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効果的な評価制度を構築したい方へ!人事評価制度の基本を徹底ガイド

社員のモチベーションを高め、組織の生産性を向上させるためには、公平性と透明性を備えた人事評価制度の構築が重要です。評価制度が適切に機能すれば、社員が納得し、会社への信頼性も高まり、組織全体の活性化につながります。
当記事では、人事評価制度の基本構成や評価基準、具体的な手法を詳しく解説し、導入時に考慮すべきポイントを明確にします。また、実際の企業事例を交えて、効果的な評価制度の作り方を分かりやすく説明します。
人事評価制度とは?

人事評価制度とは、社員の業務上の実績や成果、能力などを定量的・定性的に評価する制度を指します。半年に1回や1年に1回などの間隔で定期的に実施し、社員の給与や賞与、昇格や昇給といった処遇を決める判断材料とするのが一般的です。
制度の導入には、組織の活性化や社員のモチベーション向上をはじめとする多くのメリットがあります。ただし、社員が人事評価システムに不満を持たないようにするためには、公平性や透明性のある制度の構築が必要です。
人事評価制度の目的
人事評価制度を取り入れる際は、目的を明らかにすることが大切です。評価目的をはっきりさせないまま導入しても制度をうまく運用することは難しく、場合によっては社員が不満を覚える恐れもあるためです。
人事評価制度を導入する主な目的には以下があります。
・企業が従業員に期待する行動を明示する 評価の基準を明示することで、社員は企業が期待する行動や成果を具体的に把握できます。たとえば、販売職は「顧客満足度アンケートで90%以上の満足度を維持する」、開発職は「新技術を取り入れた提案を四半期に一度以上行う」などが挙げられます。企業が期待する行動が分かれば、社員は自分の取り組むべき方向性を理解できます。 ・従業員のモチベーションをアップさせる 評価制度は、従業員のモチベーション向上にも寄与します。成果や努力が適切に評価され、給与や昇進といった見える形で反映されれば、社員はより成果を上げようと意欲が湧くでしょう。評価制度が公平で透明性が高く、適切に機能していれば、社員は会社への信頼を高めます。従業員満足度やロイヤルティも向上するでしょう。 ・人材を適所に配置する 評価制度を通じて、企業は社員一人ひとりの能力やスキル、所属部署への貢献度などを客観的に把握できます。能力やスキルが把握できれば、適材適所の人員配置が可能です。適性の低い部署から適性のある部署に異動することでパフォーマンスが向上すると、これまで成果を出せなかった社員も成果を上げやすくなるでしょう。組織全体としての生産性向上も期待できます。 ・より公平な処遇ができる 評価制度を基にすると社員の能力や業績を適切に判断できるため、企業への貢献度に応じて昇給や昇格、賞与などの処遇が実施できるようになります。評価の根拠が明確であれば社員も納得感を得やすく、不満や不信感を軽減する効果も期待できるでしょう。 |
人事評価制度の基本構成

