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ハラスメントとは?定義や種類・企業における影響と対策を解説
ハラスメントとは、嫌がらせやいじめなど、他人が不快感を覚えるような迷惑行為のことを言います。たとえハラスメントをした当事者に「傷つけよう」「いじめよう」などの意図がなかったとしても、被害者側が不快感を覚えた場合はハラスメントが成立します。職場でハラスメントが発生すれば、企業イメージの低下や職場の生産性低下につながるなど、企業だけでなく従業員にもさまざまな悪影響が及ぶでしょう。
当記事では、ハラスメントの定義や種類、企業におけるハラスメントへの対策などを紹介します。職場でのハラスメント対策に力を入れて労働環境の改善につなげたい方は、ぜひご一読ください。
ハラスメントとは?定義と意味を解説
ハラスメントとは、嫌がらせ・いじめなどの迷惑行為を指す言葉です。発言・行動によって他人を不快にさせたり、不利益を与えたりするなど、個人の尊厳や人格を不当に傷つける行為全般がハラスメントに含まれます。
ハラスメントはさまざまな場所で発生する可能性があり、家庭や学校、公共の場でも起こり得ます。中でもよく知られているものが、職場におけるハラスメントです。
厚生労働省の委託事業として運営されている「あかるい職場応援団」では、職場におけるハラスメントをいくつかの種類に分けて定義しています。
■パワーハラスメントの定義
職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しません。
■セクシュアルハラスメントの定義 「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。 |
■妊娠・出産・育児休業等ハラスメントの定義 「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。 |
※引用:厚生労働省 あかるい職場応援団「ハラスメント基本情報 ハラスメントの定義」 引用日2023/07/21
加害者側に「傷つけよう」「いじめよう」といった意図があったかどうかは、基本的にハラスメントの判断基準にはなりません。被害者側が「尊厳が傷ついた」「いじめを受けた」などのように不快を感じたときにハラスメントは成立します。
ハラスメントの種類
ハラスメントには多くの種類があります。従業員が自発的に退職するように追い詰める「リストラハラスメント」や、SNSに関連した嫌がらせを行う「ソーシャルハラスメント」などが、よく知られている例です。
以下では、一般的に職場で多いとされるハラスメントの種類を5つ紹介します。
パワーハラスメント
パワーハラスメントは、職務上の地位や人間関係などの優位性を利用して、従業員に身体的・精神的苦痛を与えることです。「パワハラ」という略称も使われています。
職場におけるパワーハラスメントには、下記の例が挙げられます。
・上司が部下に暴力を振るったり、言葉による侮辱をしたりする ・適正な範囲を超えた業務量を押し付ける ・気に入らない従業員を別室に隔離し、仕事を与えない など |
なお、業務上必要であり、かつ相当な範囲を超えていない行為と客観的に判断される場合には、パワーハラスメントには該当しません。常習的に遅刻をする従業員に対し、社会通念上妥当な範囲で強めの注意をするなどは、パワーハラスメントに該当しないケースです。
セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントは、性的な言動によって他人に不快感を与える行為のことです。「セクハラ」という略称でも呼ばれています。
職場におけるセクシャルハラスメントには、下記の例が挙げられます。
・性経験を尋ねる ・身体をしきりに触ろうとする ・性的指向や性自認をからかったり、本人の承諾を得ずに第三者に漏らしたりする など |
セクシュアルハラスメントは男性から女性に対して行われるケースが多いものの、女性から男性に行われるケースや、同性に対して行われるケースもあります。
マタニティハラスメント
マタニティハラスメントは、会社の上司や同僚が女性従業員に対し、妊娠・出産・育児などを理由として嫌がらせをする行為です。「マタハラ」という略称でも知られています。
職場におけるマタニティハラスメントには、下記の例が挙げられます。
・「妊娠している人に仕事は任せられない」と雑用ばかりをさせる ・育児休業を請求したときに、上司が「育休を取るなら辞めてほしい」と言う ・育児のために時短勤務をしていると、同僚から嫌味を言われる など |
