企業のジェンダーハラスメント対策。具体例や影響を徹底解説

ジェンダーハラスメント対策

ジェンダーハラスメントは、性別における固定概念から人に不当な要求や負担を負わせる差別の1つです。女性らしさや男性らしさを押しつけたり、男性のみに力仕事・女性のみにお茶くみをさせたりするのもジェンダーハラスメントに該当します。このような行為は企業に大きなリスクをもたらす可能性があるため、事前に対策を講じることが大切です。

当記事では、企業におけるジェンダーハラスメントの具体例や影響、また対策などを解説します。企業の人事を担当している方や経営者の方は、ぜひご一読ください。

ジェンダーハラスメントとは?

ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)とは、性別によって担うべき社会的役割が異なるという固定観念に基づいて、考えを押しつけたり嫌がらせをしたりする差別のことです。

日本でのハラスメントの被害は女性の身に起こるイメージが強いものの、男性が被害者になる場合もあります。LGBTの観点から、性的マイノリティに対して嫌悪感を示す態度や言動なども、ジェンダーハラスメントに含まれます。

セクシャルハラスメントとの違い

セクシャルハラスメント(セクハラ)は、性的な関心や欲求に基づいて相手に不快感や悪影響を与える言動のことです。ジェンダーハラスメントとは性的な関心や欲求が嫌がらせの根底にあるかという点で区別され、ジェンダーハラスメントの一部として見なすこともあります。

例えば、性的な関係や言動を見返りに昇進を約束する行為や、性的な誘いを断ったことを理由に処分や降格の対象にするといった行為は、セクシャルハラスメントです。性的な冗談を投げかけたり、不必要な状況で身体に触れたりするなどの行為もセクシャルハラスメントに該当します。セクハラ加害者は男性だけとは限りません。同性間や女性から男性への加害についてもセクシャルハラスメントとして扱われます。

ジェンダーハラスメントの被害数

ジェンダーハラスメントが起こる背景にあるものは、個人の意識や価値観の差です。また、個人ではなく職場の風土や性別に基づく役割分担が根づいている場合も問題が生じやすいケースです。

価値観や常識のずれの主な原因として、「アンコンシャスバイアス」が関係している可能性があります。アンコンシャスバイアスとは、過去の経験や知識から独自の認知や判断を無意識のうちに行ってしまう現象です。自身でも無意識のうちに判断してしまうバイアスのため、加害者自身が言動の問題に気づきにくいという特徴があります。

2021年に日本労働組合総連合会が行った調査によると、ジェンダーハラスメントを職場で受けたことがあると回答した方は1,000人中42人でした。男女比や被害の内容は以下の通りです。

■職場でジェンダーハラスメントを受けたことがあると回答した人の男女比(単位:%)

男性女性
2971

※出典:日本労働組合総連合会「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」

■職場で受けたことのあるジェンダーハラスメントの内容(複数回答形式)(単位:%)

 冗談やからかい嫌がらせ職務等の強要その他
男性58.366.741.70.0
女性63.330.040.013.3

※出典:日本労働組合総連合会「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021」

職場でのいじめやいやがらせに対する問題は世界各国でも問題視されています。スウェーデンは1993年に職場いじめ(パワーハラスメント)予防を、フランスでは1992年にセクシャルハラスメント予防を目的とした法整備が行われました。ILO(国際労働機関)では、2019年に“職場での暴力やハラスメントを全面的に禁止する”初の国際条約を採択しています。

日本のジェンダーに関する現状・問題

SDGs(持続可能な開発目標)では、ジェンダー平等が主要なテーマの1つです。性による差別をなくし、誰もが平等に権利や機会、責任を有する社会の実現が達成目標となっています。日本でもさまざまな取り組みがなされていますが、現状男女格差は依然として解決していません。

※出典:内閣府「みんなで目指す!SDGs×ジェンダー平等(仮)」

ここでは日本が抱える男女格差の現状や問題点について解説します。

ジェンダーギャップ指数

2023年6月時点でのジェンダーギャップ指数の調査では、日本は146か国中125位と過去最低の水準でした。ジェンダーギャップが深刻とされているのは、主に政治と経済の分野です。女性議員の比率が衆参両議院を合計しても低く、過去に女性の首相がひとりも選ばれていないことが大きな要因です。

