アクティブラーニングとは?主体的な人材を育てる手法を事例で解説

生徒が受動的に教育されるのではなく、能動的に考えて自主的に学ぶよう促すアクティブラーニングは、学校教育以上にビジネスでも有益な教育方法です。特に時代が目まぐるしく変化するVUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)時代と言われる現代社会では、自ら学び、先の時代を見通そうとする人材が欠かせません。そのような人材を教育するために、アクティブラーニングを取り入れた研修を始めるとよいでしょう。

この記事では主にHR担当者に向けて、アクティブラーニングが効果的な理由や導入するメリット、主なアクティブラーニングの手法について解説します。

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アクティブラーニングとは

アクティブラーニングとは、児童・学生などの学習者が主体的に学習に取り組めるように設計された学習法の総称です。

「主体性とは?社員の主体性を高める方法や自主性との違いを解説」はこちら

アクティブラーニングにおいては、学習者は授業を受け身で聞くだけではなく、意見の発表や話し合いを行って授業運営に参加します。グループワークやディスカッション、ディベートなどがアクティブラーニングの主な例です。

アクティブラーニングは近年の教育業界で主流となっている学習法であり、文部科学省が定める学習指導要領にも組み込まれていた経緯があります。

アクティブラーニングはもう古い?

現在の学習指導要領からはアクティブラーニングという言葉が消えており、代わりに「主体的・対話的で深い学び」という同様の意味合いを持つ言葉に置き換えられています。

文部科学省の学習指導要領からアクティブラーニングが消えた理由は、用語の定義が曖昧であり、教育現場の混乱を招いたためです。もともと教育現場では子どもたちの成長や能力に合わせた授業形式を選択する必要があり、さらに定義が曖昧な教育方法を推奨したことが混乱につながったと考えられます。

現在の教育現場では、アクティブラーニングという言葉はほとんど使われなくなりました。

しかし、意味が近い「主体的・対話的で深い学び」という言葉が学習指導要領で使われているように、アクティブラーニングは完全に古くなったわけではありません。

アクティブラーニングが推奨されていた背景

近年は技術進歩が著しく、分けても情報技術の進歩によって社会的変化のスピードは加速している状況です。産業の構造変化や考え方の多様化が進み、画一的な思考法や特定の立ち位置に縛られる人材は、変化への適応が難しくなっています。

社会の変化に適応できる人材の重要性が増している時代背景が、アクティブラーニングが推奨されていた理由です。

文部科学省は、下記の視点でアクティブラーニング(主体的・対話的で深い学び)を実施することを推奨しています。

【文部科学省によるアクティブラーニングの視点】

【深い学び】
習得・活用・探究の見通しの中で、教科等の特質に応じた見方や考え方を働かせて思考・判断・表現し、学習内容の深い理解につなげる「深い学び」が実現できているか。

【対話的な学び】
子供同士の協働、教師や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自らの考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。

【主体的な学び】
学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連づけながら、見通しを持って粘り強く取組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。

※引用:文部科学省「主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの. 授業改善)について(イメージ)(案)」引用日_2023/12/17

また、文部科学省がアクティブラーニングで目指した内容は、下記の3点です。

・生きて働く知識・技能の習得
・未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成
・学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養

※引用:文部科学省「主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの. 授業改善)について(イメージ)(案)」引用日_2023/12/17

アクティブラーニングで3つの目的を達成することにより、社会に出てからも能動的に学習を続け、活躍できる人材の育成ができます。

アクティブラーニングはビジネスや研修に効果的

アクティブラーニングは本来、大学生以上の大人が学習する際に有効な手法です。

学習指導要領からはアクティブラーニングという言葉が消えたものの、社会人の研修や問題解決などに取り入れる場合は、今でもアクティブラーニングは有効と言えます。

特に社会人は、目まぐるしく変化する現在の社会で生きていかなければなりません。アクティブラーニングを通して柔軟な思考力や判断力、学習する姿勢を身につけることで、社会の変化に適応できる人材になり、活躍の場を広げられるようになるでしょう。

