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モラハラは犯罪?職場での判断基準と発生した際の対処法とは
モラハラは一見して起こっていると分かりにくいことが多く、当初は監査を行った労働基準監督署がハラスメントと認定できなかった事例もあります。
規模がより大きくなってからモラハラが判明した場合、会社の信頼失墜や責任問題に発展するだけでなく、管理職や経営者が罪に問われるケースも起こりえます。モラハラを防ぐためには「どのような行為がモラハラにあたるのか」という判断基準を作り、日常的にハラスメントが生まれないよう指導するのが大切です。
この記事では実際に起きたモラハラ事例を参考に、職場で起こるモラハラの判断基準や対処法、モラハラを未然に防ぐ対策について解説します。
そもそもモラハラとは
モラハラとは、モラルハラスメントの略称です。言動や態度を通じて相手の人格や尊厳、気持ちを傷つける、モラルに反した行為全般を指します。
モラハラは単なる人間関係のこじれではなく、犯罪になる可能性が高い行為です。モラハラ加害者自身が侮辱罪や名誉棄損罪で告訴されるだけでなく、加害者が勤務している企業も安全配慮義務違反に問われる恐れがあります。
また、セクハラやパワハラと比べてモラハラは表面化しにくく、加害者は多くの場合無自覚です。ハラスメント防止窓口の担当者や各部門の管理職は、モラハラが発生していないか判断する必要があります。
職場で起こるモラハラの判断基準5つ
パワハラやセクハラ、マタハラと違い、厚生労働省ではモラハラについて明確に定義していません。しかし、モラハラはパワハラやセクハラにも該当する場合がほとんどです。パワハラやセクハラの判断基準と照らし合わせれば、モラハラ行為を発見しやすいでしょう。
精神的な苦痛を与えるような言動がある
精神的苦痛を与える言動は、モラハラだけでなくハラスメント全般に該当する行為です。具体的な言動の例として、次のようなものが挙げられます。
【モラハラとなる言動のチェックリスト】
□ 怒鳴る、大声を上げるなどの威圧的な言動がある □ 陰口や悪口などの陰湿な言動がある □ 役立たず、無能、給料泥棒などの形で相手を侮辱している □ 相手の国籍や性別、容姿などを理由とした差別的な発言がある □ 人前で叱責する、叱責内容をメールなどでほかの人にも見えるようにするなどの形で相手を傷つけている □ 長時間にわたって叱責している |
方法としては、直接的な言動を相手にぶつけるケースがほとんどです。大声やメールなどを用いて人を巻き込むケースも多く、特に職場では「そんな仕事で高い給料をもらうのか」など、業務を絡めて相手の人格を否定する言動が多く見受けられます。
実例としては、加害者が「やる気がないならやめろ」「あなたが会社にいるだけで損失」と、退職を促すような発言を被害者とその同僚にメールで送信した事案があります。裁判では被害者の人格が傷つけられたとして名誉棄損が成立し、加害者の賠償責任が認められました。
※出典:厚生労働省あかるい職場応援団 「【第56回】 「上司が送ったメールの内容が侮辱的言辞として、損害賠償請求が認められた事案」 A保険会社上司(損害賠償)事件」
無視や仲間外れなど人間関係を切り離す行為が見られる
直接暴言を吐いたり攻撃したりしない場合でも、意図的に相手の人間関係を切り離す行為はモラハラやパワハラとみなされます。言動の具体例は次の通りです。
【モラハラとなる言動のチェックリスト】
□ あからさまな無視をする □ 1人だけ違うテーブルに座らせる □ 仕事上必要な連絡をせず、質問などにも答えない □ 食事会や送別会などに誘わない □ 社内イベントなどに参加させない |
人間関係を切り離すモラハラは典型的な職場いじめの例で、相手が良好な人間関係を築くことを妨害します。また、相手を職場の中で物理的に隔離する・あえて相手に情報を与えないなどの手段に訴え、仕事に悪影響を及ぼすケースも少なくありません。
実例では、1人の高校教諭に対して、学校が授業や担任から外して別室や自宅へ隔離し、一時金や賃金を支払わなかったケースが挙げられます。被害者に対して行われた一連の行為は、労働契約や就業規則による裁量を超越した違法行為とみなされ、学校法人自体に600万円の損害賠償が課せられました。
