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創考喜楽

第10回:「重い方」と「力が強い方」、
綱引きはどちらが勝つか?

KNOW-HOW

運動会の綱引き

 

 運動会でおなじみ、綱引きの勝負を考えてみます。綱引きは公正を期すため白組と赤組の人数は同じにしますが、体重の合計が同じにはまずなりません。たとえば白組の総重量の方が重かったとすると、綱引きの勝負をする前から結果は決まっているのでしょうか? 「そんなことはない。体重が重くても、綱を引く腕力が弱ければダメだ」と反論する人が多いのではないかと思います。腕力の他、綱を握る握力、地面に対して突っ張る脚力などが重要だと、経験的・直感的に感じることでしょう。確かに綱引きには、様々な要素が絡んできます。そこでサイエンス思考で重要な単純化を使って、この問題を考えてみましょう。

 

 

2台の車の綱引き勝負

 

 話を簡単にするために、下の図のように2台の車が綱引きをすることを考えます。右側の白組の車は車体が軽くて600 kg、左側の赤組の車の方が重くて1,000 kgとします。ただし軽い白組の車の方がエンジンの馬力が強くて100馬力、赤組の車は60馬力です。つまり綱引きでいうと、白組の方が総重量は軽いけど力持ちが多く、赤組には力持ちがそんなにいないけど総重量が重い、ということになります。

 

 

 この2台の車の勝負はどちらが勝つでしょうか? 総重量が重い方なのか、それとも馬力が強い方なのか。または「重さと馬力のかけ算こそが重要で、この場合、かけ算した値が同じなので引き分けになる」と考える方もいるかもしれません。しかし勝負を分けるポイントは重さでも馬力でもなく、実は2台の車のタイヤなのです。

 

 タイヤと地面の間に摩擦があるから、車は進むことができます。摩擦がない氷の上では、車は進むことができません。ですからタイヤの性能が非常に重要なのです。F1などのレース中に、タイヤを交換しているのを見たことがあると思います。タイヤがすり減って摩擦力が落ちると、走行能力が格段に下がってしまうのです。つまりこの綱引きの勝負も同じ地面での勝負なら、タイヤが鍵を握ります。タイヤが同じなら、地面との摩擦係数も等しくなります。摩擦力は(重さ)×(摩擦係数)というかけ算で計算されます。つまり同じタイヤの場合は重い方、この勝負なら赤組の車が勝ちます。意外かもしれませんが、馬力は関係ありません。綱がピンと張って静止している状態では、右向きの力と左向きの力は釣り合っているのです。つまり、どちらの力も同じということになります。

 

 綱引きの勝負では、負ける方がタイヤの回転とは関係なく引きずられるということですから、タイヤと地面との間の摩擦力が小さい方が負けるのです。

 

 

綱引き勝負は体力も必要

 

 話を運動会の綱引きに戻します。ここでも一番重要なのは、参加者の履いている運動靴と地面との摩擦です。白組は摩擦のしっかりある靴を履いていて、赤組は摩擦のないつるつるの靴を履いていたら、全く勝負になりません。靴の差で決まるのは良くないので、綱引きは裸足でやるのが基本です。また地面に差があってはいけませんから、通常は1回戦と2回戦で場所を交代します。そのように条件を等しくしたら、結局、総重量が重い方が勝つのでしょうか?

 

 基本はそのはずです。しかし実際には綱を離したり、倒れたりして重さに貢献しない人が出てきます。また綱を固定し、自分の体重をしっかりと綱に乗せ、自分の足の位置を固定する脚力があることが必要になります。その条件を満たすには体力が必要になるので、体重だけではなく、やはり体力も関係してきます。でも、一番大事なのは、地面との摩擦です。

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