実際のところ、グループワークに代表されるアクティブラーニングは社員間のコミュニケーション活性化ができ、ビジネスの問題解決やプロジェクト遂行にも役立ちます。

【事例付き】アクティブラーニングを導入するメリット

アクティブラーニングは人材育成の考え方として優れており、アクティブラーニングを取り入れた研修を実施する企業は増えています。

アクティブラーニングをビジネスに導入すると、以下のようなメリットがあります。

論理的思考力がある人材を育成できる

アクティブラーニングは、社員が主体性を持って課題に取り組む形で学習を進めるため、社員の論理的思考力を伸ばせます。でしょう。

特に近年は情報テクノロジーの進歩により、企業には多種多様なデータが集まっていて、ビジネスを進める上ではデータの活用が欠かせません。データを活用するには情報の取捨選択や関係性の洗い出しが必要であり、人材の論理的思考力が重要性を増しています。

【事例】ソニー銀行株式会社の「データサイエンスブートキャンプ」
ソニー銀行株式会社は、データの分析・活用ができる人材の育成を目的として、新入社員を対象とした「データサイエンスブートキャンプ」を実施しています。

短期集中で統計手法の理論学習と実践課題を実践し、さらに年間を通じたデータ分析ワークショップを開催して、データ分析についての学習と定着を図りました。

取り組みにより、データドリブンな企業文化を新入社員へと浸透させることに成功しています。

データ活用ができる論理的思考力のある人材育成に、アクティブラーニングは効果的です。

学んだ内容を主体的にアウトプットする場ができる

研修の内容が座学中心である場合、社員は学んだ知識を活用するイメージが持ちにくく、実際の業務に学習内容を役立てられない可能性があります。

対してアクティブラーニングの研修では、研修中に学んだ知識を主体的にアウトプットできる場が用意されています。学習内容を実際に活用し、体験を通じて学べるため、知識や技術をより深く理解できる点がメリットです。

【事例】富士通株式会社のセキュリティマイスター認定制度
富士通株式会社はサイバーセキュリティ技術を持った人材の発掘・育成を目的として、アクティブラーニングを取り入れた認定制度を実施しています。

認定制度の育成プログラムは実習環境を用意していることはもちろん、学習内容が現場の仕事をモデルとしている点が特徴です。学習した内容が、実際の業務で役立つ仕組みとなっています。

アクティブラーニングを導入した研修では、学んだ知識の定着がしやすく、実際の業務で活躍できる自信を社員に持たせられます。

戦略立案力ある経営人材を生み出せる

アクティブラーニングは課題解決力・創造性といった戦略的思考につながる能力の向上ができ、戦略立案力がある経営人材を生み出せるようになります。

戦略的思考力が重要である理由は、企業の経営計画を達成する上で、主体性を発揮して戦略策定ができる人材の価値が高まっているためです。

近年はトレンドの移り変わりが激しく、企業の経営計画達成には事業経営のスピード感が必要です。現場で働く人材に戦略的思考力が備わることで、トレンドの予測やビジネスチャンスを正確に捉え、企業の業績アップに貢献できます。

【事例】キヤノン株式会社が実施する経営人材の育成制度
キヤノン株式会社は経営人材の育成を目的として、「LEAD Program」を実施しています。

LEAD Programは、リーダー候補者が役職登用前に受講することになる研修です。アクティブラーニングを取り入れた学習内容により、経営視点への切り替えやリーダーシップの醸成、戦略立案力の強化を図ります。

アクティブラーニングを取り入れた研修によって戦略立案力がある経営人材を生み出すことで、企業の経営力強化が実現できるでしょう。

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アクティブラーニングの主な手法9選

アクティブラーニングにはさまざまな手法があります。企業の研修に導入する際は、社会人の研修に適しているかどうかはもちろんですが、企業に合う手法を選択することが大切です。

以下では、社会人向けの研修に役立つ9種類の手法と、各手法の進め方・流れを紹介します。

ジグソー法

ジグソー法は、グループ内で役割分担をして課題について学習し、調べた内容を教え合う手法です。他者に教えることを前提とした学習により、主体的に考える力や協調性を高められます。ジグソー法の特徴は、グループの中で学習内容を割り振り、専門家としてその学習内容を学ばせる点です。

【ジグソー法の進め方】

STEP1課題と、解決に必要な学習内容を提示する
STEP24~6人程度のグループに分ける
STEP3グループ内で学習内容ごとの専門家を決める
STEP4エキスパート活動で学習を進める
STEP5ジグソー活動で互いに学習内容を教え合う
STEP6テーマについて発表を行う

エキスパート活動とは、学習内容ごとの専門家同士が集まって学習を進める活動です。エキスパート活動で学習内容について知識を深めた後に、グループに戻って知識を共有することで、グループ全体の知識量を高められます。

