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従業員の心を離さないインナーブランディング|取組み内容と事例を解説

ブランディング

インナーブランディングに取り組むことで、従業員のモチベーションとエンゲージメントが向上し、企業文化が強化されます。組織全体のパフォーマンスが高まるとともに、ブランドの信頼性や顧客満足度が向上することが期待できるでしょう。

当記事では、インナーブランディングとは何かといった基礎的な内容から、インナーブランディングを行う企業側のメリット・インナーブランディングの取り組み事例まで、詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

インナーブランディングとは?

ブランディングの関連性

インナーブランディングとは、自社の企業理念やビジョン、価値観を従業員に共有し、理解を深め、共感を持って行動してもらうための活動です。

従業員が自社やブランドへ愛着を持つことは、企業への満足度やモチベーションを高め、離職率の低下・ブランドのイメージアップ・優秀な人材の確保・生産性の向上などにつながります。

アウターブランディングとの違い

インナーブランディングとアウターブランディングは、対象となるターゲットが異なります。結論としては、インナーブランディングは社内向け、アウターブランディングは社外向けという違いがあります。

インナーブランディングは、企業の従業員や関係者など、社内に向けて行うブランディング活動です。具体的には、企業理念やビジョン、価値観などを従業員に理解してもらい、共感と行動を促すための取り組みを行います。

一方、アウターブランディングは、顧客や消費者など、社外に向けて行うブランディング活動です。具体的には、商品やサービスの魅力、企業イメージなどをターゲットに伝え、認知度や好感度を向上させるための取り組みを行います。

インナーブランディングとアウターブランディングを両立させることが、企業の成功につながります。

インナーブランディングの必要性

インナーブランディングは、2000年代から日本でも広まり始めた概念で、企業価値を資産と捉え、従業員が重要なステークホルダーとしてブランドを形成する考え方に基づいています。この考えは、従業員一人ひとりが企業のビジョンを自分のこととして理解し、日々の業務に反映させることで、企業の競争力を高めるというものです。

インナーブランディングを通じて、企業は一貫性のあるブランド価値を内外に伝え、従業員のエンゲージメントと企業全体の競争力を高めることができます。そのため、インナーブランディングは、企業にとって長期的な視点で取り組むべき重要な活動です。

※出典:J-STAGE「企業のインナーブランディングの定量的評価手法」

インナーブランディングを行う企業側のメリット

業務効率化

インナーブランディングの取り組みが成功すると、従業員のモチベーション向上、チームワークの強化、顧客満足度の向上、企業の競争力強化といった多くのメリットが企業にもたらされます。

ここでは、インナーブランディングを行うメリットを4つ紹介します。

従業員エンゲージメントが向上する

インナーブランディングによって、従業員は自分が属する組織の価値観や目指すべき方向性を明確に理解することができます。その結果、「自分がこの組織で働くことで社会に貢献できる」「仲間とともに目標達成を目指したい」という組織への帰属意識と一体感が強化されます。

また、企業理念やビジョンに共感した従業員は、上司からの指示を待つのではなく、目標達成のために自発的に行動するようになります。自律性と主体性の向上につながり、組織全体の活性化に貢献するでしょう。

スターバックスコーヒーは、インナーブランディングが成功している典型的な事例の1つです。スターバックスコーヒーは、スタッフの満足度と働きやすい環境の構築を最優先に考えています。スターバックスの行動指針では、顧客満足を追求すると同時に、従業員同士のリスペクトや、働きやすさを重視しています。これを実現するために、スターバックスは「スタースキル」と呼ばれるコミュニケーションスキルを重視しており、お客様に対する積極的な貢献意欲を促す環境作りに成功しています。

従業員の定着率が上がる

企業理念やビジョンに共感し、自分の仕事が社会貢献につながることを実感した従業員は、高い満足度を得ることができます。また、組織への帰属意識や一体感が高まることで、会社への愛着も強くなるでしょう。

待遇面や人間関係など、離職にはさまざまな理由がありますが、インナーブランディングによって、離職に関する課題を解決し、離職を減少させることができます。

【例】
・待遇面
企業理念に共感し、仕事にやりがいを感じている従業員は、多少の待遇差であれば転職を検討しにくくなります。

・人間関係
組織全体の価値観が共有されることで、コミュニケーションや協力関係が円滑になり、人間関係の悩みが減ります。

また、魅力的な企業文化は、優秀な人材を引き付ける力があります。インナーブランディングによって、従業員の成長を促し、社内人材の育成にもメリットがあるでしょう。

企業の生産性が上がる

インナーブランディングを通じて、従業員は自らの仕事が企業全体の目標達成にどう貢献しているのかを明確に認識できるようになります。

組織全体の目標が明確になり、各部門や個人が連携して業務を進めることで、業務の効率化と無駄の削減が可能になるでしょう。また、従業員が自発的にアイデアを出し合い、意見交換を行えるような雰囲気を醸成できれば、新たなアイデアやイノベーションが生まれやすくなります。