また、マタニティハラスメントの男性版で「パタニティハラスメント」もあります。パタニティハラスメントは、男性の育児に関連して行われる嫌がらせです。
モラルハラスメント
モラルハラスメントは、倫理や道徳に反した言動などで相手の尊厳・人格を傷つけ、精神的苦痛を与える行為です。略称で「モラハラ」と呼ばれることもあります。
職場におけるモラルハラスメントには、下記の例が挙げられます。
・挨拶をしても無視したり、社員旅行などのイベントに呼ばなかったりする ・人格否定や見た目をけなす陰口をする ・恋愛や結婚などのプライベートな事柄をしつこく詮索する など |
パワーハラスメントとは異なり、モラルハラスメントは職務上の地位などの優位性にかかわりなく行われる点が特徴です。複数人の部下が結託して上司を無視するケースもモラルハラスメントに該当します。
ジェンダーハラスメント
ジェンダーハラスメントは、性別についての固定観念や社会的役割が異なるという意識にもとづく嫌がらせや差別行為のことです。「ジェンハラ」という略称でも呼ばれています。
職場におけるジェンダーハラスメントには、下記の例が挙げられます。
・「女性社員にはお茶くみをさせていればいい」と女性に雑用を押し付ける ・「力仕事は男性社員の役割だ」と男性のみに重労働を強いる ・本人の性自認について差別的発言をする など |
ジェンダーハラスメントは、相手を一人の人間として見ず、「男性」「女性」というくくりで判断している点が差別につながります。職場の男女比に大きな偏りがある会社で発生しやすいハラスメントです。
ハラスメントの実態
厚生労働省はハラスメントに関する実態調査を行っていて、調査結果を公開しています。以下では厚生労働省が行ったハラスメントに関する実態調査の結果を、分かりやすく解説します。
ハラスメントの相談件数
「ハラスメントの相談件数・該当件数」の項目は、2020年10月より過去3年間の増減傾向で紹介されています。
まず、相談件数の傾向については、下記のハラスメントは「件数は変わらない」の回答割合が最も高くなっていました。
・パワハラ ・顧客等からの著しい迷惑行為 ・妊娠・出産・育児休業等ハラスメント ・介護休業等ハラスメント ・就活等セクハラ |
セクハラのみは「件数は減少している」と回答する企業が最も多くなっています。次に該当件数の傾向は、顧客等からの著しい迷惑行為のみ「件数は増加している」の回答割合が「件数は減少している」を上回っていました。他のハラスメントについては、「件数は減少している」が「件数は増加している」を上回っています。
ハラスメントを受けた経験
「ハラスメントを受けた経験」の項目では、2020年10月より過去3年間でのハラスメント経験の有無・頻度がまとめられています。
調査結果によると、各ハラスメントを一度以上経験した方の割合は下記の通りとなっていました。
パワハラ | セクハラ | 顧客等からの著しい迷惑行為 |
31.40% | 10.20% | 15.00% |
※出典:厚生労働省「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」
また、顧客等からの著しい迷惑行為については、コロナ禍前後の件数増減が示されています。学術研究、専門・技術サービス業のみ「件数は増加している」が「コロナ禍以前と変わらない」を上回っており、顧客等からの著しい迷惑行為が発生しやすい業種と言えます。
ハラスメントに関する職場の特徴
「ハラスメントに関する職場の特徴」の項目では、パワハラとセクハラの2つについて、職場の特徴ごとにハラスメント経験の有無が比較されています。
パワハラ・セクハラともに、下記の特徴がある職場は「ハラスメントを受けた」が「ハラスメントを経験しなかった」を大きく上回っていました。
・上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない ・残業が多い/休暇を取りづらい ・ハラスメント防止規定が制定されていない ・失敗が許されない/失敗への許容度が低い |
職場内でのコミュニケーションの頻度や、業務への厳しさなどの条件が、ハラスメント発生にかかわっていることが分かります。
ハラスメント予防・解決のための取り組み状況
職場におけるハラスメントに対して、予防・解決を試みる企業も少なくありません。「ハラスメント予防・解決のための取り組み状況」の項目では、パワハラ・セクハラ・マタハラの3つについて、企業が実施している予防・解決方法の内訳が提示されています。
