企業研修

【HR担当向け】OJT成功の3つのコツ。Z世代教育も解説

OJT成功のコツ

OJT(On the Job Training)とは、育成対象社員に対し実務を通して知識やスキルを身に付けさせる教育手法のことを言います。新入社員や業務未経験者に先輩社員や上司が付き、マンツーマンで指導を行うのが特徴です。

当記事では、研修にOJTを導入する目的やメリット・デメリット、OJTでZ世代を教育するための方法などを解説します。OJTの基本的な情報を知りたい方や、OJTを利用した社員教育を行いたい方はぜひご覧ください。

OJTとは

OJTはOn the Job Trainingの略称です。実務を通して育成対象社員に業務に必要な知識やスキルを身に付けさせる教育手法を指します。先輩社員や上司が担当につき、新入社員や業務未経験者を指導します。

厚生労働省の2022年度「能力開発基本調査」では、計画的なOJTを正社員に実施した企業の割合は60.2%でした。前年と比べて1.1%増加しており、人材育成にOJTを取り入れる企業が増えていることが読みとれます。

※出典:厚生労働省「令和4年度「能力開発基本調査」の結果を公表します」

OJTとOFF-JTの違い

OJTと似た言葉にOFF-JTがあります。OFF-JTはOff The Job Trainingの略称で、実務の現場を離れて実施する社員教育のことです。外部講師を招いて行う集合研修やセミナー、eラーニングなどが該当します。

以下はOJTとOFF-JTの特徴をまとめた表です。

OJTOFF-JT
・対象社員の習得スピードや能力に合わせた指導ができる
・対象社員は現場の業務を通して実践的な知識やスキルが身に付けられる
・学んだ知識をアウトプットできる
・OJT終了後の対象社員は即戦力として期待できる
・数十人の社員に対し、一律で同じ指導を行う
・対象社員は現場から離れて業務の土台となる汎用的・普遍的な知識やスキルが得られる
・集中的に知識のインプットを行う
・OFF-JT終了後は実務につながる研修が必要になる

OJTは個々の対象社員の状況に合わせて指導できますが、指導役の社員の技量によって教育の質に差が出やすい傾向があります。均一な指導・教育が可能なOFF-JTと組み合わせることで、効果的な人材育成が可能です。

研修にOJTを導入する目的

多くの企業が教育訓練や新人教育の一環としてOJTを導入しています。OJTを実施する目的は企業によって異なりますが、代表的なものとして下記が挙げられます。

・即戦力の育成
・人材定着率の向上
・指導側のスキルアップ

OJTは、教わる側だけでなく教える側の育成にもつながる人材教育法です。

以下では、研修にOJTを導入する目的について詳しく解説します。

即戦力の育成

企業がOJTを実施する大きな目的の1つが、新入社員や業務未経験者を即戦力化することです。通常、OJTはマンツーマンで行うため、スキル習得のスピードが早くなります。指導役の社員が業務経験から身に付けたコツやノウハウなど、集合研修やセミナーでは教えにくい内容の指導もできるでしょう。

対象社員が学んだ内容を実践し、フィードバックを受けて再度実践することで、知識やスキルが定着しやすくなります。業務に必要な知識やスキルが効率よく習得できるため、即戦力化が期待できます。

人材定着率の向上

社員の定着率の向上も、企業がOJTを実施する目的の1つです。通常、新入社員や中途採用社員は、新しい職場環境や業務、人間関係などに対して不安を抱いています。精神的に不安定になり、入社したものの早期離職してしまう社員もいるでしょう。

OJTは上司や先輩から直接指導を受けるため、コミュニケーションを深めることが可能です。心配な点について尋ねることもでき、新人が抱いている不安の解消につながるでしょう。指導役の社員とよい関係が構築できれば、新しい職場に対して帰属意識も生まれます。

また、OJTを通して必要なスキルや知識を身に付けて仕事で成果が出せるようになれば、新人の業務に対する意欲やモチベーションも向上するでしょう。結果として、定着率のアップに寄与します。

