教育業界の常識にQuestionを投げかけるメディア

創考喜楽

デザイン思考で世界を変える 第6回

Re-Designing HR 人事をリ・デザインする~米国発・最新事例研究レポート~21 COLUMN

数年後、振り返れば、2014年は日本におけるデザイン思考元年と呼ばれるような年になるのかもしれない。そのくらいに様々なビジネス局面においてデザイン思考という言葉が見受けられるようになっている。それだけ日本のビジネスにクリエイティブな発想が求められる時代を迎えている、ということであるのと同時に、デザイン思考が一時的流行に終わるバズワードになってしまわないよう祈るばかりだ。

 

メソッド:Empathy Map / 共感マップ

■共感マップはなぜ必要なのか

 

良いデザインを行うためには、そのデザインの対象である人間をどれだけ深く理解できているか、ということからスタートしなければならない。実際、良いデザイナーはこの共感を得るための様々なテクニックを持っている。対象を理解するという意味で、共感マップはこれまで行ってきたユーザー観察を様々な形で合成することで、そこからまったく期待していなかったようなインサイトを引き出すためのツールとなる。

 

■共感マップの使い方

 

「4象限に分割」
大きな紙かホワイトボードに全体を四等分する線を描き、4つの象限を作る。そこにフィールドワークから得られた情報をすべてポストイットに書き出して貼り付けていく。ビデオやオーディオデータもコンテンツをポストイットに書き出して貼り付ける。

 

4つの象限には「SAY」「DO」「THINK」「FEEL」とタイトルを書く。それぞれの意味は以下のとおり。
SAY:ユーザーの発言の中で心に引っかかっているものは?
DO:ユーザーの行動や態度で気になったのは?
THINK:ユーザーは何を考えているのか?彼らの信念や価値観は?
FEEL:ユーザーはどんな感情を抱いているのか?
ただしほとんどの場合、ユーザーの思いや感情をダイレクトに観察することはできないので、彼らが発信する微妙なサインを注意深く探し続けることが重要になる。特にボディーランゲージや声の調子、言葉の選び方などに注目すると良い。

 

「ニーズを特定」
このニーズは人が感情的あるいは身体的に必要性を感じているものを意味しており、解決しようとするデザインの課題が何かを定義付けするために役立つ。ただしここで言う「ニーズ」は「動詞」であり「名詞」ではないので要注意。つまりユーザーが実際に利用しているアクティビティーや欲求をサポートするのに必要とされる行為を指しており、課題のソルーションを意味するものではないということ。このニーズは、観察から描き出されたユーザーの特徴から特定したり、ユーザーの話していることと実際の行動との間に存在する食い違いなどから見つけることができる。ニーズは共感マップの端の方に書いておくと良い。

 

「インサイトを特定」
インサイトはデザインの課題に対してより良く対応するために大いに役立つユーザーが意識していない認識だ。インサイトは時に二人のユーザーそれぞれの共感4象限(発言・行動・思考・感情)の比較作業から発見される矛盾や、一人のユーザーについて不思議な行動を発見した時の、「なぜ?」という問いかけから得られる場合もある。可能性のありそうなインサイトはすべて共感マップの端に書き留めておく。インサイトのシーズとなるようなものをうまく見つけるためには、ユーザーが感じているテンションや矛盾をうまく捉えることが大切になってくる。

メソッド:Journey Map / ジャーニーマップ

▲あるギター修理工程におけるギターのジャーニーマップ
 

■なぜジャーニーマップが必要なのか

 

ユーザーに対する共感を深めたり、経験を通してユーザーが行うプロセスを深く理解するためには、インサイトが潜んでいる可能性の大きな領域を隅々まで明るく照らし出して探索する必要がある。ジャーニーマップを作成することにより、プロセスそれぞれの段階、あるいは道標となるようなものについてシステマティックに深く考えることができるようになる。ジャーニーマップは自分自身が共感を深めるためにも活用できるし、自分で発見したものを他人と共有するためにも使用可能だ。

 

■ジャーニーマップをどのように使うのか

 