シンク・ペア・シェア

シンク・ペア・シェアは、課題についてまずは個人で回答を考え、次にペアで意見の交換や話し合いをして、最後に全体で共有するという手法です。活動の規模が段階的に拡大し、知見の広がりやコミュニケーションスキルの強化が図れます。

【シンク・ペア・シェアの進め方】

STEP1課題を提示する
STEP2課題の回答を個人で考える
STEP3ペアを設定して、個人で考えた回答を話し合う
STEP4全体に対して、ペアごとの回答・結論を発表する

ペアで行う話し合いは、可能であれば2人の回答を1つの回答にまとめます。回答をまとめることが困難であれば、それぞれが独立した回答を用意しても構いません。

シンク・ペア・シェアを進めるにあたっては、明確な課題設定が必要です。単に特定の知識を知っているか知らないかを問うだけの課題にすると議論が深まらず、コミュニケーションスキルの強化につながりません。議論が深まるような課題を提示するのが重要です。

ラウンドロビン

ラウンドロビンは、4~6人のグループを作り、グループ内で意見やアイデアを順番に発表する手法です。グループのメンバーが順番に話し手になることで、全員が主体的に意見を発表する場を作れます。

【ラウンドロビンの進め方】

STEP1話すテーマを決める
STEP24~6人程度のグループに分かれ、グループ内で意見を記録する人を決める
STEP31人あたりの時間制限や発表する回数を決める
STEP4最初に意見を発表する人を決めて、開始する
STEP5発表された意見は必ず記録し、設定した回数が終わるまで続ける

ラウンドロビンでは、話し手以外は聞き手となり、話し手の意見やアイデアを傾聴することが大切です。話し手の意見に対して質問・批判・評価などはせず、記録のみを行います。

ピア・レスポンス

ピア・レスポンスは、ペア間もしくはグループ内で発表を行い、互いの発表内容について感想や改善点などを話し合う手法です。実際に主体的な考え方が身につき、ほかの人の比較・評価を通して多角的な視点や新たな気づきを獲得できます。

【ピア・レスポンスの進め方】

STEP1テーマを設定し、各自で意見をまとめたレポートを作成する
STEP2ペアもしくはグループを作り、レポートのアウトライン(概要)を読みあった上で、各人が自分のアウトラインについて解説する
STEP3アウトラインについての質問や感想、よい点と改善すべき点をフィードバックする
STEP4フィードバックを参考に、レポートを改善する

アウトラインについての質問や感想などは率直に伝える必要があります。発表者と聞き手が互いに遠慮をしないよう、あらかじめ対話のルールを決めることがおすすめです。

プロジェクトベースドラーニング(PBL)

プロジェクトベースドラーニング(PBL)は、学習者自身が問題を発見し、グループワークなどを通して問題の解決を目指す「問題解決型学習」です。現状の環境や構造が抱える問題点に取り組む姿勢が身につき、解決方法を論理的に思考する能力を養えます。

【プロジェクトベースドラーニング(PBL)の進め方】

STEP1問題を発見する
STEP2問題の解決方法を論理的に考える
STEP3グループを作り、グループ内でアイデアを出し合って調査手法を検討する
STEP4各自が自主的に学習を進める
STEP5学習で得た知識を問題解決に活用する
STEP6学習内容と成果を要約・発表する

最初の「問題を発見する」プロセスは、架空のシナリオを作成して問題を発見させる形式で進めても大丈夫です。

マイクロディベート

マイクロディベートは、3人1組で行う小規模なディベートです。3人が肯定役・否定役・ジャッジ役を順番に担当し、あらかじめ設定したテーマについて議論を行います。

一般的なディベートよりも短時間で実施でき、論理的思考力や表現力を高められる手法です。

【マイクロディベートの進め方】

STEP1テーマを設定する
STEP23人1組のグループを作り、最初の肯定役・否定役・ジャッジ役を決める
STEP3肯定役(または否定役)は、テーマについて肯定(否定)する理由を5つ以上書き出す
STEP4ディベートを行い、ジャッジ役は評価点を伝達した上で判定を行う
STEP5担当する役を変えて、合計で3回のディベートを行う

マイクロディベートは3人1組で行うのが基本であるものの、少人数で構成するチームを作って3チーム1組で行うことも可能です。

チーム対抗型多人数討論

チーム対抗型多人数討論は、複数のテーマについてチーム制で討論を行う手法です。討論後に勝ち負けの評価があるためゲーム感覚で参加しやすく、討論相手への競争意識も働くことで活発な学習・討論が展開できます。