実際、厚生労働省の調査では、計画的にOJTを実施している企業はしていない企業よりも離職率が低い傾向にあることが分かっています。

※出典:厚生労働省「第2-(2)-5図 能力開発の実施と従業員の離職率との関係」

指導側のスキルアップ

指導役の社員のスキルアップも、OJT実施の目的に含まれます。そもそも、深く理解していないことを人にうまく教えることはできません。指導役の社員は、対象社員にわかりやすく伝えるために、業務を改めて見直したり曖昧だった知識を深めたりする必要が生まれます。また、「どのように教えれば理解できるか」「うまくできないのは何が問題なのか」などと考えながら指導をすることでしょう。

対象社員を指導するという過程を通し、指導役の社員にも「業務知識が深まる」「スキルが磨かれる」「指導力やマネジメントスキルが高まる」などの効果が期待できます。

OJTの代表的なメリット4つ

OJTがうまく機能すれば、新人の即戦力化や人材定着率の向上、指導する側のスキルアップなどが可能です。それ以外にも、OJTには下記のようなメリットがあります。

・一人ひとりの社員に合わせた指導ができる
・社内コミュニケーションが活性化する
・低コストで教育できる
・実務を通じてスキルアップできる

効果的にOJTを実施するためにも、具体的なメリットを理解しておきましょう。

以下では、OJTの代表的なメリットを4つ紹介します。

一人ひとりの社員に合わせた指導ができる

OJTの大きな特徴は、対象社員に対してマンツーマンで指導することです。指導側の社員は対象社員の性格や理解力、強みなどを把握しやすく、相手の性格や能力に合わせて指導できます。

たとえば、対象社員が「認められるほど意欲が湧く」タイプであれば、相手の発言や行動を否定せず、些細な進歩や成長も積極的に褒めると効果的です。相手のやる気が高まり、より業務に前向きに取り組めるでしょう。

「挑戦しながら覚えていく」タイプであれば、まずはなんでもさせてみることが大切です。後ほど振り返り、適切にフィードバックをすることで伸びるでしょう。

今後「Z世代」と呼ばれる世代の入社も増えていきます。Z世代とは1990年代後半~2012年頃に生まれた世代を指し、自分らしさや個性を重視する傾向にあります。一人ひとりに合わせた柔軟なアプローチができるOJTはZ世代の行動特性にマッチしており、効果的な育成が可能です。

社内コミュニケーションが活性化する

社内コミュニケーションが活性化することも、OJTを導入するメリットの1つです。新入社員を集めて行う座学型の新人研修では、上司や先輩と交流する機会はあまりないでしょう。

一方、OJTでは指導する上司や先輩と育成対象の社員との間に深い関わりが生まれます。実際の業務を行う過程で、同じ部署や他部署の社員と関わる機会も出てくるでしょう。育成対象の社員がさまざまな立場の社員と交流することで、社内コミュニケーションが活性化するきっかけになります。

また、Dellが行った調査では、Z世代の多くが「同僚と直接的な対話を望んでいる」「仕事は直接学びたい」と考えていることが判明しています。社内コミュニケーションが活発になるOJTは、Z世代にとっても好ましい育成方法と言えるでしょう。

低コストで教育できる

企業側にとっては、比較的コストを抑えて社員教育ができる点もメリットです。外部講師を招いての研修やセミナーへの参加などは、一定の費用がかかります。研修先に移動する必要がある場合は、社員の交通費も考慮しなければならないでしょう。

OJTは社内で上司や先輩が指導するため、研修やセミナーへの参加費、交通費などの費用は発生しません。OFF-JTと比べ、低コストでの社員育成が可能です。

実務を通じてスキルアップできる

実務を通じて本当に必要な知識や実践的なスキルがスムーズに習得できる点も、OJTのメリットの1つです。教わったことがすぐに仕事に生かせ、その場でアドバイスやフィードバックも受けられます。実務に役立つ細かなノウハウやコツも学べるでしょう。

