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コンプライアンス違反とは?具体的な事例や発生する理由を解説

コンプライアンス

コンプライアンスは、企業が社会的信頼を維持し、法的リスクを回避するために必要不可欠な概念です。もともとは「法令遵守」を意味しますが、現代においては法令だけでなく、企業倫理や社会規範をも含む広範な枠組みを指します。企業がコンプライアンスを遵守することにより、法的なリスクを減少させ、社会的信用を守り、ステークホルダーとの信頼関係を構築・維持できます。

当記事では、これらの違反の具体例を挙げながら、コンプライアンスがなぜ重要であるか、守るためにどのような策を講じればよいのかを解説します。

そもそもコンプライアンスとは?

コンプライアンスとは

コンプライアンスとは、もともとは「法令遵守」を意味する言葉です。

しかし、現在では単に法令を遵守するだけでなく、企業倫理や公序良俗などの社会的な規範も守って経営・業務を行うことを指します。

企業のコンプライアンスにおいて、守らなければならない対象には下記の3つが含まれます。

・法令
法令とは、国会が制定した法律と、国の行政機関が制定した命令(政令・府令・省令など)を合わせた呼称です。地方自治体が制定する条例や規則を含めるケースもあります。

・就業規則
就業規則とは、賃金・労働時間といった従業員の労働条件や、職場内でのルールなどをまとめた規則類のことです。就業規則は企業ごとに作られ、従業員が遵守するべき規律を定めています。

・企業倫理・社会規範
企業倫理・社会規範とは、企業が経営活動を行う上で重視するべき道徳的な原則やルールのことです。

企業がコンプライアンスを守るためには、法令にくわえて就業規則と企業倫理・社会規範にも則ることが大切です。

コンプライアンスはなぜ重要?

企業はコンプライアンスを守ることで、以下のようなメリットが得られます。

・法的なリスクが少なくなる
コンプライアンスを守ると法令に従った企業経営が行えて、企業が法的なリスクを被ることが少なくなります。罰金などの処罰が課されるケースもなくなり、ビジネスの持続可能性を高められるでしょう。

・企業の評価を守れる
企業のコンプライアンス違反が明らかになった場合、企業の社会的信用は失墜して、顧客離れや取引先との関係悪化につながる可能性があります。コンプライアンスを守る取り組みは、企業の評価を守るためにも重要です。

・ステークホルダーとの信頼関係を守れる
企業のステークホルダーとは、顧客・取引先・株主・従業員・地域社会などのことです。コンプライアンスを守って行う経営活動はステークホルダーに利益を生み出し、信頼関係の構築・維持につながります。

法的なリスクが発生したり、社会的信用が低下したりすると、企業のビジネスにも支障を来たします。企業がビジネスを続けていくためには、コンプライアンスを守ることが重要です。

コンプライアンス違反の事例

コンプライアンス違反の事例

コンプライアンス違反にはさまざまな種類があり、違反の種類によって発生する原因や影響は異なります。

以下では、具体的にコンプライアンス違反にはどのようなケースがあるかを、いくつかの違反事例も交えて解説します。

情報漏洩

コンプライアンス違反における情報漏洩は、自社で保管している顧客情報・取引情報などが、企業内部の関係者を通じて外部に漏洩することで起こります。

不十分な情報管理体制やセキュリティの不備、取り扱う情報の重要性についての認識不足が、情報漏洩の主な原因です。

情報漏洩の事例を2つ紹介します。

日本年金機構
日本年金機構は2015年、不正アクセスによって約125万件の個人情報が流出したことを公表しました。不正アクセスの原因は、標的型メールの開封による端末の感染です。

日本年金機構は情報セキュリティに問題認識の甘さがあり、インシデント対応のルールや訓練が不十分であったことを認めています。

※出典:日本年金機構「不正アクセスによる情報流出事案に関する調査結果報告について」

ベネッセ
ベネッセは2014年、約2,895万件の個人情報が漏洩したことを公表しました。情報漏洩の原因は、データベースで管理していた個人情報が、グループ会社の業務委託先元社員によって不正に持ち出されたことです。

