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企業防災とは?企業がとるべき防災・BCP対策を事例とともに解説
企業防災とは、企業が自然災害などのリスクに備え、従業員や資産を守り、事業の継続性を確保するための対策です。防災対策とBCP(事業継続計画)の2つの観点があり、前者は災害発生時に人命や物理的資産を守ることを目的とし、後者は事業活動を迅速に復旧させるための手段を指します。
近年、自然災害の頻発や激甚化により、企業防災の重要性が一層高まっています。本記事では、企業が取り組むべき防災対策とBCP対策について、具体的な事例とともに解説します。
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企業防災とは
企業防災とは、企業が自然災害に備えて行う取り組みです。
企業防災は、顧客・従業員の安全や会社の資産を守る「防災」と、事業活動を早期復旧させるための「BCP(事業継続計画)」の2つの観点に分けられます。
防災対策とBCP対策の具体的な内容の違いは、以下の通りです。
防災対策 | BCP(事業継続計画)対策 |
・顧客や従業員の安全を確保する ・帰宅困難者の発生を防ぐ ・会社の建物や設備などを守る | ・業務を継続させる ・業務を短時間で復旧させる ・企業の損害を最小限に抑える |
企業防災について考える際は、防災とBCPのそれぞれの観点から必要な対策を洗い出すことが重要です。
以下では、防災対策とBCP対策について詳しく解説します。
防災対策
防災対策とは、企業防災の中でも主に人や物を守るための対策です。
防災対策は「被害を軽減するための備え」と「災害発生時の対応への備え」の2つに大きく分類できます。被害を軽減するための備えとして挙げられるのは、建物の耐震化やオフィス家具の転倒防止対策などです。災害発生時の対応への備えには、従業員の安否確認方法の確立や非常食の保管などが該当します。
また、防災計画の策定や防災訓練の実施も重要な対策です。
BCP(事業継続計画)対策
BCPは「Business Continuity Plan」の略であり、災害時に事業の継続性を確保するため、事業復旧の手順をマニュアル化し、業務のバックアップを図る対策を指します。
災害発生時に事業資産への損害を最小限に抑えるには、災害による事業中断を防ぐことと、万が一事業が中断した場合に早期復旧を実現することが重要です。物理的な災害対応はもちろん、情報技術の管理・運用なども考慮しなければなりません。
BCP対策では、重要業務を選定する・復旧時間の目標を設定する・必要リソースを確保することの3つがポイントとなります。
企業防災が必要な理由
地震や台風などの自然災害の被害を受けやすい日本では、企業防災が特に重要視されています。災害発生の可能性を常に念頭に置き、日頃から積極的に防災に取り組むことが必要です。
ここでは、企業防災が必要な理由について詳しく解説します。
安全配慮義務違反により訴訟されるリスクがある
そもそも安全配慮義務とは、企業が従業員に対して労働災害を発生させないように予防措置を講じ、従業員を労働災害から保護する義務です。企業が安全配慮義務を怠って従業員が損害を受けた場合、企業は従業員に対して損害を賠償しなければなりません。
自然災害の発生自体については当然企業には帰責性がないものの、安全配慮義務が免除されるわけではありません。そのため、災害時に従業員が怪我をしたり命を落としたりした場合、企業が安全配慮義務を怠っていたと認められれば法的責任を問われます。
例として、東日本大震災の際発生した七十七銀行女川支店にて、自社ビルの屋上に避難した従業員が全員死亡または行方不明になるという悲惨な事案では、裁判所は以下のように判決を下しています。
・被告は,行員である亡H及び亡Iに対しては労働契約に伴い,労働者がその生命,身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をすべき義務があったといえる(労働契約法5条)。また,被告は,同様に七十七スタッフサービス株式会社(当時)と労働者派遣契約を締結して被告女川支店に派遣されていた亡Jに対しても業務上の指揮命令権を行使してその労務を管理していたのであるから,信義則上,同様の不法行為法上の安全配慮義務を負っていたというべきである。本件に即して言えば,被告は,本件被災行員ら3名が使用者又は上司の指示に従って遂行する業務を管理するに当たっては,その生命及び健康等が地震や津波といった自然災害の危険からも保護されるよう配慮すべき義務を負っていたというべきである。 |