人事評価の内容は企業ごとに決めればよく、公的な決まりはありませんが、等級制度・評価制度・報酬制度の3つに分けるのが一般的です。
ここでは、それぞれの制度の内容について解説します。
等級制度
等級制度とは、社員を能力や実績に応じてランク付けするものです。ランクの高低によって給与や処遇が決まります。職能資格制度・職能等級制度・役割等級制度の3種類があり、それぞれの特徴は以下の通りです。
職能資格制度 | 社員のスキルや経験に応じて等級が決まる制度です。勤続年数が長いほど等級が上がります。 |
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職務等級制度 | 担当している職務の内容や責任範囲に応じて等級が決まる制度です。一部では成果主義と呼ばれることもありますが、厳密には異なる場合があります。社員の能力より職務自体の価値が重視されます。 |
役割等級制度 | 社員の成果や期待される役割などに応じて等級が決まる制度です。業績や目標達成度が評価の中心です。 |
大企業では職能資格制度が主流で、ベンチャー企業では職務等級制度や役割等級制度を導入しているところも少なくありません。
株式会社クレディセゾンの場合、2017年9月に人事制度を一新し、役割等級制度を導入しました。一般職はG1~G5まで設定され、監理監督職がその上に位置します。「上位等級に求められる役割を果たせるかどうか」が評価基準で、昇格の可否を判断します。
評価制度
評価制度は、社員の能力や会社への貢献度を評価する制度です。等級制度や報酬制度と連動させ、評価制度の結果を等級や報酬に反映させる企業も少なくありません。業務を遂行するのに必要な能力・スキルの有無や、目標の達成度合い、意欲や勤務態度など、多角的な視点から評価します。
株式会社ディー・エヌ・エーの評価制度は「成果評価(部門が上げた成果に対する貢献度)」「発揮能力評価(求められる能力の発揮度)」から構成されています。それぞれの評価は、標準年収改定やグレード改定、賞与算定に反映されます。
報酬制度
等級制度や評価制度の結果を反映させ、報酬を決める制度です。報酬は給与や賞与といった金銭的なものだけでなく、表彰や旅行、学習機会の提供など非金銭的なものもあります。社員のモチベーション向上に大きく影響を与えるため、どのような条件でどのような報酬が出るかをしっかり設計して、社員に周知することが大切です。
伊藤忠商事株式会社では、連結純利益が4,000億円以上になった場合、年に2回、特別奨励金を拠出しています。特別奨励金の金額は連結純利益と社員それぞれの職位に応じて決定し、特別奨励金の支給を通じて相当分の株式を付与する仕組みです。
人事評価制度の基準は3種類

人事評価制度の評価基準は「能力評価」「業績評価」「情意評価」の3項目からなります。項目ごとの評価基準は、社員に具体的に示すことが大切です。
ここでは、人事評価制度の各項目について解説します。
能力評価
担当する業務を遂行する上で必要な知識や技術を対象とする評価制度です。評価項目は企業や職種などによって異なりますが、以下のような項目を設定することが多い傾向にあります。
・企画力:課題を解決する段取りができる力があるか ・実行力:業務を遂行できるか ・判断力:状況を適切に把握して対応できるか ・改善力:問題点に気付き改善できるか ・指導力:部下の能力や適性に合わせた指導ができるか ・対人能力:他者と折衝や交渉ができるか ・理解力:上司の指示を理解できるか ・知識力:業務遂行に必要な知識があるか |
上記の項目をすべて取り入れる必要はなく、業務内容や実情に応じて必要なものを設定します。
業績評価
社員が担当業務で上げた成果に基づいて評価する制度です。業績考課や成果評価、成績評価とも呼ばれます。部門ごとの評価対象としては、以下のような項目が考えられます。
・営業職:テレアポ数・契約件数・契約率・顧客単価・売上高 ・製造職:生産高・ミス発生率・クレーム数 ・経理職:経費削減数・ミス発生率 ・人事職:退職者数・採用率 |
基準は統一し、業績を評価した後はフィードバックを実施しましょう。評価内容のフィードバックにより、社員が評価の理由や重要なポイントを把握し、次にどうすべきかを考えやすくなります。
情意評価
情意評価とは、仕事への意欲や勤務態度などを評価する制度です。明確な数値で出るものではないため、評価者の主観で評価を決定しないよう注意が必要です。客観的に行えるようにするためには、評価項目とそれぞれの基準を具体的に定める必要があります。
情意評価で用いられる項目は主に以下の4つです。
・規律性:組織のルールに則った行動ができるか ・積極性:指示に従うだけでなく、積極的かつ能動的に行動できているか ・責任性:与えられた業務や役割に付随する責任を理解し、しっかり果たそうとしているか ・協調性:業務遂行にあたり、ほかの社員と良好な関係を築き、協力して働けているか |
記憶だけで判断すると、実際とは異なる不適切な評価を下す可能性があります。評価の担当者は、日ごろから部下の行動や面談の記録を残すようにしましょう。
人事評価制度の作り方

