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ITパスポート試験とは?社員に受験させるメリットや難易度を解説
ITパスポート試験は、ITエンジニアを目指す方だけでなく、ITを活用するすべての方にとって有益な国家試験です。この試験は、ITに関する基礎的な知識を問うものであり、合格することでIT技術の管理や経営全般の知識を証明できます。企業では、社員のITリテラシー向上や人材育成の一環として、ITパスポート試験の受験を奨励するケースが増えています。
この記事では、ITパスポート試験の特徴や社員に受験させるメリット、試験の概要、学習方法について詳しく解説します。社員のスキルアップや企業のDX推進を考えている経営者や人事担当者は必見です。
ITパスポート試験とは
ITパスポート試験とは、ITエンジニアを目指す方だけでなく、ITを活用するすべての方に役立つ国家試験です。ITパスポート試験の対象者像や業務内容、期待する技術の水準は以下のように定められています。
対象者像 職業人及びこれから職業人となる者が備えておくべき、ITに関する共通的な基礎知識をもち、ITに携わる業務に就くか、担当業務に対してITを活用していこうとする者 業務と役割 ITに関する共通的な基礎知識を習得した者であり、職業人として、担当する業務に対してITを活用し、次の活動を行う。
(1)利用する情報機器及びシステムを把握し、活用する。
(2)担当業務を理解し、その業務における問題の把握及び必要な解決を図る。
(3)安全に情報の収集や活用を行う。
(4)上位者の指導の下、業務の分析やシステム化の支援を行う。
(5)担当業務において、新しい技術(AI、ビッグデータ、IoTなど)や新しい手法(アジャイルなど)の活用を推進する。期待する技術水準 職業人として、情報機器及びシステムの把握や、担当業務の遂行及びシステム化を推進するために、次の基礎知識が要求される。
(1)利用する情報機器及びシステムを把握するために、コンピュータシステム、データベース、ネットワーク、情報セキュリティ、情報デザイン、情報メディアに関する知識をもち、オフィスツールを活用できる。
(2)担当業務を理解するために、企業活動や関連業務の知識をもつ。また、担当業務の問題把握及び必要な解決を図るためにデータを利活用し、システム的な考え方や論理的な思考(プログラミング的思考力など)をもち、かつ、問題分析及び問題解決手法に関する知識をもつ。
(3)安全に情報を収集し、効果的に活用するために、関連法規、情報セキュリティに関する各種規程、情報倫理に従って活動できる。
(4)業務の分析やシステム化の支援を行うために、情報システムの開発及び運用に関する知識をもつ。
(5)新しい技術(AI、ビッグデータ、IoTなど)や新しい手法(アジャイルなど)の概要に関する知識をもつ。
ITパスポート試験はIT活用を目指す方を対象としており、受験資格は必要なく年齢制限も設けられていません。学生や社会人など誰でも受験が可能です。
IT活用に必要な総合的知識を問う試験であり、合格するとITに関する基礎的知識があることを証明できます。IT技術の管理や経営全般の知識が身につくことから、経営戦略に関わる方やIT関連部署との協働業務にあたる方にもメリットが大きい資格です。
就職活動のために資格取得を目指す方や、社員の人材育成の手段として資格を取らせたいと考える企業が増えています。
ITパスポート試験とMOSの違い
ITパスポート試験とMOSは、「資格の認定者」と「資格取得で身につくもの」が大きく異なります。
それぞれの資格の特徴は、下記の通りです。
資格の認定者 | 資格取得で身につくもの | |
ITパスポート試験 | 経済産業省 | ・IT管理の知識 ・経営戦略や実務に必要なIT知識 |
MOS | マイクロソフト社 | ・マイクロソフトのOffice製品の実務スキル ・業務効率化スキル |
ITパスポート試験はIT知識が問われるのに対して、MOSはWord・Excel・PowerPointなどのマイクロソフトのOffice製品について出題されます。
MOSは、Microsoft Office製品を利用する機会が多い企業におすすめの資格です。
ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメントの違い
ITパスポート試験と情報セキュリティマネジメントは、「対象者像」と「専門性」に違いがあります。
対象者像 | 専門性 | |
ITパスポート試験 | IT活用を目指す方 | 非専門家がITの利活用や経営・マネジメントに関する幅広い基礎知識を得る |
情報セキュリティ マネジメント | ITの安全な利用推進を目指す情報セキュリティ担当者 個人情報を取り扱う業務の担当者 | 情報セキュリティマネジメントの計画・運用・評価・改善を通して、サイバー攻撃や情報漏洩などの脅威から継続的に組織を守る専門知識を得る |
