企業が経営活動を行う中で、その活動の結果・成果をもっとも具体的に示すのは“数字”です。予算、売上、利益など、さまざまな数字から帰郷の状況を把握することが、効果的な活動につながります。
「財務マネジメント」編では、基本である決算書から近年重視されているROA・ROEといった指標まで、財務に不可欠な要素をピックアップして解説します。これらの要素から企業の何が見えるのか、財務マネジメントの基礎に触れていきましょう。
今回は「C/F」「管理会計」「ROA・ROE」の3つの要素について理解を深めてみましょう。
C/Fはキャッシュフロー計算書のことで、企業の資金の出入りをあらわします。キャッシュフロー=資金の流れは、シンプルかつ重要な、企業の能力を測るバロメーターです。
C/Fは、キャッシュフロー計算書のことであり、企業のある一定期間内の資金の流れをあらわしたものです。企業活動における資金の流れを断片的にとらえ、その期間内に発生した資本の投下を「キャッシュアウトフロー」、資本の回収を「キャッシュインフロー」として構成しています。
C/Fにおいて資金として扱われるのは、現金と現金同等物です。現金とは、手許にあるお金と要求払預金のことです。現金同等物とは、容易に換金でき、価値の変動によるリスクが少ない短期投資のことをさします。
日本におけるC/Fは、会計基準の国際化の一環として2000 年に作成が義務付けられた、比較的新しい決算書です。導入の目的は、P/L、B/Sではカバーしきれない企業の情報を提供することにあります。たとえば、P/Lであらわされる損益は、資金の収支と必ずしも一致するものではありません。B/Sでは年度末に資金の残高が表示されますが、それではどのような流れを経てその残高になったのかがわかりません。
このようにC/Fは、P/L、B/Sとはまた違う側面から企業の状況を知るために必要とされます。
C/Fは、「営業活動によるキャッシュフロー」、「投資活動によるキャッシュフロー」、「財務活動によるキャッシュフロー」の3 つの区分によって構成されています。
●営業活動によるキャッシュフロー
商品の販売や仕入れなど、企業の本業によって発生した資金の流れを記載する区分で、企業が本業の中でどれだけ現金を調達できるかという能力がわかります。
●投資活動によるキャッシュフロー
固定資産、有価証券の取得などによる資金の流れを記載するのが「投資活動によるキャッシュフロー」です。企業の資金がどのように投資されたか、あるいは回収されたかがわかります。
●財務活動によるキャッシュフロー
株式や社債を発行するなどして調達した資金と、借入金を返済するなどして流出した資金を記載し、財務活動の中で発生した資金の流れをあらわします。
この3 つの区分のキャッシュフローを合計したものが、企業の資金の増減額です。この額に期首残高を加えると、その期末の残高が算出されます。企業活動を通して、どれだけの資金を調達することができるのか、あるいは債権に対して返済する能力・信頼性があるのかを知るうえで最もわかりやすいのがC/Fです。決算書として作成しなければならない大企業に限らず、すべての企業にとって自社の資金繰りの状況を知るための重要な指標となっています。
管理会計とは、内部報告会計とも呼び、自社内部での業績評価や経営計画の策定、組織統制、価格決定などの意思決定をおこなうために、価格単位で表示した情報を作成することです。
会計情報を活用し、経営者の意思決定や組織の経営管理に役立てることを目的とするものを管理会計といいます。そのため、組織内部のみで使用される機密情報として扱われるのが一般的です。
管理会計は、株主、債権者、投資家などといった、企業外部への報告を目的とした財務会計と相反するもので、企業内部の経営管理、活動管理を目的としておこなわれるものです。そのため、会計基準や関連法規に従う必要がなく、経営者の目的に合致する情報を提供することになります。
短期的に利益を出したい場合には、もともと限界利益(=売上高-変動費)が高いビジネスでは、
という優先順位のもと、施策を考えることが望ましいといわれています。しかし、限界利益が低いビジネスでは、