ベネッセは情報漏洩の可能性を認識後、危機管理本部の設置や専門家招聘などを行い、情報漏洩による被害が拡大しないよう対策を取っています。

※出典:Benesse|ベネッセグループ「事故の概要|お客様本部について」

不適切な労働環境

不適切な労働環境とは、労働基準法や雇用契約書のルールを守らないことです。残業をしている従業員に残業代を支給しない「残業代の不払い」や、労働基準法の労働時間を超えて働かせる「長時間労働」が不適切な労働環境に該当します。

不適切な労働環境の事例として、マクドナルドで発生した名ばかり管理職の事件を紹介します。

マクドナルド
マクドナルドの現職店長が「自分は管理職ではないにもかかわらず、長時間労働と残業代の不払いがある」として会社側を訴え、2008年に裁判で勝訴しました。

現職店長の立場が、労働基準法において労働時間管理の適用外となる「管理監督者」には該当しないと認められたことが、勝訴の要因です。

※出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「なぜ「名ばかり管理職」が生まれるのか」

名ばかり管理職という立場が生まれる原因には、企業が人件費の節約を目的として、人材に管理職の肩書きを与えることが挙げられます。名ばかり管理職はさまざまな企業で存在していると考えられ、企業にとってはコンプライアンス違反のリスク要因です。

ハラスメント

職場内で発生するハラスメントとは、下記のような行為です。

・部下の失敗を執拗に攻撃し、同僚たちの前で大声で叱責する。
・部下に物を投げつけ、恫喝する。
・女性社員に性的な言動を繰り返す。
・育児休業を申請した従業員を非難したり、無視したりする。
など

※出典:あかるい職場応援団「パワーハラスメントの定義」

ハラスメントによるコンプライアンス違反では、ハラスメントの被害者が会社を相手取って裁判を起こした「美研事件」があります。

美研事件では、勤務会社の方針について被害者が上司に疑問を呈したところ、会社から不平分子とみなされていじめなどを受け、さらに理由もなく退職させられました。会社の行為を原因として腰痛とうつ状態に陥った被害者が、慰謝料の支払いを会社に請求したという経緯です。裁判所は、会社による被害者への不法行為を認定し、慰謝料請求を認めています。

※出典:あかるい職場応援団「【第53回】罵倒、のけ者にするなどといった行為が不法行為にあたると判断された事案 」

不正会計

不正会計とは、企業の財務諸表を意図的に改ざんする行為のことです。

不正会計は大きく分けて下記の3種類があります。

循環取引売上や利益の水増しを目的として、複数の企業が共謀して商品転売などを繰り返し、取引があるように見せかける。
横領会社のお金を不正に取得し、関係書類の改ざんによって隠ぺいを図る。
押し込み販売業績目標の達成を目的として、需要がないにもかかわらず商品を強引に販売する。

不正会計の事例を2つ紹介します。

東芝
東芝は2015年、経営陣による組織的な不正会計があったことが発覚しました。不正会計の背景には上層部からの圧力があったとされており、民事裁判では旧経営陣5人に約3億円の賠償責任が認められています。

※出典:日本経済新聞「東芝不正会計問題、旧経営陣に賠償命令 東京地裁」

はれのひ
はれのひは2018年、銀行からの融資を目的として決算書類の売上高を粉飾し、同社の社長が詐欺容疑で逮捕されました。

はれのひの不正会計の原因としては、会社の急成長によって出店費用や人件費がかさみ、借入金の増加で財務状況が悪化したことが挙げられます。

※出典:産経ニュース「はれのひ」元社長を逮捕 粉飾決算で融資詐欺容疑 成人式晴れ着トラブル」

法令違反

法令違反は、企業の業務内容にかかわる法令に違反することで発生します。よくある法令違反は「食品衛生法」や「景品表示法」に対する違反です。

・食品衛生法の違反
食品衛生法とは、食品の安全性を確保し、飲食によって健康被害が発生することの防止を目的とした法律です。
食品衛生法の違反でよくあるケースは、飲食店における食中毒の発生や、禁止されている食品類の販売が挙げられます。

