LGBTQとは?意味や課題・企業の取り組み事例を分かりやすく解説

LGBTQ

LGBTQとは性的マイノリティ全体を表す言葉です。近年、LGBTQ当事者である方は日本で増加傾向にあり、理解と受容が進んでいます。国際的にもダイバーシティとインクルージョンについての意識が高まっている現状において、LGBTQ当事者への適切な配慮は企業活動において重要性を増しています。職場での不当な扱いや差別を未然に防ぐため、HR担当者はLGBTQ当事者が社会に感じている課題を知り、誰もが働きやすい職場を作るのが大切です。

この記事ではLGBTQやセクシュアリティについての基礎知識や、企業がLGBTQ当事者に向けてどのような取り組みをするべきかを事例付きで解説します。

LGBTQ理解研修


LGBTQとは

LGBTQの説明

LGBTQとは、性的マイノリティの方を表す総称です。「LGBTQ+」や「SOGI」と表記される場合もあります。

LGBTQという言葉は、性的マイノリティを表す英語の頭文字で構成されています。各頭文字の意味は下記の通りです。

文字言葉意味
Lレズビアン(Lesbian)性的指向が女性である女性のことです。
Gゲイ(Gay)性的指向が男性である男性のことです。
Bバイセクシャル(Bisexual)本人の性自認と関係なく、性的指向が男性と女性のどちらでもある方を意味します。
Tトランスジェンダー(Transgender)生物学的な性別と、性自認の性別が一致していない方のことです。
Qクィア(Queer)性的マイノリティを包括的に意味する単語です。
Qクエスチョニング(Questioning)自分の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは定めていない方を意味します。

LGBTQという言葉は、もともとは「LGBT」という呼び方で、2006年のモントリオール宣言をきっかけに広まったとされています。現代ではLGBTにQをプラスした「LGBTQ」が、多様な性のあり方を表す言葉として広く使われるようになりました。

以下では、LGBTQに含まれるそれぞれの言葉について、より詳しく説明します。

レズビアン(Lesbian)

レズビアン(Lesbian)は、性自認が女性であり、性的指向も女性である方を表す言葉です。「L(エル)」や「ビアン」という言葉が使われることもあります。

レズビアンの定義では「性自認が女性であること」とされているように、本人の生物学的な性別は問われていません。生物学的な性別は男性であっても、性自認が女性であり、性的指向が女性であればレズビアンに当てはまります。

なお、「レズ」という略語は、レズビアンへの差別的な意味で使われていた歴史があります。誤解を生まないよう、略さずに「レズビアン」という言葉を使いましょう。

ゲイ(Gay)

ゲイ(Gay)は、性自認が男性であり、性的指向も男性である方を表す言葉です。

レズビアンの場合と同様に、ゲイについても本人の生物学的な性別は定義に含まれません。生物学的な性別が女性であっても、性自認が男性で、性的指向が男性であればゲイに当てはまります。

ゲイと間違われやすい言葉に「オネエ」や「ホモ」があります。

オネエは、女性的な見た目の服装や仕草を好む男性を表す言葉です。オネエには「性的指向が男性である」という意味は含まれておらず、ゲイと同じ意味の言葉ではありません。

もう1つのホモという言葉は、同性愛者への偏見を込めて使われていた歴史があります。差別的なニュアンスを含む言葉であるため、使わないようにしましょう。

バイセクシャル(Bisexual)

バイセクシャル(Bisexual)は、男性・女性のどちらに対しても恋愛感情を持つことができ、性的にも魅力を感じる方を表す言葉です。日本語では「両性愛」と表現する場合もあります。

バイセクシャルという分類に、本人の性自認や生物学的な性別が男性・女性のどちらであるかは関係しません。性的指向が男性・女性のどちらでもある、さまざまなケースを包括した性的マイノリティが「バイセクシャル」です。

トランスジェンダー(Transgender)

