- 人事・総務担当者の課題解決コラム
- ハラスメント
- 優しさがハラスメントに?ホワイトハラスメントの意味と具体例を解説
優しさがハラスメントに?ホワイトハラスメントの意味と具体例を解説
パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)など、近年はさまざまなハラスメントに注目が集まる中、ホワイトハラスメントも新しく登場しています。テレビドラマをきっかけにSNSで話題となったため、聞き慣れない方もいるでしょう。
当記事では、ホワイトハラスメントの定義・意味から具体例、原因、予防策までを解説します。パワハラにならないよう配慮した結果、ホワイトハラスメントにつながるケースもあります。ホワイトハラスメントの概念について理解し、よりよい職場環境づくりに生かしましょう。
ホワイトハラスメントとは?
ホワイトハラスメント(ホワハラ)とは、上司が部下に過剰な配慮をすることで、部下の成長機会を奪ったりプレッシャーを与えたりするハラスメントです。上司が叱責などをしない「ホワイト企業」にもかかわらず、部下が「指導しないのはハラスメントだ」と感じることから、ホワイトハラスメントと呼ばれるようになったと考えられます。
この言葉は、テレビドラマで登場したことをきっかけに、メディアやSNSなどで注目を集めました。ホワイトハラスメントが話題になった背景には、Z世代に代表される若手世代の離職を招く要因の1つとなっていることが挙げられます。若手社員の多くは自身が成長できる職場環境を求めており、上司から適切な指導を受けることを期待しています。
しかし、近年はハラスメントの発生を警戒する職場が多く、上司が部下と距離を置いて接するケースも少なくありません。結果として「ホワイトハラスメントを受けた」と感じて離職する若手社員が一定数存在すると考えられます。
ホワイトハラスメントの具体例
ホワイトハラスメントの特徴は、ハラスメントの加害者側となる上司には基本的に善意があることです。部下に嫌がらせをしようとする意図はなく、反対に部下が落ち込んだり過度な負担がかかったりしないように配慮しています。たとえば、以下のような言動がホワイトハラスメントに該当します。
・上司が「後はやるから残業しなくていい」と言う ・部下に「そんなに頑張らなくていい」と言って仕事を手伝う ・部下に大きな負担をかけないように簡単な仕事を割り振る |
一般的なハラスメントとは異なり、ホワイトハラスメントに該当する言動は部下を気遣ったものが多く、自分では簡単に気付けません。しかし、ハラスメントは受け取る側が嫌がらせだと感じれば成立するため、気遣う行為が過剰だとホワイトハラスメントになる可能性があります。
ホワイトハラスメントはパワハラの一種?
ホワイトハラスメントは、パワーハラスメントにおける「過小な要求」に該当する可能性があります。過小な要求とは、業務上必要でないにもかかわらず「本人の能力や経験に見合わない簡単な仕事をさせる」もしくは「仕事を割り振らない」などのハラスメント行為のことです。
ただし、同様の行為がすべて過小な要求に該当するわけではありません。たとえば「部下の能力に合わせて割り振る業務の内容や量を減らす」行為は、過小な要求に該当しないと考えられています。一方、「管理職の人を退職させるために誰でもできる簡単な作業を割り振る」「嫌がらせの一環で仕事を与えない」行為は、過小な要求に該当するとされています。
『パワハラとは?定義や6つの分類・事例・防止方法などを簡単に解説』について詳しくはこちら
職場のハラスメントは事案ごとに発生状況などが異なるため、ハラスメントとされる言動に該当するかどうかは判断が難しいと言えます。そこで、裁判例をもとに過小な要求に該当する行為を挙げます。
・仕事はずし・隔離・自宅研修 高等学校が女性教諭に対し、授業・担任からの仕事はずしや職場内での隔離、自宅研修をさせました。高等学校が指示できる範囲の行為ではなく、女性教諭への嫌がらせや退職の促しを意図したとされる点で違法と判断されました。 ・客室係から厨房洗い場係への配置転換 旅館の経営者が従業員に対し、客室係から厨房洗い場係への配置転換を指示したところ、配置転換の必要性が明らかではなく、従業員に精神的ショックを与えるための嫌がらせ行為と推認され、違法と判断されました。 ・1か月間の除草作業 路線バスの営業所所長が、駐車車両との事故を起こした運転士に対して1か月間の除草作業を指示しました。被害者の健康を考慮しない作業を命じたことと、営業所所長の裁量範囲を逸脱した命令を行ったことが違法と判断されました。 ・管理職を単純作業に配置転換 退職勧奨に応じなかった管理職に対し、会社が単純作業への配置転換を命じた事例です。会社が嫌がらせとして単純作業への配置転換を行ったことが認められ、違法と判断されました。 |
※出典:あかるい職場応援団「【第34回】 「客室係から厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令が不法行為と判断された事案」 ―」
※出典:あかるい職場応援団「【第32回】 「バスの運転士に対して1ヶ月にわたって除草作業を命じたことが「いじめ」にあたると判断された事案」 ― 神奈川中央交通(大和営業所)事件」
