管理職になりたくない社員が急増!理由と企業ができる対処法を解説

管理職を断る人

近年、「管理職になりたくない」と思っている社員が増えていることで、企業は管理職不足に陥ってしまう可能性があります。責任の重さや仕事量の増加、プライベートとの両立の難しさなどが、社員が管理職を敬遠してしまう理由です。企業はこの現実を受け入れ、労働環境の改善やキャリアパスの多様化を進めることが求められます。

当記事では、管理職になりたくないと感じる理由や、そのような社員に向けて企業ができる対処法を詳しく解説します。

管理職になりたくない人は多い

管理職のリスクマネージメント

近年は、管理職への昇進を望まない人が増えています。厚生労働省の調査では、役職に就いていない人の61.1%が「管理職に昇進したいとは思わない」と回答しました。

※出典:厚生労働省「第2-(3)-27図 役職に就いていない職員等における管理職への昇進希望等について」

また、株式会社識学の調査では、管理職になりたくないと答えた人が全体の72%に上っています。特に女性でその割合が高く、77.3%が管理職を望んでいません。

【管理職を希望する人の割合】

性別なりたいと思う条件によってはなりたいなりたくない
全体8%20%72%
男性12%21.3%66.7%
女性4%18.7%77.3%

※出典:株式会社識学「管理職に関する調査」について

このように、管理職になりたくないという意識が広まっており、その理由は多岐にわたります。企業は社員の管理職離れという現実を踏まえ、労働環境の改善やキャリアパスの多様化などを検討しなければなりません。

管理職になりたくない理由は?

管理職になりたくない理由

近年、管理職ポストを避ける社員が増えています。その理由はさまざまですが、主に個人の力が試される時代背景や、給料が上がらない企業の問題が挙げられるでしょう。具体的な理由としては、以下の7つがあります。これらの要因を理解し、適切に対処できるかどうかが企業の課題です。

責任が重い

管理職になると、個人の業績だけでなく部署全体の管理業務や目標達成も求められます。たとえば、業績不振で部下のパフォーマンスが低下した場合、管理職が責任を負うことになります。部下の指導や目標達成のための戦略立案など、日々の業務がプレッシャーとなり、自信を失ってしまう方も珍しくありません。

また、経営層からの叱責や人間関係の調整など、精神的な負担も大きくなるため、管理職になることを避ける人が増えています。特に、新人や若手社員に多く見られる理由です。。

仕事が増える

管理職になると業務の幅が広がり、部下の業務指示や育成、部門間の調整など、多岐にわたる業務を担うことになります。そのため、プレイングマネージャーだったり、部下に仕事をなかなか振れなかったりする場合、管理職の抱える仕事が多くなる傾向があります。

また、働き方改革による時間外労働の規制の影響もあり、仕方なく管理職が部下の業務を補うケースも少なくありません。これは特に中堅からベテランクラスの社員に多く見られる理由です。

収入が割に合わない

管理職に昇進しても、増える仕事や責任に対して昇給が見合わないと感じる社員も少なくありません。給料アップを期待して管理職になっても、実際にはプレッシャーや業務量の増加と比べると収入が割に合わないと感じるケースです。

また、多くの企業では管理職になると基本給が上がって管理職手当が出る代わりに、残業代が支給されなくなります。この結果、中堅からベテランクラスになると、一般職で残業代を含めたときの手取り額より総合的な収入が減少する場合があるのも問題の1つです。このような状況では、管理職への昇進を躊躇する社員が増えるのも無理はありません。

プライベートとの両立が難しい

管理職になると、仕事とプライベートの両立が難しくなるという理由から、昇進を避けたいと考える社員もいます。若手から中堅クラス、中でも特に女性社員に多く、女性の管理職が増えにくい要因の1つです。管理職は勤務時間が長くなりやすく、突発的な業務や緊急対応も増え、家庭との調整が難しくなります。

このため、子育て中の女性社員は管理職への昇進を避けるケースが少なくありません。また、介護が必要な親を持つ社員も同様に、家庭と仕事のバランスを保つために一般職のままでいることを選ぶ人が多い傾向にあります。

