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Vol.6 The Diversity Training / ダイバーシティトレーニング2

Re-Designing HR 人事をリ・デザインする~米国発・最新事例研究レポート~06 COLUMN

カルチャーとダイバーシティ

前回に続き今回は、急激に国際化する日本企業が直面しつつある、多様化(ダイバーシティ)に起因する諸問題を解決するために開発されたワークショップをご紹介する。このワークショップはアメリカンマネージメントアソシエーション/AMAがHR担当者向けに出している「The Diversity Training Activity Book」という書籍で紹介されているもの。

 

アイスブレークセッションが終わり場が温まったら、いよいよワークショップのメインテーマに入って行く。まずはカルチャーの違いをしっかりと認識する、という作業から始める。様々なカルチャーを構成する要素についての認識が高まってくると、多様な人々とともに働くための能力がそれだけ身に付くことになる。

 

カルチャーの違いをつくり出すおもな要素としてあげられるのは、言語とコミュニケーション、外見や服装、料理や食習慣、時間の概念、報償と評価、ルールと責任、価値と規範、自分自身と他者との距離感覚、メンタルプロセスと学習スタイル、信念・価値観・態度など。以下に述べるようなアクティビティは、互いをよりよく理解し、コミュニケートできるようにするために、個々人の間に存在する文化的な違いに光を当てるものである。

 

プログラム「Understanding the impact of culture on work」
参加者はまずカルチャーというコンセプトを定義し、そしてそれがどのように行動に影響するかを考える。定義はあらかじめ用意されたフリップチャート式の用紙に記入する。そして参加者に「カルチャーとは何か」についてのミニレクチャーを行う。たとえば辞書から抜き出したカルチャーの定義を引用し、それが人間の行動にどう影響しているかを説明してもよいだろう。その後小さなグループに分かれて、それぞれの文化的な背景について語り合う。再び一つに集まり、小グループで話題になったことを発表する。最後に、全社員が一体となり企業の期待を超えられるよう、カルチャー面からできうる方法について話し合う。

 

プログラム「Ups and downs」
どんな人でも多種多様なグループに所属できるということを知るためのワークショップ。最初にグループ分けが可能な概念をできるだけ多く書き出す。たとえば、女性、喫煙者、テクノロジーに習熟している、などなど。それぞれ自分が属すると思われる分類が示された時に起立して、そこに所属することを示す。そして最後に、人間は常に数多くのグループに同時に所属しているものであり、それゆえにある一つのグループが他のグループよりも優れているということはありえない、という事実について説明する。

 

プログラム「Addressing language barriers」
自国語以外の言語を習得することがどれだけ難しいことかを認識し、まだ十分に言語に馴染んでいない人々と生産的にコミュニケートする方法を学ぶワークショップ。また個人的な事情、たとえば年齢、文化的な知識、動機、性格、自国語と習得しようとする外国語との差異の大きさなどによっても、その難易度は異なってくることを理解する。まず小さなグループに分かれて実際に自分が体験している言語バリアについて語り合い、その後そうした経験を全体でシェアする。最後に、言語未習熟な人々とより良いコミュニケーションを行うための簡単なコツについて説明する。たとえば、ゆっくりとクリアに話す、忍耐力の訓練だと考える、言語以外の意思表現を注意深く探す、専門技術用語を使う、など。

変化、コミュニケーション、対立の解決

以下ではダイバーシティに起因する様々な課題を管理するスキルを参加者に紹介している。そうすることで、人種、性別、年齢、性的性向、国籍、身体能力などの違いから生まれる様々な状況に的確に対応する方法を学ぶことができる。参加者はこれらの課題に対する感受性を高め、コミュニケーションスキルを向上し、課題の解決を行うようになる。

 

プログラム「Introduction to listening : a self-inventory」
聞く力の重要性に着目させるワークショップ。まず、参加者同士で「よく聞く」と言うことに関して討論する。たとえば、コミュニケーションの乏しさが原因となって引き起こされた過去の経験を思い出し、フリップチャートに記録してもらう。次に、自分と異なるバックグランドを持つ人とのコミュニケーションには通常とは異なる態度になるかどうか質問し、答えがイエスの場合、どのように異なっているのか分析する。この場合の質問は、参加者が「聞き方」を定義付けやすいようにすると良い。たとえば「聞くより話すタイプか?」「外国語アクセントのある人と話す時、いつもより集中して聞くようにしますか?」「話していることの裏側にあるものを捉えるように聞きますか」など。そして聞く力を増幅するためのいくつかのヒントを与える。たとえば「話している人にすべての注意力を向ける」「頭の中に存在するバイアスを意識して、それらが聞く力にどのような影響を与えるのか」「コミュニケーションのスタイルは様々」「聞く能力は努力と忍耐が必要な習得可能なスキル」など。

 

プログラム「Self-talk」
自分の頭の中に響く自分の声は心に大きな影響を与える。ネガティブな独り言は自分を暗くしてしまう。実験によれば、多少の差はあっても、脳は自分に向かって話したことを信じるようになる。このワークショップは人々がネガティブな独り言の影響を認識し、それをポジティブにするためのテクニックを学ぶもの。まずは、独り言が自己認識にどう影響するかについての簡単なレクチャーを行い、参加者が過去において、大切な人からどのようなネガティブなメッセージを受け取ったかを思い出して記録する。そしてネガティブな意見をポジティブに変換する練習を行う。たとえば「私はこのアサインメントはうまくこなすことができない」という独り言を「このアサインメントに対して良い仕事ができるように私は最大限の努力を行う」などに言い換えるのである。また、頭に浮かんだネガティブなイメージをポジティブにするために行っていることなどを話し合う。

職場でのジェンダー問題

フォーチュン500社において女性が役員など幹部社員である割合はせいぜい15~16%程度。今もなおビジネスカルチャーは男性中心に作られており、女性は不利な状況におかれている。実は女性のリーダーシップのスタイルは男性とは異なっているのだが、企業はその才能を十分活用できていない。さらに女性の企業に対する献身ぶりや忠誠心に疑問を抱く企業トップもいる。以下はこのようなビジネスにおけるジェンダー問題にフォーカスしたワークショップである。

 

プログラム「Gender issues at work」
小さなグループに分かれて職場での男性と女性について観察し、その結果を互いにシェアする。そこから浮かび上がる課題をリスト化する。たとえば、職場での情緒的な男女差、セクシュアリティ、排他性、ステレオタイプなど。セクシュアリティのようなトピックは互いの関係性といったテーマでの討論へと進展させられるし、情緒問題は男性と女性との感情表現の違いへと話題が進んで行くことになるだろう。

 

プログラム「Myths and stereotypes : old wives’ tales」

日常的にやり取りされるごく一般的なメッセージが、実は性差に関するステレオタイプ的な発想でできあがっていることを認識するためのワークショップ。一般的に使われる性差に関わる言語表現をリスト化して、討論する。また参加者に、同様なステレオタイプ発想ででき上がっている歌詞、金言、スローガンなどをあげさせる。最後に、これまでごく普通と考えられてきたこのようなメッセージが人間の知覚に大きな影響を与えてきたことを確認する。

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