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ストレスマネジメントで社員の休職・離職を防ぐ!具体例とともに解説
現代の職場環境において、ストレスマネジメントは企業の成功と社員の健康維持に欠かせない要素です。特にZ世代の社員は仕事でのストレスを感じやすく、効果的な対策が求められているため、職場環境を整えながら、ストレスマネジメントのやり方を伝えることが大切です。
この記事では、ストレスマネジメントの基本概念やメリット、企業が取り組むべき具体的な施策について、実際の事例を交えながら詳しく解説します。適切なストレスマネジメントを実践し、休職や離職を防ぎ、組織内のコミュニケーションを円滑にするためのヒントを掲載しているので、ぜひ参考にしてください。
ストレスマネジメントとは
ストレスマネジメントとはストレスとの付き合い方を検討し、適切に管理・対処することを意味します。社会の中で生活している以上はどのような人もストレスを感じるときがあり、過剰な負担に対して適切に対処できない場合、健康を損ないかねません。
ストレスが原因で従業員の生産性が低下したり、休職・退職したりすることは、企業にとっての損失です。企業の安定的な成長を図る上ではストレスマネジメントを実施する・労働環境を改善するなどの工夫で、メンタルヘルスを改善させる取り組みが重要でしょう。
Z世代の社員に対するストレスマネジメントの重要性
1990年代の半ばから2010年代の前半に生まれた「Z世代」は、特に仕事でストレスを感じやすい傾向があります。日本生産性本部の調査によると、日本において「心の病」がもっとも多い年齢層は10~20代の若年層です。
※出典:日本生産性本部「第11回「メンタルヘルスの取り組み」に関する企業アンケート調査結果」
デロイトトーマツが全世界を対象に実施した調査では、Z世代の約半数が「仕事でストレスや不安を感じる」と回答しています。以下は、Z世代が仕事で感じるストレスや不安の主な原因です。
・人事評価や報酬に不満がある ・業務量が多く、時間内に完了できない ・仕事に意味や目的を見出せない ・上司から十分なサポートを得られない |
世界的に言えば、Z世代が仕事でストレスや不満を強く感じる主要な理由は経済的な困窮です。物価の上昇に対し、給与水準が追い付いていない傾向は世界的に起きており、貯蓄や給与水準が低くなりやすい若い世代は仕事でストレスを感じやすくなっています。
また、日本に限って言うと、Z世代の従業員は、個性や多様性を尊重した働き方を希望する傾向があります。その一方でZ世代の従業員は周囲の人から十分に評価されないことや批判されることを過度に恐れる傾向があり、見込み顧客との会話や新企画の提案が苦手です。苦手な仕事を任されたZ世代は不安やストレスを強く感じ、悩んでしまう場合があります。
Z世代の従業員の健康を守るためには若年世代の思考パターンを理解した上で、自分自身で実践できるストレス対処方法を教育する施策を取るのがよいでしょう。合わせて、Z世代が安心して働ける環境づくりに努めると、ストレスの軽減を図れます。
そもそもストレスとは
ストレスマネジメントを推進するためには、「そもそもストレスとは何か」や「心身にどのような影響が生じるか」といったメンタルヘルスの基礎知識を持つことが重要です。ストレスとは、ストレッサーとストレス反応から成り立つ概念にあたります。
ストレッサー(ストレス要因)
ストレッサーとは、ストレス反応を引き起こす外部からの刺激や圧力のことです。以下は、ストレッサーの主な種類を示します。
物理的ストレッサー | 騒音、混雑、温度、湿度、睡眠不足など |
化学的ストレッサー | 化学物質、タバコ、アルコール、ほこりなど |
生物学的ストレッサー | 細菌、ウイルス、花粉など |
心理・社会的ストレッサー | 家庭・職場環境への不安、不満、悲しみなど |
職場においては業務の量と質・人間関係・責任の発生をはじめとするさまざまな要素が心理・社会的ストレッサーになり、ストレス反応を引き起こす可能性があります。
※出典:日本医師会「病気をチェック!ストレスが引き起こす病気」
※出典:働く人のメンタルヘルス·ポータルサイトこころの耳「1 ストレスとは」
ただし、「何がストレッサーになるか」は物事の受け止め方や性格などに応じて変化する点には注意しましょう。たとえば、職場で責任ある仕事を任されたことを「ストレッサー」と感じる人もいれば、感じない人もいます。