※出典:e-GOV法令検索「食品衛生法」

景品表示法の違反
景品表示法とは、商品やサービスの品質・内容・価格などを偽る表示の規制や、過大な景品類の提供を防ぐ法律です。
商品やサービスを実際よりも優良であると誤認させる「優良誤認表示」や、価格を著しく安く見せかける「有利誤認表示」が、景品表示法の違反でよくあるケースです。

※出典:消費者庁「事例でわかる景品表示法」

コンプライアンス違反はなぜ起こる?

コンプライアンス違反はなぜ起こる?

事例で紹介したようなコンプライアンス違反が起こる原因としては、人や体制によるところが大きいと考えられます。

以下では、コンプライアンス違反が起こる原因を大きく3つに分けて、それぞれがなぜコンプライアンス違反につながるかを解説します。

企業風土

企業風土に法令や社会規範を軽視する傾向が見られる場合、不正やハラスメントなどのコンプライアンス違反が起こりやすくなります。

例としては、売上アップを重視していて、社内で成果によるランク付けが行われている企業風土です。従業員は自身の成果を上げることばかりを追求するようになり、成果を上げるためであれば不正にも手を染める可能性があるでしょう。

また、上司と部下の間に強すぎる上下関係が構築されている企業風土では、上司によるパワハラが発生しやすくなります。

企業風土は組織が培ってきた習慣や環境に根差しており、古い考え方に縛られているケースも少なくありません。客観的であれば「異常だ」と判断できる場合も、企業風土として浸透していると従業員の感覚が麻痺し、コンプライアンス違反の発生につながります。

法律に関する知識のなさ

コンプライアンスを守るには、経営層はもちろん、一人ひとりの従業員も法律や就業規則について最低限の知識を備えている必要があります。法律に関する知識のなさが、コンプライアンス違反を起こす原因です。

企業に適用される法律は数多く存在するため、すべての法律を知識として備えることは簡単ではありません。しかし、経営上かかわる機会が多い法律や、業務範囲で求められるルールなどについては知っておく必要があるでしょう。

また、新しい法律の制定や法改正など、法律は社会の形に合わせて変わるケースがあります。法律に関する知識が古い場合も、コンプライアンス違反が起こりやすくなるため、適宜アップデートできるよう努めましょう。

モラルの欠如

従業員にモラルが欠如していることも、コンプライアンス違反の原因となります。倫理観や働き方についての危機感がなければ、軽率な行動を取りやすいためです。

例として個人情報など機密情報の取り扱いでは、従業員にモラルが備わっている場合、心理的抵抗によって情報漏洩が防がれることもあります。

従業員が広報業務としてSNS投稿をするケースも、モラルが備わっていれば企業の社会的立場を意識して、炎上を引き起こさないようになるでしょう。

モラルの欠如をなくすには、採用活動で人材のコンプライアンス意識を確認したり、コンプライアンス意識を高める社内研修を行ったりする方法があります。

コンプライアンス違反を起こさないために

コンプライアンス違反の再発防止策

企業がコンプライアンス違反を起こさないためには、社内のコンプライアンス意識を高める取り組みを実施しましょう。

最後に、コンプライアンス違反の防止に役立つ5つの対策を解説します。

リスクを洗い出す

自社に下記のようなコンプライアンス違反につながるリスクがないかを洗い出し、対策を行いましょう。

・無理な業務を行っている
無理な業務を行う職場は、業務の手抜き・不正やハラスメントが発生しやすい環境です。

・手順や判断基準が明文化されていない
手順や判断基準が明文化されていない職場では、従業員は個人の判断で業務を行います。業務にかかわる判断基準が曖昧になって、自覚のないままコンプライアンスに違反する可能性があります。

