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創考喜楽

デザイン思考で世界を変える 第13回

Re-Designing HR 人事をリ・デザインする~米国発・最新事例研究レポート~28 COLUMN

通常デザイン思考において行われる、プロトタイプを使用したユーザーテストには二種類ある。一つは手近にあるものを使って、チームが制作したプロトタイプをユーザーに渡し実際に使ってもらい、印象や使用感を話し合い、その中から新しい視点を得ようとするもの。もう一つは、ユーザーにテーマを与えて、ユーザー自身にプロトタイプを作ってもらう方法だ。いずれの場合にも事前の周到な準備が必要であり、その上でテストに臨むことが重要。そのための方法について考えてみる。

 

メソッド:Identify a Variable / 変数を定義する

■Why identify a variable / 何のために変数を定義するのか?

 

プロトタイプのテストにおいて変数、つまり変わる可能性のある部分を定義することのおもな理由は、これからどのようなプロトタイプを創ろうとしているのか、それを明確にするため。と言うのも、プロトタイプが、たまたま思いついた解決のためのアイデアを簡単な模型にしただけの、単純なものになってしまいがちな状況を避けるためだ。

かと言って、考えられた解決策が完璧にプロトタイプに表現されたものになる必要は全くない。それよりもむしろ解決策やユーザーの考え方を具体的に示すためのプロトタイプにするべきだろう。変数が把握できていれば、解決策のすべてに対応するような複雑なプロトタイプを作らずにテストできるので、無駄な努力をしなくてすむ。もう一つ重要な事は、ユーザーと行ったテストの結果として、細かい違いが明確になってくることも少なくないからだ。

多種多様な変数を一つのプロトタイプの中に収めようとすると、ユーザーから得られたフィードバックが、プロトタイプが持つ複数の変数の何を対象としたものなのか不明瞭になってしまう危険性がある。ユーザーが一体何に対してそうした反応を示しているのか、明確にできないという状況が予想されるのだ。そうならないためにあらかじめ変数を意識しておくことで、それぞれに対応したプロトタイプの制作が可能になる。

変数を意識すると、一つ一つの内容に則して数多くのプロトタイプを作ることになる。それらをユーザーに自由に選択させて比較してもらうことによって、より意味のあるフィードバックをたくさん得ることができる。なぜならば、たくさんの選択肢がユーザーに対して示されれば、その中から一つを選択するためにユーザーがすべてのプロトタイプをよく見る比べることになり、その分だけ深く考えるようになるからだ。(プロトタイプが一つしかない場合には、「好きです」といったような、あまり役立たない凡庸な答えしか返ってこないことが多くなる。)

 

■How to identify a variable / どのように変数を定義するのか?

 

目的を明確にしたプロトタイプを制作する。まずプロトタイプからどのような結果を得ようとしているのかを明確にする。そしてそれぞれのプロトタイプごとにひとつの変数を対応させる。さらにその変数に合わせた解決策を用意する。たとえそれが具体的な解決策のように見えるような場合であっても、実際はあくまでもプロトタイプであることを意識したほうが良い。

たとえば、製品の最適な重量を知りたい時、実際に使用可能なプロトタイプを作るのではなく、単に重さだけが異なっているものを作ればそれで十分だ。たとえば宅配される方が良いのか、自分で取りに行くほうが良いのか知りたいといった、サービス内容について調べたい場合であれば、プロトタイプとして配達される箱に何を入れるべきか、ということまで考える必要はない。

メソッド:User-Driven Prototyping / ユーザー主導型のプロトタイプ制作

■Why create a user-driven prototype / なぜユーザー主導型でプロトタイプを創るのか?

 

ユーザーが主導するプロトタイプ作りを行う際には、彼らのプロトタイプに対する反応を確実に理解して、そこから問題解決へと進めるように心がけることが重要。制作したプロトタイプを彼らに実際に試してもらい、その反応を観察し、使っている時の気持ちなどについて語り合うなかからフィードバックを得ていく。その目的は彼らが作ったものを試すことにあるのではなく、彼らが何を作りだそうとしているのかを見て理解することにある。

ユーザー主導型のプロトタイプ作りが良いのは、デザインそのものに対する新しい見方を創造するよう彼らに依頼すると、出来上がったプロトタイプの評価だけを彼らに依頼した時に比べて、まったく異なる見方や要求が見えてくることだ。目指すところは、こちら側がデザインしたものにユーザーが新しい何かを創造して追加してくれることではなく、それまで想像していなかったようなユーザーの考え方やニーズ、そこにフィーチャーされたものを理解することにある。

こうしたやり方は会話を促すための方法として、早い段階での作業にも役立つ。さらに解決策のおおよその概要が決まった後でも、その特徴や細部に関してじっくり検討するために有用だ。

 

■How to create a user-driven prototype / どのようにユーザー主導型プロトタイプを創るのか?

 

プロトタイプ作りがユーザーの考え方を知る一助となるよう、まず最初はそのフォーマットを決める。たとえばカスタムメイドのTシャツを作れるウェブサービスを計画するような場合を想定してみる。この場合、ごく一般的なやり方であれば、まずはサービスの特徴などを盛り込んだウェブサイトを創ることになるだろう。

それに対してユーザー主導型のプロトタイプであれば、まずユーザーに白紙の紙を渡して、どんなTシャツを考えているのかを描いてもらう。そしてウェブサイトのレイアウトを考えるために、箱や紙などユーザーのやりたいことを表現するために使用できる簡単なモノを渡し、箱のなかにコンテンツを作ってもらうように依頼する。このプロトタイプを創る際に、それまでどれだけユーザーのために準備をして話を聞いてきたのか、その全体像が見えてくる。

 

<ユーザー主導のプロトタイプにおける他の事例>

 

  • ユーザーに何か書いてもらいたいと依頼する:「医者に行くことに関して、どのように感じているのか書いてください」
  • シンプルな材料に限定:「この紙とテープで赤ちゃんのためのおむつやその他の用品を入れるバッグを作ってください」
  • まとめる「雑誌の写真や絵を切り抜いて、最も理想と考えるようなモールでのショッピング体験を表現してください」

 

Hasso Plattner Institute of Design at Stanford University 
d.School

 

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