デザイン思考において重要なプロセスであるブレインストーミングも、常に活発に意見が出るような状況ばかりとは限らない。そうした際に、場を盛り上げるための方法がある。また、ブレインストーミングにおいては発想の幅が広がることが好ましいが、あまり広がりすぎても収集がつかなくなってしまう。生み出されたアイデアをどのように収集するか、今回はその方法についても説明する。
■Why impose constraints / どうして制約を課すのか?
自由な発想を尊重するデザイン思考とは対照的なやり方のように思われるかもしれないが、時には制約を課すことによって、はじめて潜在的な想像力が引き出される、ということもある。たとえば「10秒の間に白いものをできるだけたくさん思い浮かべる」「キッチンにある白いものをすべて思い出す」など、ある程度制限を加えられたほうがヒラメキが生まれやすくなる、というのも事実だ。
■How to impose constraints / どのように制約を課すのか?
デザイン思考のプロセスにおいてこの制約手法は何度でも使え、効果を出す助けとなる便利な方法だ。ただし、プロセスにおいて何が、どんなタイミングでフィルターとなっているのかを常に意識することが重要だ。アイデアを生み出すとき、そこに何かしらの制約を課して考えることと、アイデアそのものを拒否することとはまったく異なる。そこから出てこようとしているアイデアは、すでに頭の隅にひっそりと隠れていたものなのだ。
特に「創造」「プロトタイプ」「時間」の領域においては制約を課すことが有効と考えられる。
① 創造:ブレインストーミングの最中、あるいはマインドマップを使用してアイディエイションを行っているときなど、一時的に制約を課してみる。例えば、「朝食には何を料理するか?」「マクドナルドだったらどうしているか?」など。創造という作業に有効と思われるだけフィルターをつけてみる。(次号「ブレインストーミングでのファシリテーション」参照)
② プロトタイプ:プロトタイピングの初期段階では、考えてから作る、という一般的な方法とは全く逆に、考えること自体を目的としてプロトタイプを数多く制作する。その際、制約が課されることでアウトプットがより効率化されていく。たとえば使用される素材に縛りが付けられることで、スピードをもって前に進むようになり、煮詰まりそうになったアイデアが緩み、かえって創造力が高まっていく。モバイル機器を作りたいような場合にも、厚紙とポストイットを使用する。ブレインストーミングの時同様に、解決策そのものにも以下の様な制約を課してみるとよい。「目の不自由な人向けにデザインするとしたら?」「プラスチックを使わずに」「エレベーターと同じサイズで」などなど。
③ 時間:締め切り時間を意識的に設定し、強制的に行動するようにしむける。たとえば、2つのプロトタイプを1時間以内に作る、20分だけ激しくブレインストーミングする、今度の週末までにユーザーを3時間を共に過ごすようにする、などなど。
■Why brainstorm selection is important / どうしてブレインストーミングの選択が重要なのか
ブレインストーミングにおいて大切なのは広範囲にわたりたくさんアイデアを生み出すこと。出されたアイデアがホワイトボードにたくさん描かれている状態になったら、次はアイデア収穫の段階へと一歩進める。ホワイトボード上のアイデアが数個しかないような場合でも収穫段階へ進めることが不可能ではないが、特に解決策をクリエイトするような場合には、選択するアイデアについて熟考したほうがよい。解決策の幅を確保しつつも、その一方で安全性の高いアイデアだけが選択されてしまわないように、いろいろなアイデアが幅広く選択されるように注意する。
■How to select / どのように選択するのか
前述したように、この段階で選択するアイデアはあまり絞り過ぎない方がよい。また選択したアイデアが実現可能かどうかなども、この段階で心配する必要はない。むしろチームが夢中になって楽しんでいるもの、あるいはみんなが興味を惹かれるようなアイデアを大切にしたほうがよい。同時に、誰も当たり前とは考えないようなアイデアに、実際は役立つ大切な要素が含まれている可能性もあることにも留意する。
アイデア選択の具体的な方法をいくつかご紹介。
① 投票する:チームメンバーが魅力的と感じたアイデアを各自が3つ選び自由に投票する。チーム全員が結果に対して影響力を持てるようにするために、投票は全票を有効とする。
② 分類する:少々風変わりだが深い意味を持つアイデアにチームメンバーを関わらせるためによい方法。合理的、大歓迎、愛しい、大穴、という4項目を用意して、それぞれ1~2つのアイデアをチーム全員で分類していく。
③ ビンゴ選択法:前述の分類法と同様に、アイデアの革新性を担保するために考えられた方法。物理的なプロトタイプ、デジタルなプロトタイプ、体験のためのプロトタイプという3要素に対して、もっとも刺激を与えてくれるアイデアを選択する。
いずれにしても一つのアイデアに固執することなく、常に複数のアイデアをプロトタイプへと進めるようにする。テストに進める価値の無いアイデアしか存在しないような場合には、アイデアのなかに魅力的な部分が少しでもあるかどうかを自分自身に確認し、その魅力的な側面だけをテストするか、あるいは最終的な解決策にそれを活かすようにする。
■Why prototype for empathy / どうして共感のためのプロトタイプを行うのか
解決策の評価を目的として、ユーザーと共にプロトタイピングを行うことはよくあるが、シンプルなインタビューや観察以上に、プロトタイピングによって異なる情報を露出し、そこで共感を得ることも可能だ。言うまでもなく、ユーザーとともにテストするときには、解決策に関してそこから何を学べるのかということと共に、参加している人間から何を学ぶことができるのかを強く意識すべきであり、それによってより多くの共感的理解を得ることができるのだ。
解決策のテストをしないままでプロトタイプへと発展させたり、共感を得ることを目的として細部に至るまでデザインされた状況を作り出すことも可能だ。この場合、外部の観察者ではないあなたが、ユーザーから新しい事実を引き出せるような状況を創ることができるために、この方法は「Active Empathy / 積極的共感」とも呼ばれている。同様に、解決策のプロトタイプはコンセプトの理解を得るのに役立ち、共感のためのプロトタイプはデザイン領域や特定の問題に対する人々の考え方についての理解を得るために大いに役立つものである。
■How to prototype for empathy / どのように共感のためのプロトタイプを行うのか
共感のためのプロトタイプは、デザイン領域の理解に関する作業が一段落したとき、その中のある一定の領域に関するより深い理解が必要なとき、あるいは開発されたインサイトについて確認したいときなどに行うと良い。まずは取り組んでいる課題のどの側面について、より深く学びたいのかを考えてみる。その後、その対象について議論したり、ブレインストーミングなどを行う。そうすることでユーザーやチームと一緒にテスト可能な共感のためのプロトタイプを創ることができる。
共感のためのプロトタイプの一例として、ユーザー自身に何かしら絵を描いてもらうなどが考えられる。たとえば、お金を使うということに関して、あるいはどのように仕事をしているかということなどについて、簡単な絵に描いてもらうのだ。そのあと、そのことについてじっくりと語り合うことで、共感の度合いは深まっていく。
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