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レジリエンスとは?意味や組織が高めるべき理由・メリットを簡単に解説

レジリエンスとは?

この記事は2023.11.17に公開した記事を再編集しています
最終更新日:2024年12月23日

失敗をしたり、困難な問題が壁として立ちふさがったりするときに、ダメージを受けてもすぐに立ち直り、柔軟に考えて対応できる社員がいれば、会社組織は強くなります。逆境に負けない社員の育成は、企業が生き延びていく上で重要です。特に社員が定着せず、すぐに離職してしまう職場では、困難な状況からすぐに回復し、対応する能力である「レジリエンス」がある社員を増やすことが必要です。

この記事では、レジリエンスの意味や注目されている理由、レジリエンスが高い人材の特徴、会社が社員のレジリエンスを高めるメリット・方法を解説します。また、レジリエンスの構成因子や、レジリエンスコンピテンシーについても掲載しているため、ぜひ参考にしてください。

レジリエンス研修


レジリエンスとは?簡単に解説

レジリエンス

「レジリエンス(Resilience)」とは、回復力や復元力、弾性などを指す言葉です。もともとは物理学の用語で、「外からの負荷による歪みを跳ね返す力」という意味で使用されています。

現在では心理学やビジネスの分野で、逆境や困難な状況を乗り越える「回復力」として、また、状況に応じて生き延びる能力を意味して使われるケースが多くなりました。特にビジネスの分野では、組織や社員の適応力、ストレス耐性、課題解決能力といった側面での利用が増加傾向にあります。レジリエンスが強化されると、組織のリスク対応や危機管理能力も向上するとされており、注目度が高まっている概念です。

【分野別】ビジネスシーンで使われるレジリエンスの意味

克服する

レジリエンスという言葉は、ビジネスシーンにおいて組織の強靭さ・しなやかさを表す「組織レジリエンス」の意味で使われるのが一般的です。しかし、文脈によっては「災害レジリエンス」「環境レジリエンス」「サイバーレジリエンス」など、異なる意味で使われることもあります。

ビジネスシーンで使われるレジリエンスの意味を、分野別に簡単に解説します。

組織レジリエンス

組織レジリエンスとは、組織が環境変化やリスクに柔軟に適応しながら成長していく能力のことです。組織レジリエンスは組織を存続・繁栄させるための基盤となる要素です。

現代のビジネス環境は日々変化しており、組織が直面する問題やリスクも増加・多様化しています。組織レジリエンスの高い企業は、トラブルや自然災害などの危機に遭遇した際、適切に対応してダメージから迅速に回復し、さらなる成長を遂げられるでしょう。ただし、組織レジリエンスを高めるには、その組織を構成する一人ひとりのレジリエンスも同時に高めなければなりません。

災害レジリエンス

災害レジリエンスとは、地震や台風などの自然災害に見舞われた際の対応力やしなやかに復興する能力のことです。災害発生時には、ライフラインや公共交通がストップして日常生活に支障をきたす可能性が高くなります。災害レジリエンスが高ければ、たとえ災害により損害を受けても、素早くダメージから回復し、事業を継続できます。

災害レジリエンスの要素は、次の3つです。

予防力 … 災害を未然に防ぐ力
順応力 … 災害による影響を受け入れて対応する力
転換力 … 対策を抜本的に転換する力

災害レジリエンスを向上させるには、3つの要素を高めることが重要です。

「企業防災」について詳しくはこちら

環境レジリエンス

環境レジリエンスとは、環境変化や自然生態系に関する復元力や適応能力を意味します。SDGsとの関連性が高く、主に環境分野で用いられる用語です。

環境レジリエンスは、次の2つに分けられます。

気候変動レジリエンス環境変化に対する能力
生態学的レジリエンス自然生態系に関する能力

地球温暖化の進行や自然生態系への悪影響が続けば、環境レジリエンスは低下します。環境レジリエンスの向上は、特にESG経営やSDGsをステークホルダーが意識するようになった現代社会において、重要な要素です。

サイバーレジリエンス

サイバーレジリエンスとは、外部または内部からサイバー攻撃を受けた際に回復する能力を意味します。近年、日本ではサイバー攻撃による情報漏洩やシステムの破壊が急増しています。被害を最小限にとどめて事業を継続するためには、サイバーレジリエンスの向上が必要不可欠です。

