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創考喜楽

2020.04.23
KNOW-HOW

第5回:
人間、万事塞翁が馬
一喜一憂せず、淡々と生きることのすすめ


成功や幸福を手に入れるうえでは、「動じない」ことが大切な姿勢だといえます。意識していてもなかなかできないマインドではありますが、今回は「動じない」ことの大切さがわかえうエピソードを紹介します。

 

禍福を超越する知恵

 

古くから言い伝えられてきた故事のなかには、よく生きるための有益なルール、指針として、活用できるものがたくさんあります。ここではその一つを紹介しましょう。「人間、万事塞翁が馬」という故事です。

 

 

 

 

 

 

 

出典は、中国前漢の時代、淮南王劉安が撰者となって編纂された『淮南子“人間篇”』。ここでいう塞翁とは、人の名ではなく、国境の塞(とりで)付近に住む老父のこと。「人間、万事塞翁が馬」は、以下のような由来を持つ言葉です。

 

 

 

あるとき、飼っていた馬が逃げて敵地(胡)に入ってしまいました。周りの人々は皆、気の毒がって口々に慰めましたが、その老父は「いや、幸いがやってくるでしょう」と言います。それから数ヶ月して、逃げた馬が胡の駿馬を一緒に連れて帰ってきました。そこで人々が祝福すると、彼は喜ぶどころか、「これは災いを招くに違いない」と答えるのです。

 

 

その懸念が現実のものになります。彼の息子が落馬して、脚に大ケガをしてしまいました。周りは皆、かわいそうに思って慰めましたが、その父は「きっとこれは慶事でしょう」と穏やかにいいます。

 

 

その1年後、胡人が大挙して侵入してきました。若者は弓を引いて戦いますが、10人中9人が死ぬという悲惨な結果になりました。しかし塞翁の子は脚の傷害のため、戦乱に巻き込まれずに、生き延びることができたのでした。

 

 

 

 

この故事が教えてくれるのは、いたずらに一喜一憂することなく人生に対処する、という生き方です。それは、いわゆる“プラス思考”や“マイナス思考”といった一辺倒な思考回路ではありません。一番しっくりくるのは、「達観」という言葉です。実際にはこのような心境に到達するのはなかなか困難でしょうが、“動じない”という人生態度を心がけるだけでも、ずいぶんと得るものが大きいはずです。

 

 

「勝っておごらず、負けて腐らず」の気持ちで

 

「塞翁が馬」における“動じない”という心境は、「勝っておごらず、負けて腐らず」という言葉にも通じるものがあります。歴史上の英雄には、このような態度を身につけている人物が数多くいます。たとえば、強敵カルタゴから国を守った古代ローマの英雄スキピオは、次のように述べています。

 

 

「ローマ人は負けても気力はくじけない。しかし、勝ってもけっしておごりはしない」(N.マキャベリ『政略論』、永井三明訳、中央公論社“世界の名著16”)

 

 

また、東ローマ帝国の名将ベリサリウスの態度については、『ローマ帝国衰亡史』がこう伝えています。

 

 

「彼は戦争の危険の真っ只中にあってもつねに勇敢で軽率ならず、慎重でしかも恐怖をいだかず、事態の緩急にしたがって行動緩急よろしきを得、最も沈痛な悲境においても彼は真実または外見的に希望に満ち充ちて見えた。しかし彼は、最も得意の絶頂ではきわめて謙遜であり、控えめであった」(E.ギボン『ローマ帝国衰亡史』、村山勇三訳、岩波文庫)。

 

 

わが国の武将では、武田信玄に同様な逸話が伝えられています。優れたリーダーとして大成するためには、こうした人生態度を身につけることも、大いに求められるのです。

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