説明だけでは理解が不十分だった点や実施するにあたって注意すべき点が具体的に把握できるため、仕事の質のブラッシュアップにつながります。

OJTを行うデメリット・課題点3つ

OJTには多くのメリットがある一方で、実務を通してマンツーマンで指導するスタイルであるからこそのデメリットや課題もいくつか存在します。

OJTの主なデメリットや課題は下記の通りです。

・体系だった知識を得にくい
・指導者によって習得できるスキルにムラができる
・教育担当者の負荷が大きい

社員教育を実施するにあたっては、OJTのデメリットを補うため、OFF-JTと組み合わせることが大切です。

以下では、OJTを行うデメリットや課題点を紹介します。

体系だった知識を得にくい

業務の実践を通じて指導するOJTは、育成対象社員が目の前の仕事で必要なスキルや知識をスムーズに理解しやすい教育方法です。一方で、業務の全体像や体系的な知識を身に付けることは難しいでしょう。自社の理念や業務内容、ビジネスマナーといった仕事をする上での土台となる知識を習得することも簡単ではありません。

そのため、実践的な訓練であるOJTだけでなく、実務を離れて普遍的で汎用性の高い知識を学ぶOFF-JTも実施することが大切です。

業務の全体像を捉え、体系的な知識を学ぶ代表的なOFF-JTの例として、新入社員に対して行う新人研修が挙げられます。通常、新人研修では、ビジネスマナーや事業内容といった実務に直結しないものの全社員が知っておくべき内容を学ぶことが一般的です。

指導者によって習得できるスキルにムラができる

指導役の社員の技量によって、育成対象社員が受けられる教育の質にムラが起きやすい点もOJTの課題です。指導役の社員が本来の業務で忙しく時間が取れない場合や、やる気があまりない場合などは、対象社員が何も教えてもらえないまま放置されるといった状況になりかねません。

また、指導役の能力が偏っていたり適性がなかったりする場合、対象社員が必要なスキルを習得できないままOJTが終了することもあり得るでしょう。

仕事ができるからといって、必ずしもうまく教えられるとは限りません。効果的な指導をするためには、優れたコミュニケーションスキルやフィードバックスキルが必要です。また、冷静に間違いを指摘し、正しい方向へ導く能力も求められます。

指導役を任せる社員には「コーチング研修を受けさせる」「育成マニュアルをわたす」など育成スキルを磨く機会を提供することが大切です。

コーチング研修

教育担当者の負荷が大きい

指導役の社員の負担が大きくなるのも、OJTのデメリットです。指導役を担う社員は、通常業務をこなしながら、指導プランを考えたり教えるのに必要な資料を作成したりしなければなりません。

通常業務が忙しくてOJTがおろそかになったり、OJTに時間を取られて業務遂行の妨げになることもあるでしょう。企業は指導役の社員に負担が集中しないよう、担当業務の量を調整することが必要です。

OJTでZ世代を教育するための4ステップ

OJTには「4段階職業指導法」と呼ばれる4つのステップがあります。下記のステップを繰り返すことで教育し、成長を促します。

1. やってみせる
2. 説明する
3. やらせてみる
4. 評価する

指導役の社員は、各ステップを丁寧に実施し、おざなりにならないよう意識する必要があります。ここでは、Z世代を教育する際に特に意識するとよいポイントを交え、それぞれのステップを詳しく解説します。

やってみせる(Show)

まずは、指導役の社員が業務を一通りやってみせ、対象社員に全体像や流れを理解してもらいます。口頭や紙の資料で説明しただけでは具体的なイメージが湧きにくく、伝わらないことが多いためです。

Z世代は、データ検索したりSNSで質問したりしてノウハウを確認することが当たり前の環境で育っています。そのため、実際に丁寧にやってみせることが大切です。動画で撮っておき、後で見直せるようにするのもよいでしょう。

全体像が把握でき、業務の流れが具体的にイメージできるようになれば、作業を問題なく進められる可能性が高いです。

説明する(Tell)

指導役の社員が、業務の内容を具体的に説明し、どのように作業を進めればよいかをわかりやすく伝えます。業務が必要な背景や目的、前後の工程なども具体的に説明しましょう。

対象社員が業務の全体像や必要性を把握することで、イレギュラーがあっても臨機応変に対応できるようになります。また、一方的に説明を続けるのではなく、ときどき対象社員の理解度を確かめることも大切です。

Z世代は、業務を行う意義をきちんと伝えるとモチベーションが保ちやすくなります。一方で、検索してもよく分からない内容を扱うのは苦手な傾向があるため、要所で考える練習をさせるとよいでしょう。

やらせてみる(Do)