情報セキュリティマネジメントは、情報セキュリティの管理・対策・関連法規に関する知識が求められる、情報管理の担当者や個人情報を取り扱う業務担当者に役立つ資格です。
専門性が高い出題となるため、ITパスポートの資格保持者がステップアップを目的に受験するケースも多く見られます。
ITパスポート試験を社員に受験させるメリット
ITパスポート試験は、「独占業務がない」「難易度が高くない」などの理由から、受験しても意味がないと言われることもあります。
しかし、ITパスポートは、社員のITリテラシー向上や今後の人材育成に非常に役立つ資格です。IPAの発表によると、ITパスポート試験の年間応募者数は毎年大幅に伸びています。
ITパスポート試験の年間応募者数の推移は、下記の通りです。
※引用:IPA「令和5年度「iパス(ITパスポート試験)」の年間応募者数等について」 引用日2024/06/04
2022年度・2023年度ともに、年間応募者数は25万人を突破しており、2023年度は297,864人と30万人近くが応募しています。
ITパスポート試験の勤務先別の年間応募者数は、下記の通りです。
※引用:IPA「令和5年度「iパス(ITパスポート試験)」の年間応募者数等について」 引用日2024/06/04
学生・企業の中で最も応募者数が多いのは、非IT企業に勤務する方です。非IT企業の応募者数はIT企業の約4.5倍で、多くの企業がIT活用に力を入れていることが分かります。
非IT企業の業種別の年間応募者数は、下記の通りです。
※引用:IPA「令和5年度「iパス(ITパスポート試験)」の年間応募者数等について」 引用日2024/06/04
特に応募者数が多いのは、金融・保険業、不動産業です。DX促進の一環として、ITパスポートの取得率アップに取り組む企業が増えています。製造業界や電気・ガス・熱供給・水道業の業界でも、ITパスポート試験への注目度が高まっています。
ITパスポート試験が自社にとって必要かどうか見極めるために、具体的にどのようなメリットがあるのかチェックしておきましょう。
ITパスポート試験を社員に受験させるメリットを3つ解説します。
業務に必要な幅広い分野の基礎知識を身につけられる
ITパスポート試験に合格した社員は、業務に必要なIT関連の知識を幅広く身につけられます。
ITパスポート試験で身につく知識の具体例は、下記の通りです。
・情報セキュリティ ・情報コンプライアンス ・ビジネス用語 ・マーケティング戦略 |
経済産業省では、DX推進の取り組みの一環としてデジタルスキル標準を公開しており、ITパスポート試験の出題内容はデジタルスキル標準に応じて更新されます。例として、2023年8月には、生成AIに関する項目がデジタルスキル標準とITパスポート試験に追加されました。
情報システムやネットワーク、AIなど今後必要となるデジタルスキルの基礎知識が身につくことは、リスキリングにもつながります。
DXを推進する人材を育成する足がかりとなる
ITパスポートの取得は、DXを推進する人材育成の足がかりとなります。
DX推進には、データ活用・デジタル技術・サイバーセキュリティなどの幅広い分野の専門知識を持つ人材が必要不可欠です。ITパスポートは国家資格でありながら、ほかのIT資格に比べて難易度が低いことが特徴です。かつ、データ管理やデータ分析・活用、イノベーションの創出、業務改善などDXに役立つ広範な基礎知識を得られます。
基礎知識をきっかけとして、これまで苦手意識を感じていた社員もDXにかかわる業務にチャレンジできるようになり、スキルやモチベーションアップにつながります。基礎知識を足掛かりとしてより専門性の高いIT系資格の取得にも役立ち、DX推進人材を育成できるでしょう。
情報セキュリティやコンプライアンスについても学べる
ITパスポート試験は、セキュリティリスクやコンプライアンス違反の対策にも効果が期待できます。
企業経営において、情報漏洩やコンプライアンス違反は大きな問題です。法律に関する知識不足やモラルの欠如が原因で起こることも多く、トラブルを防ぐためには社員の基礎知識を深めたり意識を高めたりする必要があります。
情報セキュリティの仕組みと法令の重要性を理解する社員が増えることで、企業がダメージを受けるリスクが大幅に減り、生産性の向上や利益拡大につながります。
ITパスポート試験の概要
社員にITパスポート試験を受験させたいと考えている場合は、詳しい試験概要をチェックしておきましょう。
ITパスポート試験の概要は、以下の通りです。
試験会場 | 全国の指定会場の中から自由に選択できます。 |
試験日程 | 月1~3回の頻度で試験日が設けられています。ただし、会場ごとに試験日程は異なるため、事前に確認が必要です。 |
受験資格 | 年齢・国籍を問わず誰でも受験できます。受験には利用者IDの登録が必須となるため、申し込み前に完了させておきましょう。 |
