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創考喜楽

2020.04.30
KNOW-HOW

第6回: リンカーンと大久保利通のリーダーシップを考える


今回はリーダーシップについて、考えていきます。

 

 

リーダーシップというものは、色々な角度から考える姿勢を忘れてはいけないものです。福沢諭吉の言葉を使えば、“両眼主義”です。そこで、以下、この両眼主義によって、二人の偉大なリーダーのリーダーシップについて、考えていきたいと思います。

 

 

リンカーンと大久保利通。一般的にはどう見られてる?

 

 

いまから百数十年前、太平洋を隔てた日米両国に、傑出した二人の政治家が現われました。アメリカの第16代大統領エイブラハム・リンカーンと、明治政府の最高実力者、大久保利通です。非業の死を遂げた点でも二人は共通します。

 

 

リンカーンと大久保、いずれも政治という大仕事の場で、存分に認められました。しかし、世間に知られているその人間像は、はなはだ対照的といえるかもしれません。
リンカーンには、かの有名な「人民の人民による人民のための政治」というゲティスバーグの演説がありますし、奴隷解放宣言もあります。そのため、理想主義者、正義の人というイメージを持たれることが多いようです。これに対し、大久保利通は、冷徹無比の現実主義者として知られています。さらには、目的のためには手段を選ばない権謀術数家、策士、悪人という見方もあるくらいです。

 

 

けれども、このような評価は本当に正しいのでしょうか。「正義の人」対「悪人」、「進歩派」対「保守派」という単純な図式をあてはめることに、間題はないのでしょうか。

 

 

結論からいえば、これこそ一面的で短絡的な思想法です。一国のリーダーは得てしてそうですが、とりわけリンカーン、大久保は、ひと筋縄ではいかない人物なのです。
そこで、この二人について分析していくと、上記の見方とはずいぶん異なるリーダー像が浮かびあがってきます。

 

 

リンカーンはマキャベリスト大久保は革新主義者

 

 

 

まずはリンカーンについてみていきます。
ゲティスバーグの演説における「人民の人民による人民のための政治」というセリフは、言葉だけが一人歩きし、“理想主義者”リンカーンという観念の形成に、大きくひと役買いました。
しかし、ペンシルヴェニア・ゲティスバーグが、南北戦争における最大の激戦地だったことを考慮に入れる必要があります。つまり、ゲティスバーグ演説は、意図的な政治的プロパガンダだったと考えるのが自然です。

 

 

さらに、奴隷解放間題に関しては、リンカーンはなおいっそうしたたかな政治家でした。当初リンカーンは、ギャリソンら“アボリショニスト”(奴隷制度廃止論者)が主張する奴隷の即時無条件開放には、断固反対でした。それから様子見に転じ、煮え切らない態度をとり、対南部戦略の一環として奴隷解放宣言に踏み切るのです。これらのことから、彼はたいした現実主義者、マキャベリストだったと言えるでしょう。

 

 

 

 

次は、大久保利通です。大久保の決断原則の一つは、後退せず飛躍せず、常に現実におけるベストの案を選ぶというものでした。彼がけっして後退しなかったことは、彼が本質的に革新主義者であったことを物語っています。にもかかわらず、彼が保守主義のレッテルを貼られるのは、その現実主義のためです。

 

 

大久保利通がドイツの国制を範としたことから、彼を国権論者と見る向きも多いのですが、これも誤解で、彼は、英米の国制や一般に民主政治の長所をはっきり認めながら、それが日本では時期尚早と判断します。ゆえに手近なドイツから真似をしようというわけです。
このように、リーダーシップの本質は一筋縄ではいきません。さまざまな角度や立場から物事をとらえ、最善の策を冷静に考え、ときにはあっさりと方向転換することも、リーダーに必要なのです。

 

 

わが国の武将では、武田信玄に同様な逸話が伝えられています。優れたリーダーとして大成するためには、こうした人生態度を身につけることも、大いに求められるのです。

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