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カスハラの被害事例を紹介!今後義務化されるカスハラ対策も解説
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、顧客からの理不尽なクレームや要求を指す言葉です。顧客からの暴言や不当な要求、身体的な攻撃などが含まれ、企業にとっても従業員にとっても重大な影響を及ぼします。国や自治体がカスハラ対策として法令や条例の改正に乗り出している現状、企業側もカスハラ対策を始めるのが大切です。
この記事ではカスハラの被害事例7つと、カスハラ行為が抵触する法令、および各企業が行っているカスハラ対策事例を紹介します。自社でもカスハラ対策を始めたいと考えている方、カスハラ対策に興味がある方はぜひご一読ください。
カスハラとは
カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、顧客からの理不尽なクレームや言動、要求を指す言葉です。クレームすべてがカスハラとされるのではなく、手段や態度、言い分が社会通念上妥当性に欠けていて、労働者の就労環境が害されるものが該当します。
一般的に、クレームは商品やサービスの改善を求めるために行われます。それに対し、カスハラは悪意のもと不当な要求や嫌がらせを目的としている悪質なものです。改善策を提案しても納得しないことが多く、暴言や身体的・精神的な攻撃、土下座の要求、企業の悪評を流すといった不当行為が行われます。
顧客側の言い分や要求内容が妥当なものだったとしても、実現のための手段や態度が社会通念上不相当とされる場合はカスハラと見なされるでしょう。
カスハラ対策が重要な理由
カスハラ対策を取ることは、企業にとって重要です。カスハラを放置していると、従業員だけでなく、企業活動全体やほかの顧客に対して不利益が生じる可能性があります。
ここではカスハラ対策が重要な理由として、カスハラからの悪影響を解説します。
従業員が心身ともに疲弊する
カスハラは従業員を精神的・身体的に疲弊させます。厚生労働省の調査によると、顧客からの迷惑行為に対して67.6%の人が怒り・不満・不安を感じ、46.2%は仕事への意欲が減退したと答えています。
※出典:厚生労働省「2022年2月カマスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会」
心身への負担は、仕事のモチベーションにも影響します。疲弊した状態が続くと仕事への意欲が失われ、離職につながる可能性があります。有能な人材を失えば、企業活動やサービス提供に支障をきたすでしょう。
企業のイメージが悪化する
カスハラは、企業のイメージダウンにつながります。カスハラが発生すると、ほかのお客様に嫌な思いをさせたりサービスが行き届かなくなったりする恐れがあります。顧客離れや生産性の低下によって金銭的損失が生じ、企業にとって大きなダメージとなるでしょう。
また、現代ではSNSの普及によってカスハラによる悪評は瞬く間に広まってしまいます。真偽に関わらずブランドイメージを低下させる恐れがあり、業績にも悪影響を及ぼすでしょう。
安全配慮義務違反で罰則を受ける可能性がある
従業員がカスハラを受けるままにしていると、労働契約法第5条の「従業員の安全に配慮する義務」に違反するとみなされます。従業員が精神的または身体的な危険を及ぼすようなカスハラを受ける状況は安全な労働環境とは言えず、放置している場合は責任を問われる恐れがあります。
本来被害者であるはずの企業も、対策を取らないと加害者と見なされ、社会的非難を受けるでしょう。罰則や従業員から訴えられる可能性もあります。
実際に起きたカスハラの事例7つ
カスハラの被害を防ぐために、各自治体は条例を制定し、国もカスハラ防止を法令化するために動いています。しかし企業規模にかかわらず、カスハラはいたるところで発生し、中には裁判に発展した事例もあります。