ストレス反応
ストレス反応とは、長時間もしくは強度の刺激や圧力を外部から受けた際に起こる身体の適応反応です。ストレス反応の現れ方には、精神面の反応・身体面の反応・行動面の反応などの種類があります。
精神面の反応 | 不安、イライラ、落ち込み、興味関心の低下など |
身体面の反応 | 腹痛、頭痛、肩こり、発熱、食欲減退など |
行動面の反応 | 怒りの爆発、飲酒量の増加、孤立、引きこもり、幼児帰りなど |
職場においては行動面の反応として、ミスや事故が増加するケースもあります。ヒヤリハット(事故の一歩手前にあたる危険な状況)の発生増加も、行動面の反応の1つです。
※出典:働く人のメンタルヘルス·ポータルサイトこころの耳「1 ストレスとは」
ストレッサーになりうる事象への受け取り方や対応力は人によって異なることから、ストレス反応の現れ方にも個人差があります。心身の状態や社会的背景なども、ストレス反応の現れ方を左右する要素です。
ストレスマネジメントによって得られる効果・メリット
従業員のストレスマネジメントを推進する取り組みは企業にとってもメリットが多い上、時代に沿った経営を行うための重要な手段と言えます。ストレスマネジメントの主な効果とメリットを知り、前向きな取り組みにつなげましょう。
休職や離職の防止につながる
従業員がストレスマネジメントを適切に実践すると、メンタルヘルスの不調による休職や離職を防止できます。仕事のストレスを溜め込む従業員はそもそも真面目な人材であるケースも多く、休職や離職してしまうことは、企業にとっての損失です。ストレスマネジメントによって早期に不安や悩みを自覚し、適切に解決できるスキルを習得させれば、損失を回避できます。
※出典:働く人のメンタルヘルス·ポータルサイトこころの耳「3 メンタルヘルスケアとその実践の意義」
例えば、三井不動産株式会社では、従業員の全員を対象にメンタルヘルス研修を実施しています。メンタルヘルスの不調が理由で休業した従業員に対しては専門組織による丁寧なフォローを提供し、スムーズな職場復帰をサポートする仕組みです。
三井不動産株式会社では継続的な取り組みの結果として、再休業率がほぼ0%になりました。心身の不調が理由の休業者率は1%未満と、前向きな成果が出ています。
従業員のメンタルヘルスが改善する
ストレスマネジメントを適切に実施すれば、従業員のメンタルヘルスは安定します。メンタルヘルスが安定すると従業員本来のスキルを十分に発揮でき、生産性の向上につなげることが可能です。
※出典:働く人のメンタルヘルス·ポータルサイトこころの耳「3 メンタルヘルスケアとその実践の意義」
多くの従業員が自分自身の感情をコントロールできれば、イライラして周囲の人と衝突するなどのトラブルを抑制できます。人間関係の衝突が少なくなると職場環境は改善され、多くの従業員がより生き生きと働きやすい組織に成長できるでしょう。
例として、株式会社中村工務店では周囲の信頼が厚い従業員による悩み相談窓口を社内に設置し、ストレスマネジメントに役立てました。株式会社中村工務店では外部の機関とも契約し、従業員がストレスを溜め込みにくい環境を整備しています。
継続的な取り組みの結果として同社は、2022年に「健康経営優良法人(中小規模)」の認定を受けました。業績も順調に推移し、15年連続で長崎県のリフォーム売り上げトップ企業になっています。
組織内にコミュニケーションを取り合う風土ができる
ストレスマネジメントでメンタルヘルスが安定すれば、感情の起伏は少なくなります。多くの従業員が周囲の人の話を落ち着いて聞いたり正しく理解したりできるようになると、コミュニケーションを取り合う風土ができるでしょう。
コミュニケーションを取り合う風土ができると意思疎通や情報共有がスムーズになり、日常業務の効率化を図れます。従業員同士が頻繁にコミュニケーションを取り、人間性や価値観を相互に正しく理解できれば、誤解が理由のすれ違いも発生しません。
ダイハツ工業株式会社では実施したストレスチェックの結果を各部署の管理職へフィードバックし、職場環境の問題や組織の課題を検討する機会として活用しています。管理職への働きかけを継続した結果、組織内に話し合いの文化が浸透し始め、メンタルヘルスの専門チームと現場が連携して職場環境改善に取り組む体制を整備できました。