企業がサイバーレジリエンスを高めるにあたっては、サイバー攻撃をさせない取り組みだけでなく、攻撃されることを前提に対策を講じる必要があります。

ここからは、主に組織に属する一人ひとりの強靭さ・しなやかさに関わる「レジリエンス」について詳しく解説します。

レジリエンスとストレス耐性の違い

レジリエンス力のある若手社員

レジリエンスと似た言葉にストレス耐性がありますが、どちらもストレスに対処するための能力ではあるものの、性質や働きは異なります。

レジリエンスはストレスをしなやかに受け止め、その影響から迅速に回復する能力を指します。自分の思考や感情、行動のパターンを正しく理解し、セルフコントロールの方法を学び、実践すれば後天的に鍛えられるスキルです。

一方、ストレス耐性は、心理的・肉体的に受けるストレスにどれだけ耐えられるかを示す特性を指します。一定のストレスを感じても動じずに我慢する力を指し、個人の気質や性格の影響が大きな特性です。

レジリエンスは「ストレスから回復する能力」であり、ストレス耐性は「ストレスに耐える能力」と言えます。

レジリエンスとメンタルヘルスの違い

メンタルヘルスとレジリエンスは、心の健康状態に関連する言葉ではあるものの、定義や目的が異なります。レジリエンスは「精神的回復力」や「精神的柔軟性」を表す言葉です。困難な状況や逆境に直面したとき、しなやかに対応し、悪い状況から早く回復できる能力を示します。

一方、メンタルヘルスは「心の健康」そのものを意味する言葉です。日常生活や職場でのストレスとうまくつき合いながら、心のバランスを保ち、精神的負担の軽減や精神障害を予防することを指しています。

レジリエンスは、メンタルヘルスを良好に保つポイントとなる能力の1つと言えるでしょう。

レジリエンスとハーディネスの違い

レジリエンスとハーディネスは、両方ともストレスや困難な状況への対応力を指すものの、根本的な部分に違いがあります。レジリエンスは、困難や逆境を経験した後の「回復力」を指す言葉です。心が傷ついたときや挑戦に挫折した際、より早く立ち直り、よりよい状態に持って行く能力を示します。

一方、ハーディネスは「防御力」や「傷つきにくさ」を指す言葉です。ストレスや困難な状況に直面しても容易に影響を受けない、つまり傷つかない強さを持っている、もともとの性格や精神的特性を示します。

レジリエンスは「傷ついた後の回復力」、ハーディネスは「そもそも傷つかない力」と言えるでしょう。

レジリエンスが注目されている理由

注目される理由

近年、レジリエンスが大きな注目を集める背景には、多くの理由が存在します。その中でも特に影響力のある理由を知れば、企業におけるレジリエンスの重要性を理解する手助けとなるでしょう。

レジリエンスが注目されている理由には、主に以下の3つが挙げられます。

メンタルヘルス不調で多くの人材が求職・退職している

「令和5年度版過労死等防止対策白書」によると、仕事や職業生活に関連した強い不安やストレスを感じていると答えた労働者は、全体の82.2%です。過半数に達する社員が心身に不調を感じている状況は、数字として表れています。特に大きなストレス源として挙げられているのが、「仕事の量」や「仕事の失敗、責任の発生等」、「仕事の質」です。

※出典:厚生労働省「令和5年版過労死等防止対策白書」

また、「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、精神的不調が原因で求職・退職する社員が多いことも明らかとなっています。

【過去1年間にメンタルヘルス不調が原因で休職・退職した社員がいた企業の割合】

該当する労働者がいた13.3%
連続1か月以上休業した労働者がいた10.6%
退職した労働者がいた5.9%

※出典:厚生労働省「令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」

以上のデータを見ると、メンタルヘルスの不調が就業状況に大きな影響を及ぼしていることが伺えます。企業にとってメンタルヘルス対策は課題となりつつあり、レジリエンスの重要性が高まっている背景の一因とも言えるでしょう。