正常な範囲で業務量を調整しない
業務量に関するモラハラも上司などの指揮命令者が絡んでいることが多く、パワハラと強い関係性があります。
【モラハラとなる言動のチェックリスト】
□ 特定の社員にだけ異常な量、あるいは過酷な業務を強制する □ 能力に合わない極端に簡単な仕事しか与えない □ 明らかに合理的でない業務を嫌がらせで強制する |
業務量が多すぎるだけでなく、業務の内容が相手のスキルに見合わない・正当性がないといった場合もモラハラに該当するでしょう。
実例には、駐車車両との接触事故を起こしたバスの運転手が、下車勤務として炎天下で1か月の除草作業を命じられたケースがあります。事故を起こした運転手に落ち度があり、下車勤務自体の正当性は認められました。ただし、作業内容が過酷で、下車勤務の目的から大きく外れていたことから、会社と上司に慰謝料の支払いが命じられています。
※出典:厚生労働省あかるい職場応援団 「【第32回】 「バスの運転士に対して1ヶ月にわたって除草作業を命じたことが「いじめ」にあたると判断された事案」神奈川中央交通(大和営業所)事件」
ほかには、モラハラ被害者が、上司の命令で部署の根拠不明の出金を調査したことがきっかけで嫌がらせを受けるようになったケースもあります。会社は、被害者が多忙な時期に支援をさせず、担当職務を解いて補助的業務のみを命じ、最終的には整理解雇の際に、被害者本人の希望を問わず真っ先に解雇しました。
組織立って被害者を孤立させ、退職を迫る目的で嫌がらせ行為があったと判断され、このケースでも慰謝料の支払いが命じられています。加えて、会社だけでなくモラハラの報告を受けながら対処しなかった社長および専務に対しても損害賠償責任があると裁判所は判断しました。モラハラに適切な対処をしなかった場合、経営者も罪に問われるケースがあると分かる例です。
※出典:厚生労働省 厚生労働省 あかるい職場応援団 「【第38回】 「一連の行為が、労働者を孤立させ退職させるための”嫌がらせ”と判断され、代表取締役個人及び会社の責任が認められた事案」国際信販事件」
プライベートに立ち入る・言いふらしている
業務上の必要がなく、相手のプライベートに対して過度に立ち入るタイプのモラハラを「個の侵害(プライバシーの侵害)」と言います。個の侵害の事例は次の通りです。
【モラハラとなる言動のチェックリスト】
□ プライベートの写真を本人の許可を取らず回覧する □ 私生活に干渉するような発言を繰り返す |
個の侵害の場合、パートナーや配偶者などについて執拗に聞き出したりスマホを見せるよう迫ったりするケースも多く見られます。
実例の中で、市役所にて上司が離婚歴のある部下の異性関係を追求し、「一度失敗したやつが幸せになれると思うな」などとプライベートに介入したケースがあります。部下のプライベートが職務に悪影響を及ぼした形跡がなく、上司がプライベートへの介入を繰り返したとして、市に慰謝料の支払いが命じられました。
※出典:厚生労働省あかるい職場応援団 「【第18回】「所属部署が異なる二者間の、反復継続性があったとはいえないパワーハラスメント」豊前市(パワハラ)事件」
また、会社の研修会で、ノルマを達成できなかった社員に対して、上司が罰ゲームとしてコスプレをさせ、写真を撮影して研修に利用したケースも個の侵害の一例です。上司は罰ゲームが余興の一種であり、社員も拒否していなかったと主張しました。
しかし、研修会への参加は義務で、罰ゲームを命じられた社員が拒否できる状況になかったとして、会社と上司に慰謝料の支払いが請求されています。
※出典:厚生労働省あかるい職場応援団 「【第11回】「明示的に拒否の態度を示していなくとも拒否することは非常に困難だったとして不法行為と判断された事案」カネボウ化粧品販売事件」
個の侵害は一見分かりにくく、加害者側が自覚していないケースが多い点も特徴です。
性的な言動がある・性的な情報を見せつけている
セクハラに該当する行為もモラハラの一種です。
【モラハラとなる言動のチェックリスト】
□ 卑猥な画像や映像などを相手に見せている □ 性的な内容の噂話を広めている □ 性的なからかいや相手の性自認・性的嗜好を侮辱するような発言がある |
