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Vol.5 The Diversity Training / ダイバーシティトレーニング

Re-Designing HR 人事をリ・デザインする~米国発・最新事例研究レポート~05 COLUMN

グローバル化

最近、コンビニでレジを打つ店員たちの名札が気になっている。時には一目で読み取れないほどに長いカタカナであったり、読み方のわからない漢字であったりするのがなかなか面白い。これこそが日本がグローバル化したことの証しなのではないかと感じている。

 

日々の暮らしの様々な場面において、日常的に「外国人」に接するというこうした状況は、おそらくつい最近まで大部分の日本人にとって想像しがたいものだったはずだ。ある意味、それだけこれまでの日本は特殊な国だったし、誰もが理解可能な共感できるバックグラウンドを持ち、以心伝心などという言葉に、初対面の他人同士がうなづき合えるような、まさに「ガラパゴス的」状況であった。

 

しかしグローバル化の波はこの10年ほどの間に日本の隅々にまで大きな影響を及ぼすようになっている。昨年行われた厚生省の外国人雇用状況調査によれば、日本で働いている外国人の総数は68万2,450人。業種別にその分布を見ると、製造業が一番多くて38.2%、サービス業が12.5%、卸売・小売業10.6%、宿泊・飲食サービス業11%、教育・学習支援業7%、情報通信業3.9%、その他16.8%となっている。

 

個人的な印象だが、多くの場合、彼らは日本人以上のやる気や向上心を持って仕事をしており、能力的に日本人を上回っている場合も少なくない。たとえば手元にある日経流通新聞では、コンビニの店長になっているタイ人の女性や、日用品を生産する大工場の工場長になったポーランド人女性などが採り上げられている。

 

海外展開を行う日本企業が増えたことも、仕事の場に外国人を多く見るようになった一つの原因と考えられるし、日本国内の生産年齢人口の減少を補うためには移民の受け入れが必要、というような議論もある。外資系企業においては、外国人が上司や部下になることは当たり前だ。いずれにしても机を並べて働く仲間が日本人ではない、という状況は今後ますます増えてくると想像できるし、むしろごく普通のことになってくるだろう。それがグローバル化だ。このように多種多様な人間が混ざり合って活動している状態はダイバーシティと表現されている。

ダイバーシティが生み出す問題

職場に外国人が増えてくると最初のうちは言語が大きな問題になってくるが、やがてそれ以上に問題になってくるのが、日本の常識とされてきたことが常識とは言えなくなる、という価値観の多様化・国際化だ。時にこれは人間としての根幹に関わるきわめてデリケート、かつ重要な問題となる。同時に、ダイバーシティをつくり出している要素は人種、国籍だけに限らないという点も認識しておきたい。

 

ところで米国はもともと移民で成り立っている国であり、特に人口の密集した都市部は人種のるつぼなどと表現される。そして黒人の大統領が登場し、白人が人口的にマイノリティな存在になった頃から、米国の労働環境は歴史上もっとも多様化した状態にあることが、指摘されるようになっている。

 

当然、職場におけるダイバーシティ問題の解決方法も様々に議論されている。たとえばアメリカンマネージメントアソシエーション/AMAではHR担当者向けに「The Diversity Training Activity Book」という書籍を出版している。この本では、同社のコンサルタントがこれまでワークショップ形式で行ってきたダイバーシティ問題の現場レベルでの解決法が具体的に示されており、今後の日本企業にとっても多いに参考になると思われるので、これから2回に分けてご紹介していく。

 

この本の目的は、ダイバーシティの現状を社員がしっかりと理解し、互いにより良くコミュニケートし、誤った知識を修正して無意味な衝突を避けられるようになるであり、そのためこの本で述べられているのは主に次の3点だ。

(1)ワークショップ形式のトレーニングでダイバーシティ問題に的確に対応できるようにする。
(2)自分のベースになっている文化が自分自身の行動にどう影響するのかを認識する。
(3)ダイバーシティから生じる問題をしっかり捉え、討論し、解決する方法を会得する。

ダイバーシティの現状を認識する

同書は米国企業におけるダイバーシティの現状について、以下のような認識を示している。

 

  • 21世紀の米国労働社会はマルチ文化、マルチ世代、そしてこれまでのどの時代よりも深いダイバーシティの状態にある。
  • 「カルチャー」というものはグッドでもバッドでもなく、単にそこに存在するもの、と捉え考えるべき。
  • 多くの米国人が「カルチャー」に関する誤った理解を元にして物事を判断している。
  • 人々は自分と異なる、馴染みの無い状況に接した時、不安になってしまう。
  • 自分の背後にある「カルチャー」について深く知る人ほど、ダイバーシティ問題にはうまく対応できる。
  • ワークショップ形式でのトレーニングは参加者のセンシティビティを開発し、コミュニケーションスキルを向上させ、無用な対立を避けることに寄与する。
  • ビジネスカルチャーは男性中心に作られており、女性は不利益を被っている。

ワークショップ:アイスブレークセッション

ワークショップにおいては、まず最初にきょう始めて出会ったもの同士が互いを知り、ダイバーシティ問題について考え始めるためのアイスブレークセッションを勧めている。ワークショップの雰囲気を暖めてリラックスさせ、参加者がこれからここで学ぶことを受け入れ安い状態になることが目的だ。

 

プログラム「Name that feeling」
自分の感覚を他者の感覚と結びつけ安くするためのプログラム。まず目を閉じて、自分が周囲から変わり者扱いされた時の経験を思い出させる。そしてその時の感覚を言葉で表現させ、その言葉を自分のニックネームとしてチームに自己紹介する。たとえば「村八分」という言葉を選んだ参加者はその時の経験をチームに話し、チームはその体験について話し合う。その結果、異なるバックグラウンドを持つ人々に対してセンシティブに対応する姿勢が自然に身に付いてくる。

 

プログラム「Diversity letter game」
ダイバーシティが参加者自身にとってどのようなことを意味するのか、明確に理解するためのプログラム。まずワークシートの左端に「Diversity Game」と縦に一文字ずつ書いたものを用意して、ペアを組ませた参加者に渡し、二人で協力して作業させる。作業は、紙に書かれた文字から始まるダイバーシティを意味する単語を考えて記入するというもの。たとえば「D」であれば「different」「distinctive」「disability」といった言葉が想起され記入される。その後、参加者全員で紙に書かれた「Diversity」を表現する単語について討論し、ファシリテーターがそこから発見したことなどを発表してワークショップ完了。参加者は、ダイバーシティには実に様々な意味があり、多くの人に多大な影響を与えている、という事実を改めて確認することになる。

 

(次号に続く)

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