長く会社にいるつもりがない

若い世代の社員の中には、転職やキャリアアップを前提に仕事をしている人が増えています。終身雇用が保証されない現代では、自らのキャリアを主体的に設計し、必要に応じて転職することでスキルアップや収入増を目指す人生が普通になりました。

管理職になると企業内での責任が増し、転職のタイミングを逃してしまうと感じるため、昇進を断るケースが見られます。特に、新人から中堅クラスに多い理由です。こうした価値観の社員は、自分自身のキャリアプランを優先し、柔軟な働き方を求める傾向にあります。

メリットを感じられない

管理職になることでメリットを得られると感じられない社員も少なくありません。増える責任や仕事量に対して、見返りが少ないと感じる社員が多くいます。また、管理職としてのやりがいや達成感を得にくいのも理由の1つです。

特に中堅やベテラン社員に多い理由であり、長年にわたって管理職の現実を見てきた結果、メリットを感じられなくなっていることが要因です。このような社員は、現状の仕事を続ける方が安心であり、自分に適していると考える傾向にあります。

自分にはできないと思っている

管理職にはリーダーシップやマネジメント能力が求められますが、自分にはその能力がないと感じている社員も多くいます。また、自分には補助的な役割が適していると思い込んでいる人も少なくありません。この自己評価の低さが、管理職への昇進を躊躇させます。

特に、新人から中堅社員に多い理由であり、過去の経験やスキル不足を理由に自信を持てないのが主な原因です。管理職としての適性がないと感じることで不安やプレッシャーが増大し、自ら進んでその役割を引き受けようとしない社員もいます。

管理職になりたくない人が増えるデメリット

管理職になりたくない人が増えるデメリット

管理職になりたくない社員の増加がもたらす、企業へのデメリットは甚大です。管理職を育成するには、コストも時間もかかります。管理職になりたくない社員を育成する場合、その努力が無駄になるリスクがあります。また、将来的に管理職に登用できる人材が不足する可能性が高まるのも、企業にとってさまざまな悪影響をもたらす重大な問題です。

たとえば、管理職候補者の育成が進まない状況が続くと、組織の成長も鈍化します。高い目標を達成するまでのビジョンや戦略が欠如し、部下の指導や育成に十分な時間を割けなくなるためです。その結果、チームとしての機能や全体のパフォーマンスの悪化を招いたり、一般社員の成長が阻害されてエンゲージメントが低下したりします。

また、管理職層が薄くなると、コンプライアンス問題などのリスク発生率も高めます。法令遵守やモラル意識の指導が行き届かず、サービス残業やハラスメント、個人情報漏洩などの問題も頻発しかねません。これらの問題は企業の信頼性を損ない、さらなる人材流出を招く場合があります。

管理職不足の解決には、適切な育成とサポートが不可欠です。企業は管理職に対する理解を深め、効果的な育成プログラムを導入することで、将来のリーダーを育成し、組織の持続的な発展を図る必要があります。

管理職に向いている人は?

リーダーシップ

管理職のポジションで力を発揮できる人には、ある程度共通する特徴があります。管理職社員に求められる資質や能力は多岐にわたりますが、主に以下の4つの要素が重要です。以下では、管理職に向いている人の特徴を解説します。

リーダーシップがある

リーダーシップは管理職にとって必須の能力です。リーダーシップとは、目標に向かってチームを導く力です。優れたリーダーは、本人が明確なビジョンを持つだけでなく、そのビジョンをチームと共有してメンバーを鼓舞します。

たとえば、製造業のあるマネージャーがオープンなコミュニケーションとポリシーの導入でチームの士気を改善した事例があります。部門間の誤解と不仲が及ぼす悪影響を懸念した彼は、全体会合を開き現状の問題点を共有しました。その後、各部署のリーダーと個別に会い、協力して部門間ミーティングや共同プロジェクトを導入しています。時間はかかったものの、社員間に尊重と協力の雰囲気を築き、生産性の向上につなげました。

