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第24回 老若男女を笑顔にするパンダマジック(四川省)

COLUMN

昨年9月に起きた反日暴動を機に、日本国内での嫌中感情は高まる一方ですが、「中国に好感は持てないがパンダは好き」という人なら結構いるのではないでしょうか。中国政府もそのあたりの事情はよく心得ており、日中国交正常化以来、節目ごとにパンダは「友好親善大使」の役割を担ってきました。

 

日本でパンダを眺めるとなると、まず候補に挙がるのが上野動物園。昨春に来日した「リーリー」と「シンシン」も、歴代パンダに負けず劣らず大人気です。ただ、昼間のパンダは寝てばかりなので、正直、あまり感動はありません。心ゆくまでパンダを満喫したければ、本場の四川省へ行ってみることをおすすめします。四川というと遠いイメージがありますが、ANAの直行便(成田―成都間)を利用すれば、北京や上海へ行くのとそう変わらない感覚です。

 

四川でのおすすめパンダスポットは、世界遺産にも登録されている2カ所。近場なら成都北郊外(約15キロ)の斧頭山地区にある成都パンダ繁育研究基地、時間に余裕があれば臥龍パンダ保護研究センターも必見です。成都パンダ繁育研究基地は、パンダを中心とする絶滅危惧動物の保護、研究、繁殖を目的にした国内トップクラスの研究機関で、36万平方キロを誇る広大な敷地内に、60頭以上のパンダが飼育されています。さすがに60頭もいると、最後は「またパンダか」と飽きてしまうくらい(ぜいたくな話ですよね)見応えがあるのですが、1987年の開園当初はわずか6頭からのスタートだったそうなので、関係者の努力には敬意を払わずにはいられません。成都中心部から手軽に訪れることができるとあって、いつも国内外の老若男女でにぎわっています。ちなみに、路線バスの運賃は1元でした。

 

窮屈な動物園とは違い、豊かな自然のなか、サル山のような広いスペースで飼育されているため、心なしかパンダもリラックスしている印象を受けました。みなさん、ジャイアントパンダ(大熊猫)にばかり注目しがちですが、愛らしいレッサーパンダ(小熊猫)のコーナーも充実しているので、ぜひ立ち寄ってあげてください。

 

同基地では、莫大な運営資金を賄うため、赤ちゃんパンダへのネーミングライツ制度を実施しています。あのジャッキー・チェン(成龍)が2009年に命名したパンダは、自身の名前に因み「成成」と「龍龍」。命名権も含めた寄付金は100万元だったとか。さすがスケールが違いますね。

 

 

臥龍パンダ保護研究センターのほうは、成都から約140キロも離れており、バスで4時間くらいかかります。四川大地震の前年(2007年)の冬、世界遺産の都江堰(世界最古の治水施設)からローカルバスに乗ったのですが、途中で大渋滞、土砂崩れ、エンジントラブルに見舞われるなど、散々な道中となりました。人跡もまばらな山中でどっぷりと日が暮れ、空を見上げれば満天の星。この深い闇のはるか彼方にパンダが生息しているのだろうかと思うと、感慨もひとしおでした。

 

その日はバスの終点(臥龍の小集落)にある旅館に一泊。翌朝、昨夜のバスでセンターまで引き返そうと思い、顔なじみになったバスの車掌に「パンダセンターで降ろしてください」と声をかけると、「パンダ見学だったの?だったらセンター内に宿泊施設があったのに」と肩をすくめました。昨夜は外があまりに暗く、センターの位置さえ気が付かなかったのです。

 

朝一番に訪れた甲斐あって、元気に動き回るパンダを見学することができました。両施設へ行くなら、午前中の早い時間帯がいいでしょう。夜行性のパンダは、午後になるとお休みモードに入ってしまうので。
ここではパンダを抱いての記念撮影が好評で、“モデル料”は大人のパンダが400元、子どものパンダは1000元。まあ、子どもの商品価値のほうが高いのは納得です。たまたま年輩の日本人夫婦がおり、写真撮影を手伝ってあげたのですが、「子どもとはいえ重く、意外と爪が痛かったですよ」と話していました。

 

翌年の四川大地震では、臥龍パンダ保護研究センターも甚大な被害を受け、パンダたちは、比較的被害が軽微だった雅安地区の碧峰峡パンダ基地への避難を余儀なくされました。最近になり、ようやく里帰りが本格化しているそうですが、繊細なパンダが震災によって重度のストレスを感じてないことを祈るばかりです。

 

最後にパンダ施設で強く印象に残ったことを。それは、パンダを眺める人たちの幸せそうな表情です。少し日本語を話せる中国人の女の子2人が、日本人ツアー客と笑顔で交流している場面も目撃しました。パンダの前では、みな童心に返り、国籍も年齢も関係ありません。そんな穏やかな関係が、パンダがいないところでも築けるといいのですが。

 

 

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