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コーチングで組織の生産性向上|今すぐ実践できる4つのステップ
近年では、個々の社員が自己理解を深め、自己成長が行える環境を提供するために、「コーチング」という手法が注目されています。コーチングは、対話を通じてクライアントの自己認識を深め、自律的な思考と行動を促す手法です。コーチングによって、社員のモチベーションの向上と能力の最大化が図られ、結果的に組織全体の生産性の向上にも寄与することが期待されています。
当記事では、コーチングとは何かといった基礎的な内容から、コーチングのスキル・やり方の4ステップといった実践的な内容まで、分かりやすく紹介します。
コーチングとは
コーチングは、個々人やグループの自らの成長や変化、気づきを促し、その人の潜在能力を最大限に引き出すためのコミュニケーション技術です。コーチングの定義は明確にはないものの、コーチングの核心には「答えはその人自身の中にある」という考えがあります。
コーチングの手法では、コーチが質問を通じて対話を進めることで、クライアント(コーチングを受ける側)の思考を刺激します。クライアントが自らの意志で自己開示をし、目標に向けた自発的な行動を促す手法です。コーチの役割は、クライアントが自分自身について深く考え、自分らしい解決策や行動計画を見つけるのを支援することです。
コーチングは、個人のライフスタイルの改善・仕事におけるキャリア・学業・スポーツのパフォーマンス向上など、さまざまなシーンで活用されます。経営者から学生、アスリートから個人まで、幅広い層に対して適用可能な方法です。
多くの場合、コーチングは1対1で行います。
コーチングとティーチング・カウンセリングの違い
コーチングと似た用語に、「ティーチング」や「カウンセリング」があります。違いはそれぞれ以下の通りです。
コーチング | ティーチング | カウンセリング | |
受ける側の姿勢 | 能動的 | 受動的 | 能動的 |
教える側の行動 | 主に傾聴する | 主に発言する | 主に傾聴する |
目的 | クライアントが、自らの中にある答えを見つける | 知識や解決策を直接教える | 心理的・精神的な課題の解決 |
メリット | クライアントの自発性や主体性を育める | 緊急性の高い問題やノウハウの伝達に有効 | 精神的にマイナスな状態なクライアントを、健康的な状態に回復させられる |
デメリット | 効果が出るまでに時間がかかる | 教わる側が受け身になりやすい | カウンセリングを行う人は、基本的に専門資格が必要 |
そのほかの違い | クライアントが持っている可能性を引き出せるアプローチ | 社内研修や学校の授業などが代表例 | 医学的・心理的な文脈で使われる用語 |
ティーチングでは「教える」ことが中心であり、コーチングでは「導く」ことが中心となります。
また、カウンセリングは、感情的な課題や心理的な悩みを持つクライアントが、その課題を解決するために精神的な支援を提供する手法です。コーチングと比較すると、カウンセリングはより深い心理的な問題に焦点を置き、治癒や回復を目指します。それに対し、コーチングは主にクライアントの将来の目標達成とパーソナルな成長を支援することに焦点を当てます。
コーチングの歴史
コーチングという概念は、1500年代に馬車を意味する言葉(コーチ:coach)から生まれています。
・その後、人々を望む目的地へ送り届ける役割から、人の目標達成を支援する手法へと、意味が広がっていく ↓ ・1840年代にはオックスフォード大学で、学生の受験指導を行う個人教師が「コーチ」と呼ばれるようになる ↓ ・1880年代にはボート競技の指導者が「コーチ」と呼ばれるようになる(このスポーツでの使用が今日のコーチングの概念へとつながっていく) ↓ ・1980年代にはコーチング関連の文献が増えてくる ↓ ・日本では1997年に体系的なコーチング教育が始まる |
今日では、ビジネスにおける必須のコミュニケーションスキルとして、多様な分野で利用されています。