トランスジェンダー(Transgender)は、本人の性自認と生物学的な性別が一致していない方を表す言葉です。出生時の性別と性自認が異なる方や、性別違和を抱いていて異なる性別で生きたいと願っている方、現に異なる性別で生きている方が当てはまります。

身体は男性であっても自分を女性と感じている方や、男性の身体で生まれたものの男性として生きることに違和感がある方がトランスジェンダーの例です。

また、トランスジェンダーの定義では性的指向は特に言及されません。本人の性自認と生物学的な性別が一致していなければ、性的指向がどのような形であっても「トランスジェンダー」です。

クィア(Queer)

クィア(Queer)は、性的マイノリティを包括的に意味する言葉です。LGBTQの中では、クィアはLGBTカテゴリーに当てはまらない性の多様性を包含するために用いられることもあります。

クィアは英語で「不思議な」や「風変わりな」という意味を持つ単語であり、同性愛者への理解がなかった時代には蔑称として使われていた歴史がありました。

しかし、近年では性的マイノリティの当事者が、ポジティブな意味を込めて使うケースが増えています。

性的マイノリティとひとくちに言っても、マイノリティの中にはさまざまなタイプが存在していて、LGBTの4つだけで表せるわけではありません。LGBTだけを性的マイノリティとせず、より多くの性的マイノリティも含めた表現として「クィア」が使われています。

クエスチョニング(Questioning)

クエスチョニング(Questioning)は、自分の性自認や性的指向を定めていない方を表す言葉です。具体的には、自分の性自認や性的指向が男性・女性のどちらであるかで迷っている方や、あえて自分の性を決めていない方がクエスチョニングに該当します。

クエスチョニングの方が性のあり方を定めない理由は、人によって違いがあります。LGBTの中で自分にしっくりくるものがない方や、そもそも自分の性のあり方を1つに決めたくない方もいるでしょう。

性のあり方を決めかねている方や、性のあり方にとらわれたくない方を表す言葉として、「クエスチョニング」が使われています。

LGBTQを理解するためのセクシュアリティの基本

LGBT法

LGBTQと密接にかかわる考え方として「セクシュアリティ」という概念があります。

セクシュアリティを分かりやすく表現すると「性のあり方」であり、「自分が自分の性をどのように認識しているか」を4つの要素から捉えた考え方です。

以下では、セクシュアリティの成立にかかわる4つの要素を解説します。

生物学的な性別

生物学的な性別は、生まれたときに医学的な判断によって割り当てられた性です。「生物学的性」「身体的性」と呼ばれるときもあります。

医学的な性別の判断では、外性器・内性器といった生殖機能の違いを調べることで行われます。例としては、妊娠出産ができる生殖機能を持つのは生物学的な女性であり、生物学的な男性にはありません。

日本では、医学的な性別の判断を受けた上で、生物学的な性別を出生届に記入して提出します。

性自認

性自認は、自分自身が認識している性のことです。

「男性である」「女性である」「男性・女性のどちらでもある」「どちらでもない」など、性自認にはさまざまな認識があります。性自認と生物学的な性別は独立しており、性自認が生物学的な性別と一致する方もいれば、生物学的な性別とは一致しない方もいるでしょう。

性自認が生物学的な性別と一致しない方は、トランスジェンダーと呼ばれます。

また、性自認をまだ定めていないクエスチョニングの方や、性自認が男性・女性のどちらでもない「Xジェンダー」という性の方もいます。

性的指向

性的指向は、どの性別に恋愛感情や性的魅力を感じるかを示す言葉です。

性的指向は主に下記の3つに分類されています。

異性愛(ヘテロセクシャル)異性に対して恋愛感情や性的魅力を感じる。
同性愛(レズビアン・ゲイ)同性に対して恋愛感情や性的魅力を感じる。
両性愛(バイセクシャル)男性・女性の両方に対して恋愛感情や性的魅力を感じる。

