ブレーンストーミングを含めたワークショップ運営において、発信された情報を整理することは重要だ。ブレーンストーミングも時には、同じ所の堂々めぐりを繰り返したり、整理できないほどに混乱したり、逆に誰も発言しない不活溌な状況に陥ったりする。そんな時に役立ついくつかの手法がある。
■Why why-how ladder / どうして理由と手法のラダリングを使うのか
ラダリング(Laddering)とは、ある概念やアイデアを記入したカードをはしごのような形にリンクさせてそれぞれの関係性を表現する図のこと。最下部にある概念やアイデアの上には、その概念に関する理由や実現するための手法などが記されたカードが紐付けられて配置される。さらにそのカードの上にも同様に理由や手法のカードが紐付くという形で、一段ずつはしごを登る、時には下るようにして考えを深めていく際に便利な図解がラダリングだ。
普通「なぜ?」と、ものごとの理由を人に尋ねると、返ってくる答えはどうしても抽象的になりがちだ。一方「どうやって?」という質問に対しては、より具体的なアクションについての答えが戻ってくる。もちろん抽象的な答えの中に有意義なヒントが含まれていることは少なくないのだが、そこから実際にアクションを起こすことはかなり難しい。そしてその逆もまた正しい。
それゆえ一般的なインタビューに際しては、返ってくる答えがユーザーの好き嫌いで左右されたり、表層的になってしまいがちになることを避けて、ユーザー自身から発せられる意味のある回答を得るための手法として、「なぜ?」と問いかけることが有効と考えられている。しかしインタビューではない場合、たとえば人のニーズに関して深く考えるような時には、そこに存在するであろういくつものニーズでアイデアをふくらませつつ、重要な意義を持ちながらアクションへの移行も可能な種類のニーズの「層」を掘り出すために、理由と手法のラダリングを活用するのが良い。
■How to why-how ladder / どのように理由と手法のラダリングを使うか
たとえば前述したようなユーザーニーズに関して考えるのであれば、まずは意味のありそうなものを選んでスタート。最初にボード上にユーザーのニーズを書き出し、それに対して「なぜ?」と質問する。なぜユーザーはそのニーズを感じているのか、その問に対する答えをニーズとしてのフレーズにまとめる。たとえば「彼女はなぜそのプロダクトとそれが製造されるナチュラルな工程との関連性について知りたいのか?」という問いに対して、「彼女はそのプロダクトがどのようにできているのかを知ることで、それが彼女の健康に害を与える可能性がないことを自分自身で確信する必要があるから」と観察やインタビューから得られた情報をまとめて書く。このようにインタビューと観察とを合体させて、次第にニーズを特定していく。
その抽象的なニーズに対して、さらになぜという問いを投げかけて、また別のニーズを探りだす。それに対する回答を前の回答の上部においていく。これを続けていくと、最終的には誰にでも共通するような、たとえば「ヘルシーになること」というような言葉に到達する。それがこのニーズのヒエラルキーの最上部に位置する概念になる。
同時に「どうやって?」と尋ねれば、特定のニーズの掘り起こしができるようになる。それぞれの枝の中で時には、whyを登って行くこと、あるいはhowを下って行くことによって、ユーザーそれぞれの豊かなニーズを引き出すことができるようになる。
ある一つのニーズに行き着いたとしても、また逆戻りする可能性もある。先に示した例では、「プロダクトがどこから来るのかを知るニーズ」というところまでラダーを登ったが、そこから「製造工程への参画というニーズをどのように特定するか」という質問が生まれてくる。さらにはあなたの発するwhyやhowに対しては複数の答えが返ってくる可能性も出てくるが、それらも別の枝として書き出していくのが良い。
編集や細分化が行われた結果として生まれるのは、一人のユーザー、あるいは「合成された(仮想の)」ユーザーすべてのニーズを描き出したニーズのヒエラルキー図である。またこのツールは、特に際立つ特徴を持った1つか2つのニーズにフォーカスするためにも使用可能だ。
■Why use a POV madlib / なぜ視座のマドリブを使うのか
マドリブとは空欄[ ]の中に言葉を入れていく穴埋め問題のこと。
視座(Point-of-view / POV)はデザインにおける課題をアクション可能な問題定義文へと導く再解釈のために重要となる要素であり、その再解釈から創りだされる問題定義をテーマとした時に、はじめて次のアイディエーション段階へとプロジェクトを進めることが可能になる。
