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アンコンシャス・バイアスとは?意味や具体例・職場への影響を解説
「上司よりも先に部下が帰るのは失礼だ」「事務職や保育士・看護師と聞くと、女性を思い浮かべる」「外国人労働者は、日本の企業文化にマッチするのか不安」…こうした思い込みや偏見は、アンコンシャス・バイアスと呼ばれます。
アンコンシャス・バイアスは、誰にでもあるものなので、多様性を重んじた組織づくりのためには、まずは従業員一人ひとりがアンコンシャス・バイアスに対して自覚的になることが大切です。当記事では、アンコンシャス・バイアスがもたらす影響やアンコンシャス・バイアスの具体例について紹介します。
アンコンシャス・バイアスとは
アンコンシャス・バイアスとは、英語の “unconscious bias” の日本語訳で、無意識の偏見や先入観のことです。人が気づかないうちに持つ、特定のグループやカテゴリーに対する先入観や偏見のことを意味します。
アンコンシャス・バイアスは、人が日常の生活の中で無意識のうちに形成するステレオタイプや偏見に基づいています。たとえば、性別、人種、年齢、出身地、宗教、身体的特徴、性的指向などの特徴に基づく評価や判断が挙げられるでしょう。性格であれば「男らしい・女らしい」といった考え方や、人種であれば「日本人は礼儀正しい」といったような、無意識に持つ先入観がアンコンシャス・バイアスの例です。
アンコンシャス・バイアスは、教育、採用、評価などのプロセスでの決定や行動に影響を及ぼす可能性があり、多様性や公平性の確保において障壁となることが多いです。
アンコンシャス・バイアスは悪いものなのか
アンコンシャス・バイアスは、人が無意識の中で形成してしまう先入観や偏見であり、これ自体は必ずしも悪いものとは言えません。人間の祖先は、生存のために迅速な判断を下す必要がありました。たとえば、危険か安全かを瞬時に判断する際に、過去の経験や情報を元に無意識の中での判断が求められていました。このような過去の状況から、人間の脳は情報を迅速に処理し、判断を下す能力を持つように進化してきたと言えます。
しかし、現代の社会生活においては、アンコンシャス・バイアスがネガティブに働く場合も多くあります。特定の属性や背景を持つ人に対する無意識の偏見は、その人の能力や価値観を正確に評価しないことにつながり、彼らの機会や待遇に影響を及ぼす恐れがあります。偏見が働くことで、組織や社会全体の多様性や公平性が損なわれる可能性も考えられるでしょう。
よって、まずはアンコンシャス・バイアスに自覚的になることが重要です。自らの偏見を認識し、それを超えて相手を理解しようとする姿勢が求められます。
アンコンシャス・バイアスに注目が集まっている理由
アンコンシャス・バイアスに注目が集まっている理由の1つは、現代のグローバル化した社会において、多様性の尊重がより重要になってきているためです。多様性を尊重し、異なる背景や価値観を持つ人の意見や考え方を取り入れられれば、より良い組織や社会を築いていくことが可能です。また、多様性が尊重される環境は、すべての人が自分らしさを受け入れられ、自分の能力を最大限に発揮することができる場となります。
社会的にも、公平で公正な社会を築くために、自分たちの無意識の偏見や先入観について深く考えて行動することを重要視する風潮が生まれています。
アンコンシャス・バイアスが職場にもたらす悪影響
アンコンシャス・バイアスを理解し自覚的になるために、アンコンシャス・バイアスの影響を減少させるための研修や教育を行う企業・組織が少しずつ増えています。その場では、アンコンシャス・バイアスのデメリットやリスクについても触れることがほとんどです。
ここでは、アンコンシャス・バイアスによって職場にもたらしかねない悪影響について、4つ紹介します。
正しい採用活動や人事評価が難しくなる
アンコンシャス・バイアスは、採用活動において応募者の能力や経験を公平に評価することを難しくします。たとえば、性別や履歴書の写真、学歴・経歴などの情報に基づいて、無意識のうちに好ましく評価したり、反対に不利に評価したりする可能性があります。このような偏見が働くことで、真に企業が求めている能力や性格を持つ候補者を見逃すリスクが生じるでしょう。
人事評価においても、アンコンシャス・バイアスは公平な評価を妨げる要因となり得ます。特定の性別や人種、年齢などの属性を持つ従業員に対して、属性に基づいたステレオタイプや先入観が影響を及ぼし、実力や業績を適切に評価しにくくなるケースがあります。たとえば、若手社員に対して「リーダーシップが不足している」という偏見を持っている場合、実際にはリーダーシップの能力が高い若手の従業員を正しく評価できません。
アンコンシャス・バイアスによる不公平な評価は、従業員のモチベーションの低下や組織への帰属意識の喪失を引き起こす恐れがあります。結果的に、組織の持続的な成長や従業員の満足度に影響を与えることが懸念されます。
無自覚のハラスメントが増える
アンコンシャス・バイアスによって、特定の属性を持つ従業員に対して、意図せずとも傷つける言動や態度をとってしまう可能性があります。これが「無自覚のハラスメント」です。
無自覚のハラスメントの例 |
