合で異なる行動をとる場合があります。集団の状況は、人間の行動や仕事の業績に影響を与えるものです。だからこそマネジメントという仕事が生じるともいえます。
個人で仕事をする場合の特徴として、瞬発力がある、責任が明確になる、一貫性のある価値観を持てるなどを挙げることができます。一方、集団の場合の特徴として、情報量が豊富で、個人よりも質の高い決定を期待することができたり、決定事項が受け容れられる可能性が高いなどを挙げることができます。
人間は、集団になることによって、個々人の能力を単純に足した能力になるものではなく、個々人がお互いに影響しあうことで、相乗効果を生み出していくものです。そのため、マネジャーは、集団が人間へ与える影響を踏まえたマネジメントをおこなう必要があります。
人間が集団になることによって、総和以上の能力を発揮することができ、個人よりも大きな結果を出すことができるというメリットがある一方、集団になることによって、デメリットが出ることもあります。
(1)グループシンク(集団浅慮)
意見の一致や集団の結束力に重点が置かれるあまり、集団のコンセンサスの形成を優先し、深く考えずに決定することです。グループシンクが発生してしまう原因として、集団のまとまりが強く、外部から情報が入らなかったり、ワンマン的なリーダーがいる場合が考えられます。
これにより、決定事項の変更に対して臨機応変に対応策を考えられなかったり、物事に対して当事者意識を持たずにあいまいな見通しを立てて、トラブルを引き起こしやすい状況を生むなどの問題が生じやすくなります。グループシンクを避けるためには、異なる意見や建設的な意見に耳を傾けることが必要です。
(2) グループシフト(集団傾向)
集団による意思決定は、個人による意思決定に比べて、極端な見解やリスクの大きい見解を導きやすいものです。これは、集団になることによって、一人ひとりの責任の所在があいまいになってしまうからこそ引き起こされる現象であると考えられています。
以上のように、人間の行動は、集団によって個人では意図しないような方向へ、ときとして向かうことがあります。集団化することで発生するリスクを、マネジャーは常に頭に置きながらマネジメントすることが求められます。