コミュニケーション能力がある

高いコミュニケーション能力も管理職にとって必須です。管理職は、現場の情報を正確に把握し、経営陣や上司に適切に報告しなければなりません。そのため部下や上司、他部署、さらには社外の関係者との円滑なコミュニケーションが求められます。

たとえば、ある製造業のラインマネージャーは、新しい生産技術の導入に抵抗を示した社員に対して利点と必要性を説明し、トレーニングとサポートを提供しました。フィードバックを積極的に求め、懸念を解消することで新しい技術を受け入れさせ、生産性の向上につなげています。管理職には、コミュニケーション能力を活用して問題を解決する力が重要です。

問題解決能力がある

管理職に求められる重要な資質の1つは問題解決能力です。問題解決能力とは、問題を正確に把握した上で適切な解決策を見つけ出し、実行する力です。現場での問題解決だけでなく、将来的な問題を予測して対策を講じることも含まれます。管理職は、企業で日々発生するさまざまな問題に迅速かつ効果的に対処しなければなりません。

たとえば、ある企業の管理職がプロジェクトの進捗遅延を早期に発見したケースです。原因を分析し、効率的な解決策を実施した結果、プロジェクトを予定通りに完了させることができました。このように、問題解決能力がある管理職は、迅速かつ的確に対処し、組織の成長を支えます。

視野が広い

視野が広いことも管理職にとって重要です。広い視野を持つことで、組織全体の状況を俯瞰的に把握し、長期的な思考で戦略を立てられます。また、視野が広い管理職は、経営者の立場や部下の視点も理解し、組織全体の目標達成に向けて適切な判断を下せます。

たとえば、新しいプロジェクトの導入時には、部門間の連携や長期的な影響も考慮しなければなりません。視野が狭いと、自分の部門の利益だけを優先してしまい、組織全体に悪影響を及ぼすケースがあります。視野が広い管理職は、多角的な観点で物事を捉えられ、柔軟な対応が可能です。

管理職になりたくない社員に向けて人事ができること

キャリアアップ

管理職になりたくない社員がいる場合、企業はどのようなアプローチを取ればよいのでしょうか。以下では、人事が管理職になりたくない社員の不安を解消し、前向きな気持ちで管理職を目指してもらう方向に誘導できる施策を6つ紹介します。

管理職になるメリットを示す

まずは、管理職になるとさまざまなメリットがあることを社員に示す必要があります。以下は、管理職になったときの代表的なメリットです。

・さまざまなスキルが身につく
管理職になると、チームマネジメント能力・課題解決能力・プロジェクト管理能力・危機管理能力・人材育成能力など、複合的なスキルを身につけられます。いずれも、日々の業務だけでなく、今後のキャリア形成にも大いに役立つスキルです。特に、人をまとめる能力は、ほかの役職では得られない貴重な経験です。

・仕事の幅が広がる
管理職になると、関わる仕事の範囲が広がります。たとえば、部下の採用や評価に関与したり、他部署との調整役を担ったりする機会です。業務の幅が広がれば、自分の存在感を発揮できる場面が多くなります。また、一般社員ではアクセスできない情報にも触れられるため、業務への理解がより深まるでしょう。

・仕事の裁量権が増える
管理職は、仕事の進め方や優先順位を自分で決める裁量権を持っています。これにより、より効果的に仕事を進められ、成果を上げやすくなります。自分の判断で動くことで、仕事に対する達成感ややりがいも大きくなるでしょう。

・今後の出世にもつながる
・管理職の経験は、キャリアアップに直結します。管理職として成果を上げれば、さらに上のポジションに昇進するチャンスも増えるでしょう。また、将来転職を考える場合でも、管理職の経験は大きなアドバンテージです。多くの企業が管理職経験者を求めているため市場価値が高くなり、好条件での転職や選択肢の広がりが期待できます。

このように、管理職への昇進には多くのメリットがあります。社員に対してこれらのメリットを具体的に示して不安や抵抗感を取り除ければ、管理職への意欲を高められるでしょう。