また、視座のマドリブを埋めていくことは、あなたの視座を生み出すための言わば「足場」となる部分を構築することだ。良い視座からは、良いHMW / How-Might-We(これに関しては別のページで説明)の質問を生み出すことが可能となる。何よりも視座を明確にしてデザインビジョンを捉えること、言い換えれば、デザイナーとしての責任をもって、与えられたチャンスが意味ある課題であることを確認して、それを明確化することだ。
■How to use a POV madlib / どうやって視座のマドリブを使うのか
事例:[①]は[②]を必要としている。それは[③]であるからだ。
ホワイトボードや紙を用意して、[ ]に入れることのできるそれぞれの変数や様々な組み合わせ、様々な内容を当てはめてみる。一例としてここでは、①=ユーザー、②=ユーザーニーズ、③=驚くべきインサイト、を当てはめてみよう。課題は「若い女性と健康的な食物」とする。
つまり[ユーザー]は[ユーザーのニーズ]を必要としている。それは[驚くべきインサイト]であるからだ、という文章を完成させる。
ニーズやインサイトは調査観察して得られた情報のすべてをいったんテーブルに出して、それらを再び統合した結果として出てくるもの。覚えておかなければいけないのは、ニーズは必ず動詞として表現されるものであり、インサイトはニーズに対する単なる理由であってはならない。むしろデザインによって解決される課題を導き出す梃子として機能するような、合成されアレンジされた結果であるべき。人々をそこに引きつけられるだけセクシーで魅力的であり、ある意味の緊張感をあなたの視座に持たせるべき。
たとえば「ビタミンは健康のために不可欠だから、10代の女性にはより多くの栄養ある食物が必要」というのではなく、「どこかよそよそしい態度を見せている10代女性も、健康的な食事をしている時には社会的に認められていると感じている。なぜならば、彼女たち世代にとっては健康面でのリスクよりも社会的なリスクをより危険なもの、避けるべきものと考えているからだ」というように記述する。問題定義文としては後者のほうがアイディエーション段階につながりやすい印象を強く持っている。前者は単に事実をそのまま表現しているだけでまったくエキサイティングではないし、これではソルーションへと導かれていく感じがあまり見えてこない。
■Why Point-of-view Analogy / なぜ視座のアナロジーを使うのか
前項でもすでに述べているように、視座(POV)を持つことはデザインチャレンジをアクション可能な問題定義文へと導くための、課題の再解釈にもっとも重要となる要素だ。その再解釈から創りだされる問題定義をテーマとして、次のアイディエーション段階へとプロジェクトを進めることが可能になる。その際、視座を何かしらの比喩(アナロジー)を使って表現した文章は、デザインチャレンジをどのように定義するのかを説明する良い方法となる。適切な比喩は、どのように最終的な解決に向けて進んで行くべきなのかを明確に示してくれるのだ。
■How to Point-of-view Analogy / どのように視座のアナロジーを使うのか
アイデアを蒸留して抽出するためには簡潔な比喩が必要だ。隠喩や直喩はあなたの発見したインサイトを豊かなイメージで包み込むことができる。情報を整理することによって隠喩を発見し、ユーザーの置かれた環境とその他の類似する部分を見比べてみることができる。
たとえば、実際に使われた比喩として「宝石のようなパーソナル音楽プレイヤー」という言葉がある。これはiPodのイヤホンの開発の際に使われた比喩だ。つまりイヤホンですら単なるスピーカーとして見るのではなく、ひとつの宝石に例えることでデザインの方向性を示すことに成功している。これによってイヤホンが一般的な実用的デバイスではなく、ユーザー自身の自己表現に役立つデバイスとして楽しむことのできるものへと、デザイナーがデザインする強い動機になっていく。
これはユーザーが自分の音楽コレクションについてどのように感じているか、ということに関してのリサーチから導き出されたインサイトがもたらせた結果だ。人のアイデンティティは持ち歩いて聞いている音楽に強く結びついており、同時に、彼女によってシェアされた音楽のテイストや好きなバンドによって、他人との関係も強くなったり、逆に弱くなったりする。だから外見に大きく影響するイヤホンもその人を表現する大きな要素であり、単なるスピーカーであってはならない、ということになる。
比喩をもっと包括的な視点の中に埋め込むことも可能だ。たとえば「よく働き、よく遊ぶヤングプロフェッショナルは、テトリス的なゲームよりも、早打ちガンマン的ゲームによって、仕事に対するモチベーションを上げる」といった感じ。