このコラムでは、日本のメディアがあまり伝えない中国人の素顔を知ってもらうことに主眼を置いています。多くの日本人が抱く中国人像は、残念ながら、好意的なイメージが少ないため、いきおい彼らの長所や魅力を力説するスタイルになってしまうのですが、もちろん改善してほしいこと、腹立たしいことがないわけではありません。家族や恋人だって、お互いが言いたいことを腹蔵なく言いあえてこそ、真の信頼関係を築けるものですよね。それは中国人との付き合いにしても同じ。今回は「この点さえ直してくれれば」との願いを込めて、あえて彼らの欠点・短所を挙げてみたいと思います。
タイトル通り「ちょっといらっと」程度の話題ならば、「列に並ばない」「ゴミやタンを撒き散らす」「自己主張が強すぎる」――といったキーワードが頭に浮かびますが、こうした中国人のキャラは「そういう文化だから」と割り切ってしまえば、我慢できないことではありません。しかし、ビジネスに関わる話となると別。ここではもう一歩踏み込んで、「かなりいらっと」した体験を紹介してみましょう。
3年前、山東省煙台市政府に勤務する知人女性Sさんから依頼を受け、地元出版社が刊行する日本語学習教材の執筆を担当しました。Sさんの友人が出版社にいるそうで、「どうしても中国語が分かる日本人に書いてほしい」と頼み込まれ、半ば押し切られる形で引き受けることになったのです。本のボリュームからすれば、提示された報酬はおよそ好条件とはいえず、正直、依頼者がSさんでなければ断っていたでしょう。Sさんとは、書類翻訳で何度も仕事をした経緯があり、誠実な人だと信頼を寄せていました。
3カ月後、締め切りには若干遅れたものの、最後は何日も徹夜をして、どうにか300ページにもなる原稿を納品しました。ところが、約束の期日になっても、報酬がまったく振り込まれません。Sさんに確認しても、「出版社の友人から連絡がなくて」などと曖昧な弁解を繰り返すばかり。どうやら、原稿を依頼したのち、締め切り前のギリギリのタイミングになって、経費の問題か、方針転換か、とにかく状況が変わり、出版計画が白紙になったらしいのです。「遅くはなるが、必ず支払う」との言葉を信じていたのですが、そのうちSさんへの連絡すら取れなくなってしまいました。損失額は約40万円。故意に雲隠れしたと断じるつもりはありませんが、お金よりも、信頼していたSさんに裏切られたことのほうがショックでした。
日本の出版社であれば、筆者に過失がなく、社内的な事情で原稿がお蔵入りになった場合(それすら滅多にないケースですが)、たとえ契約書を交わしていなくとも、何らかの補償をしてくれるのが当たり前です。それは最低限の企業倫理であり、日本企業の美徳と称賛するほどの事例ではありません。一方、中国人相手のビジネスでは、時として「状況が変わったのだから仕方がない」――このような理不尽な主張を突き付けられる場面があり得ることを、頭の片隅に留めておくべきです。備えあれば憂いなし。相手を疑ってかかるという意味ではなく、事前にしっかりとした契約を交わし、対策を講じておけば、不愉快なトラブルに遭う確率が低くなるはずです。
僕の職業(フリ―ライター)についていえば、中国人とのやり取りは相当に神経が疲れます。最近、日本で発行している某中国政府系の雑誌の企画に関わったのですが、締め切りが迫っているにもかかわらず、先方の意向を踏まえて提出した企画案が、直前になって全部ボツに。しかも、「方針が変わったので再提出するように」と要求しておきながら、「締め切りは従来通り」と譲歩してくれません。結局、さすがに面倒になり、この仕事は断りました。パートナーだった日本生活が長い中国人編集者も「トップの判断で、方針がコロコロ変わるのはいつものこと。段取りよく計画的に進められないので、ストレスがたまりますよ」と嘆いていました。(中国で)中国人同士ならば、きっと絶妙な「落としどころ」があるのでしょうが。
勤勉なこの編集者は、こんなエピソードも。「中国の知人から『日本の産業廃棄物処理場を見学したいので、手配と案内をお願いしたい』と連絡があり、『いつ来日するの』と聞くと、『明日』と言うではありませんか。コネさえあれば、何でも即座にOKになる中国とは違い、日本では遺漏なく必要な手続きを踏まなければならないことを、まったく理解していないのですね」。
このように、ビジネスで中国人と渡り合うとなると、一筋縄ではいきません。しかし、この個人的体験談のすべてに悪意が介在いるとも思えないのです。仕事を紹介してくれたSさんも、最初は親切心からでしょうし、無茶な要求ばかりする政府系雑誌の担当者も、「少しでもいい内容に」との思いが強かったのかも知れません。「いらっと」させられる場面が多々ある中国人ですが、同時に「きらっと」光る感性や魅力も持ち合わせているのが中国人。これからも喜怒哀楽を隠すことなく、ダメなものはダメと言える関係を築いていきたいと思っています。