また、男性・女性のどちらに対しても恋愛感情や性的魅力を感じない「アセクシャル(Aセクシャル)」という性的指向もあります。

性表現

性表現は、見た目や服装、言動などによって社会へと表現される性のことです。

社会から期待されている行動や役割を性表現で示す使われ方が多く、「男らしさ」「女らしさ」という考え方も性表現の一種と言えます。

しかし、性表現はあくまでも周囲からの性の見え方であり、本人の生物学的な性別や性自認と一致しているとは限りません。

ファッション業界では、男女の境界がない「ジェンダーレス」や、男女の概念を持たない「ジェンダーフルイド」という言葉が使われるようになっています。

LGBTQへの配慮が企業活動で重要になった背景

以降では、LGBTQに関連する企業活動にフォーカスをして解説します。

LGBTQへの配慮が企業活動において重要になった背景には、LGBTQ当事者であると認識する方が増えていることがあります。

電通ダイバーシティ・ラボが2020年に行った調査では、全国20~59歳の計6万人に及ぶ対象者のうち、LGBTQに該当すると回答した方は8.9%でした。

※出典:電通ウェブサイト「電通、「LGBTQ+調査2020」を実施」

他の機関が行った調査においても、割合の数値は幅があるものの、おおむね8~10%がLGBTQに該当すると回答しています。10人~13人に1人がLGBTQに該当していることになり、企業の顧客や社員にもLGBTQの方が少なくないと考えられます。

LGBTQ当事者であると認識する方の増加を受けて、企業ではダイバーシティとインクルージョンについての意識が高まっている状況です。企業活動において、ダイバーシティは「人材の多様性」、インクルージョンは「多様な人材の特性を生かす」ことを意味する用語です。

企業がダイバーシティとインクルージョンを意識すれば、LGBTQの方にフレンドリーな経営を行えます。誰もが自分らしく生きられる社会の実現に貢献することは、現代の企業に求められる社会的な責任の1つです。

LGBTQ当事者が社会に感じる課題

課題・問題

LGBTQへの理解はまだ十分には進んでおらず、結果としてLGBTQ当事者が自分の生き方に苦しみを抱えるケースもあります。

LGBTQ当事者の方が苦痛を感じるケースとしては、以下のような点が挙げられます。

職場での無理解による差別

LGBTQという言葉は広く知られるようになったものの、LGBTQへの理解の程度は人によって異なります。職場でのLGBTQの無理解により、LGBTQ当事者が差別に苦しむケースは少なくありません。

例を挙げると、「同性愛であることを理由に仲間外れにされる」や「飲み会で性的指向をからかわれる」などの差別があります。「上司や同僚の前で、異性愛者として振る舞わなければならない」という例も、LGBTQ当事者が抱えやすい苦痛の1つです。

「LGBTQへの理解がない職場では、偏見による苦痛があったり、いじめ被害を受けたりしても相談先がない」というケースもあります。

結婚や医療制度における不当な扱い

LGBTQ当事者の方は、結婚や医療制度において不当な扱いを受けています。

まず結婚については、日本では同性婚(性別が同じ2人が結婚すること)についての法整備が進んでいません。結婚ができないと法律上の夫婦になれず、「子どもの親権者になれない」「パートナーが亡くなったときに相続ができない」など、困る状況がいくつもあります。

医療制度では、法律上の夫婦でなければ同性パートナーの入院時に付き添いができないケースがあります。本人の同意があれば付き添いを認められる可能性はあるものの、パートナーが重態であり、事前に意思表示書の作成もしていない場合は、状況を変えることは難しいでしょう。

家族向けサービスからの拒否

LGBTQの同性カップルは、日常生活や職場において家族向けサービスからの拒否を受けるケースがあります。日本の家族向けサービスは、異性カップルを夫婦の要件とする傾向が強く、同性カップルの利用を想定していないことが多いためです。