メンタルヘルスに悩みを持つ若い世代が増えている

新型コロナウイルスの影響で、世界中の多くの人々が心身の不調を抱えるようになりましたが、特に若い世代のメンタルヘルスへの影響が深刻です。

ユニセフが発表した『世界子供白書2021』には、15〜24歳の若者の19%、およそ5人に1人が憂鬱さや無気力感に悩まされているという統計が掲載されています。

※出典:ユニセフ「世界子供白書2021」

また、2021年に厚生労働省が行った調査によると、新型コロナウイルス環境の変化による不安やストレスを感じている人の割合は以下の表の通りです。

【年齢別・新型コロナウイルスによる不安やストレスを感じている人の割合(%)】

 男性女性
15~19歳46.7%57.2%
20~29歳40.4%57.3%
30~39歳42.6%60.2%
40~49歳44.2%57.6%
50~59歳39.5%54.2%
60~69歳36.6%51.6%
70歳以上42.3%50.8%

※出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査結果報告書」

全体として4~5割以上が不安やストレスに悩んでおり、特に15~19歳の男性、40歳以下の女性には不安を抱えている方が多いと言えます。これから入社する若い世代の社員に対しては、特に心身のケアが重要でしょう。

以上の背景から、今後入社する新入社員の心のケアや離職防止策として、レジリエンスを育てる取り組みの重要性がますます高まっている状況です。

逆境に耐える人材を企業が必要としている

近年、新型コロナウイルス感染症の拡大やIT技術の急進などにより、社会の変動が大きくなっています。予測困難なVUCA時代の到来により、企業には逆境に対応し目標に到達できる人材が必須となりました。

VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取った言葉です。これまでの常識や経験だけでは対応しきれない状況を表しています。

危機的状況を乗り越えられる力、すなわちレジリエンスの高い人材は、企業にとっての大きな資産となるでしょう。組織全体のレジリエンスを高めるため、企業はレジリエンスの高い人材の育成や採用に注力しなければなりません。

レジリエンスの構成因子

構成因子

レジリエンスは、以下の3つの要素によって成立されていると考えられています。

・危険因子と保護因子
・精神的回復力の構成因子
・資質的要因と獲得的要因

組織全体のレジリエンスを高める上で、それぞれの構成因子について理解を深めておきましょう。

危険因子と保護因子

ストレスや困難の原因となる要素を危険因子、危険因子によってもたらされた状況を乗り越えるための要素を保護因子と言います。

危険因子の具体例は、下記の通りです。

・自然災害
・病気やケガ
・貧困
・悪化した家庭環境
・職場での人間関係のトラブル

ストレスや困難に直面した状況を好転させられるかどうかは、レジリエンスを促す保護因子が大きく影響します。

保護因子の具体例は、下記の通りです。

・個人の性格や思考
・問題解決能力
・良好な対人関係
・周囲の支援

保護因子には、性格や思考など先天的な個人因子と、問題解決能力や人間関係、周囲の支援などの後天的因子があります。企業が組織や社員のレジリエンスを高めるには、先天的因子・後天的因子それぞれへのアプローチが必要です。

精神的回復力の構成因子

精神的回復力とは、ストレスや困難を乗り越えるための個人因子です。

精神的回復力は、次の3つの要素で構成されています。

・新しいことに前向きにチャレンジする姿勢
・ネガティブな感情をうまくコントロールする力
・ポジティブな未来を予想して実現に向けたビジョンを描く力

状況や環境の変化に対応するには、前向きにチャレンジする姿勢や行動力が必要です。「怒り」「哀しみ」などのネガティブな感情をうまくコントロールできる社員は、危機的状況を乗り越えやすくなります。

資質的要因と獲得的要因

レジリエンスを促す要素は、先天的な資質を意味する「資質的要因」と後天的に身につけられる「獲得的要因」の2つに分類できます。

資質的要因と獲得的要因の具体例は、下記の通りです。

資質的要因獲得的要因
・社交性
・楽観性
・行動力
・統御力
・自己理解
・他者理解
・問題解決志向

資質的要因は、生まれながらの気質が強く影響します。ストレスや困難に対しての気持ちの切り替えの早さ、周囲からのサポートの得やすさにつながります。一方、獲得的要因は、他者との関わりを通じて身につくものです。自己理解と他者への理解が深まることで、危機的状況を乗り越えるための解決方法を見つけやすくなります。