ジャーニーマップとは、たとえばあるユーザーの朝から晩までまるまる1日の行動や、移動範囲を地図上で記したもの、あるいはあるプロダクトが製造された工場から店舗へと運ばれ、最終的にユーザーの手元に届くまでの移動の状況を時間とともに記したものなど、様々なものが考えられる。要するに、複数の観察結果をひとつのダイヤグラムにまとめて一覧できるように、マップという形式で表現したもの。あなたの解決しようとする課題に関係する領域、あるいは一見無関係と思われるようなプロセスあるいはジャーニーも考慮の対象になる。

 

たとえば、ユーザーが毎日食べている朝食などもその対象となりうる。またユーザーは誰と一緒に暮らしていて、どこから来た人で、どこで運動し、その後どこに向かったのかなど、一ヶ月の間ユーザーのすべての行動を記録するという方法も良いかもしれない。あるいは、もしもあなたが婚活サービスを提供するウェブサイトを開発しているのであれば、ファーストデートの際に、ふたりが交わすコミュニケーションのすべてをマップ上に記録できるかもしれない。

 

重要なのは、常にすべてを記録すること。たとえば、朝食時に毎回ユーザーが必ず窓のカーテンを開けるといった、ごく小さなことも見逃してはいけない。一見、意味を持たないような何気ない行為であっても、それが驚くようなインサイトへと導いてくれる重要なヒントになることも少なくない。ジャーニーマップは調査を行う人間によって観察やインタビューから作成されることが多いが、ユーザー自身にマップを描いてもらえるよう依頼しても良い。その後、マップに記された行為についてユーザーに語ってもらうのだ。

 

実際には、写真やカードを用いて様々な出来事をユーザーのタイムライン上に並べることが多い。また比較しやすいように複数のタイムラインを用意する、といった方法でそれぞれのデータが意味を持つように整理していくこともある。その上で、そこに共通するパターンや不規則性を発見し、それがなぜ生じたのかについてユーザーに質問する。そしてそれぞれの出来事がより大きなコンテキストやフレームワークにリンクされていくように努力する。時には、観察したものをデザイナーが持つ独特な知識や物の見方で見比べてみると、そこから意味のあるインサイトが得られることもある。

メソッド:Composite Character Profile / キャラクタープロフィールの合成

■なぜキャラクタープロフィールを合成して使うのか

 

仮想の人物プロフィールを想像し、一つのキャラクターとして合成してみる。そうすると観察の結果得られた興味深い事実を特定の認識可能なキャラクターに投影してイメージすることが可能になる。チームは時として、可能性を秘めたユーザー層の中の特別重要でない、あるいは本質的ではないようなユーザーから離れられない、という困った状況に陥ることがある。そんな時、キャラクタープロフィールを合成することにより、チームが一番集中すべき、問題と深い関わりを持つユーザーに集中することができるようになる。つまりキャラクタープロフィールを合成することは、チームが目的に向かって前進し続けられるように、モルモットを用意するようなものだ。

 

■合成されたキャラクタープロフィールをどう使うか

 

既に述べたように、合成されたキャラクターのプロフィールは、チームが実際に観察してきた人間像を具体化した(セミ)フィクションなキャラクターだ。そこには典型的な特性やトレンド、そしてチームがユーザーグループの現場での観察から発見したものの、これまで取り上げられることのなかった数多くの興味深いパターンも、そこにすべて練りこむことができる。

 

合成キャラクタープロフィールを作るためには、チームはまず最初に観察から得られたデータをすべて一旦テーブルにさらけ出し、作業部屋をそのデータで埋め尽くすという作業を行わなくてはいけない。それが終わったら、調査の現場で出会った一人一人のユーザーについて、共通性と相互補完性を明確にする。それはたとえばデモグラフィックな情報であったり、あるユーザーの不思議な嗜好性や習慣であったり、動機付けの原因など様々だ。

 

そうした特徴抽出のための検討作業が終わったら、個々のユーザーをリスト化して、そこに何かしらの補完性(すべてのユーザーに見られるものではないが、チームに興味を抱かせる何か。必ずしも特別にユニークなものである必要は無い)がないかどうかを確認し、それも忘れずに書き出しておく。最後に、そのキャラクターに名前を与えて、チームメンバー全員が合成されたアイデンティティーとその性格を十分理解できるように心がける。

 

Hasso Plattner Institute of Design at Stanford University 
d.School

 

The D.SCHOOL BOOTCAMP BOOTLEG

連載一覧

Copyright (C) IEC. All Rights Reserved.