上記は、いずれも加害者側に悪意があるなどを理由にパワハラ認定されている事例です。しかし、たとえ善意であっても本人の意向を無視して仕事を減らすことは、ホワイトハラスメントに該当する可能性があります。
ホワイトハラスメントが起きる原因
ホワイトハラスメントが起きる原因には、パワハラ行為に対する防止意識の高まりと、業務内容・業務量の変更が主観的に行われていることが挙げられます。
以下では2つの原因について、なぜホワイトハラスメントにつながるかを解説します。
上司の攻撃的な対応はNGという意識の広まり
2020年に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)により、上司の攻撃的な対応には世間から厳しい目が向けられるようになりました。その結果、企業・組織がハラスメント防止対策に取り組む中で、上司も部下との接し方に悩むようになっています。
「強い叱責や厳しい態度を取ることはパワハラになる可能性がある」――それを避けるために生まれたコミュニケーション方法が、上司から部下に対する過剰な配慮と考えられるでしょう。パワハラを恐れるあまり上司が部下に適切な指示・指導を行わないと、ホワイトハラスメントが起きる可能性があります。
主観的な意思による業務量・業務内容の変更
主観的な意思による業務量・業務内容の変更とは、部下の意思を尊重せず、上司の考えだけで業務量や業務内容を変更することです。たとえば「○○さんは女性だから、仕事量を減らしてあげよう」のようなケースが挙げられます。
部下が求めていないにもかかわらず、上司の考えで勝手に業務量や業務内容を変更することは、部下が活躍する場を奪うことになります。その結果、部下が不満を覚えたり嫌がらせと受け取ったりすると、ホワイトハラスメントに該当します。
上司が主観的な意思で業務量・業務内容を変更する心理には、アンコンシャス・バイアスの慈悲的差別があると考えられます。
ホワイトハラスメントによる悪影響
職場でホワイトハラスメントが起きている場合は、以下のような悪影響が出る恐れがあります。
・部下の能力の成長や挑戦心の発揮が阻害される ・部下が業務で活躍できず、適正な人事評価ができない ・自身の成長を感じられない部下が転職を選び、優秀な人材が流出する ・上司の指導力や育成力を伸ばせず、ホワイトハラスメントの発生が継続する |
ホワイトハラスメントは被害者である部下はもちろん、上司や会社にも弊害が及ぶ問題です。貴重な人材をつなぎとめ、自社での人材育成によってキャリアアップをしてもらうには、ホワイトハラスメントを防ぐ必要があります。
ホワイトハラスメントを防ぐためには?
ホワイトハラスメントを防止するには、上司と部下が密にコミュニケーションを取ることが大切です。上司が業務上必要な教育や指導をしっかりと行い、部下は自分の意思をはっきりと伝えることで、上司の一方的な配慮や部下の誤解をなくす効果が期待できます。1on1ミーティングなどの面談を定期的に行って、「上司が何を考えているか」「部下が何を望んでいるか」を互いに理解できるようにしましょう。業務量や業務内容を調整した場合は、「なぜ調整したか」を伝えてフォローする必要があります。
また、特にホワイトハラスメントが多いわけではないとしても、予防としてハラスメント対策を行うことは重要です。たとえば、ソニー銀行では以下の対策を実施しています。
・パワハラに対する認識を共有できる「コンプライアンス・ハンドブック」の携帯 ・外部相談窓口と内部相談窓口の設置 ・パワハラ対策に特化したVTR研修の実施 ・匿名アンケート形式による「職場の健康診断」の実施 |
※出典:あかるい職場応援団「【第2回】 「企業理念と結びついたハラスメント対策」 ― ソニー銀行株式会社」
職場のホワイトハラスメント防止策を講じる際は、他社の事例も参考にするとよいでしょう。
まとめ
ホワイトハラスメントとは、上司から部下に対する過剰な気遣いが、成長を妨げたりプレッシャーを与えたりする行為です。テレビドラマをきっかけに流行した比較的新しい言葉ではありますが、パワハラの類型の1つである「過小な要求」と類似します。
パワハラを恐れる上司の心理的な背景、部下の意思を無視した主観的判断が、ホワイトハラスメントの原因になると考えられます。社員の成長を阻害するだけでなく、人材流出にもつながりかねないため、これからの時代にホワイトハラスメント対策は必須と言えるでしょう。
関連記事
Related Articles
職場におけるモラハラとは?言動の例や加害者の特徴・対策方法を解説
モラハラは、倫理や道徳に反した精神的な嫌がらせを指し、身体的暴力を伴わずに言葉や態度で相手の尊厳を傷つける行為です。...
ハラスメントセクハラとは?職場におけるセクハラの種類・定義・予防法などを紹介
セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、端的に言うと「性的な言動による嫌がらせ」です。万が一職場でセクハラが発生すれ...
ハラスメントハラスメントの種類を徹底解説!3大ハラスメントや企業側の対処法も
ハラスメントは、他人に対する嫌がらせやいじめなどの迷惑行為を指す言葉です。代表的なハラスメントには、パワーハラスメン...
ハラスメント