コーチングを導入するメリット
コーチングを受ける際は、以下のようなことが起きると、コーチングがうまく機能しないので注意しましょう。
・コーチングを受ける側がコーチ任せである ・コーチとクライアントで信頼関係が築けていない ・そもそもコーチングへの理解がない ・コーチのスキルがない、伝え方が悪い |
一方で、正しくコーチングを行えば、以下のようなメリットがあります。
社員に主体性を発揮させられる
コーチングでは、「教える」「アドバイスをする」のではなく、対話を通じてクライアント自身に思考を深めさせ、自分で答えを見つけるよう促します。相手に対して問いかけることにより、クライアントは自分自身で考え、主体的に行動計画を立てられるようになります。
たとえば、本田技研工業株式会社では従業員のキャリア自律の促進や、成長の道筋を自らが描くための支援として、コーチングを導入しています。従業員からは「自分が変わるきっかけを求めている方は、コーチングを受けることで何かが動き始めるのではないか」というポジティブな声が実際に挙がっています。
管理職のマネジメントスキル向上につながる
管理職がコーチングの技術を使って社員と対話することで、部下との信頼関係をさらに築き、各社員の意見や志向を理解できるようになります。個々の社員に適した目標設定やスキル開発へと結びつき、結果的に部下の自立と組織全体のパフォーマンス向上にも寄与するでしょう。
コーチングは、コーチとなる管理職自身にも深い洞察力と忍耐力が必要となるため、管理職自身のリーダーシップと人間性の成長も促します。
リクルートマネジメントソリューションズによれば、大手企業(例:金融機関・大手メーカー・総合商社など)では、課長層にコーチングを受けさせている企業が増えているそうです。会社を成長させるための投資の1つとして、課長層に対しても一律の支援ではなく、個別支援を行い、その手法としてコーチング施策が実施されています。
チームのコミュニケーションが活発になる
コーチングは、一方的ではなく双方向のコミュニケーションを取る手法です。コーチングをすることで、部下が積極的に自分の考えを表現し、上司がそれに耳を傾ける文化を育てます。チームメンバー間での情報共有や相互理解を深め、効率的な業務分担や問題解決にもつながるでしょう。
たとえば、Sansan株式会社ではコーチングをすることで「上司とチームではなく、チームメンバー同士がそれぞれ相互理解を深めることが重要だ」という気づきを得た方がいます。その気づきによって行動を起こし(施策を打ち)、チームの雰囲気が目に見えるように変わったそうです。
社員が自分の能力を知り成長する機会になる
対話を通じて社員一人ひとりの考えや意見を引き出すことで、従来の業務にとどまらず、新たな職務での可能性を発見し、能力の開花を促しやすくなります。コーチ側も、コーチングを通じてメンバーの多様な価値観やアイデアを引き出せられれば、新しい社員の強みや成長の機会に気付けるでしょう。
実際にコーチングを受けた本田技研工業株式会社の従業員からは、「コーチが客観的に褒めてくれるため、自分の強みに気づけた」「今後は自分自身が夢や思いを言語化し、行動に移すことで周りの社員にも影響を与えたい・その起点になりたい」という声も挙がっています。
コーチングに必要な基本のスキル
コーチングをするには、相手の話を聞き、質問から相手に気づきを与えるスキルが必要になります。以下では、傾聴・質問・承認の3つのスキルについて分かりやすく紹介します。
傾聴
傾聴はコーチングにおいて基本的なスキルの1つです。話を単に聞くことではなく、その背後にある感情や意図、非言語的コミュニケーションまでを深く理解しようとする姿勢を指します。
傾聴によってクライアントが真に伝えたいメッセージをコーチが受け取り、それを基に適切な質問をすることで、クライアントの自己理解や問題解決を助けます。傾聴のスキルは、コーチとクライアントの信頼関係を築き、安心して自分の考えや感情を開示できる環境を作るためにも重要です。
コーチが傾聴を通じて示す共感と理解は、クライアントが自己の内面と向き合い、新たな洞察を得る過程を促進します。
