マーケティング・マネジメント編では、マーケティングの基本的な考え方を解説します。難しそうと感じる人もいるかもしれませんが、役職につくことの醍醐味は、マーケティングを含めた会社経営に触れていくことといえるかもしれません。ただ知識を取り入れるだけではなく、実際の戦略や戦術立案に活かしてみてください。
今回は「リレーションシップ・マーケティング」「ミステリーショッパー調査」の2つの要素について理解を深めてみましょう。
顧客との良好な関係を保ち、永続的な売上を見込む方法がリレーションシップ・マーケティング。顧客ロイヤルティを高くする、ライフタイム・バリューを考慮するなどのポイントがあります。
大量生産・大量消費の時代に主流だった「マス・マーケティング」。マス・メディアによる広告をおこない、少ない種類の商品の大量流通をはかった戦略です。しかし1990 年頃から、個人化・細分化していった顧客の志向にそぐわなくなっていきました。
替わって取られるようになったのがこのリレーションシップ・マーケティング(Relationship Marketing)です。直訳すれば「関係性のマーケティング」。顧客と良好な関係を保つことで、永続的な取引関係をつなげていこうとする考えです。いわゆる「リピーターの確保」などの戦略は、この考えに基づいています。
このように、既存顧客の価値を高めようとの考えから、リレーションシップ・マーケティングでは「ライフタイム・バリュー」という観点で、顧客をとらえます。ライフタイム・バリューとは、現時点で顧客がどれだけの利益をもたらしてくれるかはさほど重視せず、5 年10 年といった長期的なスパンでの利益貢献度をみる考えです。
顧客ロイヤルティを高めれば、顧客の保持率が高まります。顧客ロイヤルティとは、特定の企業や店舗に対する顧客の“忠誠心”あるいは“愛着心”です。単に「安いから」選ばれる店ではなく、「この店で買いたい」と顧客に思わせる店づくり、人間関係づくりが大切なのです。
ロイヤルティの高い顧客は時間の経過とともに、大きな利益を自社にもたらします。一度顧客になった人は、生涯その企業に対して利益をもたらしてくれることになり、顧客のライフタイム・バリューも高まります。
アメリカでは、ライフタイム・バリューを数値化する試みが実施されています。このようにCS 向上から顧客ロイヤルティを高めるマーケティングを継続して実践すれば、顧客生涯価値も高まり、「顧客に選ばれる企業」として、継続的に発展できるわけです。
この一例であるワン・トゥ・ワン・マーケティングとは、顧客一人ひとりを大切にしたマーケティングです。顧客の性別や年齢、好み、家族構成や生活スタイルなどを重要視して、双方向で継続的な関係維持をはかるものです。
またパーミション・マーケティングという概念もあり、これは、顧客とのコミュニケーションは顧客との許可を取ってから開始しなさいということです。単純なようですが、これも顧客との良好な関係を保つために重要です。
「ミステリーショッパー(覆面調査員)」を各店舗に派遣して顧客と同様に店舗を利用させ、チェック項目に沿ってサービス内容の測定をおこなう方法。顧客満足の向上の用途に使用されます。
ミステリーショッパー調査とは、小売店や飲食店などで、ミステリーショッパー(覆面調査員)と呼ばれる調査員が、一般客と同じように店舗を利用して、接客サービス、品ぞろえ、商品の品質、店舗設備、従業員の営業力等の実態調査をおこなうことです。
チェーン店では、かなり多くの店舗で取り入れられています。手順としては、あらかじめ、全店共通で実施すべき項目を準備しておきます。それに基づいて、ミステリーショッパーが実施しているかどうかを測定します。その結果を得点化することで、全体の傾向や、各店舗が改善すべき点を、数量的に把握することができます。
ミステリーショッパー調査は、何のためにおこなわれるのでしょうか。まず第一に、店舗の問題点を発見する目的で利用される場合が多いようです。ミステリーショッパーによって、顧客の視点から、各店舗内にある現状や問題点などを把握するわけです。
第二に、内部的な視点からは発見できない問題点をみつけ出す目的があります。単なるチェックでは店舗側が想定できる項目しかチェックできませんが、ミステリーショッパーとして利用した調査員が、自由に感想や意見を書けるアンケート欄を設けておけば、自社では思い付かなかったアイデアを収集することもできます。
また、部外の専門家をミステリーショッパーとして派遣して、プロからの忌憚のない見解を得るためにも利用されることがあります。専門家によるアドバイスが得られるだけでなく、プロの厳しい視点から、問題を改めて認識したり、競合他社との比較分析をしてもらえるなど貴重な情報を得ることが期待できます。
当然ながら、これらの手順で挙げられた問題点を解決するのが、第3 の目的です。改善のためにはまず、用意されたチェック項目のうち、基準を満たしていないものについては改善プログラムを策定して、店舗で実施します。顧客の視点からチェックされた項目を満たすよう努力することで、顧客維持率や客数、客単価の向上が見込めます。
さらに、アンケートとして記入された項目についてもできる限り反映していきます。顧客の立場から記入されたアンケート結果を取り込むことで、サービスの改善、CS 向上に繋がります。
最後に、ミステリーショッパーが指摘してきたことは、顧客の指摘だとして真摯に受け止めれば、ヒトの質的向上がはかれます。そのための人材教育や現場改革を通じて、組織の力も間違いなくアップしていきます。