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第19回 クルマが走らない島の異国情緒(福建省アモイ)

COLUMN

出身地域によってキャラが異なる中国人。福建人の場合は「血の気が多い」というイメージがあります。日本の景気が好転しないので、最近は話題にのぼることがありませんが、密航者の大部分は福建出身者です。2年前、尖閣諸島沖で衝突事件を起こし、「英雄視」された中国漁船の船長も福建人。気心知れた関係になれば、情に厚い一面もあるのですが――。

 

しかし、そんな福建省のなかで、異国情緒あふれる穏やかな街があります。台湾海峡を挟み、台湾の金門島と向き合うアモイ。「アモイ」とは、台湾人が日常的に話す「閩南語」の発音を当てたもので、中国では珍しいカタカナ表記の地名からも、どことなく瀟洒な雰囲気が伝わってきます。

 

天然の良港を有し、明代以降は中国茶の輸出港として大いに栄え、その後、1842年の南京条約によって開港。租界地となったコロンス島に、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツ、スペイン、オランダ、ポルトガルなど列強が続々と洋館を建てました。1942年には、日本軍に占領された歴史もあります。ちなみに、これまた瀟洒な「コロンス」という島名は、中国語の「鼓浪嶼」の音訳。面積1.78㎢ほどの小さな島ですが、中国の他都市にはない、緩やかな時間が流れています。今回はそのコロンス島を散策してみましょう。

 

 
アモイの市街地からコロンス島へ渡るフェリーの旅は、南国の暖かい潮風が快く、わずか5分で下船してしまうのが惜しい気分になります。誰もお金を払わないので不思議に思っていたら、復路にまとめて徴収される合理的なシステムでした。世知辛い中国で、無料のフェリーなどあるはずがないですよね。
 
島へ上陸した途端、空気が一変します。クルマの乗り入れが禁止(バイクも不可)されているため、とにかく静かなのです。島内観光は、基本的に徒歩。自分の足以外の「足」は、専用のバッテリーカーしかありません。排気ガスとクラクションのない街が、どれほど人間に安らぎを与えるか――島民の生活リズムも「アモイ市民」と比べ、3割くらいは緩慢な感じがしました。
 
細く入り組んだ路地を迷いながら歩いていくと、沿道に洋風建築が次々と現れます。かつてはモダンな外国人の邸宅だったのでしょうが、ほとんど手入れをしておらず、塗装の剥落が目立ち、バルコニーに洗濯物の下着が無造作に干してあったりします。この庶民的な生活感が島の魅力。きれいな状態が維持されていても、主がいない飾りものの館より、ずっと好感が持てます。そもそも、これらの洋館は租界地時代の「負の遺産」ですから、これくらい雑な使い方がふさわしいのかも知れません。
 
ただ、バルコニーに下着が干してあっても、「文化」の香りを漂わせているのが、コロンス島が単なる観光島とは違うところ。散策の途中、かなりの確率でピアノの旋律が聞こえてくるのです。実はピアノ人口が非常に多い島であり、著名なピアニストも輩出しているのだとか。
 
海岸へ出ると、対岸のアモイ市街の高層ビル群が、実際の距離以上に遠く感じられます。夜は夜景が美しいのですが、反対に向こうから夜のコロンス島を眺めたなら、灯火の少ない黒い島影しか見えないのでしょう。
 
地元政府は今、コロンス島をユネスコ世界遺産に申請すべく、環境整備に力を入れています。先日、「公安が露天商を一斉排除」というニュースを目にしました。路上で新鮮な野菜や果物、海産物などを商っている人たちは、観光客からぼるわけでもなく、善良な人ばかり。彼らを追い払う行為が「環境整備」であるのなら、世界遺産の称号など不必要という気がします。コロンス島に限らず、「島」に権力が介入すると、ロクなことがありません。

 

 

 

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