有名な観光スポットがないにもかかわらず、多くの外国人観光客がやってくる「隠れた名所」が全国には数多くあります。
たとえば、佐賀県の祐徳稲荷神社。おそらく地元の人しか知らないであろう、ごく普通の神社なのですが、ここはタイ人の間で大人気の「聖地」となっています。その理由は映画「time line」のロケ地になり、誰もが知っている場所だから。
正直、観光地としては地味なイメージがある佐賀県ですが、2013年に5万5千人だった県内宿泊客数が、映画のヒットのおかげで、2015年には19万1120人にまで激増したというのですから、「映画の力」は侮れません。
中国人が北海道へ殺到するようになった大きな理由も、映画「非誠勿擾」をみた人たちが、道東の美しい自然に魅了されたからでした。そんなわけで、映画やドラマのロケ地は、インバウンドにおけるキラーコンテンツといえるのですが、もちろん、いい話ばかりではありません。
最近、北海道の朝里という海沿いの小さな無人駅で、大きな騒動が持ち上がりました。映画「恋愛中的城市」で有名になった海沿いの小駅に、中国人観光客が押し寄せた結果、迷惑行為が相次いだのです。この騒動は、全国版のワイドショーなどでも報道されたので、ご存知の方も多いのでは。
どんな迷惑行為があったかというと――線路内への立ち入りが続出し、列車が急停止する、発車が遅れるといったトラブルが6件も報告されました。
静かな無人駅とはいえ、朝里駅は札幌と小樽を結ぶ幹線上にあるため列車本数が多く、生命にかかわる重大事故がいつ起きても不思議ではありません。死傷者が出なかったのが、不幸中の幸いでした。
このほか、郵便ポストに雪を入れる、近隣住民の敷地内に侵入する、精算をしないで改札を出てしまう、といった問題も。こうした事態を受け、警備員を配置する、ポスターで注意を喚起するなどの対策を講じているので、いずれトラブルはなくなると思うのですが、新千歳空港での暴動事件に続き、中国人観光客の印象がさらに悪化してしまったことは事実でしょう。
ほとんどの観光客は、小樽観光のついでにちょっと立ち寄る程度なので、朝里地区にお金が落ちることはありません。大きな経済効果があるならまだしも、地元住民からすれば、「なんのメリットもないのに……」と文句の一つも言いたくなる気持ちは理解できます。しかし、そこで批判するだけでは今後に生かせませんから、それぞれの事例についての検証を試みることが重要です。
▲注意を喚起するポスター
まず、線路への立ち入り。中国では自己責任という概念が強く、線路を横切るなど日常茶飯事であり、悪意はなかったと思われます。ポストへの雪入れは子どものイタズラでしたが、たまたま悪ガキだっただけで、個別のケースと考えてよいでしょう。注意しなかった親は言語道断ですが、非常識な親は日本だって少なくありませんからね。民家への立ち入りは、雪をみて興奮していた、道路との境界を理解していなかった、北海道の家が珍しかった――などの要因が重なった結果、守るべき距離感を誤ってしまったのではないでしょうか。
筆者自身を顧みても、中国の田舎へ行ったとき、フォトジェニックな農村風景を撮影しようと、勝手に田畑に入り込んだり、農家の玄関先まで接近した経験があります。旅行者だし、ちょっとくらいは許されるだろうという慢心があったことは否定できません。
精算をしないで改札をスルーという問題は、明らかにJRの規則を知らないことが原因です。彼らの多くは札幌―小樽の乗車券を所持しており、無賃乗車の意識はないのです。JRの片道乗車券は、原則100㌔以下では途中下車が認められていません。ですから、朝里駅で撮影を楽しむなら、札幌―朝里、朝里―小樽と乗車券を買い直す必要があります。
しかし、たとえば小樽ではなく有名リゾート地のニセコまでの乗車券であれば、100㌔をわずかに超えているため朝里駅での途中下車が可能になるわけで、そのへんの細かな違いまで理解しろというのは無理な話という気がします。こうしたトラブルを解決、予防するには、一にも二にも周知しかありません。
彼らは朝里では消費しないものの、札幌や小樽ではたくさんのお金を使ってくれています。いろいろ不便もあるでしょうが、ここはひとつ、地元の方々が「オール北海道」の広い気持ちで彼らと接してくれれば、北海道の魅力はさらに輝きを増すはずです。また、JR北海道の場合はインバウンドブームの受益者でもあるので、いっそうの周知を期待したいと思います。
過疎に悩む地方自治体の町おこし担当者が、以前、こんな言葉を漏らしていたのを思い出しました。「まったく人が来なくて苦労するより、(トラブルが増えても)人がたくさん来過ぎて苦労するほうがマシですよ」――。
繰り返しますが、周知さえ徹底すれば、外国人観光客がたくさん来ても、トラブルとは無縁という理想的な状況を作り出せます。いまはその過渡期。耐えるべきは耐え、教えるべきは教え、「おもてなし」のブラッシュアップを目指していきましょう!