調査結果によると、最も多くの企業が実施している取り組みは「ハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」でした。一方で、「相談窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにするための対応」は、実施している企業が少ない傾向にあります。
ハラスメントが及ぼす従業員や企業への悪影響
職場におけるハラスメントが発生すると、ハラスメントの加害者・被害者だけではなく、周囲の従業員にも悪影響を与えます。従業員の勤労意欲の低下により、他社への人材流出や、職場の生産性低下につながることが主な悪影響の例です。さらに、企業イメージの低下によって企業全体にも悪影響が及ぶでしょう。
以下では、ハラスメントが及ぼす従業員や企業への悪影響を詳しく解説します。
人材の流出
ハラスメントが発生すると、被害者がメンタルヘルスの不調により退職する可能性があります。ハラスメントを原因とする退職の流れは、周囲の従業員にも及ぶ影響です。ハラスメントが発生する職場は居心地が悪く、従業員の連鎖的な退職を招くおそれがあります。
特に優秀な従業員ほど、ハラスメントが発生する職場に見切りをつけて退職する傾向があります。人材の流出は企業全体の生産性低下にもつながる問題です。
職場の生産性の低下
ハラスメントの発生は、職場の生産性低下にも直接影響します。ハラスメントが発生したことを知った従業員は、「自分もいつかハラスメントに遭うかもしれない」と考え、企業への帰属意識や労働意欲を損なうためです。
また、ハラスメントが発生しやすい職場には「コミュニケーションが少ない」や「失敗が許されない」といった特徴があります。従業員がハラスメント被害を避けようと意識することで業務のムダが増えて、生産性低下につながる悪循環ができるケースもあるでしょう。
企業イメージの低下
パワハラ・セクハラといったハラスメントが発生すると、テレビやインターネットなどのメディアで報道される可能性があり、企業イメージの低下を招きます。
企業イメージの低下による最も大きなリスクが、売上や顧客・取引先・株主への影響です。ハラスメントへの対応を誤った場合は社会的な信頼を大きく損ない、顧客離れや取引中止、株価への影響が発生するおそれもあります。
また、企業イメージが低下すると優秀な人材の獲得が困難です。採用活動が長引き、採用コストがふくらむデメリットもあります。
ハラスメントに関連する法律
日本においてハラスメントは社会問題となっており、ハラスメントに関連する法律もさまざまなものが定められています。
2023年8月時点において、ハラスメントに関連する法律は下記の4つが挙げられます。
労働施策総合推進法 労働施策総合推進法は、労働者の多様な働き方の促進を目的として、従来の「雇用対策法」を改正する形で2018年に成立しました。
2019年5月の改正により、第三十条の二以下でパワハラ防止措置の法制化がされており、「パワハラ防止法」とも呼ばれています。第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
※引用:e-Gov法令検索「労働施策総合推進法」 引用日2023/08/20
労働安全衛生法 労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康の確保、および快適な職場環境の形成を目的として1972年に制定された法律です。
第十条以下で事業者の安全衛生管理体制が定められており、企業に対して従業員の安全や衛生に関する管理者・責任者などの設置を義務化しています。第十条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
※引用:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」 引用日2023/08/20
男女雇用機会均等法 男女雇用機会均等法は、雇用における男女の差別をなくし、均等な機会と待遇の確保などを目的として1985年に制定されました。
第十一条ではセクハラ、第十一条の三ではマタハラについて、防止・対応の措置を講じることを事業主に義務付けています。第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
第十一条の三 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