レジリエンスを高めるのに必要なレジリエンスコンピテンシーとは

コンプテンシーとリテラシー

コンピテンシーとは、能力や技能を発揮する総合的な力を意味します。レジリエンスを高めるには、6つのレジリエンスコンピテンシーを意識することが大切です。

以下では、レジリエンスコンピテンシーを項目別に詳しく解説します。

自己認識ストレスや困難に直面している自分が、どのような状況にあるのかを客観的に判断するための能力です。行動・思考・感情・価値観などを正しく認識できていれば、危機的状況を乗り切るための一歩を踏み出しやすくなります。
セルフコントロール
(自律性)
危機的状況に陥ると、不安・恐れ・焦り・怒りなどさまざまな感情が沸き上がります。落ち着いて冷静な行動を取るには、ネガティブな感情を自分でコントロールする力が必要です。
精神的柔軟性ストレスや困難の本質的な部分に目を向ける能力です。物事を多角的にとらえることで、考え方や発想に柔軟性が生まれます。最適な解決策を見つけるには、周囲の考えに耳を傾けることも大切です。
楽観性ポジティブな未来を実現できると信じて行動できる力です。危機的状況を乗り切るためにやるべきことを具体的にイメージできている人は、失敗しても諦めずに前向きに取り組めます。
自己効力感「自分ならできる」「自分なら成功する」と思える感覚です。自分の考えや能力に自信があれば、目標に向かって積極的に行動できます。自己効力感は、経験や成功体験を積み重ねることで高まります。
関係性レジリエンスを向上させるには、良好な人間関係を築くことが大事です。人とのつながりが強ければ、ストレスや困難に直面した際の負担を軽減できます。

6つのレジリエンスコンピテンシーを意識できている企業ほど、危機的状況からの回復がスムーズです。

レジリエンスが高い人材の特徴

人財の特徴

レジリエンスが高い人は、組織にとって価値のある人材です。レジリエンスが高い人は逆境にさらされたときでも前向きに取り組み、問題解決の糸口を見つける能力に優れた人です。

普段から以下に挙げる3つの特徴に当てはまる社員は、レジリエンスが高いと言えるでしょう。

楽観的な姿勢がある

レジリエンスの高い人は、状況を正確に理解し、経験から学んで明るい未来を想像する能力があります。

たとえ何かに失敗したとしても、「次は成功するだろう」と前向きな考えを持ち続けられれば、不安感を軽減でき、自分のモチベーションを保持することが可能です。このような楽観的な思考パターンは、挑戦や困難な状況に直面した時にも視野が狭まりにくく、新しいアプローチや方法を試す力を与えてくれます。

物事を柔軟に考えられる

レジリエンスが高い人の特徴として、固定観念に捉われず、状況や内容の変化に応じて考え方や対応を柔軟に変化させる能力も挙げられるでしょう。

たとえば、進行中のプロジェクトで突然の変更要請があったとしても、その変更をネガティブに捉えて抱え込みません。新しいアプローチや視点から問題を再解析し、最適な方法を模索しつつ自分の成長にもつなげられます。柔軟性のある思考の持ち主は、短期間で環境や状況が激変しやすい現代の業界で、組織やプロジェクトを成功に導く鍵となるでしょう。

何事にもチャレンジしようとする

レジリエンスが高い人は、新しいことに積極的にチャレンジする姿勢が多く見られます。チャレンジ精神の高さは、失敗や困難を恐れない姿勢と、困難を成長のチャンスと捉えられる能力の表れです。

レジリエンスが高い人は、つらい状況や失敗が続いた場合でも、冷静に状況を分析しながら取り組めます。困難な問題や課題に直面したときも、何もしないうちから「できない」「無理」と投げ出しません。挑戦を続ける過程で、自分のスキルや知識を拡張し、結果的に組織やプロジェクトの成功に大きく寄与します。挑戦心あふれる姿勢があるか否かは、レジリエンスの高さを測る大きな指標と言えるでしょう。

会社が社員のレジリエンスを高めるメリット

効果

社員のレジリエンスを高めることは、単に個人の心の強さを育てるだけでなく、会社全体の利益にも大きく寄与します。社員の生産性が向上し、組織全体のレジリエンスが高まるなど、会社へもたらされるメリットはさまざまです。