という優先順位でおこなうことがよいとされています。
また、安定した経営環境のもと、販売数量の増加が期待できる場合には、変動費が小さく、固定費が大きい(限界利益率が高い)ビジネス構造が有利で、販売数量の減少の可能性が高い場合は、変動費が大きく固定費が小さい(限界利益率が低い)ビジネス構造が有利であるといわれています。
最近では、管理会計は主に、原価計算と予算管理から成り立っており、組織内部のさまざまな活動や組織の戦略と密接な関係にあると考えられるようにもなってきています。
経営環境によって、打つべき対策は異なりますが、数量、単価、変動費、固定費に区分して採算を改善するための対策を考える必要があります。また、単価アップや固定費の削減は、一般的にリスクも大きく、製品の販売段階や設備投資の段階など、前もって対応策を考えてから実施することが鍵となります。
おぼえておきたい関連用語
財務会計
企業内部に向けた管理会計とは大きく異なり、財務諸表を核とする会計情報を、企業外部の利害関係者に対して提供することを目的とする会計。
ERP
Enterprise Resource Planning の略で、企業資源計画、経営資源計画などと呼ばれているもの。生産、販売、在庫、購買、物流、会計などの企業のあらゆる経営資源を効率的に活用するために、企業全体で統合的に管理・配分することで、効率経営をおこなう経営手法。
ERPパッケージ
統合業務パッケージとも呼ばれ、ERP の実現のために、財務、管理会計、人事、生産、調達などの企業の主要業務を包括する情報システムの構築を目的に開発されたパッケージソフトウェアのこと。
企業は資本を効率的に運用することを求められています。ROA・ROEは資本に対する利益率をあらわす数値です。しくみを理解して、収益率を向上させる方法を知りましょう。
ROA とROE はどちらも資本に対する利益率をあらわすものであり、近年、企業を評価するうえで重要な指標とされています。
ROA は、総資本利益率のことであり、企業に投下された資本をどれだけ効率よく活用して利益を獲得しているかをあらわす指標です。ROA は基本的に、
という式であらわされます。この式を売上高を介してさらに分解すると、
となります。「利益/売上高=売上高利益率」、「売上高/総資本=総資本回転率」であり、それぞれ企業の収益性、効率性をあらわす数値となります。つまり、ROA を向上させるには、売上高利益率と総資本回転率のどちらかを改善すればよいということがわかります。売上高利益率は収益性ですから、改善するには1つの商品でより多くの利益をあげなければなりません。対して、総資本回転率は効率性ですから、利益は少なくとも、より多くの商品を売らなければなりません。自社の商品は付加価値が高く、1 つでも大きな利益をあげられるのか、あるいは利益は少なくても数多く売ることができる薄利多売に適した商品なのか、きちんと判断しなければROA を高めることはできないということです。事業の特徴を十分に把握したうえで、それに見合った経営計画を立てる必要があります。
一方のROE は、自己資本利益率のことで、株主の持分に対してどれだけ儲かっているかをあらわす指標です。ROE は、ROA を算出する計算式の分母(総資本)から、負債を除いた計算式で求められます。
ROA が企業全体の効率性をあらわしているのに対して、ROE は株主の観点から効率性をあらわしているところに大きな違いがあります。ROA のように計算式を分解してみると、
となります。「総資本/自己資本=財務レバレッジ」と呼ばれ、自己資本比率の逆数です。ROEを向上させるには、売上高利益率、総資本回転率、そしてこの財務レバレッジを改善する必要がありますが、財務レバレッジをあげるということは、負債を増やして自己資本比率を下げることなので、こうしてROE をあげた企業がすべて優秀な企業とはいいきれません。
ROE は、業種によるばらつきが少なく、企業の収益性を評価するのに適しているので高ROEの企業は投資家から人気が出ますが、自己資本が少なく、負債が多い企業はROE が高くなるということに注意が必要です。