※引用:裁判所「七十七銀行判決(2014年2月25日仙台地裁)」 引用日2024/09/02
企業防災は従業員の安全を確保するためにはもちろん、被災時に訴訟されるリスクを小さくするという観点からも重要です。
各地域の条例により防災が義務化されている
地方自治体では、条例によって防災への取り組みを義務化しています。
東京都では、東日本大震災での帰宅困難者の発生による混乱を受け、2013年4月に「東京都帰宅困難者対策条例」を施行しました。企業には災害時の状況に応じて従業員の一斉帰宅の抑制や一時滞在施設の確保、帰宅支援への取り組みなどが求められます。
また、大阪市では「大阪市防災・減災条例」により、企業の努力義務として防災資機材の整備や防災訓練への参加、防災計画の策定などを定めているのが特徴です。
そのほかにも、条例によって企業に対して備蓄品の具体的な内容や量などを指定している地方自治体は数多くあります。
企業防災は、地方自治体の条例に則った対策を講じるという点からも重要な役割を果たします。
対応が遅れると倒産や事業縮小リスクが大きくなる
自然災害が企業の営業活動に及ぼす影響は非常に大きく、商品・サービスの提供が困難になるケースも少なくありません。
実際に自然災害により中小企業が被った損害として挙げられるのは、役員や従業員の出勤不可や売上減少、仕入先の被災による自社への供給停止などです。中小企業庁の資料では、従業員の規模に関わらず、災害によって100万円以上の損害を受けた企業の割合は7割、1,000万円以上の損害を受けた企業の割合も3割を超えています。さらに被災後、約35%の企業では売上が減少しており、うち半数近くは売上が3割以上減少するという危機的な状況です。
※出典:中小企業庁「2019年版中小企業白書・小規模企業白書」
特に中小企業は経営基盤が脆弱であるため、事業の立て直しが遅れると従業員の解雇や事業縮小、倒産のリスクが大きくなります。
企業防災に力を入れることで災害時のリスクを最小限に抑えられるほか、被災時の安定した経営の担保によって企業の信頼性アップにもつながります。防災対策で災害のリスク・損害をすべてカバーできるわけではないものの、取るべき行動やその優先順位を明確にする重要な指針として役立つでしょう。
自然災害が頻発・激甚化傾向にある
日本はもともと地震や台風などの災害が多い上、最近では自然災害が頻発・激甚化傾向にあります。
国土交通省によれば、大雨の年間日数を1901~1930年と1990~2019年の30年間で比較すると、直近は約1.7倍の日数に増加しています。短時間強雨・土砂災害の発生回数も同じく増加傾向にあります。
※出典:国土交通省白書2020「5 自然災害の頻発・激甚化」
さらに、近年では地震や津波の被害も激甚化しており、今後も首都直下地震や南海トラフ地震などの大地震の発生が予想されている状況です。
被災リスクが高まっている現代では、企業においても災害に備えて対策を講じることが不可欠です。常日頃から企業防災に取り組んでいれば、被災時の被害を最小限に抑えられます。
企業がとるべき防災対策4選
防災対策は従業員や顧客の安全確保が主な目的であるため、事前の対策・備えが不可欠です。防災対策に取り組む際は、必要な対策の内容やポイントを押さえておきましょう。
ここでは、企業向けの防災対策の内容とポイントについて詳しく解説します。
災害に備えて備蓄を行う
災害発生時に従業員を施設内に待機させるには、従業員の数日分の防災備蓄品を準備しておかなければなりません。例として、東京都帰宅困難者対策条例では、事業者に対して3日分の防災備蓄品を確保するよう努力義務を定めています。
内閣府のガイドラインによると、備蓄品目の例と3日分の備蓄量の目安は以下の通りです。
水 | 1人あたり9リットル |
主食 | 1人あたり9食 |
毛布 | 1人あたり1枚 |
その他 | 物資ごとに必要量を算定 |
その他の備蓄品には、簡易トイレや救急セット、懐中電灯などが挙げられます。
非常食や飲料水は保管場所を従業員に周知しておくことも重要です。また、防災グッズは定期的に見直したり、保管している箱や袋に期限を書いたりして管理しましょう。
期限間近の非常食があれば、被災時の環境下を想定して従業員で試食するのもよいでしょう。
防災マニュアルを作成する
災害時に適切な対処を行って人命や財産を守るためには、事前に防災マニュアルを作成しておくことが重要です。
防災マニュアルには、以下のような内容を盛り込むのがポイントです。