人事評価制度導入にあたっては、段階を踏んで進めることが大切です。ここでは、基本的な導入手順について解説します。
1.社内の現状を分析する |
まずは、自社が抱える課題や現状を把握し、徹底的に分析することが重要です。社員にアンケート調査をしたり面談したりして、現状を把握しましょう。「社内の士気が落ちている」「離職率が高まっている」といった課題が把握できれば、どのような評価制度にすべきかが分かります。課題が明らかになるほど、効果的な評価制度の構築が可能です。 |
2.人事評価項目と基準を設定する |
現状を把握したら、会社が自社の社員に求める人物像を明らかにしましょう。社員が目指すべき人物像を明らかにすることで、どのような評価項目や基準を設定すべきかが分かりやすくなります。「求めるスキルや行動」「組織の目標に沿った貢献」などを基準に評価項目を設定しましょう。「チームワークがうまく取れているか」といった定性的な項目と、売上目標の達成率といった定量的な項目の両方を設定するのがおすすめです。誰もが理解できる明白な基準を設定しましょう。 |
3.評価方法や処遇を整理する |
評価の公平性と透明性を確保するため、評価方法やルール、結果に基づく処遇などを細部まで取り決めましょう。評価者ごとにばらつきが出ないように評価軸の詳細を設定し、明文化しておくことが大切です。 |
4.導入スケジュールを作成し周知を図る |
制度設計が完了したら、導入までのスケジュールを作成しましょう。上司向けの評価者研修や社員向けの説明会を開催し、余裕をもって周知を図ることが大切です。きちんとした説明がないまま導入すると、現場の混乱や社員の不満を招く恐れがあるため注意しましょう。 |
5.運用を開始する |
導入スケジュールに基づき、評価制度の運用を開始します。運用後も定期的に見直し、問題が見つかれば迅速に対応することが重要です。必要に応じて改善を重ねることで、評価制度への信頼が高まり、効果の最大化が期待できます。 |
人事評価の主な手法

