米国のビジネス誌などで、SNSを企業活動にどう活用すれば良いのか、という話題を目にすることは少なくない。そして米国のHR関係者にとっての重要課題である、優秀な人材採用のための有力なツールとしてもSNSが注目されるようになってきた。
ちなみにSNSの代表的存在であるフェイスブックの月間アクティブユーザー数(Monthly Active Users / MAU / アカウント保持者の総数ではなく実際に活用している人数)はすでに世界で12億人に近づいていると推測され、日本国内のMAUも2,200万人と言われている。さらにツイッターの世界MAUは約2億人、日本国内では2,000万人。ティーンの間に人気の高いLINEの世界MAUは2.3億人、日本国内では4,700万人。(2014年1月末時点、GaiaX SocialMediaLab)
こうした状況のなかでSNSは企業のリクルーティング活動にとっても、コミュニケーションの主要なチャネルの一つとして無視できない存在になってきた。このSNSを活用した企業のリクルーティング活動は米国では一般にソーシャル・リクルーティングと呼ばれている。
企業がソーシャル・リクルーティングを行う最大のメリットは、それなしでは出会うことのできなかった人材を発見できる可能性にある。またSNSが通常のリクルーティングを代替する存在になるのではないか、という意見もあるようだが、今のところそれはあり得ないだろう。むしろこの新しいコミュニケーションツールを通常のリクルーティング活動と併用することによって、より良い結果を導き出すことを目指すべき、という考えが主流である。
HR専門の企業である Bersin & Associates 社の資料から、ソーシャル・リクルーティングを行うメリットについてご紹介する。
「隠れた人材を発見する」
優秀な人材獲得の競争がシビアな時代、候補者の中からもっとも優れた人材を選び出すことはますますチャレンジングになってきた。そんな時SNSを使うと、通常の手段では出会うことのできない、受動的で自らアプローチしてこないような人材や隠された才能を見つけることも不可能ではない。
「より高度な能力を備えた人材にリーチ」
SNSを使いこなしているような人は、イノベーションに対するアーリーアダプター的存在であることが多いし、テクノロジーに対する理解も深いと考えられる。こうした人々は企業が候補者として確保しておきたい種類の人材だ。SNSはこのような人々と企業を結びつける手っ取り早いツールとなり得る。
「リクルーティングにおけるROIをアップさせる」
通常リクルーティング活動には多額のコストが必要となるが、SNSの活用によってそのコストは劇的に低下する。フェイスブックやLinkedInに人材募集のポスティングをすることで、通常の手段だけを使った募集活動に比較して、数倍の効果が期待できる。(LinkedIn / リンクトインはビジネスネットワークに特化したSNS)
「候補企業の一つとして認知される」
企業がオンラインプレゼンスを確立することによって、リクルーティング候補者と常につながった存在であり、コミュニケーションの方法もわかっている先進的な企業という、ポジティブなメッセージを発信することにつながる。そしてSNSならではの伝播パワーでそうしたメッセージは拡散されていき、結果として企業のブランドイメージアップにも貢献することが期待できる。
SNSサイトをより効果的に活用するためには、その準備が重要になってくる。SNSに限らずどのようなツールであっても、その目的を明確にすることで優れた人材にリーチすることがはじめて可能になる。そこで企業の担当者がSNSにアクセスする前に、まずは一歩下がって冷静に自社に向けて問いかけてみることが必要になる。以下はHR関連企業の Human Capital Institute による、SNSでリクルーティングするためのシンプルな7ステップの質問だ。
「プランを固める」
どのサイト、どのツールを使うか、どれくらいの時間をSNSの運営に振り向けるか、どのくらいの頻度でどのようにしてコンテンツをアップデートするか。その答えはすべて上記7つの質問に対する答えから導き出されるだろう。
「企業のブランドイメージをチェックする」
検索エンジンに社名を打ち込んで、誰が自社のリクルーティングをプロモートしているか、自社についてのSNS上でのコメントなどを確認する。それによって自社がネット上でどのようなイメージでやり取りされているのか知ることができる。ネット上での敵と味方を知ることによって、候補者が受け取る自社の印象についてある程度まではコントロールすることも可能になる。そしてソーシャル・リクルーティングのプログラムが続く間はこの作業を継続するべきだろう。
「候補者とのつながりを作る」
候補者とのダイレクトなつながりを確立する。SNSでつながろうとする個人は、相手となる企業に対して透明性とカジュアルな気さくさを求める。匿名という壁の後ろに隠れていては、相手はそのコミュニケーション自体を信じることができない。
リクルーティングにSNSを活用する上で、法的なリスクへの備えを準備しておくことも重要。もっともHRに関連する差別などの法的リスクは、SNSを活用するしないに関わらず、常にどこにでも存在していることを確認しておきたい。一般的に考えられるリスクは以下のようなものだ。
「候補者のスクリーニングにおけるリスク」
候補者を選別するためにSNSを使用すると仮定した場合、候補者がフェイスブックやツイッターなどに投稿した宗教、性、社会活動、家族問題などに関する話題や発言が使われたと推測されるような事があると、そこにリスクが生じる。SNSから得られた情報が何かしらの差別につながる可能性がある場合だ。そうしたリスクを回避するために、雇用に際してはあくまでも仕事の能力、テスト、技能レベルが評価基準となることが常に明記されていなければならない。
「法律の遵守」
すべてのリクルーティング活動は記録され、情報は開示されるべき。同時にすべての活動が政府の定める法律に則ったものでなければならない。
「人種面でのバランス」
SNSが質の高い人材にアクセスする良い方法であるのは確かだが、SNSはすべての人材が存在する完全な場所ではないことも認識すべき。たとえばLinkedInに参加している人のうち、アフリカ系人種が占める割合は(現実では全人口の12.8%であるにも関わらず)5%に過ぎない。同じくヒスパニック系はわずか2%だ(実際は15.4%)。ゆえにSNSにだけ依存したリクルーティング活動は、人種差別を禁止した法律に抵触しかねない危険性をはらんでいる。
このようにソーシャル・リクルーティングにはリスクが潜んでいるのも確かだが、SNSが危険なのではなく、どのような場合にも企業は常にリスクを負っていると考えるべき。SNSはますますそのパワーを増しており、むしろ無視することがリスクと考えられるようになってきた。手遅れにならないうちに、しっかり準備して取り組むべきだろう。
Bersin & Associates
http://www.bersin.com/About/
Human Capital Institute
http://www.hci.org/