● 災害発生時の役割分担(現場指揮担当や総務担当、消火担当、救護担当など) ● 従業員の安否確認における通信手段と収集すべき情報 ● 従業員の緊急連絡網 ● 災害発生時にとるべき初期対応と避難経路・避難場所 |
防災マニュアルの例として、港区の事業所向け防災マニュアル「Never Too Late」では、地震対策の必要性と事前対策・緊急時対応策・復旧対策の進め方について記載しています。また、「必ずすべき対策」と「可能であればすべき対策」に分けてマークをつけ、優先度がひと目で分かるよう工夫しているのが特徴です。
近隣の地域とも連携を強化する
災害発生時に早期復旧を目指すには、企業と地域とで連携を図って共助することが重要です。
企業と自治体が連携した対策本部を設置することで、いざというときに従業員の生命を守りやすくなります。また、企業単体で防災投資に取り組む場合と比較して、全体としてより効率的な投資が可能です。
災害時に企業と地域住民とが共助するには、日頃から定期的な会合を実施してネットワークを強化することが不可欠となります。また、合同避難訓練や共同備蓄の推進なども有効です。
定期的に防災訓練や研修を行う
企業内で定期的に防災訓練や研修を実施すれば、実際の災害発生時を想定した動きのシミュレーションをしたり、正しい防災知識を習得したりできます。
防災訓練・研修の種類とその方法は以下の通りです。
災害種類別の防災訓練 | 地震や火災などの緊急事態を想定した避難訓練です。設定したシナリオは事前公開せずに取り組むことで、よりリアルな状況下でシミュレーションできます。 |
施設を活用した防災体験 | 全国各地にある防災センターでは、災害の体験コーナーや訓練への参加などを用意しています。施設を活用することで訓練のマンネリ化を防ぎ、主体的に学べるのがメリットです。 |
専門家を招いた防災研修 | 防災関連の専門家によるセミナーや講義を受ける研修です。地域によっては消防署や自治体から職員を派遣してもらえます。 |
また、AEDの使い方・心肺蘇生法を学ぶ訓練や、負傷者の搬送シミュレーションを取り入れるのもおすすめです。
企業がとるべきBCP対策3選
BCP対策は、企業防災の観点からも経営戦略の観点からも重要です。被災時にスムーズな業務復旧を実現するためにも、必要な対策を確認しておきましょう。
ここでは、企業がとるべきBCP対策について詳しく解説します。
BCPを策定する
BCPを策定することで、被災時の事業継続のために実施すべき対策を明確化できます。
BCPの策定手順は以下の通りです。
1.基本方針を定める |
まずはBCP策定の目的を決定します。緊急事態での事業継続という目標はどの企業でも共通の前提として、自社の業種や特色、経営方針と照らし合わせて基本方針を設定しましょう。 |
2.運用体制を決める |
BCP運用は大企業であれば部署ごとに担当者を選抜し、中小企業であれば最低限のリソース確保に留めるのがおすすめです。また、緊急時の事業継続実現のためには、経営陣がしっかりと運用に関わって経営の視点を落とし込むことが重要です。 |
3.中核事業と復旧目標を設定する |
緊急時にもっとも優先しなければならない自社の中核事業を決定します。中核事業は売上や社内外へ与える影響の大きさを基準として選定するのが基本です。また、災害が起きた際の目標として、復旧にかかる時間と復旧のレベルを定めます。 |
4.復旧費用の見込みを立てる |
被災時に事業復旧に必要となる金額とその調達先を検討します。実際に復旧費用を用意する際に資金難に陥ることがないよう、平時から資金調達先と連携を図るのも重要です。 |
5.緊急時対応の流れを決める |
災害発生時にBCPを適切に発動するためには、初動対応・緊急対応・復旧対応の3つに分けて具体的な対応の流れを決めることが不可欠です。初動対応では被害状況を確認し、緊急対応では被害状況に合わせた復旧計画を立案します。復旧対応は計画に沿って実際に復旧作業を行う段階です。 |
BCP策定後には、実際の被害を想定した定期的な訓練を実施して内容をブラッシュアップすることも重要です。
災害時に従業員の安否を確認する手段を用意する
安否確認とは、災害発生時に従業員の身の安全を確認することを指します。安否確認は単純に従業員全員の状況を把握するだけでなく、企業として人的リソースを確認するためにも重要です。
安否確認には専用のシステムを導入するのがおすすめです。地震などの災害が発生するとシステムに登録した全従業員に自動で安否確認メールが送信され、回答結果をリアルタイムで確認できます。
