学生時代、午後の暖かい日差しの中で、授業中ついうとうと居眠りしてしまった経験は誰もが持っている。そして学校の授業が退屈でなく、もっと楽しめるようになっていたら、どんなに良いだろうと考える。
企業が行う研修も同じこと。大多数の研修は退屈だ。言うまでもなく企業は研修のために巨額の予算を費やしているが、その費用は受講者の居眠りによって無駄な経費になってしまう。
研修の目的はもちろん必要不可欠な情報の伝達だが、その効果を上げるためにエンターテイメント要素を付加したプログラムを提供することが検討されるようになっている。
特に最近は、ゲーミフィケーションというコンセプトで研修に付加価値を付けることも広く理解されるようになってきた。そのようなニーズの高まりに対応してゲーミフィケーションを専門とする企業も無数に生まれており、それらの企業同士の競争も熾烈になっている。ある試算によれば2015年までにこの市場は28億ドルにまで拡大するそうだ。
実際、一つの研修プログラムがユーモアやエンターテイニングな環境の中で実施された場合、参加者の記憶には、より多くの事柄が、より長期にわたって留まるという研究結果も発表されている。つまりエンターテイニングな研修は単に退屈しないというメリットを持つだけではなく、効果的でもあるということだ。
ゆえにエンターテインな研修を企画開発できれば、結果として研修のための予算を効率的に使えるので、予算の削減も可能になり、研修以外のもっと楽しいことに予算を回せる可能性もでてくる。このように、目的と楽しさが一体となった研修プログラムを開発することは、これまで無かったほど重要なテーマの一つと考えられるようになっている。
またフォーブス誌によれば、現在米国労働者の在職期間は平均4.4年と非常に短くなっている。離職した社員の補填に要する費用(研修費用も当然含まれる)もそれにつれて上昇し、現在では社員のサラリーの120%から150%程度になっている。離職者の補填と同時に、離職率を低減させ企業に定着させるためにも、しっかりとした研修を、実効のある形で行うことが重要になっているのだ。
フォーブス誌の調査では離職者が会社を離れる理由についても分析している。その中では(家族の転勤など内部的な理由を除き)「仕事に飽きた」「企業文化的に退屈」などの理由が多く見受けられるが、ここにこそ注目すべきだろう。もちろん研修は社員の仕事環境を構成するごく一部の要素に過ぎないが、研修が楽しい企業文化の構築に寄与する可能性は決して小さくない。さらにそれは意外に簡単に実現できるかもしれない。
以下、スタンドアップ・コメディアンで、企業研修の講師も多く務めているジェフ・ヘブンズ氏の専門誌への投稿記事から、その具体的な方法についていくつか抜粋してみる。
これは社員教育の担当者や研修の専門企業がもっとも苦労しているポイントだ。というのも一般的に、役に立つトレーニングというのは退屈なものであり、その逆に、楽しい経験は役立つものにはなりにくい、と考えられているからだ。それゆえ、多くの企業が、伝えるべき内容から本来持っている価値を減らさないことを目的として、基本的なトレーニングからユーモアや楽しさを削除してしまうのだ。
しかし実際はまったく逆だ。この二つの要素は共存することが可能であり、それが可能なことを理解することがクリエイティブなトレーニング開発の第一ステップとなる。
まずは伝えるべき内容を「楽しさ」という包装紙で包む作業が必要だ。伝える内容自体を変える必要はまったくない。トレーニング自体は、たとえば対立した意見を調整するテクニック、リーダーシップ戦略といった堅い話題のままで良い。ただしそれを単なるレクシャーやセミナーといった伝統的な形式で伝えるのではなく、もっと楽しい体験として伝えるのだ。そのためには二つのことが必要になる。
Face to Face のトレーニングを検討しているのであれば、意欲が高く、かつユーモアセンスのあるトレーナー人材を探すことが重要になる。シリアスなコンテンツを楽しみながら教え込めるような才能を持った人材だ。
コンピュータを使った、オンラインでのトレーニングを考えているのであれば、学校の教科書や取扱説明書的ではない、カジュアルなグラフィックが豊富に使用されている、時には内容から少し離れ過ぎというくらいのトーンで描かれているテキストブックを選択するのも一つの方法だろう。
たとえば、米国でシチュエーションコメディ(シットコム)と呼ばれている連続TVドラマシリーズは一話が(コマーシャル時間を抜いて)だいたい21分で完結する。この時間内に、まずその回で表現すべきシーン設定が描き出され、そこに何かしら問題が発生する。その問題を巡って、何も解決しない解決策がいくつか提案されて、そのすべてが試みられるが、当然何も解決されない。そしてとうとう最後に有効な策が講じられて問題がめでたく解決される。
この一連の流れが短い時間の中で創り出されるためには、数多くの重要な要素が話の中に盛り込まれなくてはならない。だからこそ、シットコムの中で語られるジョークは簡潔で的を得たものでなければならないのだ。
これと同じように、トレーニングに盛り込まれるユーモアも、伝えるべき本質的な内容を超えるようなものであってはいけない。ユーザーを一定の限られた時間引きつけておくためには、たった一つのエンターテイニングな「ストーリー」さえあればそれで十分なのだ。そのストーリー作りを注意深く行えば、一時間に及ぶトレーニングセミナーであっても、受講者にとっては強制されて仕方なく受ける退屈な時間から、期待感を持って待ち望まれる体験へと変化する。
トレーニングに要する時間を短く保つためのもう一つのやり方は、シリアスな話題のイントロダクションとしてエンターテイニングなビデオなどを使用することだ。特に、受講者側がこれから受けるトレーニングのシリアスさを理解していればいるほど、気持ちの和らぐアイスブレーク的な映像を開講時に流すことで、シリアスな内容を想定して身構えていた受講者の心を無理なく開くことができる。
トレーニングで伝えられるべきことの大部分は「物事を正しく行うこと」についてフォーカスしたものであり、もちろんそれは非常に重要なことでもある。しかしその一方で考えておくべきことは、何をしてはいけないのかということだ。
「してはいけないこと」にフォーカスするとエンターテイメントのきっかけが見えてくることも少なくない。というのも、そうした失敗は誰もが一度は経験していることでもあるので、それを正しく提示することによって、こういう時にはこんなことをしてはいけない、ということを聞き手にリマインドすることができる。
そんなことが描かれたシナリオを用意することで、本題にスムースに入っていくことも可能になる。前置きのシナリオが何も無く、いきなり本題に入った場合と違って、聞き手は笑い声のなかでトレーニングの本筋へと自然に導かれていくことが出来るのだ。
このようにエンターテイニングなトレーニングは決してソフィスティケートされたものではなく、実践によって自然に出来てくる種類のものだ。ある人は他の人に比較してジョークの飛ばし方が巧妙であるかもしれないし、またある研修専門の企業は研修の内容(本質)とエンターテイメント要素をつなぎ付けるのに効果的な手法を持っているかもしれない。
いずれの場合でも、トレーニングとエンターテイメントをうまく組み合わせることのできた企業は、社員の離職率を低減し、社員の関与の度合いを向上し、最終的にはトレーニングという行為が強制されるものではなく、次回を楽しみに待ち望むような体験へと進化させることになる。
楽しめる研修を提唱するJeff Havensの公式サイト
彼はコメディアンで企業研修の講師も多く務めている。
http://www.jeffhavens.com/