・マニュアルが時代に沿っていない
マニュアルが古いと、現在の法令や企業倫理・社会規範に沿わなくなります。マニュアルが時代に沿った内容になっているかの確認と更新が必要です。

紹介したリスクを発見した場合には、改善策として「業務標準化」や「最新の業務マニュアル作成」など、業務の仕組み化をしっかりと行うことが大切です。

監視体制を整える

業務プロセスの監視体制を整えることで、内部不正のコンプライアンス違反を防止・抑止できます。

監視体制を整えるためには、下記のような技術を導入するとよいでしょう。

・PCログの管理
PCログの管理を導入すると、PC上で行われたファイルの作成・移動・削除や印刷、Webサイトの閲覧など、さまざまな操作履歴を収集でき、不正を発見しやすくなります。

・アクセス権の設定
アクセス権は、特定のシステムやサーバーを使用する権利のことです。アクセス権を保有するユーザーのみがシステムを利用でき、情報漏洩を防げます。

・メール履歴の確認
メール履歴の確認を行うことで、社内から発信されたメールの監視が行えます。

監視体制の整備は内部統制につながるだけでなく、従業員が安心して働ける社内環境を作れる点もメリットです。

社内のコンプライアンス方針を決める

コンプライアンス違反への対策として、コンプライアンス基本方針を決めている企業もあります。

コンプライアンス基本方針とは、企業のコンプライアンスへの認識・対応を示す行動規範のことです。コンプライアンス基本方針を決めている企業は、コンプライアンスの実現に取り組むことを表明し、公式Webサイトなどに掲載しています。

例として株式会社リクルートは「コンプライアンスの考え方」「推進の体制・仕組み」「コンプライアンスに関する活動詳細」を定めています。コンプライアンス基本方針の目的や社会的責任を設定した上で、コンプライアンス活動の体制と実際の取り組みを紹介するという内容です。

※出典:株式会社リクルート「コンプライアンス」

コンプライアンス基本方針を定めると、自社がコンプライアンス強化に取り組んでいることをステークホルダーに示せます。

コンプライアンス研修を行う

企業におけるコンプライアンス強化の代表的な取り組みとしては、コンプライアンス研修が挙げられます。

コンプライアンス研修とは、法律や倫理観などの知識を従業員に習得させることを目的とした研修です。コンプライアンスを守る重要性や違反によるリスクを伝える内容が基本であり、研修によってはコンプライアンス違反の事例についてケーススタディも行います。

『コンプライアンス研修とは?目的やネタの選び方・成功法を解説』について詳しくはこちら

コンプライアンス研修には、企業のコンプライアンス基本方針を従業員に認識させると同時に、従業員の帰属意識を高める効果があります。

コンプライアンス研修を実施したい方は、下記の研究プログラムもぜひ参考にしてください。

コンプライアンス基礎研修(本質)

コンプライアンス基礎研修

通報窓口を設置する

コンプライアンス強化を実現するには、社内にコンプライアンス通報窓口を設置する必要があります。

コンプライアンス通報窓口とは、社内でコンプライアンス違反が発生したときに、従業員が違反行動を通報できる機関です。コンプライアンス通報窓口を設置することで、企業はコンプライアンス違反を早期発見・調査できて、被害が拡大する前に対処を行えます。

コンプライアンス通報窓口を設置する場合、社員が安心して利用できる体制を整備しなければなりません。社内の窓口では「通報によって自分が不利益を受けないか」と従業員が不安を感じる可能性があるため、社内だけでなく外部にも窓口を設置するとよいでしょう。

まとめ

コンプライアンスを守ることで、法的リスクを回避し、社会的信用を維持できるので、近年の会社運営では重要視するべき概念です。情報漏洩や不適切な労働環境、ハラスメントといったコンプライアンス違反が発生しないよう、企業風土の改善、法律知識の強化、モラルの向上が求められます。

企業はリスクの洗い出しや監視体制の整備などの具体的な対策を講じることが重要です。社員のコンプライアンス意識を高めるために、研修を行うのも一手です。

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