企業のブランド力が上がる

企業理念やビジョンに共感し、誇りを持って働く従業員は、顧客との接点において、企業ブランドを体現する存在となります。従業員一人ひとりがブランド価値を理解し、顧客とのコミュニケーションにおいて一貫性のあるメッセージを発信することで、顧客体験の質を向上させることができるでしょう。

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドでは、インナーブランディングの取り組みの1つとして「サンクスデー」を開催しています。主に準社員や非正規社員などのキャストを閉園後のパークに招き、役員や社員が直接もてなすことで、社内の誇りと愛着を深め、企業ブランドを再確認することを目的としています。アンケート結果から、オリエンタルランドでの勤務に誇りを持つスタッフが多いことも明らかとなっており、強いブランドを築けている事例です。

インナーブランディングの取り組み事例

取り組み

続いて、インナーブランディングの具体的な取り組み事例をいくつか紹介します。さまざまな手法を比較検討し、自社でインナーブランディングを行う際の参考にしてみてください。

社内報の作成

社内報は、企業理念やビジョン、経営陣のメッセージ、従業員インタビュー、社内イベント情報などを掲載し、定期的に従業員に配布するコミュニケーションツールです。

社内報は、企業の取り組みや従業員の様子を社外に発信するツールとしても活用できます。企業理念やビジョンに基づいた活動を紹介することで、企業イメージの向上につなげることができます。

社内イベントの実施

社内イベントは、従業員同士の交流を促進し、企業理念やビジョンを共有する場として、インナーブランディングに効果的な取り組みです。普段業務で関わる機会が少ない従業員同士が交流することで、コミュニケーションが活性化し、チームワーク向上につながります。また、部署を超えた交流によって、新たなアイデアやコラボレーションが生まれることもあります。

たとえば、従業員の成果を表彰するイベントや、チーム対抗の競技会などを開催することで、従業員のモチベーションを高められるでしょう。他にも、経営陣による講演やワークショップなどを開催することで、企業理念やビジョンを従業員に理解してもらい、共感と行動を促すことができます。

クレドの作成

クレドとは、企業が大切にしている価値観や行動指針をまとめたものです。従業員が日々の業務で何を考え、どのように行動すべきかを示す指針となることで、インナーブランディングに効果を発揮します。

たとえば、リクルートのクレドは「私たちは、新しい価値の創造を通じ、社会からの期待に応え、一人ひとりが輝く豊かな世界の実現を目指す。」という文言(基本理念)で始まっています。

※出典:リクルートホールディングス「ビジョン・ミッション・バリューズ」

クレドは経営層だけでなく、従業員も参加して作成することで、より共感を得られるものになります。

社内SNSの活用

社内SNSは、従業員同士が情報共有やコミュニケーションを行うためのツールです。

従来の社内報や掲示板と比べ、情報発信や閲覧が容易で、リアルタイムな情報共有が可能になります。また、コメントやいいね機能などを通じて、双方向のコミュニケーションが促進できるのがメリットです。社内イベントや従業員インタビューなど、さまざまな情報を発信することで、従業員の仕事への関心や意欲を高めることができるでしょう。従業員同士の交流が活発になることで、一体感や帰属意識が向上します。

運用に際しては、個人情報の取り扱い、誹謗中傷の防止など、運用ルールを策定し、健全な利用を整備することも大切です。

ワークショップの実施

ワークショップは、従業員が主体的に参加し、企業理念やビジョン、価値観などを理解し、共有するための効果的な手法です。

【ワークショップの例】

・企業理念やビジョン策定のワークショップ
・チームビルディングワークショップ
・リーダーシップ研修

一方的な情報伝達ではなく、従業員が自ら考え、意見交換することで、より深い理解と共感を得られる機会になるでしょう。

オフィスレイアウトの変更

オフィスのレイアウトも、従業員の働き方やコミュニケーションに大きな影響を与える要素です。

【オフィスレイアウト変更の具体的なアイデア例】

・部署間の壁を取り除くために、オープンな空間にする
・コミュニケーションスペースやフリーアドレス制を導入する
・リラックスできるようなカフェスペースを設ける
・自然光を取り入れる
・従業員の意見を取り入れながら、レイアウトを決定する

オフィス空間のデザインやレイアウトを企業理念やビジョンに沿って設計することで、従業員に常に理念やビジョンを意識させ、行動を促せます。

実際にインナーブランディングを行った企業の変化

変化

インナーブランディングは企業文化の深化と従業員のエンゲージメント向上を目指す重要な戦略です。ここでは、インナーブランディングを実践し、その結果として顕著な変化を遂げた企業の事例をいくつか紹介します。