個々の従業員がストレスに対してできるセルフケアの方法
従業員のストレスマネジメントを推進するためには、社内研修などを通じてセルフケア方法を指導するとよいでしょう。以下では、ストレスマネジメントにおけるセルフケア方法の一例としてセルフモニタリングとストレスコーピングを取り上げ、概要を紹介します。
セルフモニタリング
セルフモニタリングとは、自分自身の状況を継続的に観察して記録化する作業です。記録化した内容を分析すると、ストレスの原因やストレス反応を明確化できます。セルフモニタリングで記録化する項目と内容の例は、以下の通りです。
・現在、自分はどのような状況か(例:入社3年目で、成長が遅いことに悩んでいる) ・何がストレッサーになったと考えるか(例:上司に呼び出され、叱られた) ・ストレスを受けた時に何を感じたか(例:劣等感、焦り) ・身体にどのようなストレス反応が生じたか(例:不眠、集中力の低下) |
多くの人は悩みや不安を招いた事象に対してネガティブな感情を持つため、正面から向き合い、振り返ることが困難です。セルフモニタリングを継続すれば振り返りの習慣が付き、悩みや不安に対する適切な対処方法を見出せます。
ストレスコーピング
ストレスコーピングとは、ストレスへの対処方法です。以下は、ストレスコーピングの主な種類と対処法の具体例を示します。
概要 | 具体例 | |
問題焦点型 | ストレッサーそのものに働きかけ、解決を図る方法 | 長時間労働で疲弊したため、シフトの見直しを依頼する |
情動焦点型 | 自分の気持ちを発信し、感情をコントロールする方法 | 友人に仕事の愚痴を聞いてもらい、気分転換する |
認知的再評価型 | ストレッサーへの捉え方を変え、前向き思考でストレスを軽減する方法 | 厳しい営業ノルマを「成長のチャンス」と捉える |
社会的支援探索型 | 周囲の人に助けを求めて、ストレスを軽減する方法 | 期日が迫った資料の作成を同僚に手伝ってもらう |
ストレス解消型 | 自分なりのストレス解消法を実践する対策 | ウォーキングで汗を流し、憂鬱な気持ちをリセットする |
効果を感じたストレスコーピングは成功事例として自分の中に蓄積し、対処方法のバリエーションを持つことが、ストレス耐性を高めるコツです。
ストレスマネジメントのために企業ができる施策の具体例6つ
企業としてストレスマネジメントに取り組み、メンタルヘルスケアを行うことによっても、従業員の心身の健康維持・向上を図れます。企業として実践できる6つのストレスマネジメント施策と成功事例を知り、職場環境の改善につなげてください。
セルフマネジメント・レジリエンス研修を行う
セルフマネジメント研修やレジリエンス研修を実施して従業員に受講させると、ストレスとの付き合い方や適切な対処方法を教育できます。セルフマネジメント研修とは心身の健康状態を安定させ、仕事のパフォーマンス向上を図る手法について学習する研修です。レジリエンス研修とは、落ち込んだ自分の心を立て直すスキルの習得を目指す研修を意味します。
研修を通じて従業員のメンタルヘルスケア意識を変えた事例としては、北海道セキスイハイム株式会社の取り組みが参考になります。北海道セキスイハイム株式会社では2021年に管理職対象のラインケア研修、2022年にすべての従業員対象のセルフケア研修を実施しました。研修の成果として同社では管理職を中心にメンタルヘルスケア意識が高まり、保健師への相談増加などの変化が生じています。
ワーク・ライフバランスを改善する
長時間労働による疲労や睡眠不足も、従業員の心身の健康状態に影響します。ストレスを軽減するためには以下の制度や取り組みを導入し、ワーク・ライフバランスを改善しましょう。
・残業時間の削減 ・フレックスタイム制度の採用 ・有給の取得促進 |
上記の他、子育てや介護中の従業員に配慮した休暇制度を取り入れる方法もあります。
ワーク・ライフバランスの改善事例を知りたい場合は、亜木津工業株式会社の取り組みを参考にしましょう。亜木津工業株式会社では2022年から19時にパソコンを強制停止させるシステムを導入し、残業時間を削減しました。2023年からは従業員の要望に対応して時間単位での有給取得制度も導入し、働きやすさの改善を進めています。これらの施策の結果、阿久津工業株式会社は国から健康経営有料法人として認定を受けました。