人事評価にはさまざまな手法があり、評価項目の内容によって適する手法は異なります。そのため、どのような手法が適しているか、しっかりと検討して見極めることが大切です。
ここでは、主な評価手法について解説します。
MBO
Management By Objectivesの頭文字を取った用語で、日本語に訳すと「目標による管理」です。個人やチームで設定した目標に対する達成度合いで評価します。組織の方針や目標を意識しつつ、社員それぞれの業務内容や能力を踏まえた上で個人目標を設定します。明確な目標があるため評価しやすく、社員も納得しやすい点がメリットです。
目標は、明確かつ能力に見合った適切な内容にすることが重要です。達成が容易すぎる目標や、難しすぎる目標は、業務に対する意欲やモチベーションの低下を招く可能性があります。
OKR
Objectives and Key Resultsの頭文字を取った略称で、「目標と主要な結果」を意味します。企業があえて高難易度の目標を設定し、それに合わせた目標を社員が設定するのが特徴です。達成度を測るための指標も複数設定します。達成率は100%ではなく、60~70%程度になるのが適切とされています。
Facebookを運営するMetaやGoogle社が積極的に取り入れていることで注目を集めている手法で、日本でもメルカリや花王などが導入しています。メルカリでは変化の激しい市場に対応するため、四半期ごとにOKRの進捗をベースに評価を行い、再度OKRを設定するサイクルを回しています。
360度評価
360度評価は多面評価とも呼ばれ、上司、同僚、部下など複数名が評価する方法です。複数名が評価することで個人の主観によるばらつきを抑え、公平で精度の高い評価が得られます。現場で接する複数の社員から評価を得るため、業務面の能力や弱みを把握しやすい点が特徴です。そのため、人材育成やモチベーション向上を目的として用いるケースもあります。
株式会社マネーフォワードでも、人材を育成するスキルを持ったマネージャーを育てることを目的として360度評価を取り入れています。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価は、能力や行動特性を評価する手法です。仕事で高い成果を上げるために必要なスキルや行動を軸に評価します。結果や成果ではなく「どのようにその成果を達成したか」に注目する点が特徴です。職務や役割ごとに、高い成果を上げている社員の行動パターンを参考にして基準を設定します。
楽天グループ株式会社ではコンピテンシー評価を取り入れ、半年に1回評価を実施しています。評価項目は11個あり、評価によって格付けされて賞与に反映されます。
バリュー評価
社員が企業の示すバリュー(行動規範)を実践できているかどうかの視点で評価する手法です。そのため、企業は行動規範を誰にでも理解できる明確な内容で示す必要があります。
ラクスル株式会社では、ビジョンやミッション、バリューへの共感度が低く、退職率が30%を超える状況でした。そこでビジョン、ミッション、バリューを再定義して社員に伝えて浸透を図りました。行動規範に則った行動ができなければ、評価されない仕組みです。
1on1
1on1は、上司と部下がマンツーマンでミーティングを行うマネジメント手法です。部下の成長促進を目的として、多くの企業で導入されています。比較的カジュアルな雰囲気で行い、業務関連からプライベートまで幅広く話す点が特徴です。
一般に、毎週や毎月15~30分程度の短時間で行います。上司は部下のキャリアに関する要望や悩みを把握し、適切にサポートできるのが1on1のメリットです。MBOと組み合わせ、1on1で目標達成の進捗度を確認したり課題の解決策を話し合ったりするケースもよくあります。
リアルタイムフィードバック
日常業務において上司が部下に繰り返しフィードバックを行う評価手法です。仕事の振り返りや具体的な指摘、アドバイスなどを行います。日常的に高頻度で実施し、具体的な内容を指摘したりアドバイスしたりする点が特徴です。
アドビシステムズ株式会社では「Check-in」と称する人事評価制度を取り入れ、上司と部下が密なコミュニケーションを図る機会を設けています。Check-in導入により、上司が査定にかける時間が大幅に削減しました。
※出典:HR NOTE「【最先端1on1】アドビの「Check-in」年8万時間の工数削減とエンゲージメント向上をどう実現したのか?」
ノーレイティング
ノーレイティングは、社員のランク付けや年度単位での評価を廃止し、数値や記号に頼らない評価をする制度を指します。高頻度で1on1面談を実施し、フィードバックや目標の確認を行った上で上司が部下への評価を実施する仕組みです。上司には高いマネジメント能力や評価スキルが求められます。
サッポロビール株式会社では社員のランク付けを廃止し、社員の挑戦や成長を促す制度を求めてノーレイティングを導入しました。現場の自由度が増し、人材の早期抜擢が増えるなどの効果が出ています。
人事評価制度のあるべき姿とは?

企業にとってあるべき人事評価制度には以下のような特徴があります。
・評価基準が分かりやすく、納得できる内容で設定されている ・公平性が保たれている ・報酬に反映される仕組みが整っている |
人事評価制度を成功させるためには、社員が納得できる基準の設定が重要です。納得できない基準で評価されてしまうと、社員が不満を覚えかねません。公平さも大切になるため、評価は複数人で行う仕組みにするとよいでしょう。
また、評価結果が良くても得られるものがなければ、社員のモチベーション向上にはつながりません。報酬に反映させる仕組みづくりにも取り組みましょう。
まとめ
公平性と透明性のある人事評価制度を構築することは、社員の納得感が高まって企業への信頼度が増し、モチベーション向上や企業の生産性向上に直結します。変化する企業環境に適応できる評価制度を維持するには、定期的な見直しと改善が欠かせません。
評価結果を積極的に活用し、社員一人ひとりの能力開発やキャリア形成を促すことが、持続的な組織の成長につながります。効果的な人事評価制度を正しく運用し、社員と組織の成長を支え、より強固な組織基盤を築いていきましょう。
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