スターバックス

スターバックスは、従業員の働きやすい環境と自己実現を重視するインナーブランディングを積極的に行ってきました。その根底には、創業者ハワード・シュルツの「従業員に誇りを持って働いてもらいたい」という願いがあります。

この方針のもと、スターバックスは年間80時間の研修を実施し、従業員一人ひとりが顧客満足を追求する自主的な行動を促しています。マニュアルに頼らないこのアプローチは、従業員の創造性と主体性を育み、結果的に高いサービス満足度につながっています。

さらに、週20時間以上勤務するパートタイマーを含む全社員に健康保険やストックオプションを提供するなど、福利厚生面でも従業員を大切にする姿勢を示しています。このような従業員中心の文化は、企業への強いエンゲージメントと忠誠心を生み出しています。

株式会社ぺんてる

株式会社ぺんてるでは、インナーブランディングの一環として「PENTEL RAKUGAKI WEEK」という社内イベントを開催し、社内の部署ごとに自社商品を使って「2030年を描こう」というテーマで作品を制作しました。この取り組みは、社内でのコミュニケーションを活性化させるとともに、従業員の創造性を刺激し、チームワークを強化する効果をもたらしました。

社内でのイベントが、社外に向けたブランドメッセージの一部となり、企業の創造性や社員のエンゲージメントを外部に伝える手段となり得ることが分かる事例です。

株式会社LIXIL

株式会社LIXILは、インナーブランディングを通じて「住生活を支える」というコンセプトを社内外に広く浸透させ、企業イメージの再構築に成功しました。

ロゴマークは、「LIVE」と「LIFE」が交わる点に「X」を配し、快適な住生活を目指す姿勢を象徴しています。このシンプルで親しみやすいデザインは、安心感と温かみを伝える色使いとともに、LIXILのブランドイメージを強化しました。

インナーブランディングを成功させるためのポイント

パーパスとMVV

インナーブランディングの施策は、定期的に見直しを行い、必要に応じて更新することも大切です。

最後に、インナーブランディングの取り組みを成功に導くために、重要なポイントをいくつか紹介します。

ブランドコンセプトを明確にする

インナーブランディングの根幹となるのが、ブランドコンセプトです。

ブランドコンセプトとは、ブランドの本質的な価値を言語化したものです。ブランドが社会や顧客に対してどのような役割を果たしていくのか、どのような価値を提供するのかを明確に定義し、言葉で表現します。ブランドのアイデンティティや個性を形成し、製品やサービス、マーケティング戦略を通じて消費者に伝えられます。

企業理念やビジョン、従業員に求める行動指針などを明確に定義することで、一貫性のあるメッセージを発信し、従業員の共感を得られるでしょう。

中長期的な視点を持つ

インナーブランディングは短期間で成果が出るものではありません。長期的な視点に立ち、継続的に取り組むことが重要です。企業文化は一夜にして変わるものではなく、長期的な視点で徐々に形成されます。

企業理念やビジョン、価値観を従業員に共有し、共感と行動を促進するには、単に情報を伝えるだけでは十分ではありません。また、インナーブランディングは、単発の施策で終わるものでもありません。従業員が自分事として理解し、行動に移すためには、時間が必要です。

そのため、インナーブランディングの施策を講じる前に、明確な目標を設定することが重要です。定期的に効果測定を行い、改善点を洗い出すことが重要です。効果測定によって、取り組みの成果を客観的に評価できます。

経営層がインナーブランディングにコミットメントすることも非常に重要です。経営層のコミットメントによって、組織全体で取り組む体制を整備できます。

価値観の共有を求めすぎない

企業が一方的に価値観を押し付けるのではなく、従業員一人ひとりが自分自身の価値観と照らし合わせて、共感できる部分を見つけていくことが重要です。

価値観の共有はチームワークを強化し、組織の目標に向かって一致団結するために重要ですが、一方で過度に統一された価値観は、新しいアイデアの創出を阻害したり、組織の成長に必要な多様性を損なったりする恐れがあります。

従業員はそれぞれ異なる背景を持ち、個々の価値観や考え方があります。それぞれの価値観を尊重することで、従業員は自分自身が価値を持つ個人として認識されると感じ、より強い所属意識とエンゲージメントを組織に対して持てるようになるでしょう。

まとめ

インナーブランディングは、企業にとって重要な取り組みの1つです。従業員のエンゲージメント向上、企業への帰属意識向上、企業価値の向上など、さまざまな効果を期待することができます。

インナーブランディングは、短期間での成果よりも、企業と従業員の持続可能な成長と発展を目指すための長期的な戦略です。インナーブランディングの取り組みが成功するためには、即効性を求めるのではなく、時間をかけて従業員とともに成長していく中長期的な視点が不可欠になります。

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