質問
コーチングにおける質問は、単に情報を得るためのものではなく、クライアントの深い自己認識と洞察を引き出すための手法です。よい質問は、クライアントが自分自身の考えや信念、感情を深掘りしやすくなり、自己解決のための答えを見つけやすくなります。
コーチングの質問では、「どう思いますか?」「何を望んでいますか?」といったようなオープンクエスチョン(はい・いいえで答えられない質問)が特に有効です。クライアントがより深く・より自由に思考できるようになります。
ほかにも「掘り下げる質問」「話題を広げる質問」「未来に関する質問」など、コーチがさまざまな質問を上手に行うことで、クライアントは少しずつ自身の考えや感情を整理でき、自身の真の目標や解決策を明らかにしていけます。
承認
承認もコーチングにおいて重要なスキルの1つです。クライアントの価値や進歩を認め、その達成や努力を肯定する行為を指します。コーチが承認することで、クライアントは以下のような恩恵を受けられます。
・クライアントに安心感を与え、前向きな変化を促す ・クライアントは自分自身の強みや成功を認識し、自己肯定感やモチベーションが高まる ・コーチとクライアントの間に信頼感が深まる(セッションがうまく進みやすくなる) |
承認で大切な点は、クライアントの小さな進歩や成功を見逃さず、それを素直な言葉で認めることです。
コーチングのやり方の基本4ステップ
コーチングを実際に行う際は、以下の4ステップに沿って行いましょう。
STEP1 | お互いの信頼関係を構築する |
---|---|
STEP2 | 現状や現在抱えている課題を確認する |
STEP3 | 目標を明確にして計画を立てる |
STEP4 | 継続的にフォローする |
各ステップで意識すべきポイントを解説します。
お互いの信頼関係を構築する
コーチとクライアントが相互に尊敬し、信頼し合える環境を作ることが目的です。
信頼関係は、コーチがクライアントの言葉を注意深く聞き、理解しようとする傾聴の姿勢から始まります。ここでのコミュニケーションは、正直かつ開かれたものでなければなりません。コーチはクライアントの価値観や目標を尊重し、あらゆる判断を控えながら支援する必要があります。この関係性を通じて、クライアントはコーチを信頼し、自身の考えや感情を安心して共有できるようになるでしょう。
信頼を築く過程では、コーチが自分の信念や前提を横に置き、クライアントのニーズを第一に考え、真摯に対応する態度が大切です。強固な信頼関係は、コーチングセッションの効果を大きく高め、クライアントが自己の潜在能力を最大限に引き出すための土台となります。
現状や現在抱えている課題を確認する
このステップでは、コーチが質問を通じてクライアントの現在地を理解することが重要です。クライアントがどのような状況にあるのか、何に挑戦しようとしているのか、何が障害となっているのかを深く掘り下げます。この過程で、クライアント自身も自分の状況に対する深い洞察を得られます。
コーチはクライアントが課題について語るのを傾聴し、クライアントが自己認識を深めるよう促しながら、課題の核心に迫れるように助けましょう。ここでのポイントは、クライアントが課題を言語化し自覚することで、問題解決への意欲を高める点にあります。また、クライアントが感じている感情や信念にも注意を払い、それらが現状の認識にどのように影響を与えているかを理解することも大切です。
クライアントが自分の状況について深い理解を持てれば、より適切な目標設定につながり、コーチングのプロセス全体がスムーズに進行します。
目標を明確にして計画を立てる
クライアントが達成したい具体的な成果を定め、それを実現するための行動計画を策定するステップです。この段階でのポイントは、クライアントが真に望む目標を探し、それを明確な言葉で定義することです。
コーチは、クライアントが目標に対して強いコミットメントを持てるように、適切な質問をしながら、目標の具体的な部分を一緒に考えます。重要なのは、目標が現実的でありながらも少しチャレンジングであること、クライアントが自分にとって意義深いと感じるものであること、進捗を明確に追いやすいようにすることです。