業務内容を具体的にわかりやすく伝えた後は、対象社員に実際に業務をさせてみるステップに移ります。慣れるまでは指導役の社員が隣で見守り、ミスがあれば適切にアドバイス・指導しましょう。失敗しても責めず、どうすればよかったかを丁寧に説明することが重要です。

Z世代は失敗することを強く恐れる傾向があります。いきなり難しい業務をさせるのではなく、簡単なタスクから始めて、徐々にステップアップしていくとよいでしょう。

また、心理的安全性が低い職場では必要以上に委縮してしまい、分からないことがあっても質問できなくなりかねません。新人でも先輩や上司に気軽に話しかけられるような、オープンな雰囲気を構築することが大切です。

評価する(Check)

対象社員に業務をさせた後は、振り返りを実施し、評価します。成功した場合は褒めた上で、よりよい結果を出すにはどうすべきかを考えさせると効果的です。失敗した場合は叱責するのではなく、原因や改善策を一緒に考えます。

Z世代は承認欲求が強く、褒められたいという意識が強い傾向にあるため、よい点は具体的な言葉で積極的に褒めるようにしましょう。失敗した場合も、改善に向けて努力できるよう具体的な筋道をアドバイスするなどサポートすることが大切です。

OJTを成功させるための3つのポイント

OJTには「意図的」「計画的」「継続的」の3つの原則があります。指導にあたっては、3つの原則を意識して取り組むことが欠かせません。

ここでは、3つの原則を踏まえ、OJTを成功させるポイントについて解説します。

自社でOJTを行う意味・目的を明確に定める

OJTを実施するにあたっては、目的を明確にすることが必要です。「どの社員を対象にし、どのように育成するために実施するのか」を考えましょう。

対象となる社員の選出基準も設定しておくことが大切です。たとえば、OJTの目的が「新入社員の即戦力化を目指す」ケースでは、新卒社員に限るのか、中途社員も含まれるのかなどを決めておく必要があります。

あわせて、「入社○年目以降の社員」「管理職候補の社員」など、指導役の社員を選ぶ基準も決めておきましょう。OJTを実施する意味や目的を明確化することで何をすべきかがクリアになり、教育の質が高まります。

OJTの計画書を事前に作成する

OJTは指導役の社員の能力によって教育の質にムラができやすい傾向にあるため、事前に計画書を作成するとよいでしょう。策定した指導計画に沿ってOJTを実施すれば、ムラなく効率的な指導ができます。

【OJT計画書の例】

計画書には、育成目標や現時点での育成対象者のスキルレベル、OJT終了時に目指すレベルなどを記載しましょう。日別の研修内容も記載し、指導役の所感が記入できる欄も設けます。

OJTが始まったら、計画通り進んでいるか定期的に確かめることも大切です。

組織全体でOJTを行う

OJTは、指導役と育成対象社員の間だけの問題ではありません。企業は指導役の社員任せ・現場任せにするのではなく、育成体制をきちんと整えることが大切です。組織全体で対象社員を育成する意識を持ちましょう。

そのためには、「企業」「人事部門」「直属上司」「指導役の社員」のそれぞれの役割を明確にすることが大切です。企業は自社の社員が目指すべき人材像を明確にし、人事担当者は育成計画の作成をサポートしましょう。育成対象社員の直属上司は、教育内容を確認したり、必要に応じて評価やフィードバックすることが求められます。

役割を分担することで、指導役の社員の負担を分散できます。定期的に上司が面談して指導に関する悩みを相談できる機会を設けるなど、指導役の社員のフォロー制度も整えておきましょう。また、誰がOJTの指導担当になってもバラつきなく標準化されたOJTを進めるためには、OJT指導者のスキルアップ研修も必要です。

OJT担当・後輩育成研修

まとめ

OJTは「On the Job Training」の略称であり、実務を通して新入社員や業務未経験者に業務上必要となる知識やスキルを身に付けさせる教育手法です。OJTは対象社員の能力や習得スピードに合わせた指導ができるほか、OJT終了後は即戦力として期待できるメリットがあります。

OJTは、指導を担当する社員の能力によって教育の質に差が生まれやすいため、事前に計画書を作成するとよいでしょう。企業は指導役の社員や現場に任せきりにするのではなく、育成体制を整えることが大切です。

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