また、経済面では管理職や役員といったポストにある女性の比率が低いことや、同一労働において男女間で賃金の格差があります。こうした現状から、日本のジェンダー格差は世界的に見ても大きなものだと言えるでしょう。

雇用機会と賃金差

※出典:内閣府 男女共同参画局「男女間賃金格差(我が国の現状)」

日本の男女間の賃金格差は、諸外国の賃金格差と比較して大きい状況です。一般的なフルタイム労働者の男性の賃金を100とした場合の女性の給与水準は世界平均で88.4であるのに対し、日本では75.2となっています。

※出典:内閣府 男女共同参画局「男女間賃金格差(我が国の現状)」

国際的に見ればまだ差は大きいものの、女性の社会進出は確実に進んでいます。1989年時点では賃金格差の水準は60.2とさらに格差が開いていたことから、長期的には改善傾向にあることは明白です。2012年から2021年までの9年間で、女性従業者数は約340万人増加し、上場企業の役員において女性の占める割合は約4.8倍になりました。

※出典:内閣府男⼥共同参画局「⼥性活躍に関する基礎データ」

暴力と虐待の被害数

配偶者や交際相手から暴力を振るわれた経験があると答える人の割合は、男性よりも女性のほうが多い傾向があります。2020年の内閣府男女共同参画局の実態調査では、配偶者からの暴力と交際相手からの暴力について、いずれも「あった」と回答した比率は女性のほうが高いという結果でした。

また、配偶者からの暴力が「何度もあった」と回答している女性の割合は全体の10.3%で、およそ10人に1人が暴力を何度も経験していることが分かります。

※出典:政府広報オンライン「パートナーや恋人からの暴力に悩んでいませんか。 一人で悩まずお近くの相談窓口に相談を。」

配偶者からの被害経験の有無(単位:%)

 何度もあった1,2度あったまったくない無回答
男性
(1,191人)
4.014.480.70.9
女性
(1,400人)
10.315.672.51.6

※出典:内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査報告書」

企業におけるジェンダーハラスメントの具体例

ジェンダーハラスメントは性別関係なく誰もが受ける可能性のある嫌がらせです。ときには男性から男性に向けてジェンダーハラスメントが起こる場合もあります。例えば、男性の上司や先輩から男らしさについての価値観を押しつけられたり、育児休暇を取得する男性社員に文句やからかいの言葉を向けられたりすることがあります。

ここでは、企業におけるジェンダーハラスメントの例を紹介しましょう。

性差別的な言動

女らしさや男らしさの価値観を他者に押しつける行為は、ジェンダーハラスメントの一種です。「女性なんだから、身だしなみに気を使わないとだめだ」「これぐらいで音を上げるなんて男として情けない」といった発言は性別と無関係の事象とを結びつけたジェンダーハラスメントに該当します。

また、女性社員に対してのみ「〇〇ちゃん」と呼んだり、女性に対しては年上であっても敬語を使わなかったりする例もジェンダーハラスメントに含まれます。「お局様」や「おじさん」という呼び方で年配の社員を冷やかすといった、年齢と絡めた表現にも注意が必要です。

性別による仕事の配分量の差

性別を理由に仕事配分や業務内容に差をつけることも、ジェンダーハラスメントと言えるでしょう。掃除や雑務など、性別に関係なくすべてのメンバーが協力して行うべき活動が特定の性別の社員にばかり押しつけられている状態は平等性を欠いています。

例えば、女性社員ばかりにお茶出しを指示する行為が挙げられます。「女は重要な仕事に向いていない」と性別を根拠に能力を評価するなどの行為もジェンダーハラスメントの一部です。また、「男だからこれぐらいは当たり前だろう」と残業や力仕事を男性にのみ割り当てるといった行為も含まれます。

