これまでの連載で、モーツァルト療法にはさまざまな効果があることを紹介しました。しかし、この療法には他にも多くのメリットがあります。たとえば、食べすぎを防止でき、ダイエットにもつながることが挙げられます。
今回は、なぜそのような効果があるのかについて、学んでいきましょう。
人間は生き物として、だれでも食欲という本能的な欲求が生じます。この本能は本来、満腹になればそれ以上は起こらないのが普通です。アフリカのライオンが、お腹が一杯のときには目の前のごちそうには関心を示さないことをみても明らかでしょう。しかし、人間は満腹であっても、たとえば「甘いケーキは別腹」といって、ぺろりと食べてしまいます。この必要以上の食欲はどうして起こるのでしょう。
食欲は、脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢という2つの中枢によって制御されています。前者はもっと食べなさいという指令を出しますが、後者はもう食べなくてもよいという指令を出します。この両方の機能が正常で、バランスよく作用していれば、必要以上の食欲は起こりません。しかし、そのバランスを崩す要因が現代社会に数多くあり、肥満を引き起こしているのです。
それでは、人間の満腹中枢は、どのように満腹を判断しているのでしょうか。満腹中枢は、血液中の血糖値やさまざまなホルモンを感受しています。たとえば、食後には血糖値が上昇します。この血糖値が一定の値に上昇すると、満腹中枢が刺激され、食欲が抑えられるようにできています。しかし、目や耳から入ってくる不快な感覚、あるいは人間関係のいざこざや不満などがあると、それらはストレスとなり、脳活動に悪影響して情報を的確に処理できなくなってしまいます。その結果、摂食中枢と満腹中枢の機能が異常をきたしてしまうのです。したがって、肥満を解消するためには、ストレスを減少させること、血液中の血糖値を早く上昇させて食欲を抑えること、そして、血糖値をつねに標準値まで下げること、などが大変重要となります。
モーツァルトの曲によって副交感神経を刺激すると、消化管の運動が活発化するとともに、消化液の分泌も盛んになります。たとえば、唾液にはごはんのデンプンを麦芽糖に分解する唾液アミラーゼが含まれていますが、この分泌もモーツァルトの音楽で高めることができます。食後の血糖値を早く上昇させるためには、口から摂取した食物が素早く消化分解されなければなりません。ごはんがスピーディに消化分解されて、最終的にブドウ糖という分子にまで分解されると、より早く吸収されて血液中の血糖値が一定の値に達します。この状態は、満腹感を誘導しますので、過食の心配がなくなり、ダイエットにつながるのです。
さらに、モーツァルトの音楽は、脳内のセロトニンを増加させます。この物質は、心を穏やかにし、食欲も抑えてくれます。過食症の人の脳内では、セロトニンの量が減少しているとも言われています。
また、ストレスによって交感神経が過度に緊張すると、アドレナリンが多く分泌され、ますます血糖値が上昇してしまいます。すると、膵臓からインスリンという血糖値を下げるホルモンが分泌されますが、一方で血糖値を上げるホルモンが出続けているのですから、これに拮抗してインスリンの分泌も高まります。この結果、インスリンは食欲を増加させますので、ますます悪循環で肥満になっていってしまうのです。
加えて、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールは、血糖値を上昇させるうえ、脂肪をため込む性質があるので、特に腹部の肥満につながります。そのため、コルチゾールを減少させるモーツァルト療法は、この面でもダイエットに効果的です。
一般的に、心地よい音楽を聴くと、精神が安定するとともに、自律神経のバランスが良くなります。このことは結果的に、ホルモン系や免疫系にもプラスの影響を及ぼします。つまり、音楽によって食欲を司る脳の食欲中枢の機能が正常化し、肥満の最大の原因である食べ過ぎを防止できます。また、血糖に関係するホルモンの分泌のバランスも良くなり、脂肪の蓄積に関与する因子にも影響していきます。
私は以前、大学生の協力を得て、ダイエットに対するモーツァルトの影響を調べる実験を行いました。その実験とは次のようなものです。
・最初の1週間はモーツァルトを聴かずに、通常の生活をする
・次の2週間は1日に1、2回(1回につき30分)モーツァルトの音楽を聴く
・実験の期間は、食事時間や食事量、睡眠時間は普段と同じスタイルで過ごす
この実験の結果、11名中5名の体脂肪率が減少し、6名が変化なし、という結果になりました。ややサンプル数が少ないので一概には言えませんが、少なくともモーツァルトの音楽には、やせやすい体質を作り出す可能性があることがわかります。