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創考喜楽

2020.04.02
KNOW-HOW

第3回:
極限状態でも部下を救う
シャクルトンに学ぶ「絆」 の話


人間関係にはいろいろな側面があります。傷つけられたり、裏切られたりする一方で、さわやかな人間関係、暖かい感情が交流する人間関係、創造的な人間関係、自然に一体感が生まれる人間関係など、こうしたすばらしい関係とめぐりあえることも事実です。

 

 

「人間の絆」ほど美しく感動的なものは、ちょっとほかにありません。それは「一対一関係」で結ばれていくことが比較的多いとはいえ、理想的な状態では一対一の関係を超え、上下、左右、前後と、縦横に張りめぐらされます。

 

 

こうした「人間の絆」がいつでも生まれうるからこそ、人生の中でつまづき、傷ついても、私たちは人間関係を信じ、希望を持ち続けていくことができます。また、自分が誰かととり結ぶさまざまな人間関係の中で、私たちは「人間の絆」を確かめたり、結び直すこともできるのです。

 

 

ここで、人間の絆に関するエピソードをご紹介しましょう。20世紀初頭のイギリスの冒険家、シャクルトンにまつわる話です。

 

 

1914年、シャクルトンは、南極大陸横断を目標にかかげ、27名の隊員たちと南極大陸へ旅立つも、その道の半ばで船が座礁してしまいます。しかし、酷寒の氷の世界を一年近くさまよった後に、一人も欠けることなく生還するという奇跡を起こしました。

 

 

その奇跡を元に書かれた作品が、ジェニファー・アームストロング作の『そして、奇跡は起こった!』です。その訳者あとがきの中に、シャクルトン探検隊副隊長、フランク・ワイルドの思い出として、次のようなエピソードが書かれています。

 

 

 

 

 

はじめてシャクルトンと同行したのは、1908年、シャクルトンが南進の記録を立てた探険でのことだ。悪天候に襲われ、食料が尽きた極寒の中。

 

 

何も食わずに行進しているあいだに、ワイルドは衰弱して倒れかかった。翌日の朝食に、大切にとっておかれたビスケットが、一人に一個ずつ配られた。ワイルドがそれを食べ、苦しみをこらえて出かけようとしたとき、ポケットにもう一個ビスケットが入っていることに気づく。

 

 

それは、シャクルトンが自分に割り当てられた分を、黙ってワイルドのポケットに突っこんでおいたのだと分かった。返そうとしても、シャクルトンは、自分よりワイルドのほうがそれを必要としているのだ、と言ってきかなかった。

 

 

ワイルドは日記に、「このことが、一体どれほどの広い心と同情を意味するか、本当に分かる人が世界中にほかにたった一人でもいるとは、私には思えない。分かっているのは、私だけだ。そして、神にかけて、私は決してこのことを忘れない」と書きつけている。

 

 

(W・サリヴァン『白い大陸』より)」。

 

 

 

 

その後、シャクルトン隊は全員で帰還することに成功します。シャクルトンのリーダーシップがあったからこその結果といえるでしょう。

 

 

ワイルドはその後、一生シャクルトンに心服し、シャクルトンが病没したあとは、脱け殻のようになってしまったといいます。

 

 

このエピソードからも、部下が上司に心酔することによって、深く強固な人間の絆が生まれることがよくわかります。

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