前回まで2回連続して、デザイン思考における5つのモード(段階、フェイズ、ステップに相当)について説明してきた。実際の作業ではこれらの5つのモード間の前進後退を繰り返しながら、ベターなアイデアへと進化させて行くことになる。今回からは、各モードの間に存在する山や谷を乗り越えてチームをドライブし、デザイン思考を実践するための具体的なメソッド/方法について、実例を含めながら、説明していくことにする。
■なぜビギナーに戻って考えることが大切なのか?
それは私たち全員がそれぞれに固有の経験や物事に対する理解・専門的な知識をすでに持っているから。それはデザイン思考にとって重要なものではあるけれど、適切なタイミングで意図的に活用された場合に限って有用となることを忘れてはいけない。
というのも、そこから導き出される仮説は往々にして誤解やステレオタイプな発想に傾いていることがあり、作り上げるべき共感にあらかじめタガをはめてしまうことになりかねないからだ。ビギナーになりきることでこうしたバイアス要素をすべて排除すれば、リフレッシュした頭脳でデザインプロジェクトに向き合うことが可能になる。
■どのようにビギナーのマインドセット(思考様式)を持つのか?
①判断しない
ユーザーの行動、おかれた環境、彼らの持つ課題などに対して、自ら価値判断を行うのではなく、ただひたすら彼らの観察に徹する。
②すべてに疑問を持つ
たとえ自分が十分理解していると思うようなことに対しても、純粋な疑問を抱くように心がける。ユーザーに質問することで、彼が世界をどのように捉えているのか学べるようになる。ちょうど4歳児がエンドレスに繰り返す「なぜ?」をイメージすれば良い。質問の答えに対しても、さらに「なぜ?」と繰り返し繰り返し質問していくのだ。
③好奇心を持つ
普段から慣れ親しんでいたり、逆に居心地が悪いような状況のどちらに対しても、驚嘆の心や好奇心を持って接するようにする。
④パターンを発見する
ユーザーとのやり取りの最中にも、そこから染み出てくる興味深い脈絡やテーマを探し続ける。
⑤よーく聞く
アジェンダから離れて、目の前に展開されるシーンをそのままあなたの心の中に染み込ませる。自分がその次に何を言うべきなのか考えるのをやめて、ユーザーがあなたに語ること、その語り口をそのままの形ですべて受け取る。
■どうして「何を?どうやって?なぜ?」を使うのか。
観察の段階において、「何を?どうやって?なぜ?」はより深いところへと観察を進めるためのツールとなる。このシンプルな「何を?どうやって?なぜ?」という枠組みは、特定の状況で起こっている出来事の観察から、その出来事の根底に潜んでいるであろう、より抽象的潜在的な感情や動機へと観察のレベルを深化させてくれる。特に現場で撮影された写真をチームで見ながら分析するときなどに、目的を一つにまとめて、その先にあるニーズ発見段階へと向かわせるためのパワフルなテクニックとなる。
■どのように「何を?どうやって?なぜ?」を使えば良いのか。
①セットアップ
シートを「何を?どうやって?なぜ?」という3つのセクションに分割する。
②観察から始める
「何を?」は、あなたが観察している対象(人)が特定のシチュエーション、あるいは写真の中で何をしているのかをよく観察すること。形容詞をたくさん使って記述し、状況や様子がよくわかるように表現する。
③理解の段階に移る
「どうやって?」は、観察対象がどのようにしてそれをやっているかを理解すること。努力しているのか?急いでいるのか?苦しんでいるのか?それはユーザーがポジティブ、あるいはネガティブになっている状況に影響を与えているのか?ここでも形容詞をたくさん使って、多くの説明を行う。
④解釈における失敗から逃れる
「なぜ?」は、観察対象がどうしてそのような特定の行動をとっているのか、その理由を解釈すること。この段階では通常、モチベーションとエモーションに関する事前情報を活かした推測が行われる。これまで観察してきた状況から解釈を引き出すために、ここで一歩踏み出す必要がある。この一歩がユーザーとともにテストすべき仮説を明確にしてくれるし、一定の状況において、時には予期しなかった発見をもたらせることすらあり得る。
■なぜユーザーカメラ・スタディを行うのか
共感を得る段階において、何よりも重要となる目標はユーザーの暮らしそのものを理解すること、そして彼らが行う特定の行動を暮らしという文脈の中で理解することだ。ユーザーカメラ・スタディは、ユーザーの目を通して彼らの経験を理解することを可能にしてくれる。同時に、あなたが普段体験することのできないような環境を理解するために、多いに役立ってくれる。
■どのように、ユーザーカメラ・スタディを行うのか
①あなたが興味を抱き、もっと深く学びたいと考える対象を特定する。
②ユーザーカメラ・スタディの目的を簡潔に説明し、ユーザーが体験することを撮影しても構わないか確認する。また撮影された写真を使用する許可ももらっておく。
③ユーザーにカメラを渡し「我々はあなたの1日がどのようなものなのかを知りたい。そのためにあなたが決めたある1日、このカメラを常に持ち歩き、自分自身にとって大切と思うような体験をすべて写真に収めて欲しい」と説明する。あるいは「ルーティンになっている朝の一時をカメラで撮影して欲しい」、あるいは「キッチンの中にある、あなたにとって意味のあるものを撮影して欲しい」などと伝えても良いかもしれない。目的とするものの周辺にある文脈も一緒に写真に収めるために、問題としているものよりも少し大きなフレームで撮影してもらえるようにする。インサイトがそうした周辺情報から染み出てくることも少なくない。
④撮影後、写真を見ながらユーザー自身に、写真に収められた事柄の彼にとっての重要性を説明させる。その際、共感的インタビューのテクニックを活用して、写真のビジュアルやそれが表現している体験の奥底にある意味を理解していく。
Hasso Plattner Institute of Design at Stanford University
d.School
The D.SCHOOL BOOTCAMP BOOTLEG