昇進における男女差別

性別を理由にキャリアや昇進をさせない事例もジェンダーハラスメントの一例です。男性はリーダーシップを取れる、女性は結婚や出産を機に簡単に辞めてしまうといった性別による判断は差別につながります。

「女なんだからそんなに仕事をがんばらなくてもいいのに」「昇進しても、女は出産や結婚でいつ辞めるか分からない」といった発言にも注意が必要です。不適切な発言は相手のモチベーションを低下させ、仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼすおそれがあります。同様に、「男なんだからどんどん仕事して出世しないと」といった発言も不適切な発言です。

LGBT問題

男性、女性のみならずLGBTに対する偏見や差別もジェンダーハラスメントです。一例として、「男なのにスカートを履くなんて気持ち悪い」「女なのに自分のことを『俺』というのはおかしいからやめるように」といった発言があります。

同性愛者や両性愛者に対して、「おかしい」「気持ちが悪い」と言った言葉を投げかける行為もジェンダーハラスメントです。LGBT問題は理解の途上にあるため、どう対応していいのか分からない方もいます。それぞれの人が自分らしく生きられるよう配慮しあい、価値観を押しつけて差別の対象にしないことが重要です。

企業が受けるジェンダーハラスメントの影響

現代において、ハラスメントは個人間の問題ではなく、企業が責任を持って対処しなければならない問題です。また、男女雇用機会均等法によって性別を根拠に採用や昇進を見送ることは禁止されています。ジェンダーハラスメントが起こった場合、対応が悪ければ企業自体に悪影響を及ぼしかねません。

どのような悪影響が生じるかを理解すれば、防止対策を講じることもできます。ここではジェンダーハラスメントが起こった場合、企業にどのような影響があるのかを解説しましょう。

法的リスクを負う

お茶くみを拒否したことを理由に女性社員が解雇された件を不当とする裁判が、昭和52年と平成10年にそれぞれ起こされています。いずれの裁判でも処分が不当であるという判決が出ていて、特定の性別に掃除やお茶くみなどの雑務を押しつけることへの問題が争点の1つとなりました。

セクシャルハラスメントの裁判でも、被害者の心情に寄りそった判決が出るケースも増えつつあります。程度や関係性、被害者の心理状況によっては今後ジェンダーハラスメントに違法性が認められる事態も予想できます。ハラスメントが起こっている状況の改善を試みず放置したと見なされれば、企業側もハラスメント被害者に対して責任を負うことにもなりかねません。賠償問題だけでなく世間への風評も考えると、非常に高いリスクです。

生産性が低下する

ジェンダーハラスメントの問題は、職場での生産性の低下をもたらします。ハラスメントに遭った当事者は、問題の対応に追われて業務において通常どおりの能力を発揮することが難しくなるでしょう。ジェンダーハラスメントが原因で精神的、身体的に傷つき休職してしまう可能性もあります。ハラスメントの解決に企業が積極的に乗り出さない場合は、仕事に対するモチベーションにも悪影響を及ぼすかもしれません。

また、解決のために人事担当者によるヒアリングや対策会議を行うことで他の仕事の生産性が低下します。解決した後も加害者と被害者が良好な関係に戻れる保証もないため、配置換えなどの対策も考慮しなければなりません。

離職率が増加する

自身の性別に関わるからかいや嫌がらせは、時として深刻なまでに人を傷つける行為です。自分らしく働けない状況で、加害者とも毎日のように顔を合わせなければならないというシチュエーションは、想像以上にストレスがかかります。

ジェンダーハラスメントで傷ついた社員の中には、離職する方もいるでしょう。企業側にとっては、せっかく採用し育成した人材がハラスメントを理由に離職してしまう事態は大きな損失です。ここまで社員にかけた手間や費用のほか、新たな人材を採用するコストもかかります。直接の被害者でなくとも、周囲で見ていて職場環境の悪さに嫌気が差して社員が辞めてしまう可能性も考えられます。労働者の心理的安全性を高め就業環境をよくするためにも、事前対策は重要です。

