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第22回 「大酒店」に断られ「旅社」に歓迎された話(黒龍江省、河南省)

COLUMN

中国語は非常に表現豊かな言語で、ひとつのものを言い表すのにも、さまざまな単語があります。 例えばホテル・旅館。「大酒店」「酒店」「大飯店」「飯店」「賓館」「旅館」「旅社」「旅店」「招待所」――これらはすべて宿泊施設を表す単語です。「大」の有無にかかわらず、「酒店」「飯店」にはそれほど差はないように思います。なぜか「大賓館」というのは見たことがありません。ホテルなのに「酒店」「飯店」と名乗っているのは、かつて「酒や料理も供する場所」であった名残。ただ、今は外食産業が花盛りなので、「飯店」に入っているレストランよりも、外で食べたほうが安くておいしかったりします。

 

大まかに分類すると、上記の「旅館」以下は中国人専用で、外国人は宿泊することができません。これらの施設は、大部屋ならワンベッド1泊20元くらいから泊まれるので、お金がない若い頃の貧乏旅行では、どうにかもぐり込めないものかと果敢にチャレンジしたのですが、フロントのチェックは厳しく、90%以上の確率で断られました。外国人宿泊不可の理由は「安全面を保証できない」というもの。ですが、本当の理由は、政府が「こんな安いところに泊まられては、外貨が稼げない」と考えているからではないでしょうか。
もっとも、格安なぶん、衛生・治安面で劣ることは事実。強引に泊まって何かトラブルに巻き込まれても、それは自己責任になってしまうのですが。

 

 

 

さて、前置きが長くなりましたが、今回はそのホテルにまつわる体験談を。筆者は中国への渡航歴が50回以上。最高級の5つ星から場末の安宿まで、あらゆるタイプの宿泊施設を利用してきました。

そのなかで、どうにも相性が悪い都市があります。それは河南省の省都・鄭州です。

 

730万もの人口を擁する大都市で、東西南北の鉄道が交差する交通の要衝ですから、当然、ホテルの数は少なくありません。ところが、駅前地区の立派な「酒店」「飯店」「賓館」へ行っても、どういう訳か「外国人はダメ」と門前払いを食ってしまうのです。この手のホテルに限って、やたらと英語表記があったり、世界各都市の現在時刻を示した時計が掲げてあったり…。疲労困憊の状態で、立て続けにNOと言われたときには、「外国人を泊めないくせに、英語表記や時計なんか不要だろう。バカじゃないか」と悪態をついてしまったことも。こんな不快な思いをするのは鄭州だけ。いまだに理由が分かりません。

 

鄭州とは対照的に、外国人に対して寛容な印象があるのが東北地区です。息も凍るような寒い冬の夜、東北地方の小さな町に降り立ち、客引きのおばさんの案内で「旅社」のお世話になったことが何度もありました。黒龍江省のジャムスでは、声をかけてきた客引きのおばさんに「日本人だけど大丈夫?」と確認すると、「あんた、日本人だったの。でも問題ないよ」と即答。通された1人部屋は狭いながらも清潔に保たれており、60元程度の料金なら、コストパフォーマンス的には及第点以上といえるものでした。「寒くはないか」「食事は済ませたか」「お茶を飲むか」等々、あれこれ気遣ってくれるのも嬉しく、旅の幸せを噛みしめながら、心地よい眠りにおちていきました。

 

「旅社」のおばさんたちは、みなとにかく働き者。僕を部屋に送り届けたのち、再び駅前に戻り、寒空の下で旅行者に声をかけ続けるのです。夕食をとろうと歩いていた駅前通りでおばさんと目が合ったので、「何時まで仕事なの」と話しかけると、「最後の列車が着くまで。生活のためだから仕方ないよ」と言って白い息を吐き出しました。ほんの数分立っているだけで、身体の芯からすべての熱が奪われてしまうほどの寒さです。早朝から深夜まで足を棒にして立ち続ける冬の客引きは、どれほど大変な仕事か。東北人の粘り強さを見る思いがしました。

 

今は「大酒店」に泊まるくらいの余裕はあります。しかし、東北を旅したときは、つい客引きのおばさんを探してしまう自分がいます。それは人のぬくもりが感じられる「旅社」の居心地がよく、味気ない「大酒店」に泊まる必然性がないからです。生活のため、必死に働くおばさんの姿を目にすると、「反日」「反中」といったいがみ合いが、別世界の不毛な小事という気がしてなりません。

 

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