試験の料金 | 試験にかかる料金は税込7,500円です。支払い方法は、クレジット決済・コンビニ決済・バウチャー決済のいずれかを選択できます。 バウチャー決済は前売りチケットを購入する形式の団体申込制度で、1回の申込で9,999枚までまとめて銀行振り込みにより購入できます。 |
試験時間 | 試験時間は、原則120分間です。遅刻した場合も受験は可能ですが、終了時間が繰り下げとなることはありません。 |
出題分野 | ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系の3分野から合計100問が出題されます。1,000点中600点が正答できていれば合格ですが、3つの各分野でも30%以上正答する必要があります。 |
試験方式 | 出題形式は四肢択一式、解答方法はCBT方式です。コンピュータ操作が必要となるため、公式サイトから疑似体験用ソフトウェアをダウンロードして練習しておくとスムーズです。 |
試験会場によっては、午前・午後・夕方の時間帯に分けて複数回実施することがあります。また、CBT方式で受験できない方を対象に、春期(4月)・秋期(10月)に筆記試験が行われます。
試験を申し込む場合は、公式サイトにログインして試験日や試験会場を選択し、期日までに料金の支払いを完了させましょう。
合格発表は、受験月の翌月に公式サイト内で行われます。合格者には合格証書が発行され、後日郵送されます。
ITパスポート試験の出題内容
ITパスポート試験の出題範囲は、ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系の3分野です。また、出題問題のうち92問が評価対象になり、残り8問は今後出題する問題を評価するために使われます。
各分野の試験内容は、以下の通りです。
・ストラテジ系の試験内容
企業と法務 | 企業活動に関する基本知識やIT利活用の動向、知的財産権やセキュリティ関連法規などが出題されます。 |
経営戦略 | 出題内容は、代表的な経営情報分析手法や技術開発戦略の意義への理解度、AIやIoTの知識などです。 |
システム戦略 | 情報システム戦略の意義や目的、IT技術動向に関する知識のほか、システム化計画の目的などが出題されます。 |
ストラテジ系は企業の経営全般に関する分野で、企業と法務・経営戦略・システム戦略の3つの大分類から出題されます。2024年10月以降の試験に適用される最新のシラバスでは、ストラテジ系の出題数は32問です。
・マネジメント系の試験内容
開発技術 | システム開発のプロセスや基本的な流れ、代表的な開発モデル・手法に関する意義などが出題されます。 |
プロジェクト マネジメント | システム開発に必要な考え方や方法などが出題されます。 |
サービスマネジメント | 出題内容は、ITサービスマネジメントの意義や目的、システム環境整備に関する考え方、システム監査の流れなどです。 |
マネジメント系は企業の経営全般に関する分野で、開発技術・プロジェクトマネジメント・サービスマネジメントの3つの大分類から出題されます。同じく2024年10月以降の試験に適用されるシラバスにおいて、マネジメント系の出題数は18問です。
・テクノロジ系の試験内容
基礎理論 | 基礎的な数学やAIの技術、プログラム言語の種類と特徴などが出題されます。 |
コンピュータシステム | 出題内容は、コンピュータを構成する装置の役割、システムの構成や処理の仕方、OS・OSSの特徴などです。 |
技術要素 | 情報をコンピュータで扱う技術と応用について、ネットワークに関する種類と構成、情報セキュリティの基礎知識と脅威・脆弱性などが出題されます。 |
テクノロジ系はIT技術に関する分野で、コンピュータのアルゴリズムやプログラミング、ソフトウェア・ハードウェア、情報デザインなどの情報を含む内容が出題されます。2024年10月以降の試験に適用されるシラバスにおいて、テクノロジ系の出題数は42問とほか2つの出題分野と比べて最も多く出題されます。
ITパスポート試験の合格率
2019年~2023年におけるITパスポート試験の合格率は、下記の通りです。
・ITパスポート試験の合格率(年別)
2019年 | 51.3% |
2020年 | 58.8% |
2021年 | 52.7% |
2022年 | 51.6% |
2023年 | 50.3% |
※出典:IPA「情報処理技術者試験 統計資料 令和6年4月度 ITパスポート試験」
IT資格の入門編に位置付けられていることもあり、難易度はそれほど高いわけではありません。近年の受験者数は年間20万人を越えており、約80%を社会人が占めています。また、2024年4月に実施された試験の社会人受験者の合格率は53.0%であり、学生に比べて社会人合格率が高いのもITパスポート試験の特徴です。
※出典:IPA「情報処理技術者試験 統計資料 令和6年4月度 ITパスポート試験」
ただし、合格率の推移に注目すると、2020年以降は合格率がやや低下傾向にあることが分かります。これは、新型コロナウイルスの蔓延にあたってITスキルの重要性が増し、受験者数が急速に増加したことが原因と考えられます。