ここでは、実際に起きた7つのカスハラ事例を見てみましょう。
JR西日本のカスハラ被害事例
JR西日本グループでは、複数のカスハラ被害事例が起きています。たとえば駅の精算機でエラーが起きた際、駆けつけた駅員に向けて、「早くしろ!クズ!」などの暴言が対応者に投げかけられた事例がありました。
ほかにも、お客様センターに短時間に何回も入電し、「殺すぞ」「センターに行く」などの暴言や無言入電を繰り返すといった悪質な事例もありました。この事例では、カスハラをした顧客は殺人予告や暴言を理由として逮捕されています。
現場からはカスタマーハラスメントを受けた際に、現場長などが守ってくれない、ルールの浸透や教育が不足しているという声が多く挙がっていました。
※出典:厚生労働省「カスタマー・ハラスメントに対する取り組みと課題について」
このため、JR西日本はカスハラを優先対応リスクの上位に置き、「JR西日本グループ カスタマーハラスメントに対する基本方針」を策定しました。方針では、必要により商品・サービスの提供やお客様対応を中止することも含め、従業員を守るため毅然とした対応を取ると明記されています。
また、防犯カメラや録音機能で記録を残し、問題発生時に証拠を残す対策を講じています。
愛媛県伊方町役場のカスハラ被害事例
愛媛県伊方町役場では、担当者の対応に不満を持った男性によるカスハラが発生しています。窓口での抗議を繰り返し、2023年3月には夜間に職員を自宅に呼びつけて約8時間あまり脅迫や謝罪を迫る中、木刀で危害を加えると脅しました。男性職員はストレスによる抑うつ状態で退職し、親族からの刑事告発によりカスハラをした男性は書類送検されています。
この事態により、町は不当な要求を拒否する、危険が及ぶ場合は警察への通報を行うなどの対応を定めた「不当要求行為等対策条例」を制定しています。
ファッションセンターしまむらのカスハラ被害事例
衣料品店であるファッションセンターしまむらで発生したのは、従業員に土下座をさせるカスハラです。
2013年、タオルケットに穴が開いていたというクレームで店を訪れた女性が、従業員が謝罪と返品・返金をするだけで怒りを納めず、さらに交通費を要求しました。店長代理と従業員が交通費を払えない旨を伝えたところ、女性は土下座を強要し、店長代理と従業員が土下座した姿を撮影して実名とともにSNSに店の悪評を投稿しました。
その後、自宅に向かって謝罪するよう要求された店は、被害届を出すという対応を取りました。女性は強要罪で逮捕されています。
熊本バスタクシーのカスハラ被害事例
熊本バスタクシーでは、2024年にタクシーのドアを蹴った乗客の男性が器物損壊の疑いで現行犯逮捕されています。男性は酒に酔った状態で乗車し、目的地までの道のりをめぐって運転手とトラブルになりました。高圧的な態度を取り、到着後も運賃の全額支払いを拒否します。運転手が交番にタクシーを走らせたところ、男性は警察官の目の前でタクシーを蹴り、現行犯逮捕に至ります。
タクシー業界では暴言や理不尽な言いがかり、カスハラ行為のスマホ撮影などの被害が多いのが現状です。それに対し、顔写真と名前を記載した運転者証の提示をやめるといった対策が取られています。
※出典:TBS NEWS DIG「酔った乗客がタクシーを蹴ったとして逮捕 「殺すぞ」などの暴言や理不尽な要求 “密室の車内” で横行するカスハラ」
KDDIのカスハラ被害事例
KDDIでは、2019年に1週間で400回以上のクレーム電話を受けるというカスハラ被害が起きました。男性はラジオ番組への電話がつながらなかったという理由で、フリーダイヤルにクレームを入れ始めます。「今すぐ謝罪にこい」「ブサイク」「くさい」など嫌がらせに近い内容で、2年ほどの間に2万4,000回以上電話していたと見られています。
KDDIは警察に相談をし、男性は業務妨害罪で逮捕されました。2022年にはKDDI労働組合が、KDDI労使におけるハラスメント禁止に関する労働協約の締結を掲げ、カスハラを含むハラスメント防止に取り組んでいます。