このプロセスを通じて、クライアントは自己実現への道を具体的に描き、1歩ずつ前向きに進めるようになります。
継続的にフォローする
クライアントが立てた計画に沿って行動し続けるために、コーチは継続的な支援をします。定期的にセッションを設けて目標達成の進捗を確認し、必要に応じて計画の調整や再設定をすることが重要です。この時、小さな成功も大きな成功も、同じくらいの重要性を持って承認し、祝福するようにしましょう。また、クライアントが挑戦や困難に直面した際には、コーチが共感を示し、問題解決に向けてサポートすることが重要です。
コーチングでは、クライアントが自己責任を持って行動することを促すため、フォローアップも自律的かつ建設的なフィードバックを基に行いましょう。クライアント自身が経験から学び、成長する機会を持てるように、コーチは直接的にフィードバックするのではなく、あくまでガイドとしての役割を果たしましょう。
また、コーチングを実践する場としては、1on1ミーティングが有効です。
管理職のコーチングスキルを高める方法
管理職がコーチングスキルを身につけることで、部下の自主性と責任感を促し、チームの能力を最大限に引き出せます。以下では、管理職のコーチングスキルを高める方法を2つ紹介します。
コーチングを受けてもらう
実際にコーチングを受ける経験を通じて、管理職のメンバーはプロのコーチから直接学び、コーチングの技術と方法を理解できます。コーチがどのように質問・傾聴し、承認するかを実際に体験して、それらの技術を自身がコーチとなる際や、日々のマネジメントにも取り入れられるとよいでしょう。
実際にコーチングを受けたマネージャー層の方の中には、「自分自身を責める回数・時間が減り、心が穏やかにいられるようになった」「自分の感情にどう向き合い、どう対処すればよいか分かってきた」という感想を持つ方もいます。
コーチング研修で学んでもらう
コーチングの原理と技術を体系的に学ぶために、コーチング研修を受けるのもおすすめです。たとえば、プロコーチの河本氏は、研修を受ける方に向けて以下のようなメッセージを記載しています。
人は自分のことをよく知っているつもりでも、意外とわかっていなかったりします。特に自分にとって「ごくフツーであたりまえ」の感じ方や考え方、物の見方や捉え方には無自覚です。そのまま単に目標達成や問題解決、自己実現をしようとすると、その行動がつらくて続かなかったり、決めたけど行動しなかったり、どう行動していいかわからない…ということが起きます。
この「ごくフツーであたりまえ」は、自分特有の心のクセであり、「意欲の仕組み」であり、行動の原動力となる大切なエネルギーです。この「意欲の仕組み」に気づき、活かすような行動をとることで、自発的・主体的に行動することになり、結果として目標達成や問題解決、自己実現へと向かっていくことになります。
コーチは、セッションを通じてこの「意欲の仕組み」への気づきと活用のサポートをしていきます。
コーチング研修では、コーチングの基本的な概念から始まり、効果的な質問の技術、傾聴の方法、承認の重要性、目標設定、アクションプランの作成など、実践に必要なコーチングのスキルを段階的に習得できます。研修によっては、座学だけでなく、ロールプレイや、グループディスカッション、ケーススタディなどのインタラクティブな活動をする場合もあります。
まとめ
コーチングを導入するメリットとして、社員に主体性を発揮させられる・管理職のマネジメントスキル向上につながる・チームのコミュニケーションが活発になるといった点が挙げられます。
コーチングをする際は、傾聴・質問・承認という基本の3つのスキルをまずは学習しましょう。その上で、クライアントと信頼関係を構築することも大切です。管理職の方がコーチングのスキルを取得するためには、会社としてコーチング研修の場などを設けることもおすすめです。
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