昇進後の待遇や仕事内容を明確にする

管理職への昇進を打診する際には、今後の待遇や仕事内容の明確な説明が必要です。管理職は予算管理や人員管理、売上管理などの組織運営に関する重要な権限を持ち、顧客との取引の承認や決済、部下の評価や勤怠管理なども行います。仕事の幅が広がり、自分の裁量で動ける範囲が大きくなることを理解してもらうとよいでしょう。

さらに、管理職には基本給や役職手当がつき、年収が上がるケースも多いため、給与額アップの見込みを数字で伝えるのも大切です。社員が管理職としての働き方をはっきりとイメージできれば、不安の軽減につながります。

管理職の労働環境を改善する

管理職への意欲をアップさせるには、働きやすい環境を整える必要もあります。管理職の負担を軽減するには、業務の棚卸しやアウトソーシングの活用が有効です。業務の棚卸しを行って必要な業務と不要な業務を選定し、効率化を図りましょう。たとえば、人事労務系の業務をアウトソーシングすることで、管理職の負担を軽減できます。

また、ITツールの導入によって、コミュニケーションの円滑化や業務の効率化を図る方法も効果的です。さらに、待遇や福利厚生を充実させれば、管理職のモチベーションが高まります。各種研修の開催や資格取得の支援、健康管理のサポートなどもぜひ取り入れたい施策です。

ロールモデルを設定する

管理職の仕事がイメージできない、あるいは自分にできるか自信がない社員には、ロールモデルの設定が有効です。ロールモデルは、具体的なキャリアパスや成功事例を示す、社員にとって目標となる存在です。ロールモデルがあると、社員が自分の目指すべき方向を明確にでき、成長の速度を早められます。

たとえば、若くして出世した社員や育児と仕事を両立している社員など、さまざまなロールモデルの提示することで、幅広いキャリアパスを描けるでしょう。社員が自分に合ったキャリアを見つけられれば、管理職への意欲も高まります。また、ロールモデルとのコミュニケーションを通じて、的確なアドバイスを得やすくなるのも大きなメリットです。

継続的なサポート体制を整える

管理職が早く仕事に慣れるには、会社側からのサポートが必要です。新任管理職に対しては、オンボーディングを通じて業務の進め方や役割を明確にし、スムーズな業務移行を支援しましょう。既存の管理職と相談・交流できる環境を整えることも重要です。

たとえば、定期的な1on1ミーティングや先輩管理職との質疑応答セッションを設け、悩みや疑問を解消しやすくします。会社からのサポートをしっかり行えば、新任管理職が孤独感を感じず、安心して業務に取り組めるでしょう。また、部下の育成方法や評価の仕方についてのアドバイスを受ける機会を設けると、管理職としてのスキルアップを図れます。

管理職研修を充実させる

管理職研修は、管理職としての役割を果たすために必要なスキルや知識を習得する重要な機会です。研修の目的は、管理職の意識と行動を改革し、効果的なマネジメントを実践するための基盤の構築です。たとえば、効果的なマネジメントの実践方法やリーダーシップの発揮方法、部下の育成方法などを学びます。

これらの研修では、管理職自身が自分の役割を明確に理解し、組織目標を達成するための具体的な手法を身につけられるでしょう。また、研修後のフォローアップとして、定期的なミーティングやワークショップを行い、学んだスキルを実践に生かす機会を提供するのも大切です。

新任管理者研修

まとめ

管理職になりたくない社員が増えると、ゆくゆくは管理職が不足し、全体のパフォーマンスの低下を招く恐れがあります。また、コンプライアンス問題やモラルの低下など、リスクの増大も懸念されます。

管理職不足を防ぐためには、社員が「管理職になりたくない」と思う理由を理解した上で、管理職を育成する環境を整えることが不可欠です。企業は管理職になるメリットを社員に伝え、労働環境の改善や柔軟なキャリアパスの提示を行う必要があります。また、管理職の負担軽減や研修制度の充実を図ることでも、社員が安心して管理職を目指せる環境を整えられるでしょう。

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