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創考喜楽

第12回 <整理収納の実例と展望>
整理収納で変わる人・企業・未来

COLUMN

整理収納はなぜ企業に必要か

 

 前回は事例を挙げて整理収納のメリットについてお伝えしました。「企業で整理収納を行うことで効率化が進み業績向上につながる」ことは、効果に幅があるにせよ事実です。ただ、本当に重要なのはそこではないと思われます。
 聡明な皆さんがすでに感じておられるように、経済至上主義にはだいぶ前から破綻が見え始めています。働き方改革に注目が集まっていることも、そんな背景と無関係ではないでしょう。

 

 整理収納の本領とは金銭的なものでなく、より大きなステージで発揮されるものなのです。未来の企業の財産は、リアルな場において能力を発揮できる「人材」となる気がします。そのような人材を確保し、共に働く仲間同士の連携を強めるのにぜひ整理収納を活用していただければと思います。
 今後、単純作業分野はAIにどんどん進出されるでしょう。でもどんな時代になっても、人と人の結びつきを活かし、チームで一丸となって行う仕事はたぶん人間にしかでき得ないことなのです。

 

 

整理はゆっくりと心に効いてくる

 

 仕事の成果の大きさは、働く人のモチベ―ションと心の状態な大きく左右されるものです。整理収納や片づけの最も有益な効果は「精神的効果」として現れると私は考えています。社内を整理すると「時間的効果」や「経済的効果」はすぐに現れるものですが、「精神的効果」はゆっくりとその場を共有する人たち全員に沁みわたっていきます。

 

 「必要な資料がいつものキャビネットにない!」とちょっとルーズな同僚にかみついていた人も、多過ぎる書類に惑わされて部下の懸命な取り組みを見過ごしていた上長も、整理によって不必要な衝突を避けることができるかも知れません。環境が整うことにより各人のストレスが軽減し、互いを思いやれる精神的な余裕が生まれるのです。社員同士の関係が良好かつ強固であることは、企業の最大の強みになります。
 前回の事例に上げた「離職率の低下」も整理収納の作用がじっくりと効いてきた結果の1つなのではないでしょうか。

 

 

新たな切り口でとらえ始められている整理収納

 

 昨年、某市役所の職員健康課という部署の方から整理収納セミナーの依頼を受けました。私が何かに記した「心と整理収納には少なからず関連性がある」との一文を見て、整理収納で職員の心の健康度アップを目指したいとご依頼くださったのです。
 セミナーで整理収納の基本知識をお伝えし、部署間の垣根を越えてグループワークを行うことで、いままでゼロだった職場環境に対する問題意識と「皆で職場をよくしよう」という共通の目標が参加者のなかに芽生えたようでした。

 

 終了後、一人の方が私のところにいらして、「自分はうつ病で休職中だが近々復帰できるまでに回復しました。でももうひとつ、何か背中を押してくれるものがほしくて参加しました」とおっしゃいました。そして、家にあるいらないモノや職場のデスクを少しずつ片づけることで、これから元気に仕事ができそうな気がしますと言って帰られました。
 きっと、整理の持つ「精神的効果」を直感的に察知して参加してくださったのでしょう。整理収納の新たな可能性が感じられるエピソードとしてご紹介しました。

 

 

個人・企業・社会の幸福な変化のために

 

 整理収納という行為はなぜ必要なのでしょうか。なぜ、「しないよりした方がよい」と誰もが思うのでしょうか。
 その1つの答えはこんなところにあるのでは、と私は考えています。人は誰しも「幸せになるために」生きています。表れ方は違っても、どんな人の心の根底にもその思いがあり、整理収納で環境を整えることは、「心地よく心安らかに暮らす」という幸せへの一歩になり得るものとして必要とされるのです。

 

 そう、整理とは副作用のない薬のようなものです。「やろう!」と思ったときに小さな場所からいつでもチャレンジすればよいのです。「片づけなんて面倒でいやだなぁ」と苦手意識で臨むのではなく、職場でも自宅でも、「ここから幸運のスパイラルが始まる」とポジティブに受け止め、ぜひ整理収納を楽しんでみてください。
 個人が幸せになれば企業は活気づき、企業が元気になれば社会の空気が晴れやかに変わります。整理収納はそんな、未来を変える力を内包しているのではないかと、長年この仕事に携わってきた私は常に感じています。

 

 景気がよいとか悪いとかそういうことではなく、整理収納を通してこの時代に共に生きる多くの人たちが笑顔になれば、この国はまた新たな輝きを放ち始めるのではないかと思うのです。

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