昨今、メディアにおいて整理や収納の話題にこと欠く日はなく、世間の“片付け熱”は高まるばかりです。そこから派生した終活や生前整理に関わるビジネスも超高齢社会を背景に盛況の兆しを見せ、もはや一過性のブームという範疇には収まり切らないようです。整理収納がいま、まるで豊かな人生を手に入れるための必須の解決事案であるかのように捉えられている理由は何なのでしょうか。
その第一要因としては人々の意識の変化が挙げられます。戦後の高度成長期を経て、バブル期まで長きに渡り人心を席巻していた「モノ至上主義」が徐々に崩壊し、「モノを所有することが人生の真の豊かさではない」と多くの人が気づき始めました。ミニマリストや断捨離ブームもその現れであり、社会を包む空気が“モノからこころの時代”へと移行し、日本社会はある意味、精神的な成熟期に足を踏み入れたといえるのではないでしょうか。
世間で注目されているとはいえ、現在の整理収納や片付けの主対象は「個人」であり、家の片付けには気を遣う人であっても、職場のデスクの整理はおざなり……という方も多いのが実情です。会社は存在自体が公共・共有的であるため、「個人の判断では勝手に片付けられない」「異動や転職もあるので、その場しのぎでもよい」など、整理に真剣に取り組みにくい状況にあるといえます。
しかし実は、多くの人が集まり、「業績アップ」という一つの目的に向かって進む場であるからこそ、整理の効果が発揮される場でもあるのです。数年前、『トヨタの片づけ』という本がベストセラーになりました。5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)を軸としたセオリーに基づいて整理整頓することで仕事の効率がアップし、引いては業績を押し上げる、という内容が多くの企業人に響いたのです。
工場を抱えるメーカーに限らず、一般企業でも整理収納の効果は必ず業績に反映されます。整理収納業界に身を置く私には当たり前の結果に思えるのですが、「整理収納にコストを掛けよう」という企業がまだまだ少ないことも事実です。
政府の旗の下、現在様々なかたちで働き方改革が推進されています。企業内整理は労働時間の短縮にも直結します。企業が一丸となってオフィスの整理収納に真剣に取り組み、業務のプロセスや物資の無駄を省き改変していくことで、社員の労働時間を短縮することが可能となります。
全社で整理に取り組んだら、残業時間が減少したにもかかわらず仕事の効率が上がり、業績が上がったとの事例は珍しくありません。整理により時間の無駄を省くことは、個人の心身疲労の減少とプライベートの充実につながり、必ず仕事内容にも良好に反映されます。
とはいえ、職場の片付けに協力的な人もいれば、そうでない人もいるのが企業内整理の難しいところです。また、トヨタの5Sを見よう見まねで取り入れてみても、改善はうまく進みません。個人の温度差を受け入れつつ、企業内整理をスムーズに進めるコツについても今後言及していきます。
整理収納の理論について体系的に学ぶ「整理収納アドバイザー2級講座」の冒頭では、整理には3つの大きな効果があると伝えています。それらは経済的効果・時間的効果・精神的効果であり、整理を行うことにより、個人でも企業でもその効果を享受することが可能です。
かつては「片付けにまわす時間があるなら、1件でも多く客先を回ってこい!」と叱咤されるような風潮もありましたが、時代は確実に変わっています。先進的かつ賢明なリーダーは、整理による環境改善が社内にもたらす数々の効果に気づき、積極的に対応を始めています。
今後、企業における整理収納の推進ノウハウと個人で活かせる片付けスキルについて、基本的なところからお伝えしていきます。これを機に、整理が生み出す大きなメリットに多くの方に気づいていただければと思います。