おそらく多くの日本人が、北朝鮮に対して「無気味な国」「恐ろしい国」とのイメージを抱いていると思います。実際、日本で伝えられる北朝鮮関連の話題はネガティブなものばかりなので、好印象を抱きようがないというのも事実でしょう。が、中国の東北部(遼寧省、吉林省)を歩いていると、北朝鮮が非常に“身近”に感じられ、従来のイメージが揺らぐ場面が少なくありません。北朝鮮と国境を接し、人間・物資とも往来が頻繁な丹東(遼寧)、延辺(吉林)といった街では、至るところにハングル文字があふれ、おいしい冷麺など本格的な朝鮮料理を味わうことができます。
漢民族とは明らかに顔つきが異なる朝鮮族の人たち。生粋の中国人よりも日本人に近い顔の人が多く、にこやかに接してくれる人に出会うと、無意識のうちにシンパシーを感じます。朝鮮族の人も「将軍様」に忠誠を誓い、日本人を激しく敵視しているのでは――そんな不安を口にする人もいますが、それはまったくの誤解。むしろ東北人特有の温かみがあり、旅先で親切を受けたことが何度もありました。シビアな中国社会で必死に生きる彼らは、口にこそ出さないものの、「将軍様」より目先の生活のほうが大事なのです。
朝鮮族の人は、延辺朝鮮族自治州に約80万人、丹東市に約20万人暮らしているとのこと。ですから、“擬似北朝鮮”を体験したければ、これらの街を訪れてみるといいでしょう
日本統治時代は「安東」と呼ばれていた丹東市は、鴨緑江を挟んで北朝鮮の新義州市と対峙しています。肉眼でも北朝鮮軍の歩哨が確認できるほどの近さ。とはいえ、夜陰に乗じ、命を賭して鴨緑江を渡ってくる脱北者にとっては、万里に匹敵する遠さなのでしょうが。
中国側の川岸には、幾艘も遊覧船が停泊しています。対岸ギリギリまで接近し、庶民の生活を覗き見ようという、少々悪趣味な遊覧船なのですが、中国人グループは嫌がる兵士にもカメラを向け、「北の連中の貧しさを見て、優越感に浸るのが楽しいのさ」と、悪びれた様子もなく話していました。こうもハッキリ正直に言われると、苦笑いするほかありません。
鴨緑江には2本の鉄橋が架かっています。中国側からみて左側の橋は、朝鮮戦争時に破壊されたままの状態になっており、川の中腹あたりで橋脚が没しています。もう1本の「中朝友誼橋」のほうは、中朝を結ぶ主要ルートであり、時折、国際列車が通過していきます。