・女性の従業員に対して「女性なのに夜遅くまで残業してて偉いね」といった発言をする ・若手の従業員に対して「経験がないから分からないかな?」と言ったり、年配の従業員に「昭和生まれの方は、さすがに○○知らないですよね」などと冗談を言ったりする ・インド出身の従業員に「毎日カレーを食べてるの?」などと質問する ・最終学歴が高卒の従業員に「高卒なのに、君はこんなに優秀なんだね」といった発言をする |
自分にとっては軽い気持ちの発言だったとしても、相手にとっては不快に感じたり、差別されているように思ったりし、ハラスメントとして受け取られることもあります。無自覚のハラスメントは、従業員の間の信頼関係が損なわれたり、職場の雰囲気の悪化、組織の生産性や従業員満足度の低下を引き起こしたりする恐れがあります。
イノベーションが生まれなくなる
イノベーションは、新しい視点や異なる経験、多様な考え方の融合から生まれることが多いです。つまり、異なる背景や経験を持つ人が集まり、自由に意見やアイデアを共有する環境は、創造的なアイデアが生まれやすい場となるでしょう。
一方で、アンコンシャス・バイアスが組織内で働くと、多様性のある意見や視点が封じ込められ、イノベーションが生まれにくくなります。アンコンシャス・バイアスの影響で、同じような背景や思考を持つ人が主体となる組織文化が形成されると、新しいアイデアや視点が受け入れられにくくなり、結果的に組織全体の視野が狭くなってしまうリスクがあります。
会社のブランドイメージに傷がつく
近年、企業の倫理やコンプライアンス、多様性やインクルージョンに対する取り組みは、消費者・投資家など、さまざまなステークホルダーにとって重要な観点となっています。
アンコンシャス・バイアスに起因する偏見や不平等な扱いが職場で行われ、それが外部に流出すれば、SNSやメディアを通じて社会にすぐに広まるでしょう。特定の人・グループを差別しているというネガティブな印象が広がり、ブランドの信頼性や魅力が低下するリスクがあります。
バイアスの種類とアンコンシャス・バイアスの具体例
アンコンシャス・バイアスは、心理学の概念である「認知バイアス」の1種です。日本労働組合総連合会の調査によれば、アンコンシャス・バイアスを日常や職場で認識したことがある人は95%に上りました。
※出典:日本労働組合総連合会「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)診断」
以下では、アンコンシャス・バイアスの具体例を7つ紹介します。
正常性バイアス
「正常性バイアス」とは、人が予想や期待する結果や状況が、現実に即していると無意識のうちに考えがちなバイアスです。正常性バイアスにより、現在の状況や経験が未来においても続くと考えやすくなるため、実際よりも楽観的な予測や判断を下してしまうことがあります。
例えば、好景気が続いている時期に、人はその好景気がいつまでも継続すると考え、投資や消費を増やし、リスクを取ることに二の足を踏まなくなることがあります。しかし実際は、好景気がずっと続くわけではありません。正常性バイアスにより楽観的な予測をしてしまうことで、突然の経済の変動やリセッション(景気後退)に備える機会を失う恐れがあります。
内集団・外集団バイアス
「内集団・外集団バイアス」とは、自分が属するグループ(内集団)のメンバーに対しては好意的に、または優遇して扱う一方で、自分が属さないグループ(外集団)のメンバーに対しては批判的に、または冷淡に扱う傾向のことです。
たとえば、自らの部署(内集団)のアイデアや提案を支持し、ほかの部署(外集団)のアイデアや提案には無意識に批判的になる人は、その最たる例でしょう。内集団・外集団バイアスが働くと、組織全体としての協力やコミュニケーションが難しくなるリスクがあります。
権威バイアス
「権威バイアス」とは、権威のある人物や情報源から提供される意見や情報に過度に影響を受ける傾向のことです。権威バイアスの下では、権威が持つステータスや専門性に引き寄せられ、その情報や意見を批判的に検証することなく受け入れやすくなります。
たとえば、社内から認められている優秀なメンバーや業界の著名な専門家が特定の戦略や方針を推奨した場合、その意見が正しいと考えられやすくなります。
確証バイアス
「確証バイアス」とは、既に持っている信念や仮説を支持する情報を優先的に探し、受け入れやすくするバイアスのことです。一方で、その信念や仮説に反する情報は無視したり、過小評価したりする傾向があります。
具体的な例として、ある投資家が特定の株を購入する際に、その株が上昇するという自身の信念を持っていたとします。確証バイアスの影響下で、この投資家はその株の上昇を予測する記事や情報を積極的に探し、受け入れる一方で、株価の下落を示唆する情報には批判的になったり、信頼性を疑ったりすることが考えられるでしょう。
確証バイアスは判断や意思決定において、一方的な情報を採用したり偏った視点をもたらしたりするリスクを伴います。
ハロー効果
「ハロー効果」とは、ある特定の特性や特徴が印象的である場合、そのほかの多くの特性や特徴についても同様に高評価をしてしまう心理効果です。反対に、ある特定のネガティブな特性が際立っている場合、そのほかの特性も同様に低く評価しやすくなります。つまり、ある特徴の印象が、ほかの無関係な特性に対する評価に影響を与えることがハロー効果の特徴です。
