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コミュニケーションエラーが起きる原因とは?防止対策や事例を解説
職場で重大な事故が起きる原因の1つに、コミュニケーションエラーがあります。情報伝達が正しく行われなかった結果、伝えたと思い込んでいた情報が実際には伝わっていなかったり、受け手が誤った解釈をしたりして、大きなミスにつながります。特に、風通しが悪く、多忙でコミュニケーションが活発でない、曖昧な情報伝達が当たり前になっている職場では、コミュニケーションエラーは起こりやすいでしょう。
この記事では、コミュニケーションエラーが起きる具体的な原因や、重大な事故の事例、および対策方法を解説します。
コミュニケーションエラーとは
コミュニケーションエラーとは、コミュニケーションに関するミスを指す言葉です。コミュニケーションエラーは大きく次の2種類に分かれています。
誤った情報伝達による コミュニケーションエラー | 伝達された情報の内容に誤りがある場合のコミュニケーションエラーです。情報の発信側が誤った情報を伝えたときと、受信側が誤った解釈をした場合などに起きます。 |
情報伝達の不足による コミュニケーションエラー | 発信された情報の量が不足している場合のコミュニケーションエラーです。情報の伝え忘れ・日常的なコミュニケーション不足といった理由から引き起こされることがあります。 |
ビジネスにおいては、コミュニケーションエラーによるリスクやトラブルに悩まされることも少なくありません。コミュニケーションエラーを解消するには、まずは起きているエラーが上記のいずれにあたるかを把握する必要があります。
コミュニケーションエラーが起きる原因
コミュニケーションエラーは、主に以下のような原因によって引き起こされます。職場や個人の様子から、次のような現象が起きていないか振り返ってみましょう。
誤った情報伝達による コミュニケーションエラーにあたるもの | ・職場の心理的安全性が低い ・伝える側や教わる側の認識が曖昧である |
情報伝達の不足による コミュニケーションエラーにあたるもの | ・伝わっただろうという思い込みがある ・曖昧な説明をよしとする文化が根付いている |
どちらにもあたるもの | ・多忙により情報伝達が不十分になっている ・コミュニケーションエラーを起こしやすい作業環境になっている |
伝わっただろうという思い込みがある
「伝わっただろう」という思い込みによるエラーは、「情報伝達の不足によるコミュニケーションエラー」にあたります。このエラーは、情報の発信者に起因するエラーです。
思い込みにもさまざまな種類があります。たとえば、伝えたと思い込んでいたものの、そもそも伝えるべきことを伝えていないケースは、思い込みによるエラーの1つです。自分が「相手もこの説明で分かるだろう」と思っていても、相手と認識を共有できておらず、結果として相手に伝わる情報が不足するケースも考えられます。
ほかには、「文字の説明だけで伝わると思っていたのに、実際は伝わっていなかった」など、情報伝達の手段に問題がある場合も考えられるでしょう。
曖昧をよしとする文化が根付いている
職場に曖昧をよしとする文化が根付いていると、重要な事柄の説明も曖昧になりやすい状態に陥ります。曖昧な説明からは、「情報伝達の不足によるコミュニケーションエラー」が生まれ、必要な情報が十分に伝わらない恐れがあります。
一方で、発信側が曖昧な理解のまま誤った情報を伝えたり、受信側が情報を誤って解釈したりすると、「誤った情報伝達によるコミュニケーションエラー」が起きやすくなります。
また、日常会話と情報伝達の区別が曖昧な状況も、コミュニケーションエラーの発生につながるでしょう。コミュニケーションの延長でそのまま重要な情報を伝えても、受信側からは重要な情報と認識されず、十分に伝わらない恐れがあります。
多忙により情報伝達が不十分になっている
多忙から起きるコミュニケーションエラーは、情報の発信側・受信側のいずれにも起きうるエラーです。多忙が原因の場合は、「誤った情報伝達によるコミュニケーションエラー」と「情報伝達の不足によるコミュニケーションエラー」のどちらも起こる恐れがあります。
多忙によるエラーの例としては、情報伝達に十分な時間がかけられず曖昧な説明になったり、必要な情報を伝達しきれなかったりするケースが挙げられます。ほかには、受信側の問題として、多忙で情報が回ってきたことに気付かないケースも考えられるでしょう。
コミュニケーションエラーを起こしやすい作業環境になっている
コミュニケーションが活発ではない・コミュニケーションをとる習慣があまりないといった環境では、コミュニケーションエラーが起きやすくなります。コミュニケーションが習慣化していない現場では、効果的な情報伝達を学習する機会が少なく、相手に情報が伝わったかどうかの確認などがおろそかになりやすいでしょう。
結果として、「誤った情報伝達によるコミュニケーションエラー」と「情報伝達の不足によるコミュニケーションエラー」の両方が起きる恐れがあります。
職場の心理的安全性が低い
心理的安全性が低い職場では、主に「情報伝達の不足によるエラー」が起きる恐れがあります。職場の心理的安全性が低いと、「これを言ってもよいのか」「仕事ができないと思われないか」など、多くの人が発言に対して消極的になるのが一般的です。
発言すること自体に不安を覚えたり消極的になったりすると、情報伝達の頻度が大幅に減る傾向があります。反対に、議論や情報伝達が活発な職場は、心理的安全性が高い職場であると考えてよいでしょう。