ITパスポート試験の採点方法は、試験後に解答結果に基づいて評価点を算出するIRT方式です。合格基準は、1,000点(総合評価の満点)中600点以上です。ただし、600点を超えていても、各分野の正答率を1,000点に換算し、すべての分野で300点以上正答できなければ不合格になります。1つでも基準点に満たない場合は不合格となるため、バランスのよい学習が必要です。
ITパスポート試験合格に必要な勉強時間
ITパスポート試験に合格するために必要な勉強時間は、IT知識がどれくらいあるのかによって異なります。IT知識がすでにある方は、まったく知識がない方よりも短い時間で合格を目指せるでしょう。
必要となる勉強時間の目安は、下記の通りです。
IT知識がある場合 | 約100時間 |
IT知識がない場合 | 約180時間 |
IT知識がある方は、1日1.5時間の勉強時間を確保すれば約2~3か月で合格を目指せる計算です。苦手な分野の勉強はもちろん、新しく追加された分野の対策にも力を入れましょう。
IT知識がない方は、IT用語の理解から勉強が必要となります。1日1.5時間の勉強時間を確保する場合は約4か月、1日2時間勉強したとしても約3か月かかるでしょう。
ITパスポート試験の学習方法は通信教育がおすすめ
ITパスポート試験の学習方法には、独学や通信教育などがあります。
独学で資格取得を目指す場合、IT用語の理解に時間がかかったり質問できる相手がいなかったり、勉強の効率が下がりやすいことがデメリットです。試験範囲が広いため、各分野をバランスよく学習するには計画性も求められます。
効率よく勉強を行うには、通信教育で受講できるITパスポート試験講座の活用がおすすめです。通信教育の学習内容は、テキストや問題集などの教材を使ってカリキュラム学習を行うのが一般的です。
提出課題や模擬試験が組み込まれている場合、苦手分野の分析や試験対策がしやすくなります。気軽に質問や相談ができるかどうかもチェックして受講先を選びましょう。
ITパスポート試験を活用している企業の事例
近年、ITパスポート試験を活用する企業が増えています。ITパスポート試験を社員に受験させたいと考えている場合は、実際にどのように活用されているのか参考にしてみましょう。
ITパスポート試験を活用している企業の事例を3つ紹介します。
株式会社多田文房堂
株式会社多田文房堂は、文具・事務用品・OA機器などの販売を行う企業です。取扱製品にセキュリティ関連製品も含まれていることから、社員のITリテラシー向上に力を入れています。
ITパスポート試験に合格することで、製品の魅力を顧客に適切に伝えられたり顧客が目指すITツールの導入やデジタル化への理解を深めたりできます。
社員のITパスポート試験合格者は30%以上です。今後は営業部門の新入社員に対して、ITパスポート試験の合格を要項に入れることを検討しています。
株式会社ファンケル
株式会社ファンケルは、化粧品や健康食品の製造・販売を行う企業です。
マネジメント層は、デジタル化が加速する中でITリテラシーを高める必要性を感じていました。2020年度からは、DX推進に向けて全社員のITパスポート試験の受験を支援しています。
まずは社長や役員が率先してITパスポート試験を受験し、ITリテラシー向上の必要性を示しました。トップマネジメント層がアクションを起こすことで、社員の学習意欲を後押しした事例です。
2020年度は177人、2021年度は220人と多くの社員がITパスポート試験を受験しています。
株式会社ニトリホールディングス
株式会社ニトリホールディングスは、グループ会社の経営管理や付帯する業務を行う持ち株会社です。組織全体のITリテラシーの底上げを目的に、全社員を対象としたITパスポート試験の受験に取り組んでいます。
社員一人ひとりがIT知識を得ることは、将来的なIT人材不足のリスク回避に効果的です。IT未経験者の新入社員に対しては、最初の学習としてITパスポート試験を活用しています。
ITリテラシーの向上は、エンジニアとコミュニケーションができる人材の育成や業務効率化の推進につながると期待されています。
まとめ
ITパスポート試験は、社員のITリテラシーを向上させ、DXを推進する人材を育成するための効果的な手段です。試験を通じて情報セキュリティやコンプライアンスに関する知識も身につけられ、企業のリスク管理にも役立ちます。また、試験の難易度が比較的低いため、多くの社員が挑戦しやすく、基礎的なITスキルを習得するための第一歩として最適です。
通信教育を利用して効率的に学習し、企業全体のITリテラシーを底上げすれば、今後のデジタル化やDX推進に向けた基盤を築くことができます。ITパスポート試験を活用し、未来のビジネス環境に対応できる人材を育成しましょう。
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