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第14回 環境変わって人も変わった南の楽園~海南島~

COLUMN

「中国のハワイ」と称される海南島は、中国人にとって憧れの楽園で、人気ナンバーワンのハネムーン目的地となっています。実はこの海南島には特別な思い入れがあり、かつて湖南省で生活していた頃、ヒマを見つけては足繁く通っていました。約2年間の中国滞在中、唯一お付き合いしていた女性が、海南島南部の三亜に住んでいたからです。本編とは関係がないので、彼女とのエピソードには触れませんが、帰国後はすっかり足が遠のいていました。

 

もう何年も訪れていないとはいえ、海南島は楽しい思い出が詰まった大切な場所。今でも海南島を愛する気持ちは、まったく変わっていません。ところが最近、海南島に関する悪いニュースばかりが報じられており、心を痛めています。 

そのニュースとは、レストランでの「ぼったくり商法」。ネット上には「サザエ1個で1千元以上もとられた」「ちょっとしたランチで数千元も請求された」等々、怒りの告発が相次ぎ寄せられています。新鮮なシーフードが売りの海南島では、生け簀に入った魚や貝などを選んで調理してもらうスタイルが一般的なので、明確な料金が表示されている一般レストランよりも、料金トラブルが発生しやすいのかも知れません。

 

近年、海南島では大規模なリゾート開発が進められており、なかでも風光明媚な三亜のビーチ沿いには、続々と高層ホテルが建設されているとのこと。リッチな観光客が集まるようになれば、阿漕(あこぎ)な商売でひと儲けしようと企む輩が出てくるのは自然な流れ。高級リゾートアイランドに変貌したした途端、人心が荒み、拝金主義が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するようになってしまったのは、昔の素朴な海南島を知る者としては残念でなりません。

 

高層ホテルが林立する以前の三亜のビーチは、かわいらしい少数民族の女の子が恥ずかしそうにお土産を売りにくるくらいで、爽やかな海風を浴びながら心穏やかに過ごせる空間でした。

行きつけの海鮮レストランに行けば、安い値段でお腹いっぱい食べることができ、サーファーのように浅黒く精悍な女主人の機嫌がいいときには、キンキンに冷えたビールをサービスしてくれたことも。郊外にも見どころは多く、「天涯海角」は旧版2元紙幣の図案にもなった景勝地で、缶ビールを片手に、地元の漁師が網を曳く様子を飽かずに眺めていたのを思い出します。

 

また、十数年前の三亜は、「鉄ちゃん」にとっても垂涎の地でした。三亜―石碌間に旧日本軍が敷設したローカル線が通じており、なんと2003年までSL列車が運行されていたのです。

終点の石碌は、鉄鉱石の露天掘り鉱山があるだけの田舎町。どうにかバスターミナルを見つけ、北部の省都・海口へバスで移動したのですが、浮世離れしたSLの旅は、観光客の目を意識しない海南島の素顔を垣間見せてくれる旅でもありました。

その後、このローカル線は見違えるように改良され、島内をぐるりと一周する鉄道網が整備された現在は、時速100キロ以上の高速列車が疾走しています。SLとバスを乗り継ぎ11時間も要した三亜―海口間は、最速列車で2時間弱。どちらが海南島にふさわしい優雅な旅か、改めて論じるまでもないでしょう。 

 

とにかく海南島は、街の風景も、そこに暮らす人も、物価も移動手段も、何もかもが激変してしまったようです。
「昔はよかった」と嘆いてみても詮ないことではあるものの、それでもあの頃の海南島に戻ってみたい、との思いを断ち切ることができません。もちろん、そこには多くの甘美な時間を共有した彼女の姿もあってほしいのですが。

 

海南島と同じ道を歩むのではないかと心配しているのが、前回のコラムで紹介したチベット自治区のラサです。チベット鉄道の開業以来、大量の観光客がなだれ込み、街は大きく変わったとの話を耳にします。人々の深い信仰心によって輝きを放つチベット文化が、俗界の拝金主義に毒されぬよう願うばかりです。

 

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