アイデアをプロトタイプ化してテストすれば、そこから数多くのフィードバックが得られる。デザイン思考において、フィードバックは次のサイクルへとつながる重要なもの。そのフィードバックを整理して活用するために様々なメソッドが用意されている。さらにアイデアを他者に伝える際、ひとつのストーリーとして伝えることが重要だ。単に連続した単語や記号として提示されるか、一つのストーリーとして語られるかによって、得られる結果は大きく異る。ではストーリーはどのようにデザインされるべきか、それに関しても以下で説明しよう。
■Why use a feedback capture grid / 何のためにフィードバック・キャプチャーグリッド(以後フィードバックグリッドと表記)を使うのか?
生み出されたアイデアに対しては様々なフィードバックが寄せられるだろう。また失敗したアイデアからもフィードバックを得ることができるし、プレゼンテーションやプロトタイプに対するフィードバックなどもある。そうしたフィードバックを整理して活用できるようにするためにフィードバックグリッドは有効な方法だ。この4象限グリッドをうまく使えば、常にフィードバックをシステマチックに簡単に分類することができ、それぞれをしっかり把握することが可能になる。
■How to use a feedback capture grid / どのようにフィードバックグリッドを使うのか?
■Why storytelling over other forms of communication / なぜストーリーを伝えることが大切なのか?
どうやら我々の心にはストーリーという配線が隅々まで張り巡らされているようだ。人が人を惹きつけられるだけ豊かな言葉を持ち続ける限り、人はストーリーという形でそれぞれの情報をやりとりする。またストーリーは人間のスケールでアイデアを表現し、人と人とをつないでいく素晴らしい方法でもある。驚くほど斬新な考え方や、その底に広がっている感情にフォーカスして語られるストーリーは、人々の情緒や知性に大きな影響をもたらせる
■How to design a story / どのようにストーリーをデザインするか
ポイント:どのような語り口で、どのような感情を伝えようとしているのか、あらかじめ自覚しておく。ストーリーの展開につれて自分というキャラクターが変わっていく要素を、一つの文章、少しの言葉、そしてストーリーが持つ雰囲気の中で表現しなければならない。少しの言葉でも感情のこもったトーンで語れるようにすることだ。そのために留意する点に関して、以下にいくつかのヒントを示す。
オーセンティック(正真正銘):自分自身に関することを少し加えることによって、ストーリーはより強い力を持つようになる。さらにそれを素直に自分の言葉で表現することができれば、ありふれた常套句よりも強く、聞く人の心に響く言葉となる。
キャラクター・ドリブン:ストーリーに登場する人物のキャラクターは人間の深いニーズを表現し、聞き手の中に共感と興味を創りだすある種の媒体として機能する。それゆえ常にキャラクターに焦点を当てるべきだ。
ドラマチックなアクション:ストーリーは3つの要素を持つべき。行動(action)、葛藤(conflict)、変化(transformation)の3つだ。行動では、登場人物が何をしようとしているのか、目的を達成するためにどのような方法をとったのかを表現する。葛藤では、前途に潜んでいるもの、その底に横たわる問題を表現する。変化では、何が大きなインサイトなのか、行動と変化によって何が解決されたのか表現する。
ディテール:すべての行動の背後には必ず何かしらの感情が横たわっている。背後にある感情を表現するキャラクターとその状況のディテールを語ることによって、何を伝えることができるのか。それを考えておく必要がある。
デザインプロセスはストーリーに組み込める:デザインのプロセスにおいて学んだ様々なメソッドをここで使うことが可能だ。共感マップはキャラクターに、ニーズマップは葛藤に、インサイト+ソルーションマップは変化に使える。
与えられた仕事を確実にこなすことのできる優秀な人材を多く抱えているのは日本企業の特徴であり強みでもある。しかし近年そうした企業の多くが業績を落とし苦しんでいる。真面目に仕事するだけでは競争に勝てない時代になった、ということだ。毎日同じ作業を同じように続けてきたことが、業績低迷の一因となっていることもある。継続が力であることは事実だが、昨日と同じことを明日も続けていては一年先を生きられない、そんな時代が近づきつつある。
そのために創造力が重要だと言われている。子供の頃は誰でもあふれるほどの創造力を持っている。その証拠に玩具がなくても子供は自分たちで工夫して、いつまででも楽しく遊び続けられる。しかし社会人となり、同調圧力を感じながら仕事をするうちに、創造力は不必要なものとしてどこかにしまい込まれてしまうようだ。ところが今企業人にはクリエイティビティが求められている。また組織そのものがクリエイティブになれば、日本企業はもともと定評ある組織の強みを活かしながら再び大きな力を発揮できるようになるだろう。
デザイン思考は組織をクリエイティブにすることを目的として考えられたもの。組織がデザイナーのように発想して、デザイナーのように行動することで新しいビジネスが生まれる、そのために役立つメソッドがデザイン思考なのだ。
しかしデザイン思考を日本企業に取り込むことには大きな困難が潜んでいる。デザイン思考は明確な目標設定やプロジェクトの期間設定とは対局に位置するもの。それゆえ几帳面な日本企業に馴染みにくいことも確かだ。今後、ブームに乗ってデザイン思考に取り込んでみたものの結局与えられた期間では何も生み出せなかった、という失敗(?)事例が数多く出てくるだろう。それでもやがて必ずいくつかの成功事例が出てくる。成功事例としては小さいかもしれないが、そうしたクリエイティビティを内部に備えた企業が、次の日本の成長を実現していく企業となっていく。だからデザイン思考を一歩進めた「組織力×デザイン思考」という考え方に、いま注目すべきではないかと考えている。
14回続けてきた「デザイン思考で世界を変える」は今回が最終回。これまで読み続けていただいた方々のお仕事に、この連載が少しでも役立つことができれば、これほど嬉しい事はない。