【チーム対抗型多人数討論の進め方】

STEP110個程度のテーマを用意し、各自が関心のあるテーマを1つ選択する
STEP2同一テーマを選んだ3~5人でチームを作る
STEP3チームでテーマをもう1つ選択し、2つのテーマについて学習・調査を行う
STEP4チーム内で発表用のレジュメ案を作成し、期限内に講師へと提出する
STEP5講師に選ばれた各テーマの上位2チームが発表し、聞き手のチームは質疑応答を行う
STEP6発表を行った2チームの勝敗を投票で決める

チーム対抗型多人数討論は大人数で行うことを前提としており、多数の社員が受講する研修に活用しやすいメリットがあります。

フィールドメソッド

フィールドメソッドは、実際の現場を訪れて調査などを行い、体験・発見を通して課題解決の方法を模索する手法です。実際の現場を利用することで、実践的な問題発見能力と課題解決能力を高められます。

【フィールドメソッドの進め方】

STEP1調査する対象のテーマを決める
STEP2グループを作り、テーマについての仮説を立てる
STEP3講師から調査方法のレクチャーなどを受ける
STEP4現場を訪れて、グループで対象について観察・調査・分析する
STEP5課題を発見し、課題解決ができる方法をグループで模索する

フィールドメソッドで訪問する現場は、顧客が多い店舗や競合他社が近くに存在するエリアなど、課題が実際に存在する場所を選ぶとよいでしょう。

ケースメソッド

ケースメソッドは、現場で発生した過去の事例(ケース)を題材として、各自が事例に登場する主人公の立場になって行動を考える手法です。行動がどのような結果を生み出すかを予測・評価することで、論理的思考力や変化への適応能力を身につけられます。

【ケースメソッドの進め方】

STEP1取り上げる事例を決めて、事例について予習する
STEP2事例に登場する主人公の立場になり、自分の意見をまとめる
STEP37~8人程度のグループを作って討論し、意見を修正・強化する
STEP4全体に対して自分の意見を発表する

ケースメソッドは事例の研究であり、大勢の意見や価値観を学ぶ機会が得られるメリットもあります。

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アクティブラーニングを利用して研修を成功させるポイント

アクティブラーニングを利用して研修を成功させるには、2つのポイントを押さえましょう。

・研修の目的や目標を明確にする
アクティブラーニングは自発的な学びを重視する学習法ではあるものの、研修に利用する場合は「学んでほしい方向性」を定めたほうが受講者の効率的な学習を促せます。研修の目的や目標を明確にして、何を学べばよいかを受講者が理解できるようにしてください。

・実際の業務に生かせるテーマを設定する
アクティブラーニングを利用した研修では、受講者が学習内容を身近に感じられるよう、実際の業務に生かせるテーマを設定することが大切です。研修で得た知識や気づきを業務に反映できて、研修の成果が現れやすくなります。

また、アクティブラーニングを利用した研修を実施する際は、2つの注意点があります。

・講師に高いスキルが必要になる
講師はアクティブラーニングを通して受講者を支援する存在であり、受講者が研修の目的・目標を見失わないよう導く役割があります。受講者に気づきへのヒントを提供したり、討論の評価や軌道修正をしたりもするため、講師には高いスキルが必要です。

・研修成果が受講者に依存する
アクティブラーニングを利用した研修は、受講者の知識や学習意欲によって研修成果が左右されます。習熟度別や役職ごとに研修を設定するなど、なるべく受講者の質を揃えることが大切です。

これらの特徴のため、アクティブラーニングを研修などに取り入れる場合は、社員研修や企業研修のプロに依頼するのも1つの手段です。

まとめ

アクティブラーニングは、論理的思考力や戦略立案力があり、学んだ内容を主体的に生かせる社員の育成に役立ちます。ジグソー法、シンク・ペア・シェア、ピア・レスポンスなど社会人向けのアクティブラーニングの手法は多様です。研修に取り入れる場合は、どのようなことを学んでほしいのかを考えた上で、実際の業務に生かせるテーマを設定しましょう。

ただし、アクティブラーニングを成功させるには講師に高いスキルが必要であり、また、受講者の意欲によっても結果が左右される点に注意してください。研修や教育のプロに外部委託し、一定のクオリティを担保するのもよい方法でしょう。

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