「結婚式で、同性婚であることを理由に式場の利用を断られた」「家族割引サービスを利用する際、親族ではないことを理由に断られた」などの例が挙げられます。

家族向けサービスから拒否されることに恐れを感じ、サービスの利用そのものを躊躇う方がいる点も、企業側は課題として捉えるとよいでしょう。

【事例付き】企業がLGBTQ当事者に向けてするべきこと

働きやすい環境

企業がLGBTQに対して公平な取り扱いをすることは、単に特定の人を優遇するのではなく、誰もが働きやすい職場づくりにつながります。

最後に、LGBTQフレンドリーな企業の事例を通して、企業が行うべき取り組みや対策を解説します。

多様性についての意思表明をする

企業はLGBTQを含めた多様性についての意思表明をして、行っている取り組みや支援を社内外に周知しましょう。

企業が多様性についての意思表明をすることで、LGBTQ当事者の方が企業の方針を認識できて、支援の輪を広げられます。当事者ではない方にとっても、LGBTQへの理解を深めるきっかけとなるでしょう。

●株式会社ファミリーマートの「ALLY活動」

株式会社ファミリーマートは、多様性への意思表明ができる支援活動として「ALLY(アライ)活動」を行っています。

ALLYは「味方」「支援者」を意味する英語です。ALLY活動では、ALLYを表明した社員にステッカーを、ALLY活動に参加した社員にはグッズを配布し、LGBTQへの支持・支援を表明できるようにしています。

株式会社ファミリーマートのALLYメンバーは全国で160名を超えていて、地域ごとにさまざまな取り組みやイベントを行っています。

LGBTQの社員が働きやすい環境を作る

企業はLGBTQの社員が働きやすい環境を作る必要があります。主に取り組むべき内容は、下記の通りです。

・結婚手当や家族手当などを同性カップルにも適用可能にする
・オールジェンダーのトイレや更衣室を設置する
・社内資料の性別記述欄を不要にする
・男女の服装規定をなくす
・LGBTQの課題にも対応・解決ができる社内相談窓口を設置する
など

紹介した取り組みはLGBTQ当事者に限らず、多くの社員にとって働きやすい環境づくりにもつながります。

●株式会社物語コーポレーションの「ライフパートナーシップ制度」

株式会社物語コーポレーションは、2019年7月より「ライフパートナーシップ制度」を設置しています。

ライフパートナーシップ制度は、就業規則や各種規定において、同性カップルのライフパートナーを配偶者と見なす制度のことです。

株式会社物語コーポレーションのライフパートナーシップ制度では、制度を利用したLGBTQの社員は、法律上の婚姻関係と同等の福利厚生を受けられます。

LGBTQに関する研修の場を設ける

企業内でのLGBTQへの偏見や差別を防ぐために、LGBTQに関する研修の場を設けることが大切です。

社員一人ひとりが性自認や性的指向といった基礎知識を身につけ、LGBTQ当事者が抱えやすい悩み・苦痛を知ると、LGBTQの理解を深められます。ハラスメントやアウティングといった問題について意識し、防止できる研修も実施しましょう。

●西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)が実施しているLGBTQ研修

JR西日本は、LGBTQなど性的マイノリティについての正しい理解推進を目的として、LGBTQ研修を行っています。特にeラーニング研修は全社員を対象としており、同社で働くさまざまな職種の社員が研修を受講しやすい体制となっている点が特徴です。

JR西日本では他にも、職務階層別での研修やハラスメント防止研修も行っていて、社員のLGBTQについての理解度を高めることに成功しています。

LGBTQについて社員教育を行うには、正しい知識を習得でき、気づきの場も得られる研修を選ぶ必要があります。

LGBTQ理解研修

まとめ

LGBTQは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア/クエスチョニングの各頭文字から成る言葉で、性的マイノリティ全体を指します。日本国内でLGBTQと自認する方は、人口の8~10%程度を占めています。

企業の顧客や社員にもLGBTQの方が少なくないため、ダイバーシティ&インクルージョンが重要になる現在、LGBTQ当事者への適切な配慮が必要です。職場での差別や不平等をなくす意思を表明し、性別や性自認にかかわらず働きやすい職場を作るのが大切です。また、LGBTQ研修の場を設け、各社員が性的マイノリティについての基礎知識を学ぶ機会を作りましょう。

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