中華そばいっけんめのカスハラ被害事例
茨城県水戸市にある中華そばいっけんめは、カスハラにより閉店に追い込まれた被害者です。当初は普通の常連客だった男性が、トッピングを大量に追加注文して残すという嫌がらせを始めます。店がトッピングの追加注文を受けるのを断ると、卓上の調味料と爪楊枝を全部ラーメンの中に入れ、椅子を蹴って立ち去りました。
店舗が男性を出入り禁止にすると、「店を壊す」「殺す」など脅迫の電話を執拗に行う形でエスカレートしました。身の危険を感じた店主が男性の訪れる店舗を閉めた後、警察への被害届が受理され、男性は罰金10万円の判決を受けています。
某介護施設のカスハラ被害事例
ある介護施設では、移動介助中の骨折事故が発生した際、利用者の家族から過度の責任追及を受けるカスハラが生じています。受診の立ち合いや謝罪の対応を行っても度重なる責任追及が続き、事故発生から半月の間で10回近くまで及びました。
家族からの度重なる責任追及行為が発生する都度、管理者は支部へ報告していたものの、支部から本部への報告がなく、支部から管理者への指示もありませんでした。状況を収束させるため管理者が自己判断した結果、利用者の家族へ金品を渡すといった不適切な対応がされ、さらに問題がこじれます。
これを受けて、施設は対応を弁護士委任とし、今後は現場だけで解決しようとせずに本部へ指示仰いで組織としての対応を徹底するという対策を取っています。
カスハラ被害を訴えることはできる?
民法や刑法にふれるカスハラ行為は、司法に被害を訴えられます。さらに警察や弁護士などに相談し早期介入を求めることは、カスハラ対策として有効です。被害を最小限に抑え、カスハラ防止にもつながるでしょう。
ここではカスハラが民事上、刑事上のどのような法律に該当するのか解説します。
民事上の責任
カスハラは、民法第709条の「不法行為に基づく損害賠償」に該当することがあります。不法行為に基づく損害賠償とは、故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は、生じた損害を賠償する責任を負うという定めです。
対応した従業員が精神的なダメージを負い、心身に不調をきたした場合、カスハラ行為者は該当従業員に対して損害賠償責任が生じます。またカスハラによって企業の名誉が毀損されたり対策にコストがかかったりした場合も企業にとって損害が生じているため、損害賠償を請求できる可能性があります。
刑事上の責任
カスハラで見られる暴言や暴力、過度な要求などの言動は、以下の刑法に該当するケースがあります。
・不退去罪(第130条) 例:迷惑行為を理由に退去を求めた後も店舗に居座り続ける ・傷害罪(刑法204条)または暴行罪(刑法208条) 例:従業員に暴力をふるう、怪我をさせる ・脅迫罪(刑法222条) 例:企業や従業員に危害を加える発言をする ・強要罪(223条) 例:脅して妥当性に欠いた行為を要求する、土下座させる ・名誉毀損罪(刑法230条) 例:企業や従業員個人への侮辱的な発言をする、SNSで誹謗中傷する ・信用毀損及び業務妨害罪(刑法233条) 例:虚偽の悪評を広めて評判を落とす、ネット上で爆破予告や殺人予告を行う |
ほかにも妥当性のない言動は、恐喝罪や軽犯罪法違反などさまざまな法律に触れる可能性があり、犯罪行為として刑法上の罪を問えるでしょう。
国や自治体のカスハラ対策
国や自治体はカスハラを問題視していて、条例制定や法改正などさまざまなカスハラ対策を進めています。
国の方針 |
国による法改正としてあげられるのが、2023年12月13日施行の改正旅館業法です。カスハラに当たる要求や行為を繰り返した場合、宿泊施設は該当者の宿泊を拒否できるようになりました。 また、国は労働施策総合推進法の改正を検討し、カスハラ対策を企業に義務付けるなどカスハラ対策を強化する方針を示しています。同時に、正当なクレームと区別できるよう、カスハラの具体的な定義付けも検討されています。 |
