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第6回 中国人旅行者のびっくり行動学

COLUMN

原発事故以降、右肩上がりで増加していた中国人観光客の姿を見かけなくなりました。どこにいても、何かと目立つ中国人。彼らのにぎやかな声が聞こえないのは寂しい気がします。「日本は危険」という風評被害が一日も早く解消され、また日本各地に戻ってきてくれるといいのですが――。

今回は主に中国で目にした、中国人旅行者のびっくり行動学を紹介したいと思います。

観光地に着いた彼らが、まず夢中になるのが写真撮影。日本人の場合、風景を中心に撮る人が多い印象がありますが、中国人はあまり風景写真を好みません。とにかく構図の中心は自分なのです。ちょっと赤面してしまうようなポージングを決め、嬉々としてカメラを向け合っています。なかには、人物ばかりをアップにしすぎて、背景がよく分からないといった残念な写真も。日本人は自分が撮られるのを嫌がる人(僕も苦手)も少なくありませんが、そういう控えめな中国人はごく少数派です。もし日本で中国人を観光地に案内する機会があったら、ぜひ何度も何度も写真を撮ってあげてください。絶対に喜ばれます。

 

また、彼らは自分が映った写真を人目につく場所に飾るのも大好き。ご存知のように、何事も堂々と自己主張する民族ですから、やはり日本人とは違い、総じて自己顕示欲が強いのでしょう。

 

「もらえるものは何でももらう」――という合理的な姿勢も、中国人ならではという気がします。例えば、日系航空会社以外の機内食は正直、あまりおいしくなく、僕は手をつけないことが多いのですが(現地で安くておいしいものを食べたいから)、ほとんどの中国人はまず残しません。

 

以前、貴陽から広州へ向かう国内線でのこと。軽食用に配った硬いコッペパンが余ったらしく、CAが「欲しい方は」と声をかけると、食事の時間帯ではなく、空腹だった人は少ないであろうにもかかわらず、ほぼ全員の手が伸びてきました。で、よく観察してみると、そのパンを鞄にしまっているのです。こうした行動は、空腹かどうか、うまいかまずいか以前に、「機内食も高い料金の一部」との経済観念があるからではないでしょうか。レストランで残った料理をテイクアウトする「打包」の習慣も、エコというよりは合理性のはず。こんな経済にシビアな中国人を相手にビジネスするのは、日本人に限らずラクじゃないですよね。

 

旅先で好奇心が旺盛なのも中国人らしさのひとつ。写真の人物は何をやっているのかというと、目を閉じて掌を正面に突き出しながら前進していき、仏像の「福」の部分にうまく当たると幸運が授かるというもの。場所は貴州省にある古寺で、寺の門前から仏像が嵌められた石壁までは10メートルくらいの距離だったでしょうか。子どものみならず、いい齢の大人たちも、この手のお遊びが大好きなのです。「もっと右」「コースがずれているぞ」などと楽しげに声をかけあっている様子は、見ていて微笑ましくなりました。

 

次は移動中の話題を。長距離を走る列車の旅では、見ず知らずの乗客同士が仲良くなり、食べ物を分け合ったりしている場面をよく目にします。こうした光景は、昔は日本でも珍しくなかったのですが、もし今、新幹線で隣席の人に話しかけたら、迷惑そうな顔をされるに違いありません。

 

先日、河南省の鄭州から北京へ移動する高速列車の車中で、年配のご夫婦と親しくなり、世間話に花が咲きました。日本人とは知らず声をかけたそうですが、相手が日本人だと分かっても、変に気を遣うことなく、構わず話を続けるのが中国人のいいところ。日本へ来た中国人に対しても、このようなスタンスで接してあげたいとは思うのですが、引っ込み思案な日本人には難しいかもしれませんね。

 

列車の旅といえば、通路を埋めるゴミの量が半端ではありません。特にひどいのが、夜行列車の座席車。一夜明けた車内は、写真の通りの散らかりようです。

 

中国では、路上のゴミは清掃員が片付けるもの(車内清掃は車掌の仕事)、との役割分担が明確になっており、そのため観光地がゴミだらけになってしまうのですが、タン吐きとゴミのポイ捨てだけは、海外ではくれぐれも自重してほしい悪しき習慣です。悪気はないマナーの悪さであっても、そのために中国人全体のイメージが悪くなるのは、とても悲しいことですから。

 

旅を通して日本と日本人を理解してもらうことこそが、日中友好交流に資する一番の手段。ここで紹介したような中国人の個性的なキャラを認めてあげたうえ、ひとりひとりが真心をもって迎えれば、「日本はこんなにも素晴らしい国だったのか」と中国人を「びっくり」させることができると思うのですが。

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