システム導入によって安否確認にかかる管理者の負担を減らせる上、回答がなければ自動でメールが再送信されるのがメリットです。また、非常時は各回線が混雑すると連絡が取りにくくなるため、安否確認システムという1つのルートを確保しておくという意味でも役立つでしょう。
重要なデータをバックアップする
BCP対策において、データの破損・消失に備えたバックアップは必要不可欠な対策です。
BCPの観点でのバックアップには、通称「3-2-1ルール」と呼ばれるポイントがあります。具体的な内容は以下の通りです。
3 | 「3」つ以上データを保持しておく |
2 | 「2」種類以上のメディアでバックアップを保管する |
1 | 「1」つのデータは遠隔地で保管する |
データは破損・消失に備えて3つ以上用意すると安心です。また、自社サーバ・外付けHDD・クラウドストレージなどから2種類以上の媒体に分けて保存しておけば、故障や不具合が発生しても別の媒体からデータを復元できます。
さらに、バックアップデータのうち1つを遠隔地に保管すれば、被災時にすべてのデータを失うリスクを小さくすることが可能です。
企業防災に取り組んでいる企業の事例
企業防災は、防災対策とBCP対策を総合的に継続して行うことで強化されます。自社で企業防災に取り組む際は、他社の事例を参考にするのも有効です。
ここでは、企業防災に力を入れている企業の取り組み事例について詳しく解説します。
原信ナルスホールディングス株式会社
原信ナルスホールディングスは、新潟県長岡市を拠点としてスーパーマーケットを経営している企業です。2004年の新潟県中越地震により商品・建物が被害を受けた結果、特に被害が大きかった3店舗が閉鎖に追い込まれました。
被災後は「震災時にも店を営業する」という課題に向けてBCP対策に着手しました。具体的な取り組みは以下の通りです。
● 被災地で需要が高い商品の洗い出し ● 被災時の商品調達先の整備 ● マニュアル改定 ● 第2物流センターの設置 ● 商品仕分け機への地震計連動緊急停止装置の設置 |
結果、3年後の新潟県中越沖地震の際には、被災した7店舗のうち4店舗は当日中の営業再開を実現しました。さらに、翌日に2店舗、3日後に1店舗が営業を再開しています。
また、防災対策・地域貢献の観点から、周辺の自治体と救援物資の供給に関する災害協定を締結しています。
株式会社白謙蒲鉾店
かまぼこ製品の製造・販売を行う白謙蒲鉾店では、2011年の東日本大震災で3つの工場が津波被害を受け、一時休業に追い込まれる事態となりました。
被災後は「人命第一優先」のカルチャーのもと、安全を配慮した上で事業継続のため最善を尽くすことを目標として強化活動をスタートします。具体的な取り組みは以下の通りです。
● 防災対策・BCP対策におけるビジョンの明確化 ● 継続的な防災訓練・教育の実施 ● サプライチェーン企業との連携強化 ● 防災資機材の配備 ● 安全衛生委員会における若手メンバーの育成 |
企業防災に尽力した結果、2014年には事業継続マネジメントシステムの代表的な国際規格「ISO22301:2012」の認証を取得しました。
森ビル株式会社
森ビルは六本木ヒルズをはじめとする多様な都市開発事業を行っている企業です。
森ビルでは「逃げ出す街から、逃げ込める街へ」をコンセプトに掲げ、大規模再開発事業の特性を生かしたさまざまな防災対策を講じています。具体的な取り組みは以下の通りです。
● 独自のエネルギープラントによる安定的な電力供給 ● 約10万人分の備蓄品保管 ● 社員による宿直体制 ● 本社から2.5km圏内に防災要員100名分の社宅完備 ● 災害用井戸の自主設置 |
平常時から施設管理部門の社員および全中堅社員による宿直制度を設けることで、被災時に災害対策本部をスピーディーに立ち上げられるよう備えています。
また、地域の防災拠点として周辺住民を支援することも重視しています。
まとめ
企業防災は、企業がリスクを管理し、災害時にも持続可能な事業運営を行うために不可欠な取り組みです。特に、防災対策では従業員の安全を確保し、資産の損失を防ぐことが重要です。一方、BCP対策では、緊急時に事業を迅速に再開し、企業の信頼性を維持することが求められます。
企業防災・BCP対策は、双方ともに日常的な準備が必要です。災害に備えて備蓄を行い、防災マニュアルやBCPを策定するといった対策を行いましょう。定期的な防災訓練と研修により、従業員に災害の際落ち着いて行動できるよう学んでもらうのも大切です。
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