東京都のカスハラ防止条例 |
東京都では、全国初のカスハラ防止条例制定を目指し、素案を取りまとめています。またカスハラと判断できるよう、カスハラを「就業者に対する暴言や正当な理由がない過度な要求などの不当な行為で就業環境を害するもの」と定義づけました。 条例では、カスハラ禁止を明記し、カスハラから従業員を守る企業の責務が規定される見通しです。ただし、悪質な行為には刑法上の責任を問えるため、条例では違反者への罰則は設けない方針が取られています。 |
企業が行っているカスハラ対策事例
カスハラから従業員や企業イメージを守るには、カスハラへの対応基準をあらかじめ決めておく必要があります。
ここでは実際に企業が行っているカスハラ対策として、以下の4つの事例を紹介します。
ヤマト運輸
タリーズコーヒージャパン
タリーズコーヒージャパンは、ネームプレートに名前を記載しない方針を打ち出しています。本格的に対策が検討されたきっかけは、従業員が名前をSNSで検索され、つきまとい行為を受けたことです。社内コミュニケーションや役職・ランクの表記というネームプレートの役割を残しつつ従業員を守るために、イニシャル表記にするという決定が下されました。
また、レシートのレジ担当者部分には社員番号を記載して、顧客には名前が分からないようにしています。
ほかにも、カスハラを受けた際の対応手順を作成し、暴力・暴言行為が発生した場合、本社または地域の防災センター・警察に連絡するよう周知するなどルールを定めています。
フリー株式会社
フリー株式会社では、カスタマーハラスメント対策プロジェクトを立ち上げ、対策に取り組んでいます。まず行われたのは、カスハラ被害の実態調査アンケートの実施や厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを読みこんで専門知識を身につけさせることです。
その後「カスタマーハラスメントに対するfreeの考え方」を作成し、自社ホームページにて社外公開しました。該当する行為をした場合はサービス提供を断る可能性がある旨を発信することで、カスハラ防止を目指しています。
くわえて、社内向けの対応用ガイドラインを作成・運用し、どのような対応をすればいいのかを従業員に周知しています。
西屋旅館
白布温泉にある西屋旅館は鎌倉時代の創業であり、無形文化遺産に認定されたかやぶき屋根の木造建築物に宿泊できる魅力ある施設です。かやぶき屋根は非常に燃えやすいため、館内は全面禁煙です。
宿泊客が喫煙を行い、注意すると口コミサイトに悪評を書き込んだことをきっかけに、西屋旅館ではカスハラ対策を強化しました。
禁止されている喫煙行為に対する対策として、喫煙しないという同意書の導入や宿泊約款の大幅変更を行いました。宿泊約款には過去に約款に違反した者の宿泊を拒否する点や喫煙などの禁止行為・破壊行為をした際は宿泊契約を解除する点を追記しています。利用規則には該当行為をした場合に清掃代や生じた損害分を実費請求することを定めるなど、宿の指針を示しました。
約款は自社ホームページの目立つ部分に掲載し、チェックイン時には規則が書かれた紙を見せながら説明します。合意した相手の身を宿泊させることで、カスハラを未然に防ぐための対応を取っています。
まとめ
カスハラは、従業員のモチベーション低下や離職を引き起こし、企業のイメージや業績にも悪影響を及ぼします。国や自治体もカスハラ対策に力を入れる中で、企業も具体的な対応策を講じるよう求められています。
例えば、対応マニュアルを整備する、ネームプレートに名前を記載しない、カスハラ行為をする顧客には対応しない、といった対策をするとよいでしょう。また、従業員研修を通じてカスハラの予防方法を学んでもらうのも有効です。各従業員がカスハラとはどういった行為か、どのように対応すればよいかを理解すれば、カスハラに対して企業を挙げて一貫して毅然とした対応が取れます。
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