以下では、会社が社員のレジリエンスを高めると得られる主なメリットを、3つ紹介します。

社会環境の変化に対応可能になる

社会環境の変化に対応する能力は、現代の急激に変動するビジネスシーンにおいて非常に価値のあるスキルです。レジリエンスの高い社員がいる組織は変化をチャンスと捉え、柔軟に新しい取り組みを進めることができます。企業が社員のレジリエンスを向上させられれば、社会の環境や状況の変化が唐突に起こっても、迅速にかつ的確に対応できる可能性が高まります。

たとえば、飲食チェーン店の株式会社ワンダーテーブルは、コロナウイルスの影響で飲食のスタイルが変わる中、テイクアウトやデリバリーに特化した新しいビジネスモデルを展開し、成功を収めました。組織のレジリエンスを高めるべく、社員の裁量権を増やし、積極的に新しい事業にチャレンジする姿勢を持つよう教育したことが成功の理由です。

失敗を許容し、自分で考えて時代の変化に合った事業を生み出そうとする組織風土があれば、社員のレジリエンスが高まり、新しいビジネスモデル創造につながるでしょう。

社員の業務パフォーマンスやエンゲージメントが上がる

社員の業務パフォーマンスやエンゲージメントは、レジリエンスの高さと密接に関連しています。レジリエンスが高い社員は、ストレスの中でも冷静に仕事を進め、失敗を経験しても挫けず前向きに取り組むことが可能です。

ポジティブな思考や挑戦的な姿勢は、仕事の成果や質の向上に直結し、目標達成力が高まります。また、レジリエンスの高い社員は、自己の感情コントロール力が高めです。チーム内のコミュニケーションもスムーズとなり、良好な人間関係構築に至るケースが少なくありません。

キリンホールディングスでは、営業担当の女性社員数名が、1か月間“ママ”体験の実験を行いました。ライフイベントを迎えても働き続けるパパ・ママが、高い成果を出すことのできる職場環境を整備する重要性や、周囲のサポートの価値を浮き彫りにした実験です。

この取り組みは、育児だけでなく介護や病気との両立に対する問題意識を高める効果もあり、組織の風土やマネジメントの変革のきっかけともなりました。実験を通じて社員一人ひとりが自分の働き方や考え方を見直すことで、組織全体のエンゲージメントや業務パフォーマンスの向上の要因になると示された事例です。

『エンゲージメント』について詳しくはこちら

社員の定着につながる

社員の定着には、働きやすさや仕事に対する満足感が不可欠です。レジリエンスが高まれば業務のストレスに強くなり、社員は困難な状況でも前向きに仕事を進められるようになり、休職や離職のリスクの減少が期待できます。また、組織が社員のレジリエンスを重視してサポートする姿勢を示せば、社員は「この組織でなら長く働きたい」と感じられるでしょう。

サイボウズ株式会社では、短時間勤務やリモートワーク、子ども同伴の出勤、さらには再入社制度など、社員一人ひとりのライフスタイルやニーズに合わせた施策を実施しています。これは、自社の企業理念である「お客さまのチームワークに貢献できることこそが喜びである」という考えに立ち返ったことが理由です。

企業理念を突き詰めた上で社員の働きやすさを追求し、柔軟な働き方を尊重する制度を数多く導入した結果として、心身の負担が軽くなり、組織のレジリエンスが高まりました。別々の場所で働いていても、同じ理念のもと前向きに仕事をする社員が増え、離職率を4%にまで抑えつつ、売上を2倍以上に増やすことに成功しています。

社員のレジリエンスが高まる組織の作り方

組織・チーム

社員一人ひとりのレジリエンスが高い組織は、全体としての組織レジリエンスも高まり、変化の激しい時代にも柔軟に対応して生き残っていけます。では、社員のレジリエンスを育てて強固な組織を作るには、どのようにすればよいのでしょうか。

以下では、社員のレジリエンスが高まる組織の作り方を4つ紹介します。

心理的安全性を確保する

心理的安全性の確保は、組織や個人のレジリエンスを高める鍵です。心理的安全性が確保された職場では、社員が批判や叱責を恐れず、自分の意見や感性をオープンに共有しやすくなります。失敗や問題を隠さずに共有し、チーム全体で解決策を考えることが可能です。

