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Vol.15 モチベーション+α

Re-Designing HR 人事をリ・デザインする~米国発・最新事例研究レポート~15 COLUMN

ある調査によれば、仕事に対してディスエンゲージな(エンゲージしていない)状態の労働者は、米国に年間3,000億ドルもの損失を与えていると推測される。一方、エンゲージしている労働者は平均との比較において20%高い販売成績を示し、43%多く生産的であり、定着率も87%高くなっている。ところがそのようなエンゲージした労働者はわずかに3人に一人しかいない。

 

社員のモチベーションが業績に強く影響することは言うまでもないが、モチベーションだけでは十分とは言えないのだ。モチベーションに加えて、透明性の高い評価のシステムと的確なフィードバックのシステムを導入することが、社員のエンゲージメントレベルを向上させ、結果を最大化することにつながっている。

 

ごく平均的な能力を備えた社員に対して、エンゲージメントレベルをエレベーターのように持ち上げることができるシステムをきめ細かく開発して企業に導入し、彼らが大きな関心を抱くようなリワードを与える。そうしたリワードとインセンティブの仕組みを企業に提供するコンサルティング企業の「BI WORLDWIDE」社のティム・ホーリハン副社長はモチベーションに加えるべきプラスαの要素について、トレーニング誌のインタビューに答えて次のように語っている。

フロアごとのエンゲージメント

あなたの会社が仕事に深くエンゲージした小さなグループと、どっち付かず、あるいはディスエンゲージ傾向を示す大きなグループとででき上がっているであろうことは容易に推測できる。すべてのトップパフォーマーが確実にエンゲージしているかどうか、ここでは明言できないにしても、おそらくその確率は高い。

 

彼らのようなエンゲージした社員層に関してはっきりしていることは、彼らが良い結果を生み出しているということであり、企業にとってはその状態を維持し続けることが重要だということ。そして彼ら以外の中間部分と下の部分とを正しい位置に引き上げるためには、行動と文化における変化が必要になることが多い。

 

ここであらためて確認すべきことは、エンゲージメントは企業や仕事に対するコミットメントのレベルを示すものであり、必ずしもゼロか100かという二者択一的なものではない、ということ。

 

10階建ての建物に設置されたエレベーターに例えてみよう。社員の何人かは喜んでトップフロアまで駆け上がろうとするかもしれないが、全員が上りきれるわけではない。エンゲージメントの仕組みがよく整備された企業においても、ある社員は7階まで到達するが、ある社員は5階まで、あるいは2階で立ち止まってしまう社員もいるだろう。

 

モチベーションとエンゲージメントを最大化するためには、企業はそれぞれのコミュニケーションを工夫して、各フロアごとに適切なフィードバックの仕組みを用意すべきだ。2階にいる社員のために用意されたメッセージは、7階の社員には意味を持たない。社員をより上層階に上らせようと考えるのであれば、各フロアごとにカスタマイズされたコミットメントと透明性、適切なルールと報償制度、フィードバックとコミュニケーションの仕組みが必要になる。

ステップ・バイ・ステップ

言うまでもなく、上ろうとする動きにはソリッドな地盤が不可欠だ。意味のある仕事、競争力ある給料、成長のチャンス、適切な仕事環境といったもの無しには、エレベーターは地上を離れることができない。

 

すべての社員を最上階に上らせようとするのではなく、一階ずつ、多くても一度にせいぜい二階程度だけ上るようなチャンスを与えてみてはどうだろうか。その場合にも、認知とモチベーションのためのツールを用意することはクリティカルだ。特に短期間用にフォーカスされたインセンティブやボーナス、プロジェクトの評価、良く考慮されたフィードバックはその環境全体をモチベートする。

 

このようなツールは企業からのメッセージとして、そこに注ぎ込まれた社員達の努力に対する大きなリワードとなる。モチベーションをアップできる環境は社員のためのものであり、彼らのシチュエーションとゴールに合わせて、インパクトを最大化するようなツールが必要なのだ。

 

シンプルなモチベーションの上に、あるいはその先にエンゲージメントが生まれる。社員達が生活し、彼らの文化を花開かせ、さらにより多く貢献しようとしているのはこのレベルであり、そこでは彼らの望むものが企業と同一線上にある。また低層階のエンゲージメントフロアーでは、別の社員達がいま行っている作業や会社が定めた成功と自分達のコネクションに注意を払い始めている。

 

オールドエコノミーにおいてミドルグループは社員全体の60%を占めると言われてきたが、現在それは75%程度に増加している。さらにそれは同質なひとつのグループではなく、Hi-Mid、Low-Mid、Middle-Midというようないくつかのグループに分かれている。このグループには、単なるシンプルなモチベーション以上の、彼らのエンゲージメントのレベルに応じたサポートシステムと環境が必要になる。

 

トップフロアはモチベーションとエンゲージメントのツールをうまく合体させて、優秀な結果をもたらせる人のためにリザーブされている。彼らのパフォーマンスはハイレベルに達していることが多いが、それはモチベーションが彼らの人生と仕事、そして企業に対してどのような影響を与えるか、自分自身のこととして理解しているからだ。彼らはすでに基本的なモチベーションの先にまで進んでおり、自分自身が成長できるやり方で、仕事環境の中でどのようにして高度なレベルでエンゲージ可能になるのか、考えているのだ。

エンゲージメントと結果のギャップを埋める

エンゲージしている社員は非常に自律的だが、結果を目指すことにつながる最終的なステップには達していない。最終ステップは、エンゲージメントにフォーカスしてその影響力を使って、具体的な形の見えるビジネス面での成功を創り出す方法を十分に理解すること。ただしエンゲージメントそのものだけでビジネスでの成功が創り出されるわけではない。

 

エンゲージしていてもフォーカスする方法を知らない社員には、そうした助けが必要になる。またフォーカスできるしモチベーションもある社員であっても、エンゲージしていないというケースもあるだろうが、それはまだ彼が個人的な目標だけを原動力として動いているためであり、組織での成功を目標とするところまでには至っていないからだ。

 

継続的に結果を出し続けるためには、エンゲージメント、情緒的なコミットメント、そして個人的なゴールを設定することが重要になる。結果の出せる領域にまで針を進めるためには、鍵となる要素が三つある。多くの社員をエンゲージメントのエレベーターに乗り込ませ、最上階に上らせるための方法は以下の通りだ。

 

 
 
『社員自身による目標設定』
企業は常により多くの能力を発揮してくれる社員を探している。しかし目標が明確でなかったり、計画通りに物事が進まない場合、彼らはどう反応するだろうか。そのために重要なのはそれぞれが自分のゴールを設定できるようにしておくことだ。
 
『社員を情緒的にエンゲージさせる』
どの会社にもトップクラスの社員がいて、常にトップのパフォーマンスを達成する。企業にとって重要なのは、トップクラスのエンゲージメントを他の社員にも波及させることだ。日常的なフィードバック、ビッグピクチャーを提示することなどによって、企業はトップクラスのメンタリティを他の社員にも拡大することができる。
 
『成功を計る物差しを用意する』
社員が成功を感じられるような評価の物差しを持つ。効果のある物差しには「objectivity/客観性」「relevance/適切さ」が共通して含まれている。

 

 

BI WORLDWIDE
http://www.biworldwide.com

 

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