企業イメージが低下する

ジェンダーハラスメントが企業内で起こり問題がメディアで取り上げられたりSNSで拡散されたりすると、企業自体のイメージを損なうかもしれません。今は多くの方がSNSのアカウントを所持しているため、従業員からの内部告発がSNSを通じて広まる可能性もあります。ハラスメント行為は社会的な問題として注目されているため、SNSでの告発がときとしてメディアで取り上げられるよりも素早く拡散されることもあるでしょう。

企業が状況を把握するよりも早く情報が出回ると企業の悪評が広まり、顧客離れにつながりかねません。サービスや商品に対して不買運動といった形で抗議の声が上がれば、企業としても大きな損失を被ることになります。

企業におけるジェンダーハラスメントに対する対策

ジェンダーハラスメントを未然に防ぐためには、どういった言動がジェンダーハラスメントにつながるのかという知識や理解を深めることが大切です。

ここでは、社員の意識を高めるために社内でできる事前対策について解説します。

企業方針を明確にする

企業がジェンダーハラスメントに取り組むという姿勢をはっきりと見せることにより、社員たちへの啓発がスムーズに進みます。また、社外にも取り組みを知ってもらうことで顧客や就職希望者にアピールすることも可能です。方針を明確に打ち出すには、以下のような方法があります。

・社是や社則として明文化する
ジェンダーハラスメントへの取り組みについて、社内の方針として明文化する方法です。多くの社員が目にすることになり、実際に問題が起きたときにも対応しやすくなります。
・ホームページなどに方針を提示する
顧客や投資家に対するアピールとして有効です。社内外に向けてもジェンダーハラスメントへの取り組みを発信することで企業としての信頼感も高まります。

加えて、経営者や役員もジェンダーハラスメントに対して積極的に学ぶ姿勢が欠かせません。組織が一丸となって問題に取り組む姿勢を大切にしましょう。

ガイドラインを制定する

社内規則として、ジェンダーハラスメントが起きたときの対処法や処分についての規定を明文化することも重要です。また、罰則だけでなくジェンダーハラスメントそのものを禁止するといった規則もあると予防効果があります。

ジェンダーハラスメントはまだ個人的な理解に差があるのが現状であり、通達を読んだだけでは周知や理解が行き届かない可能性があります。規則を社員に共有する際には通達だけでなく、きちんと説明会を実施した方がより効果に期待できるでしょう。こうしたガイドラインや実際に被害に遭った際の相談窓口を、社員がいつでも確認できるようにしておくことで、ジェンダーハラスメント防止に向けた意識が高まります。

社内教育・研修を実施する

ジェンダーハラスメントは、自身の言動が人を傷つけるものだと思っていなかったというすれ違いによっても引き起こされやすいという特徴があります。実際にどのような言動がハラスメントに当たるのか、知らない社員も多いかもしれません。企業内の共通理解としてジェンダーハラスメントを認識するためには、定期的に研修を実施することが大切です。

また、全員が基礎的な認識を共通する必要がある一方で、管理職や人事担当、相談窓口となる社員にはより特別な研修を実施するといいでしょう。管理職や人事担当は社員と接する際により慎重な態度が求められます。相談窓口の担当者が相談者に対して問題のあるコミュニケーションを取ると、セカンドハラスメントになりかねません。研修の方法は外部講師に依頼するほか、オンラインで行うことも可能です。

弊社のハラスメント対策ツール「Gap Graph」を導入いただければ、パソコンやスマートフォンからジェンダーハラスメントについて分かりやすく学べます。

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まとめ

ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)とは、性別における固定概念に基づき、自身の考えを相手に押しつけたり発言によって嫌がらせをしたりする行為のことです。女性だけでなく男性にも起こり、男性から男性と同性間でも起こる可能性があります。

ジェンダーハラスメントは現代において個人間の問題ではなく、企業も責任を持って対処する必要のある問題です。問題が起こっていることを放置し見て見ぬふりを続けると法的なリスクを負ったり、従業員の離職率の上昇や企業イメージの低下につながったりするおそれがあります。企業方針を明確にし、社内教育・研修などを実施して、社内全体でジェンダーハラスメントに対する意識を高めることが大切です。

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