セクハラタイプのモラハラは、異性に対する言動とは限りません。社員同士だけでなく、顧客などへの言動もハラスメントに含まれます。
例えば、部下である女性社員と職場で1対1になったときに自分の性生活をはじめとしたわいせつな話題を繰り返し、ハラスメントとして認定されたものがあります。加害者は被害者に卑猥な画像を見せる、相手が実家に住んでいるのを理由として侮辱するなどの行為も見られました。これにより、加害者は注意や警告、けん責を十分にされる前に、降格および減給の処分を受けています。
加害者は十分注意される前に懲戒処分を受けたことを不服として、職場を告訴しました。しかし、会社側の判断は人事権の濫用と言えないと判断が下っています。
職場でモラハラが起こった場合の対処法
職場でモラハラが起こってしまった場合、当事者だけで解決することは困難です。モラハラには手順を踏んで、客観的に対処する必要があります。モラハラに対処するための手順は次の通りです。
1.相談窓口で対応する |
モラハラ相談窓口では、加害者に相談を悟られないようにプライバシーを確保することが重要です。対応の際には、相談者が安心して相談できるように、相談者と同性のスタッフを同席させましょう。 |
2.事実関係を確かめる |
事実関係を確かめる際は、まずは相談者本人にヒアリングし、ヒアリングの対象を加害者や第三者に広げていきます。本人以外にヒアリングする場合は、必ず相談者に了解を得ることが大切です。また、相談者の主観と事実が異なるケースもあるため、事実関係の確認は中立的な視点で行いましょう。 |
3.必要な措置を検討・実施する |
事実関係が確認された後は、就業規則に則って措置を検討・実施します。モラハラに対する措置としては、けん責・出勤停止・懲戒解雇などが挙げられるものの、加害者が事実を認めない場合は裁判に発展する場合もあります。 |
4.面接を受ける |
モラハラの再発防止には、社員に対する注意喚起や研修による周知なども有効です。 また、会社に対してだけでなく、相談者・加害者双方に対するメンタルケアや環境改善など、当事者へのフォローも行いましょう。 |
モラハラへの対処は、加害者への処分のみが目的ではありません。加害者や周囲の人にモラハラへの理解を促し、誰もが心地よく働ける職場づくりのためであることを念頭に置いて取り組みましょう。
モラハラを未然に防ぐための対策
発生したモラハラへの対処方法はいくつかあるものの、モラハラを未然に防ぐには、職場でモラハラについて周知し、重大性について社員に理解してもらうのが大切です。
モラハラについての周知徹底には、ハラスメント研修の実施が効果的でしょう。研修ではプロの目線から客観的にモラハラについて語られ、モラハラに対する正しい認識を促せるため、モラハラ防止やスムーズな対応が期待できます。
また、適切なハラスメント研修は、未然にモラハラなどのハラスメントを防ぐだけでなく、加害者から会社を守ることにもつながります。
実際にハラスメント加害者が会社を告訴した事例において、会社がハラスメント研修を定期的に行っていたことから裁判所は加害者の訴えを退けている点は特に重要です。適切なハラスメント研修は、ハラスメント被害を生まず、会社の価値を高め、ひいては不当な告訴により会社が損害を被らないためにも効果的と言えるでしょう。
まとめ
モラハラは犯罪行為であり、侮辱罪や名誉棄損罪で告訴されるだけでなく、加害者が勤務している企業も安全配慮義務違反に問われる恐れがあります。また、モラハラを看過した経営者や管理職が軽犯罪法違反となったケースも存在するため、モラハラ対策は企業に取って必須と言えます。
モラハラが起きてしまったときに備えて窓口を用意し、ヒアリングや適切な処分などの対処手段を準備しておくのが重要です。ただし、それ以上に日常的にモラハラをはじめとしたハラスメントへの注意を喚起し、ハラスメントはやってはいけない行為であると伝えることが大切です。定期的なハラスメント研修により、モラハラを未然に防ぎましょう。
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