具体的な例として、採用面接の状況で面接者が候補者の外見や話し方などから第一印象で好感を持った場合、専門知識や実務経験、実際の能力といったほかの特性についても、高く評価しやすくなります。これにより、面接の評価が1つの特性に引っ張られ、全体的な能力や適性の評価を誤るリスクが生まれます。
ステレオタイプバイアス
「ステレオタイプバイアス」とは、一般的なステレオタイプ、つまり特定のグループやカテゴリに属する人について持たれる固定的なイメージや先入観に基づいて、その人の能力や性格、行動などを判断してしまう傾向のことです。
ステレオタイプ自体は中立的な概念であり、必ずしもネガティブなものではありません。しかし、人を評価する際に無意識にステレオタイプに基づいたバイアスが働くことは、あまりよいことではないでしょう。
以下は、ステレオタイプバイアスの例です。
・男性は重い荷物を運ぶ力がある ・女性はおしとやかで優しい ・イタリア人はピザやパスタが好き ・アメリカ人は自分の意見を強く主張する ・B型は自己中心的な考え方をしやすい ・O型はおっとりしている人が多い ・ラグビーをしている人は体格がよい ・ダンスをやっている人は服装やファッションが奇抜 |
慈悲的差別
「慈悲的差別」とは、社会的に弱いと見なされる人やグループに対して過度に配慮したり、支援したりすることで、かえってその人達の能力を低く評価したり、自立や参加の機会を奪ってしまったりするような差別を指します。
以下は、慈悲的差別の例です。
・障害を持つ従業員に対して、「難しすぎるだろう」「やらせるのは申し訳ない」という慈悲的な配慮が働き、特定の業務やプロジェクトから外す ・女性社員の代わりに残業や仕事を引き受ける ・自分よりも昇進していない同期社員に対して、飲み会で奢ってあげる |
慈悲的差別は善意や配慮の裏返しとして無意識に現れることが多いですが、結果として相手を傷つける恐れがあります。
企業がアンコンシャス・バイアスを解消する方法
アンコンシャス・バイアスは誰にでもあるもので、完全になくすことはできません。しかし、一人ひとりがアンコンシャス・バイアスに対して自覚的になることで、多様性を尊重したコミュニケーションや組織づくりを行えます。
以下では、アンコンシャス・バイアスへの対策方法を解説します。
アンコンシャス・バイアス研修を実施する
アンコンシャス・バイアスに関する研修の主な目的は、参加者が自分自身の持つ無意識の偏見や先入観に気づき、それを認識・理解することです。研修では、アンコンシャス・バイアスがどのようにして自分の意思決定や行動に影響を与えるのか、その結果どのようなネガティブな影響が生じるのかを学べます。
研修の中では、実際の事例やシミュレーションを用いて、参加者が自分のバイアスに気づく機会を提供することが一般的です。また、実際の職場の状況やケーススタディを通じて、アンコンシャス・バイアスが業務の中でどのように現れ、どのような影響をもたらすのかを具体的に理解することも重要な部分となります。
認知テストやアンケートを行う
日本労働組合総連合会では、Webサイト上でGoogle Formsを利用した『アンコンシャス・バイアス診断』を提供しています。このようなテストを従業員向けに使って、無意識の思い込みや偏見に、自覚的になれる機会を作ってみるのも良いでしょう。
アンコンシャス・バイアス診断は、2020年末時点で5万人を超える回答があり、多くの方の結果と比較することも可能です。たとえば、「『親が単身赴任中』というと、父親を想像する」という回答は、 66.3%にも上りました。
気づきから業務内容を改善する
現場の従業員は直接声に出さずとも、普段の業務中にアンコンシャス・バイアスが働いているようなシーンに遭遇しているケースは往々にしてあります。従業員にアンケートを取り、その結果から業務内容を改善していくのも1つの手でしょう。
たとえば、KDDI株式会社では、四半期ごとに実施している社員エンゲージメントサーベイの結果において、女性のスコアがやや低いという課題がありました。そこでDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)実現のステップの第一歩として、ジェンダーギャップ解消に取り組んでいます。具体的には、リーダー層の約1,700名に対して「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)研修」実施などを行っています。
※出典:KDDI株式会社「D&Iに公平性を加え、DE&Iへ改定」
業務内容の直接的な改善例ではないものの、まずはリーダー層がアンコンシャス・バイアスに対して自覚的になることで、すべての社員が活躍できる環境づくりを進めている事例と言えます。
まとめ
アンコンシャス・バイアスは、特定のグループ・人に対して不利な判断や扱いをもたらす可能性があります。そのため、アンコンシャス・バイアスは、国籍・ セクシュアルマイノリティ(LGBTQ+)・雇用形態…など、多様性を尊重する取り組みにおいて大きな障壁となり得るでしょう。
このような背景から、アンコンシャス・バイアスに対する理解や認識を深めることが、多様性やインクルージョンを推進する上での重要な取り組みとして注目されています。
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