※引用:e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」 引用日2023/08/20
育児・介護休業法 育児・介護休業法は、育児や介護を行う労働者が仕事と家庭を両立できることを目的として、1991年に制定されました。
第二十五条以下では育児休業・介護休業に関連するハラスメントの防止・対応について、事業主の責務が定められています。第二十五条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
※引用:e-Gov法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 引用日2023/08/20
企業におけるハラスメントへの対策
企業がハラスメントの対策を講じる場合は、ハラスメントが発生した際に従業員が安心して相談できる体制の整備が必要です。ハラスメント相談を行った従業員の個人情報やプライバシーの保護にも注意する必要があります。
最後に、企業が取るべきハラスメント防止対策を、4つのポイントで解説します。
企業におけるハラスメントの実態を把握する
まずは、自社にどのようなハラスメントが発生し得るか、もしくは現在発生しているかという「ハラスメントの実態」を把握しましょう。
具体的には、ストレスを抱えている従業員がいないか、長時間労働や人間関係の悩みがないかなどをアンケートで調査します。従業員に不満の声が多い場合は、背景にハラスメントが発生している可能性があるため注意が必要です。
ハラスメントの実態調査から結果を分析した後は、ハラスメント防止のために労働環境の整備や再発防止措置を講じます。
企業の方針を周知する
企業がハラスメント対策を実施する際は、企業の方針を従業員に周知しましょう。従業員の中には、企業が実施するハラスメント対策を知らない方もいます。企業の方針を周知することは、ハラスメントの発生を抑止し、発生した場合に素早く相談できるようにするために欠かせない処置です。
特に就業規則にハラスメント規程などを盛り込む際は、忘れずに従業員への周知を行いましょう。従業員への周知は、説明会や文書の配布といった方法で行います。
ハラスメントの相談窓口を設置する
労働施策総合推進法により、大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日からハラスメントの相談窓口を設置することが義務化されています。相談窓口を社内もしくは社外に設置しておき、従業員に設置を周知しましょう。
相談窓口を設置する際は、相談があった場合に適切な対応ができるようにしなければなりません。相談内容の守秘義務や相談者のプライバシー保護、事実確認の手順など、相談窓口の運用ルールをきちんと定めておくことが大切です。
ハラスメントの研修を実施する
ハラスメント対策の効果を高めるには、ハラスメントの研修を実施することが重要です。ハラスメントの研修では、職場における各種ハラスメントの正しい知識を学び、ハラスメントにならない適切な接し方を習得できます。
株式会社アイ・イーシーでは、受講対象の層に合わせたハラスメントの研修を提供しています。1、法的事例から学ぶ 管理・監督者向けハラスメント防止研修 | ||
実際の法的事例を用いて、ハラスメント防止の意識と知識を学べる研修です。ハラスメント対策における管理職・監督職の役割も理解できる内容となっています。 |
2、最低限の知識と対処法を身につける 全従業員向けハラスメント予防研修 | ||
ハラスメントの定義・分類などの基本的な知識を学べる研修です。ハラスメントのセルフチェックや対処法も学習でき、ハラスメントについて全社的な共通理解を持てます。 |
また、株式会社アイ・イーシーでは新しいハラスメント対策として、参加体験型でハラスメント対策を学べる「Gap Graph」も用意しております。
まとめ
ハラスメントとは、「嫌がらせ」「いじめ」など個人の尊厳や人格を不当に傷つける行為全般を指します。ハラスメントには多くの種類があり、職場で多いとされるハラスメントにはパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなどがあります。
職場におけるハラスメントを予防するには、まずは自社でどのようなハラスメントが発生する可能性があるか、もしくは発生しているか実態を把握しましょう。ハラスメント対策に関する企業の方針を従業員に周知した後は、相談窓口を社内・社外に設置することが重要です。
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