結果として、社員には困難な状況でも柔軟に対応し、チャレンジする意欲が生まれやすくなります。心理的安全性を高めるには、上司や経営陣が自らの失敗を認める、挑戦からの失敗を許容し、異論を歓迎する文化を築くといった方法が挙げられます。

『心理的安全性の高い職場を作る5つのポイント|ぬるま湯組織との違い』はこちら

ビジョン・ミッション・バリューを浸透させる

ビジョン・ミッション・バリューは組織の基盤となる考え方です。会社のビジョン・ミッション・バリューを明確にし、社員全員に浸透させることで、組織のレジリエンスが高まります。組織と社員の目指す方向が一致すれば社員は自信を持って行動でき、逆境時でも迅速かつ的確に対応しやすくなるでしょう。

浸透させる方法としては、定期的な研修やミーティングで理念を共有する、各社員の業務と理念の関連性を確認する、などが代表的です。ビジョン・ミッション・バリューの浸透により、組織全体の協力体制が強化されれば、時代の変化や困難にもしなやかに対応できる組織を作れます。

社員一人ひとりの裁量権を増やす

ビジネス環境が高度化・複雑化する中で、意思決定の迅速性は組織のレジリエンス向上に不可欠です。特に組織が大きく社内の階層が多いほど、スピーディな決断や実行が難しくなります。この問題を解消するための方法として、社員自身の裁量権を増やすことが有効です。

現場が裁量権を持ち、社員が主体的に業務へ取り組めるようになれば、問題の発生時にも柔軟な判断と迅速な行動が可能になります。いわゆる「現場が主役の組織づくり」は、レジリエンスを高める効果的な手法です。社員の裁量権を増やす際は、採用や教育を通じて個々の主体性を養い、権限を委譲する企業文化の醸成や制度の見直しを進める必要があります。

『主体性とは?社員の主体性を高める方法や自主性との違いを解説』について詳しくはこちら

BCP(事業継続計画)を策定する

社員のレジリエンスを高めるには、BCP(事業継続計画)の策定も効果的です。BCPを策定する目的は、災害時に素早く事業を復旧させ継続することです。社員一人ひとりが取るべき行動や優先すべきことが明確になり、レジリエンスの向上につながります。

BCPの策定では、「被害を最小限に抑えるための準備」「被害を受けた後で早急に復旧するための手順」の2つをしっかりまとめましょう。

BCP策定に成功した例として、中部電力グループでは、大規模災害発生時に備えてBCPを策定しています。災害発生時に継続すべき業務を明確化し、社員が迅速に対応できる仕組みを整えていることが特徴です。設備復旧の体制を強化するために訓練も実施しており、自治体や地域、外部機関との連携を図れるように協定の締結も行っています。

他企業の取り組み事例も参考にしつつ、レジリエンスの向上を目指しましょう。

『企業防災』について詳しくはこちら

レジリエンス研修を実施する

社員のレジリエンスを高める手段の1つとして、レジリエンス研修の実施が効果的です。レジリエンス研修の実施により、社員はストレスの仕組みを理解し、自らのストレス傾向を把握できます。また、感情やストレスのマネジメント手法を学ぶことにより、業務によって受ける負荷ともうまくつき合い、しなやかに適応する力が養われるでしょう。

研修の方法としては、外部講師を招いて社内で実施する方法や、公開講座への参加などが代表的です。いずれの方法でも、継続的な研修とアフターケアを組み合わせれば、より高い効果が期待できます。研修を通じて、社員が変化や困難にしなやかに対応できる組織を目指しましょう。

レジリエンス研修

まとめ

ビジネス分野におけるレジリエンスとは、個々の社員や会社組織が、逆境や困難に柔軟に対応し、ダメージから素早く解決して壁を乗り越える力を意味する言葉です。時代の変化が激しくなり、先の見通しが不明瞭になる中で、逆境への対応力が高いレジリエンスの高い社員の重要性は増しています。

会社組織がレジリエンスを高めれば、社会環境の変化に対応できるだけでなく、業務パフォーマンス向上や社員の定着率向上につながるでしょう。レジリエンスを高めるには、心理的安全性の確保やビジョン・ミッション・バリューの浸透、各社員の裁量権の増加、レジリエンス研修の実施などが有効です。

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