コミュニケーションエラーによって起きた重大な事故事例
コミュニケーションエラーによる重大な事故の例が、横浜市立大学医学部付属病院で起きた患者取り違え手術事件です。
当該病院では、1999年1月11日に心臓疾患を持つ患者Aと肺疾患を持つ患者Bを取り違え、不要な手術を行う医療事故が起きました。医師の1人が事前に異常に気付いたにもかかわらず、複数のコミュニケーションエラーが原因で患者の手術が行われたことが、事故の原因です。
事件当時、当該病院では患者を引き渡す際に必要な情報が十分に伝わっておらず、手術室看護師が2人を取り違えた結果、患者とカルテの入れ替わりが発生します。
当時研修医であった麻酔科医が患者の顔が違うことに気付き、病棟に連絡が行われたものの、伝え方に問題があった結果異常が正しく伝わらず、異常が無視されます。
さらに、手術を担当した医師は研修医である麻酔科医の訴えを聞き入れず、麻酔科医も萎縮した結果それ以上指摘ができなかったため、手術は強行されました。
複数のコミュニケーションエラーが積み重なった結果の人災と言えるでしょう。
コミュニケーションエラーを防止するための対策方法
コミュニケーションエラーの防止には、適切な対策が必要です。そこで、ここでは医療ミスを防ぐための医療機関による改善策をもとに、コミュニケーションエラー防止につながる対策方法を解説します。次の改善策の例を参考に、社内のコミュニケーションエラー対策を検討してみてください。
情報共有や意見交換がしやすい環境を作る
横浜市立大学医学部付属病院での取り違え手術では、複数のタイミングで情報共有に問題が発生しました。そのため横浜市の救命救急センターでは、緊急時でも医療スタッフが情報交換を円滑にできるよう、救急初療室とICUにオープンスペースを広く確保しています。患者が運び込まれて忙しい・焦りやすい状況でも、スタッフミーティングやデブリーフィングをすぐに行えるので、コミュニケーションエラーを防止できる仕組みです。
同様に、情報共有や意見交換を行いやすい環境づくりを行うことで、コミュニケーションエラーの発生を軽減できるでしょう。たとえば、情報共有や意見交換の時間を十分に取ったり、普段からコミュニケーションを取ったりできる職場づくりを心がけるとよいでしょう。
情報共有や意見交換、コミュニケーションの重要性が浸透するよう、コミュニケーションに関する研修を実施するのも効果的です。
ICTツールなどによる「記憶に頼らない」コミュニケーションをする
横浜市立大学医学部付属病院での事故は、不適切な情報の伝え方により起こりました。以来、同じ横浜市内の病院ではコミュニケーションエラーの防止のために、電子カルテやチャットツールをはじめとしたICTツールを積極的に導入する業務フローを構築しています。また、ある病院では医師とリーダークラスの看護師間において、情報共有用にスマートフォン用のアプリを導入し、医師と看護師間で申し送り事項を毎朝記載することで、コミュニケーションエラーを防いでいます。
同様に一般的な職場でも、言った・言わないや伝え忘れが起きないように、伝えた情報がしっかりと記録に残る各種ICTツールを導入するのが大切です。
多忙なときには、記憶違いや思い込みからコミュニケーションエラーが発生する場合があります。ツールを活用することで、個人の記憶に頼らず、的確な情報伝達を実現できるでしょう。
情報伝達のルールを決める
情報伝達のタイミングや頻度が不十分だったり、情報伝達の方法や内容に曖昧な点があったりすると、コミュニケーションエラーの発生を誘発します。どのタイミングでどのように伝えるかなど、職場で情報伝達のルールを決めておくと、コミュニケーションエラーを防げるでしょう。例として同じ横浜市の病院では、症例カンファランスシート、転棟・転院時のチェックシートなど情報共有に使う各種書類をすべて共通化し、情報の伝え方の標準化を図っています。
また、横浜市立大学医学部付属病院の医療事故は、研修医と医師の立場の差が原因で研修医が委縮し、問題に気付いたにもかかわらず対処できなかったことが原因の1つです。したがって、上下関係を問わず、相手を委縮させないコミュニケーションのルール作りも大切です。
情報伝達のルールの1つに、アサーティブ・コミュニケーションの構築があります。アサーティブは「自己主張」を意味します。アサーティブ・コミュニケーションは、社歴や年齢、職場での上下関係などを問わず、相手を尊重しながら意見を交わすコミュニケーション方法です。誰もが発言しやすいルールを作ることで、円滑な情報伝達を実現できます。
まとめ
コミュニケーションエラーが原因で起きた重大な事故の事例として、横浜市立大学医学部付属病院で起きた患者取り違え手術事件があります。病棟看護師と手術室看護師、研修医と指導医師の間で適切なコミュニケーションが行われなかった結果、本来必要ない手術が行われる重大事故が起きました。
以来、病院では二度と同じような事故を起こさないために、情報共有や意見交換がしやすい職場環境を作り、ICTツールなどを活用してコミュニケーションを活発化させています。また、情報伝達のルールを決めて伝え方を標準化するほか、上下関係を問わずアサーティブ・コミュニケーションが取れる仕組みを導入している病院もあります。
コミュニケーションエラーが大事故につながるのは医療機関だけでなく、一般的な職場でも同じです。病院の事例を他山の石として、自分の職場改善につなげましょう。
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