産業医や保健師と連携する
メンタルヘルスに不調を感じる従業員へのサポートでは、医学的な専門知識も必要です。従業員の不調に備えるためには産業医や保健師といった産業保健活動の専門家と連携して、十分なサポート体制を整備しましょう。高ストレス者への対応に備えるためには、外部クリニックなどの相談先も確保すると安心です。
専門家との連携でストレスマネジメントを行っている事例としては、株式会社九電工の関西支店の取り組みが参考になります。株式会社九電工の関西支店では2016年度から社内に保健師を常駐させたものの、十分に機能しませんでした。保健師のほうから現場を訪問して存在を覚えてもらい、いざという時に相談してもらえる体制を構築した結果、健康相談室の利用や電話相談などが増加しています。
1on1ミーティングを行う
従業員の感情の変化やストレスレベルを正しく把握し、対応を検討するためには、上司と部下が1対1で対話する「1on1ミーティング」を取り入れる方法があります。1on1ミーティングでは上司と部下の距離感が近いため、普段以上にオープンな雰囲気の中、率直な対話を行うことが可能です。
株式会社中央コーポレーションでは3か月に1回、30分程度の1on1ミーティングに取り組んでいます。同社では1on1ミーティングを継続した結果、部下の状況を把握しやすくなった・仕事量の調整や部署異動を検討しやすくなったなどの成果が出ました。株式会社中央コーポレーションでは誕生日ミーティングの実施や残業時間の削減にも取り組み、メンタルヘルスの不調が原因で欠勤した従業員の割合0.9%以下を達成しています。
社内に相談窓口を作る
従業員が安心して働ける環境を整備するためには、以下の人に悩みや不安を相談できる社内窓口を設置しましょう。
・衛生管理者 ・産業医 ・保健師 ・心の健康づくり専門スタッフ ・人事労務担当者 など |
社内相談窓口の利用を促すためには、イントラネットで案内する・リーフレットを配布するなどの手段で繰り返し告知する対策が有効です。
※出典:働く人のメンタルヘルス·ポータルサイトこころの耳「社内相談窓口設置までの流れとポイント」
メンタルヘルスの不調を早期に相談できる体制を整備し、従業員の働きやすさを向上させた事例としては、株式会社丸井グループの取り組みが参考になります。株式会社丸井グループでは2016年にストレスチェック制度を導入して以降、継続的に職場環境改善に取り組んできました。同社では日頃から産業医が管理職と対話し、高ストレス者の割合が高い部署に対しては全員面談を実施するなどの対策を取り、不調の予防に努めています。
復職支援施策を強化する
メンタルヘルスの不調が原因で休職した従業員を無理なく職場復帰させるために必要な措置を検討し、支援体制を強化します。職場復帰の前にリワーク(メンタルヘルスの不調によって休職した人向けの職場復帰支援プログラム)へ参加させ、復職を支援する方法もおすすめです。
アビームコンサルティング株式会社では休業者が職場復帰する際にはリワークへ参加させ、保健師の面談・図書館通い・心理的な振り返りなどに取り組ませています。職場復帰した従業員は復職から1か月、週に2~3時間開催する再発予防プログラムに参加してセルフケアスキルの向上を目指します。
アビームコンサルティング株式会社では休業を「人生観を変える経験」ととらえ、「より前向きなキャリアプランを構築するためのサポートが必要」として支援している点が特徴です。リワークや再発予防プログラムを通じて復職後のセルフケアに役立つスキルを習得させ、活躍を支援する取り組みは、他業種のストレスマネジメントへの応用も可能でしょう。
まとめ
ストレスマネジメントを実行すれば、従業員の休職や離職を防ぎ、生産性を向上できるだけでなく、コミュニケーションの円滑化にもつながります。企業ができる具体的な施策としては、セルフマネジメント・レジリエンス研修の実施、ワーク・ライフバランスの改善、産業医や保健師との連携が挙げられます。
また、1on1ミーティングの導入、社内相談窓口の設置、復職支援の強化といった方法により、社員が悩みについて話しやすい職場環境を作るのも重要です。これらの施策を通じて、従業員が安心して長く働ける職場を作りましょう。
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