教育業界の常識にQuestionを投げかけるメディア

創考喜楽

第18回 北朝鮮との国境の街は本日も平和なり(遼寧省丹東)

COLUMN

おそらく多くの日本人が、北朝鮮に対して「無気味な国」「恐ろしい国」とのイメージを抱いていると思います。実際、日本で伝えられる北朝鮮関連の話題はネガティブなものばかりなので、好印象を抱きようがないというのも事実でしょう。が、中国の東北部(遼寧省、吉林省)を歩いていると、北朝鮮が非常に“身近”に感じられ、従来のイメージが揺らぐ場面が少なくありません。北朝鮮と国境を接し、人間・物資とも往来が頻繁な丹東(遼寧)、延辺(吉林)といった街では、至るところにハングル文字があふれ、おいしい冷麺など本格的な朝鮮料理を味わうことができます。

 

漢民族とは明らかに顔つきが異なる朝鮮族の人たち。生粋の中国人よりも日本人に近い顔の人が多く、にこやかに接してくれる人に出会うと、無意識のうちにシンパシーを感じます。朝鮮族の人も「将軍様」に忠誠を誓い、日本人を激しく敵視しているのでは――そんな不安を口にする人もいますが、それはまったくの誤解。むしろ東北人特有の温かみがあり、旅先で親切を受けたことが何度もありました。シビアな中国社会で必死に生きる彼らは、口にこそ出さないものの、「将軍様」より目先の生活のほうが大事なのです。

 

朝鮮族の人は、延辺朝鮮族自治州に約80万人、丹東市に約20万人暮らしているとのこと。ですから、“擬似北朝鮮”を体験したければ、これらの街を訪れてみるといいでしょう

 

日本統治時代は「安東」と呼ばれていた丹東市は、鴨緑江を挟んで北朝鮮の新義州市と対峙しています。肉眼でも北朝鮮軍の歩哨が確認できるほどの近さ。とはいえ、夜陰に乗じ、命を賭して鴨緑江を渡ってくる脱北者にとっては、万里に匹敵する遠さなのでしょうが。

 

中国側の川岸には、幾艘も遊覧船が停泊しています。対岸ギリギリまで接近し、庶民の生活を覗き見ようという、少々悪趣味な遊覧船なのですが、中国人グループは嫌がる兵士にもカメラを向け、「北の連中の貧しさを見て、優越感に浸るのが楽しいのさ」と、悪びれた様子もなく話していました。こうもハッキリ正直に言われると、苦笑いするほかありません。

 

鴨緑江には2本の鉄橋が架かっています。中国側からみて左側の橋は、朝鮮戦争時に破壊されたままの状態になっており、川の中腹あたりで橋脚が没しています。もう1本の「中朝友誼橋」のほうは、中朝を結ぶ主要ルートであり、時折、国際列車が通過していきます。

 

 
大の飛行機嫌いで知られていた金正日・総書記は、中国を訪問する際、特別列車でこの「中朝友誼橋」を通過していました。「将軍列車」が運行されるときだけは、さすがに物々しい空気に包まれたそうですが、平時は静かで平和そのもの。ぼんやり列車を眺めていても、警備員に咎められる心配はなく、爽やかな鴨緑江の川風に吹かれていると、時間が経つのを忘れてしまいます。息子の金正恩氏は、おそらく専用機を使うでしょうから、もう「将軍列車」を見ることはできないかも知れません。地元の人は「いくら(金総書記訪中の)情報を隠しても、あれだけピリピリすれば、小学生だって分かる」と笑っていました。
 
気軽に北朝鮮観光ツアーに参加できる中国人とは違い、一般の日本人は、この橋を渡ることが許されていません。丹東まで来ても、やはり北朝鮮は「近くて遠い国」なのです。世代交代を機に、日朝間の懸案事項が解決し、誰もが自由に橋を渡れる日が来ることを願ってやみません。
 

 

連載一覧

Copyright (C) IEC. All Rights Reserved.